軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百七十話 対応策

帝国が一枚岩じゃないと分かったことは収穫だったけど、ノネッテ国が狙われていることに変わりはない。

ホネス、パルベラ、ファミリスを執務室に集めて、俺は切り出した。

「ということで、俺はノネッテ本国に行って、帝国の思惑を阻止することにした」

俺の宣言に、ホネスが手を上げてから発言する。

「センパイの考えはわかりましたけど、具体的にどうやる気なんです?」

「帝国はノネッテ国の元帥を押さえているのですよね。ミリモスくんが行ったところで、帝国の侵攻は止められないのではありませんか?」

ホネスに続くパルベラの疑問を受けて、俺は自分の考えを喋っていく。

「今の時点で、帝国にノネッテ国を攻める大義名分はない。これは確かなことだ」

「大義名分のない侵攻を行えば、神聖騎士国の軍勢が出張る理由になります。帝国は重々承知しているはずですが?」

ファミリスが、だからこそ帝国が侵攻してくるという情報はフンセロイアの狂言ではないか、と疑問を呈してきた。

その意見自体には、俺も同意する。

「でも、侵攻じゃない理由でなら、帝国の軍勢がノネッテ国に入ることはできるよね」

三人が分かっていないようなので、さらに詳しく説明する。

「例えばノネッテ国の元帥が、災害救助や合同訓練などの名目で、帝国の軍勢に要望を出したとする。そうしたら帝国の軍勢は大手を振ってノネッテ国に入ってくることができるよね」

「表向きの理由が侵攻ではない場合、神聖騎士国は救援を出すかどうかで迷いますからね」

「フンセロイア殿が最初にノネッテ国に来たときだって、騎士国が派遣してきたのはファミリス一人だけだったもんね」

「帝国の一部隊程度なら、私一人で撃滅できるという自信があってこその判断だったと、弁明はしておきます」

ファミリスの用語を聞き入れつつ、俺は帝国の軍がノネッテ国に入って来てからの予想を話していく。

「何らかの方法でノネッテ国の兵か民を暴走させて、帝国軍に損害を与える。その報復を大義名分として、本格的に侵攻に乗り出す。いや、もしかしたら入ってきた軍だけで、ノネッテ国を攻め落とす気なのかもしれないね」

