軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百四十三話 一難積もって、

時は過ぎていき、秋から冬へ。

俺とフンセロイアの交渉を契機に、帝国はバイブーン国を手中に収め、いまはその下にあるラバンラ国へと侵略の手を伸ばしつつあるらしい。

ロッチャ地域の役人からくる予想では、春を待たずに帝国に飲み込まれるとされている。

そうなった場合、ノネッテ国は北と東を帝国領に抑えられ、西には山脈、南には砂漠と、領土的に封鎖されたような形になり、これ以上の領土拡大は望めなくなってしまう。

この状況。領土的な野心を持つ人が王や領主なら、帝国がラバンラ国を手に入れる前に、どうにかしようと足掻くことだろう。

しかし、俺はもとより、ノネッテ国の王であるチョレックス王も、その類の野心は持っていなかった。

「センパイ。王様からの手紙に、なんて書かれていたんです?」

秘書兼恋人のホネスが、書類仕事の手を動かしながら、興味深そうな目をこちらに向けている。

俺は読み終わったチョレックス王からの手紙を、ホネスに手渡す。

「なになに――『帝国が周囲を我が国の周囲を治めてくれたことにより、敵国に接することはなくなった。故にミリモスは、ロッチャ地域の発展と、領主となった兄たちの助力に尽力するように』」

「要約すると、俺は大人しくしてろってさ」

こうして手紙で伝えてこなくたって、戦争に金と物資を使い過ぎた現状、領地の発展に力を注ぐしかないんだよなぁ。

「というか、俺は仕掛けられた戦争に抵抗しただけで、こちらから戦争したことなんてない。だから大人しくするまでもなく、すでに俺は大人しいと言える」

「大人しいという割に、センパイは相手の国を滅ぼしてますよ?」

「仕方がない。それが一番簡単に、戦争を終わらせる方法なんだからさ」

戦争というものは、国と国との戦いだ。一方の国が滅べば、戦争は成立しない。だからこそ戦争を始めたら、少しでも早く相手の国を攻め落とすことが肝要だ。付け加えて、征服した土地の住民に善政を行えば、反乱や一揆すら起きなくなる。

そう、兵法書に書いてあるんだから、間違いない。

と、チョレックス王からの手紙には色々と納得は行かない点はあるけど、ロッチャ地域を発展させることに関しては異議はない。

「秋の収穫量は、豊作と言っていい感じ。冬に飢える人は出ないだろうね」

「冬を越えるために必要な薪や炭だって、ハータウト国やフェロニャ地域からバンバン来ますからね。凍死する人もいないですよ、きっと」

「鉱石、硝子細工、工具類の帝国での売り上げも好調。今年の借金の返済は、去年よりも元金を削れそうだ」

「結局、帝国は関税を上げたりしませんでしたからね」

ホネスが言ったように、俺とフンセロイアの交渉は決裂したも同然だったのに、帝国から報復措置は来なかったのだ。

こちらを小国と侮ってのことか、それとも何らかの布石なのか。

どういうつもりか気にはなるけど、気にし続けたところで生産性はないから、この部分の思考は放棄しよう。

「問題が起きたら、起きたときに対処すればいいしね」

「そう言う割に、センパイって色々と準備をしますよね?」

「やれることはやるさ。差し当たっては、帝国の兵とどう戦うかの戦法の作成をだけどね」

現状にある戦力差と戦い方では、こちらが一方的に負ける未来しかない。

帝国は強大かつ広大な土地を持つ。そのため兵士も並大抵の数ではない。そのうえで、戦力を簡単に増大させることができる魔導具なんてものもある。

大軍相手に持ちこたえる定石とされる堅牢な砦を築いたところで、帝国兵の人数の圧力と魔導具で強化された魔法の連射で、簡単に負けてしまう未来しかない。

つまりは、兵法書に書かれているようなことは、帝国相手に通じないも同然ということ。

「新しい兵法書を作る気で行かないと、帝国相手には勝てないよな」

「……センパイ。帝国に勝つ気なんですか?」

唖然とした表情のホネスを見て、俺は言い方が拙かったと訂正を入れることにした。

「いまのノネッテ国の戦力で帝国に勝てる道筋なんて、毛ほども思いつかないからこそ、それぐらいの気構えで戦い方を考えようって意味だよ。もしかしたら、ノネッテ国を売り渡しちゃった方が良いと結論がでるかもしれない」

「……そうハッキリと勝てないと言われちゃうと、それはそれで不安なんですけど」

勇ましさを控えて本音を言ったところ、今度は不安がらせてしまったらしい。

どう言ったものかと悩んでいると、横から笑い声がやってきた。

声の主は、こちらの作業を邪魔しないようにと、静かに過ごしていたパルベラだった。

「うふふっ。二人とも、仲良しさんですね」

嬉しげな笑みを浮かべながらの、俺とホネスの関係を祝福しているかのような声色。

前世の倫理観を覚えているからか、俺はどう返答したらいいか迷ってしまう。

そんな俺の迷いを知ってか知らずか、パルベラはホネスに語り掛ける。

「ホネスさんの心配はもっともですけれど、ミリモスくんなら帝国を打ち破る方法を考え付くと信じれば、怖くはなくなるのではありませんか?」

そんな理由で納得するわけがないだろう。

そう考えたのは俺だけだったらしい。

「そうですね。センパイの今までのことを考えたら、心配するだけ損でした」

ホネスがあっさりと納得したことに、俺は肩透かしを食らった気分になった。同時に、帝国に勝つと信じてくれるほどまで信頼されているという重圧も感じた。

「帝国が本格的にロッチャ地域になんかしてくるのは、ラバンラ国を手に入れてから――つまり来年の春以降と決まっているんだ。考える時間はたっぷりあるはずだ」

帝国が隣国を支配する仕組み――借金漬けにしてから返金能力の欠如を理由に侵攻する――を考えると、数年から十数年の時間的な余裕があるという希望的な観測もできる。

もし、それだけの時間を得ることができるのなら、研究部の研究成果によっては、本当に帝国と渡り合うことが可能になるかもしれない。

そんな青写真を俺が頭の中で描いていると、執務室に急いだ様子の人が入ってきた。

いままで急いできた伝令からは、朗報よりも凶報の方が圧倒的に多い。

だからこそ、今回はなんと言ってくるのだろうと、つい身構えてしまう。

「……伝令を見ると、嫌な予感がするようになっちゃったなぁ」

そんな俺の小さな呟きは耳に入らなかったのか、伝令はハッキリとした声で要件を伝えてきた。

「アンビトース地域の領主、ヴィシカ王子からの手紙がやってまいりました。ご確認を」

伝令が差し出したきた手紙を受け取った俺は、どんなことが書かれているやらと、開くことを少し躊躇ってしまうのだった。