軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十五話 パルベラ姫とファミリス

ロッチャ地域の領主に任じられたからには、元帥としての仕事を引き継がなければならない。

次の元帥がまだ確定していないので、引継ぎ先は自然とアレクテムになる。

「アレクテム。元帥代行として頑張ってね」

「いままでとさほど変わりはないので構わぬのですが、やはり連れていってはくれぬのですね」

「そりゃね。ノネッテ国の本土に地続きの場所は、帝国領とロッチャ地域になったから、これからは平和が続くと思う。けど、二度の戦争で常備兵の数が激減しているんだ。ここで新参の元帥が舵取りをするよりか、アレクテムが手配した方が問題が小さいしね」

「山に囲まれた本土の方は平和でしょうが、ミリモス様が治めることになるロッチャ地域は、戦乱に巻き込まれる可能性があるはずですぞ。であるならば、やはりワシも――」

「ダメだ。ロッチャ地域を失っても、ノネッテ国は残る。けど、ノネッテ国が亡んだら、ロッチャ地域も亡国の一部だ。ノネッテ国軍の立て直しは急務なんだよ」

言葉を尽くして、アレクテムに分かってもらった。

しかし、ロッチャ地域の先行きを心配する必要は、あまりないのではないかと俺は感じていた。

「俺の予想が正しければ、騎士国の監視者が俺に着くはずなんだ」

「それはまた、どうしてですかな?」

「戦術書を読んでわかったけど、国を攻め落とした後、その地域を治める人が選ぶ道は大きく分けて二つ。一つは、大量虐殺してその場所の仕組みを根幹から変えること。もう一つは、もともとあった仕組みを利用しつつ、さらに良くなるよう手を加えることだよ」

「それが騎士国とどう関係があるのですかな?」

「騎士国は、恐らく虐殺を認めない。新たな領主である俺が、そんな真似をしないか――ちゃんと『正しく』土地を治めるかを、見定めようとしてくるはずなんだ」

「たしかに、ありえそうな話ですな。それにミリモス様は十二歳。それほどの若年者が領主となれば、騎士国が注目をせざるをえないでしょうな」

こういう風に、他国の人間に統治法を口出しされるのは、本当は諍いの種でしかない。

けど俺にとって、騎士国の人が身近にいるという点は利用できることでもあった。

「騎士国の人間が見張っているからこそ、ロッチャ地域の住民は、俺の統治を安心して受け入れられる。なにせ俺が悪いことをしたら、その監視者が指摘するはずだからね」

「正しい行いを標榜している騎士国の人が動かなければ、ミリモス様の統治法は『正しいこと』という証明になるわけですな」

「逆に、現地住民や土地の運営者が要望を出した際、それが間違っているのなら、その監視者が俺の代わりに拒否を告げることもあるだろうしね」

「騎士国の物差しで測られるのは、統治者ばかりではないということですな」

騎士国からの監視者とか邪魔者と考えるのではなく、統治者の正しさの証明書であると考えれば、これ以上に頼もしい存在はいない。

いや、その証書が物事の善悪の判別をしてくれることを考えると、理科でやった酸性かアルカリ性かで色が変わるあの紙の方が正しいか?

ともかく、そんな天下御免の証明書が手元に来るのだから、アレクテムの助けを借りなくてもロッチャ地域の掌握は叶うも同然だ。

「というわけで、なんとなく、そろそろな感じかな」

「なんのことですかな?」

アレクテムの疑問に応じるように、執務室の扉がノックされた。

こちらが入室の許可を出すと、俺の予期した通りに、パルベラ姫とファミリスが入ってきた。

そしてパルベラ姫が、スカートの裾を摘まみ上げながら、祝辞を述べてくる。

「ミリモス・ノネッテ様。公爵位となられたこと、そしてロッチャ地域の領主となられたこと、お祝い申し上げます」

「ありがとうございます、パルベラ姫。そのような事情があるので、お二人のお世話をすることが難しくなると思われます。我が国の都合で不便をおかけすること、大変に申し訳なく感じております」

