軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百六十六話 自分の子供

パルベラに体を拭いてもらい、衣服も着替えた。

身綺麗になった状態で、パルベラの部屋の隣にある部屋――パルベラが産んだ赤ん坊が居る部屋に向かった。

「いま、寝ておられますので、静かに入室してください」

侍女に注意を受け、小さく扉をノックする。

間を置かず、扉が少しだけ開いた。

隙間から顔をのぞかせたのは、ファミリスだった。

「……誰かと思えば、ミリモス王子でしたか」

ファミリスは神経質そうな表情で、ジロジロと俺の全身を見回してくる。

「汚れてはいませんね。では、入っていいですよ」

ファミリスが扉を人が通れる分だけ空けてくれた。

俺は扉から静かに入り、寝ているという赤ん坊の元まで、ファミリスの案内で向かった。

「これが、俺の子供か」

足の長いベビーベッドの中で、お包みを纏った赤ん坊が寝ていた。

ちろりと生えている髪は、薄い茶色。血色が良くて赤くも見える、色の白い肌。ふくふくとした、丸っこい手足。目は閉じているから、瞳の色は分からないな。

手をグーの形にして、すうすうと眠る赤ん坊。

その姿を見つめていると、ファミリスが耳打ちしてきた。

「体重は新生児の基準値以上ですし、骨格もしっかりしていて、健康体ですよ」

安心させようしての言葉だろうけど、戦闘能力を判別するような言い方に、思わず俺は苦笑いしてしまった。

「母子ともに健康なら、それに越したことはないね」

俺は言いながら、幸せそうに眠る赤ん坊を触ろうと手を伸ばそうとする。

しかし赤ん坊に手が触れる前に、ファミリスに掴み止められてしまった。

「寝ている子を起こす真似は止めてください」

「悪い。なんか、柔らかそうだなって、ついね」

「寝ているときに頬を突こうものなら、大泣きしますよ。侍女の一人が実際に行って、証明しています」

「起きているときなら、良いのかな?」

「寝ている邪魔さえしなければ、この子は大人しいですね」

この子、というファミリスの言い方に、俺は疑問を抱いた。

「もしかして、名前をまだ付けてないのか?」

「当然でしょう。名づけは、父親の役目です」

「そうなの?」

「……出ましたよ。ミリモス王子の、常識がないところが」

ジト目で詰られて、俺は困った。

「知らなかったんだから、仕方がないだろ」

「ミリモス王子の名前だって、チョレックス王が付けたはずですよ。名付け方など、聞かなかったのですか?」

「俺の名前を誰が付けたかなんて、考えたこともなかったし……」

ファミリスの目がさらに窄まったので、俺は降参だと両手を上げた。、

「ちゃんと名前は考えるよ」

「そうしてください」

「ちなみに性別は?」

「見て分からないのですか。 男(お) の 子(こ) ですよ」

赤ん坊の姿を見たのは、前世も含めて初だ。見た目だけで、わかるはずがないだろうが。

という愚痴を飲み込みつつ、子供の名前を考えていく。

前世の日本人っぽい名前は、この世界に合わないから却下だろうな。

なら西洋系の名前で、どんなものがあっただろうか。

映画スターや有名人を経て、学校の教科書に記されていた偉人の名前を思い出していく。

「……そうだな。マルク、がいいかな」

俺が口から名前の候補を漏らすと、ファミリスが食いついてきた。

「マルクですか。呼びやすい名前ですが、どうしてその名前が良いと?」

「いや、思い付きだよ。ふっとマルクの名前が湧いてね」

咄嗟に言い訳をしたけど、本当のところは違う。

教科書にあった偉人の名前を思い返してみて、ローマの五賢帝に『マルクス』の名前が入った人が多かったと思い出し、彼らにあやかろうと考えたからだ。

流石に名前をそのまま付けるのは躊躇ったので、『ス』を取って『マルク』って変えたわけだった。

「マルク、って名前。変じゃないかな?」

誤魔化しついでに問いかけると、ファミリスは呆れたような顔をしてきた。

「子供の名前について意見を求めるのなら、聞く相手が違っていると思いますが?」

「そ、それもそうだよね。パルベラに聞かなきゃだよね」

「……ですが、まあ。パルベラ姫様は、ミリモス王子の言うことに反対しないでしょうから、私に評価を求めることは真っ当ではありますね」

ファミリスはそんな言い訳めいた呟きを放った後で、真摯に俺を見つめてきた。

「良い名前だと思います。短くて呼びやすいため、多くの人に親しまれるかと」

「そ、そうかな」

偉人の名前をもじっただけの思い付きで、そこまで褒められると、後ろめたくなってきた。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、どうやらファミリスは『マルク』という名前を気に入ったらしい。

「名前が決まりましたよ。貴方の名前は、マルクです。良かったですね、マルク」

ファミリスは、赤ん坊の顔を覗き込むように身を乗り出し、嬉しそうに名前を連呼している。

浮かべている慈愛に満ちた表情から、パルベラが言っていたように、本当に赤ん坊のことを溺愛しているんだなと、俺は納得したのだった。