軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百三十話 結婚式

神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルにて、俺とパルベラ姫の結婚式が行われる運びとなった。

なんで、いきなり結婚式なのか。

騎士国に泊まった翌日に勝手に決まっていたことなので、俺の方が開催理由を知りたいぐらいだ。

パルベラ姫のことは好きだし、騎士王に結婚を宣言した手前、別に式をすること自体は嫌ではない。

でも、どうせやるなら、自分の意見も介在して欲しいというのが、人間の当然の心境というものだろう。

そんなことを色々と考えている内に、俺は貸してもらった礼服に着替えさせられて、昨日騎士王と会ったあの聖堂の前に導かれてしまっていた。

少しして、パルベラ姫がファミリスと共に現れる。

パルベラ姫は見事な薄桃色のドレス姿で、化粧も元の可愛らしさをさらに引き出す方向にバッチリしていた。

ファミリスの方も、髪を結った白い軍服姿で、騎士の威厳を損なわない程度の化粧が顔にされていた。

「ミリモスくん、お待たせしました」

俺へと微笑むパルベラ姫は、全身から幸福を宣言しているようなオーラが、バンバン放射されていた。

そのあまりの喜々ぶりに、俺は理由もなく後ろめたい気持ちになる。

恐らく、パルベラ姫と結婚してから、今以上に彼女を幸せにできるのだろうかと、つい不安になったためだろう。

俺は自分の内面考察を終えると、怖気づいてはいられないと気合を入れなおすために、大きく息を吸い込むことにした。

「うしっ。いこう、パルベラ姫」

「はい、ミリモスくん。ああでも、これからは『姫』はつけなくていいですからね?」

「それもそうだね、パルベラ」

言いなおし、二人で手を繋ぎ合ってから、係の者が開け始めた扉が開き終わるまで待って、聖堂の中へと踏み入った。

俺の頭の中には、前世で映像記録として見た、結婚式の様子の印象が残っていたのだろう。

聖堂の中に踏み入った瞬間、ちょっとした違和感に襲われた。

なぜなら、聖堂の内はガランとしていて、参列する人の姿が一切なかったのだ。

不思議に思って、目だけで周囲を確認するが、俺とパルベラ以外に、この中にいる人はいない。扉前までパルベラについてきたファミリスも、聖堂に入る前で立ち止まっている。

状況が分からないまま聖堂内を歩いていると、パルベラが小さな声をかけてきた。

「ミリモスくんのお国の作法とは、違っていますか?」

一瞬、何を問われたかわからなかったけど、すぐに結婚式のことだと理解した。

前世のことを言うと混乱しかねないので、ノネッテ国のものを引き合いに出すことにした。

「ノネッテ国の結婚式は、王家なら関係各所の人たちを集めて、民なら婿家と嫁家の家族が集まって、ワイワイ楽しく宴会するらしい。俺は見たことはないんだけどね」

「ソレリーナ様は、嫁がれていますよね。それなのに、ミリモスくんは見たことがないのですか?」

「ソレリーナ姉上は、スポザート国で押しかけ結婚したからね。幼かった俺は、列席できなかったんだよ」

「こうと決めたら一直線な、ソレリーナ様らしい逸話ですね」

パルベラは少し笑ったあとで、様式違うという騎士国の結婚式について説明をしてくれた。

「神聖騎士国の結婚式とは、ノネッテ国のように家族で祝うものではなく、二人が新たな夫婦となることを神にお伝えする行事なのです。そのため、余人を聖堂内に入れないんです」

「聖堂内に二人だけで、神にお祈りするってこと?」

「二人だけではありません。夫婦の言葉を神に運ぶ役割として、神官の方が仲立ちをしてくれます」

話を聞く分には、参列者のいないという違いはあるけど、前世の教会式の結婚式のようなものだろうか。

「それで、神官はどこに?」

俺の口から疑問が出たところで、聖堂に新たな人物が入ってきた。

玉座が据えられた台の右奥にある扉が開き、騎士王テレトゥトス・エレジアマニャ・ムドウが姿を現したのだ。

俺が驚いていると、パルベラがかすかに笑った。

「御父様は、神聖騎士国の王であると同時に、神に仕える者の最高位責任者でもあります。ですので、結婚式の仲立ちをしてくれることはあり得ることなんです。少し、異例ではありますけどね」

パルベラの口調には、親のイタズラを見て恥じる子供のような響きがあった。

きっと、城の聖堂で実の娘の結婚式を行おうと、騎士王が仲立ちをするのは珍しいんだろうな。

知りたい情報は得たため、俺たちは口を噤みながら前へと進む。

俺たちが玉座に近づくように、騎士王も横合いから玉座へと近づいていく。

ほぼ同時に、俺たちは玉座のある台座の前に、騎士王は玉座の手前に立った。

そして、騎士王が告げる。

「ミリモス・ノネッテ。パルベラ・エレジアマニャ・ムドウ。神へ結婚の報告を」

厳粛な雰囲気を含んだバリトンボイスが聖堂に響く中、まずは騎士国の結婚式の作法を知るパルベラが発言する。

「神よ。 私(わたくし) 、パルベラ・エレジアマニャ・ムドウは、こちらのミリモス・ノネッテと結婚し、生涯を共に過ごすと誓います」

やや斜め上を見上げながらのパルベラの宣言を受け、騎士王は頷く。その後で、俺に視線を向けてきた。

俺はパルベラの真似をして、斜め上を見上げながら宣言する。

「神よ。俺、ミリモス・ノネッテは、こちらのパルベラ・エレジアマニャ・ムドウと結婚する。そして一生涯を共に暮らすと誓おう」

俺が発した言葉が、聖堂の中に残響しながら消えていく。

しんっと静寂が戻ったところで、騎士王が厳粛な声を発した。

「見て、聞いておられましたな、神よ。神前にて、新たな夫婦となると盟約を交わした二人。仲立ち人たるテレトゥトス・エレジアマニャ・ムドウは、この二人の道行きに幸福の光が差すことを、神へと切に希う」

騎士王の言葉に聖堂内が、少しだけ明るくなった。

まるで神の祝福されたように錯覚してしまいそうな現象だ。

冷静に理屈づけて考えると、太陽の位置が時間と共に傾いたことで、ステンドグラスに入る光が、色のあるガラスから色のないガラスへと移動したためなんだろうけどな。

さて、神への誓いは終わった。

これから先は、何をするんだろうと構えていると、パルベラに手を引かれた。

向かう先は、聖堂の出入口だ。

移動する俺たちと同じように、騎士王も出てきた場所へ向かって歩いていく。

どうやら、結婚式は今ので全て終わりらしい。

なんともあっさりした式だなと印象を抱きつつ、前世の結婚式にはあった新郎新婦の口づけがなかったことに対し、俺はちょっと残念に思ってしまったのだった。