お互いに姫と王子としての儀礼を交わした後で、普段の調子に戻った。

「それにしても驚きましたわ。ミリモスくんが、十二歳で勝ち取った国土の領主となるだなんて」

「俺もまさかと思ったよ。年齢的にも実績的にも、フッテーロ兄上が領主になるものだと予想していたんだから」

「その兄上様ではなく、ミリモスくんが領主となったということは、次期王としてチョレックス王に目されたのではありませんか?」

「さてね。あの領地をくれてやるから、王になる道は諦めろってことかもしれないよ?」

他愛無い会話を交換していると、ファミリスが無遠慮に割って入ってきた。

「ミリモス王子が領主となったことで、神聖騎士国家から要望があります」

「わかってます。俺の領主としての勤務態度を見るため、騎士国から監視者を出すってことでしょ」

先ほどアレクテムと話していたことを告げると、ファミリスの表情が硬くなった。

「……どこでそのことを知った?」

「知ったんじゃなくて、予想したんだ。騎士国は十二歳の領主の誕生に手を貸す形になったから、その治政の監督責任も負おうとするんじゃないかってね」

俺が考えを話すと、ファミリスの片方の眉がきゅっと上がった。恐らく、驚きの表情だ。

「予想済みだったのでしたら、監視者を受け入れてくれるのですね」

「もちろんです。俺の治政が正しいものかを、ちゃんと監視してもらいますとも」

そう表明してから、俺はふとした疑問を抱いた。

「それで、騎士国からはどなたが監視者としてくるのでしょう。もしかしてロッチャ国との戦いを見ていた、あの黒鎧の人ですか?」

この質問に、ファミリスは酷く残念そうな顔になり、そしてパルベラ姫は喜色を出ないよう押さえようとして失敗している表情になっている。

二人の表情について不思議に思っていると、ファミリスがため息交じりの声を出した。

「遺憾ながら、私とパルベラ姫様に、監視者としての任が騎士王様から与えられました」

「……えっ。お二人がですか?」

思わず問い返すと、パルベラ姫が悲しそうな顔に変わった。

「お嫌、でしたか?」

「いえ、嫌というのではなくて。片や騎士王家の姫様。片やその護衛の騎士様ですよ。一領地の統治者を監視する者として、過剰じゃないかなと思っただけで」

慌てて弁明すると、パルベラ姫は安心した様子になり、一方でファミリスは俺に対して厳しい目つきを向けてくる。

「私とて不本意です。ですが、騎士王様の命令とあれば応じないわけにもいきません」

「だけど、その、大丈夫ですか?」

「ミリモス王子。なにがですか?」

「うちでもそうですけど、姫様のお世話には侍女が必要ですよね? 旧ロッチャ国は王政ではなく代表者制だったようなので、その手の担い手は少ないと思いますよ?」

この懸念をファミリスは一笑する。

「他の軟弱な姫と、我が国の姫様たちを同列に扱わないで貰いたいですね。騎士王家の方々は兵や騎士と共に戦場で駆ける存在です。自分の身の回りの世話ぐらいできねば、騎士王家の者としては認められません」

「えーっと、つまり。パルベラ姫は、身支度を自分で出来ると?」

「パルベラ姫様は、戦の腕前は少々不得手ですが、炊事洗濯に繕い仕事は目を見張る手腕ですよ。自身の身の回りの世話など、朝飯前もいいところです!」

「ちょっと、ファミリス。そんな大言をミリモスくんに言わないで! あの、本当は手習い程度しかできないから、期待しないでくださいね」

「何を言いますか! パルベラ姫様が作ってくださった焼き菓子。ひとたび口にすれば、天にも昇る心地の甘味でした!」

「もう、ファミリス。お願いだから黙ってて!」

パルベラ姫は顔を真っ赤にしながら、動き続けるファミリスの口元を押さえようとする。

身長差から、ぴょんぴょんと撥ねるその姿が、小動物的で可愛らしい。

ここであえて家事上手を言葉で弄ってもいいんだけど、あまりやりすぎると泣き出しそうなので、ここではスルーすることにしたのだった。