「ノネッテ国の軍勢は正規兵が五百人ですからね。帝国の軍隊を相手にしたら、風に飛ばされる枯草のように、あっというまに蹴散らされちゃいますよね」

ホネスが兵士としての観点から呟くと、パルベラが騎士国の姫という態度に変わる。

「そのような企みで他国を侵略することを、神聖騎士国は認めません。すぐに御父様に連絡を――」

「それは、ちょっと難しいんじゃないかな」

俺の発言でパルベラの言葉を遮るような形になってしまったけど、言い終わらせちゃうとファミリスが『姫様の命令なら』と走り出す可能性があったので仕方がない。

「騎士国は帝国との開戦の直前だよ。そこにパルベラからの知らせがきたら、軍隊を二分することになっちゃうかもしれない。帝国がそれを狙っている可能性は十分にある」

「もしかしたら、ファミリスさんが伝令に走るのを待っている可能性もありますよね。帝国の軍に敵う人物は、ウチの陣営じゃファミリスさんぐらいですし」

「ホネス、冴えてるね。俺はその観点は思いつかなかったよ」

俺がホネスを褒めていると、ファミリスが不機嫌そうに言ってくる。

「このまま、ノネッテ国が帝国に飲み込まれることを、座して見ているのですか?」

正直言えば、条件次第でそれはアリだと思っている。

他の帝国に滅ぼされた国の民のように下級市民に落とされることなく、以前と変わりない生活が保障されるのなら、脅威が減るぶんだけ有益とすら思えるからだ。

しかし、俺自身はその選択肢を取れない。

「帝国がノネッテ国を攻め落としたら、俺とパルベラとファミリスが狙われるだろうから、それはないよ」

帝国にとってパルベラは、騎士国相手に有用な手札になりえる人物だ。それを確保しようとしないはずがない。

パルベラの身の安全を考えるなら、ノネッテ国が滅んでしまうと具合が悪い。

「だからこそ、俺は帝国の思惑を阻止する決断したんだよ」

「ミリモスくんは、 私(わたくし) のために、帝国と戦うというんですか?」

「結婚してくれた相手を守れるぐらいの甲斐性を発揮しなきゃ、愛想を尽かされちゃうかもしれないしね」

「そんなこと、ありません! 私の夫は、ミリモスくんだけです!」

俺とパルベラが見つめ合っていると、ファミリスから咳払いがやってきた。

「こほん。ミリモス王子が行くのであれば、私と姫様も同行することになりますね」

「いや、申し訳ないけどさ。今回は俺一人で行かせてくれないかな」

「それはなぜです?」

ファミリスの疑問は当然だろう。

なにせ今までの戦争では、俺の近くには常にパルベラとファミリスの姿があった。

それにも関わらず、今回の戦いにはついてくるなと言われたのだから。

「理由は三つある。一つはパルベラとファミリスの姿は、とても目立つということ。二人がロッチャ地域から離れたら、すぐに帝国に察知されちゃうはずだ」

「それは、確かに」

「帝国が二人の動向を察知したら、すぐに行動に入るだろう。そうすると、俺の仕込みが間に合わなくなっちゃうんだよ」

ファミリスが納得してくれたところで、次の理由に入る。

「二つ目。ノネッテ本国の動きとともに、ロッチャ地域にも何かしてくるかもしれない。そのときの備えとして、パルベラとファミリスはロッチャ地域に残っていて欲しいんだ」

「帝国が攻め入ってくるかもしれないと?」

「ノネッテ本国の騒動で大義名分を得たら、帝国軍はロッチャ地域だけじゃなくて、フェロニャ地域にも進軍してくると思う。一気に領土を広げる好機だからね」

「我ら神聖騎士国と戦争を行うのに、即動できる軍隊を配置していると?」

「帝国の領土は広大で政治には派閥争いがあるんだから、軍の正規兵だけじゃなくて、領地や派閥を守るための私設兵士もいるはず。こちらに攻め入ってくるのは、その私設兵士たちじゃないかと、俺は睨んでいる」

私設兵士は、正規には数えられない、員数外の兵力。

これを動員したところで、帝国の正規軍の規模は目減りしない。つまり騎士国との戦いに影響はないということだ。

「そう考えると、フンセロイアがこちらに助言をしてきたことにも、意味がある」

「ミリモス王子が上手くやれば敵対派閥の兵力を削ぐことができ、下手を打ったとしても帝国の領土が広がるだけ。どちらに転んでも、得しかないということですね」

「作戦が成功したら敵対派閥の力が増すから、丸得というわけじゃないだろうけどね。でも政治的な力なら、後で盛り返すことができると、フンセロイアなら考えていそうだけどね」

ここでホネスが疑問を出してきた。

「フンセロイアさん。帝国の活動を妨害するような助言しちゃって、大丈夫なんですかね。立場的に、不味くありませんか?」

「ところが、フンセロイアは何もおかしなことを言っていないんだ」

フンセロイアがしてきた警告に来たのは、他の地域や国にも行うものだったため、問題にはならない。

こちらが裏を読んであれこれ尋ねた際の返答も、のらりくらりとしていて、助言という言質すら取れないような無難なものだった。

それこそ明確に『帝国にノネッテ国への侵攻作戦がある』とは言っていないので、、現状で俺たちが抱いている考えは、フンセロイアの態度を勘ぐった挙句に迷走している可能性だってあるぐらいだしね。

「仮に俺が帝国の企みを挫くことができた際には、作戦の失敗理由は俺の勘が鋭かったらであり、相手を侮って作戦を決めた敵対派閥の考えが浅かったからだと、フンセロイアが逆襲に転じることもできるんだよね」

「なんとも、抜け目のないことですね」

話が一段落ついたところで、三つ目の理由に入る。

「これは俺が帝国の企みを阻止できずにノネッテ国が落とされた際の用心のために、ホネスが俺の代理人、パルベラとファミリスが見届け人として、ロッチャ地域に残っている必要があるんだ」

「わたしがセンパイの代理人ですか? なんのです?」

「ノネッテ国が帝国の手中に落ちた際、ロッチャ地域がノネッテ国から独立して新たな国になると、宣言をしてもらいたいんだよ」

俺の言葉が意外だったのか、ホネスもパルベラも目を丸くしている。

一方でファミリスは冷静だった。

「なるほど。帝国が得る大義名分は、ノネッテ国に対するもの。国を割って独立した国と化せば、名分の適用範囲から逃れることができるわけですね」

「詭弁もいいところだから、あくまで最終手段だけどね」

とにかく、ロッチャ地域が帝国に攻められる状況だけは、最低でも阻止する。

「というわけだから、俺だけでノネッテ本国に行くよ。見た目も兵士に変えて行くから、帝国にバレたりしないはずだ」

ここでホネスとパルベラは顔を向き合わせて一つ頷いてから、俺に顔を向け直してきた。

「理由は分かりました。ならわたしは、センパイがロッチャ地域でちゃんと執務を続けているように偽装しておきますね」

「私もいつも通りの生活を続けることにいたします。私たちは、なにも帝国の企みには気付いていないように装います」

二人の宣言に、ファミリスが軽く溜息を吐いた。

「では、私はミリモス王子の留守中、姫様だけでなくホネスも守ることを剣に誓いましょう。ですからミリモス王子は」

「ああ。帝国の企みをぶっ潰してくるとするよ」

俺は三人に約束すると、早速出立の準備に取り掛かることにした。

まずは研究部から使えそうな武器と防具を、いくつかこっそり拝借することにしよう。