軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九十七話 輸送物と懸念

ハータウト国から帰ってきた。

留守番をしてくれていたホネスに土産のドライフルーツを渡しがてら、これからの業務を手伝ってもらうべく状況を話した。

「せっかく大儲けできそうだったのに、物々交換にしちゃったあたり、センパイっぽいです」

「俺っぽいってどういう評価だよ。でも、結果的にこの交換は当たりだと思っているんだよね」

「それはどうしてです?」

「まず青銅製の装備を作る一時金代わりに、木炭や薪を大量にもらえたことだね。これで今年は冬でも鍛冶仕事ができるようになったよ」

「なるほど。物々交換で、これから先はずーっと燃料の心配をしなくてもよくなったってことですか」

「武器との交換だから、十年近くはだね」

鍛冶仕事で消費が激しい燃料について、心配が要らなくなった点は、ロッチャ地域の繁栄に大きい影響を及ぼすだろう。

鍛冶を大々的に行える国は少ないから、武器も道具もこの世界では不足気味。その空いている需要にロッチャ地域が食い込んでいけば、帝国への借金の完済はぐっと近づくことだろう。

そのための先行投資と考えれば、今回ハータウト国へ武器の製造代金をロッチャ地域の領主の会計で補填することは、さほどの負担にはならない。

「そんなわけで、まずは青銅製の武器と防具の製造を始めないとね。陣頭指揮は研究部の青銅班にやってもらおう」

「ロッチャ地域で、一番青銅の扱いに長けているのは彼らですもんね」

俺はすぐに命令書を発行し、研究部の青銅班に彼らの伝手も使わせて、ロッチャ地域各地で青銅の武器防具の製造を始めさせた。

冬という時期に、領主からの発注。

本来なら使える燃料が乏しいため断らざるを得ないのだろうが、依頼を受ければこちらから大量の燃料を与えると約束した。加えて発注物の製造後に余った燃料は、各自が自由にしていいと但し書きも添えてある。

それを読んで、鍛冶師連中は大張り切りで製造に乗り出したらしい。

余った燃料が自由に使えるということは、作品を新たに作ったり、家の暖炉に使ったりできるということ。冬の暇をつぶせる上に、それほどのオマケがついてくるとなれば、鍛冶師は我先にと発注を奪い合ったのだそうだ。

鍛冶師の意気ごみは製造の速さにも表れていた。

閉め切り期間の半分――わずか二十日ほどで、発注した武器防具が全て納入されたのだ。

割合抽出で検品してみたところ、どれもこれもが一級品の出来栄え。

俺が発注物の受け取り担当を命じた役人は、この現象に苦笑いだ。

「燃料節約のため一度に大量に作ったのもそうですが、難癖をつけられてやり直しを命じられたりしたら燃料が余らなくなるからと品質には気を付けたそうで」

「そして燃料の流用を咎められないよう、さっさと納入したってわけか」

げに恐ろしきは、利益とやる気が合致したときの人の仕事の速さかな。

「こうした物ができたからには、すぐにハータウト国へ送ってしまおう。輸送計画はできているよね?」

「中央都の鍛冶師連中が十日で発注物を持ってきたのを見て、これは早めに集まると思い、慌てて作成しました。護衛はドゥルバ将軍麾下の方々に話をつけてあります」

「大量の武器の輸送だから、万が一にも豪族や野盗に奪われるわけにはいかないもんね」

妥当な人選だと評価しながら輸送計画書を受け取り、どうせだからと俺自身がドゥルバ将軍に会いに行った。

「――ということで、護送任務をお願いね」

俺が計画書を差し出しながら言うと、ドゥルバ将軍は副官に書類を受け取らせつつ、困り顔になった。

「いきなりですな。しかし、この身が向かっても、良いものですか?」

「それはどうして?」

「ハータウト国がロッチャ地域に大量の武器防具を発注したという話は、すでに民草全てが知る内容となっております」

まあ、武器防具を製造させた鍛冶師連中に口止めはしてなかったから当然だろう。

大量の質の良い武器をハータウト国が持ったとフェロコニー国が知ったら、戦争へ二の足を踏むだろうと考えての判断だし。

そんな俺の考えを、ドゥルバ将軍は評価しつつも、別の懸念を抱いたらしい。

「ここでフェロコニー国が取れる策は二つ。一つは武器防具が届く前に、ハータウト国を攻めること。もう一つは、ロッチャ地域からの輸送隊を叩き、武器防具を遺失させること」

「一つ目は難しいね。フェロコニー国は傭兵を集めているという話があった。傭兵は正規軍のように素早く移動はできないものだと、兵法書にもあるし」

「そうですな。傭兵とは武力を期間貸しして金を得る連中。遅く移動して、少しでも雇用日数を稼ごうとするものですからな」

「二つ目の懸念だって難しいよ。フェロコニー国とロッチャ地域は、ハータウト国を挟んで反対側だ。輸送隊を叩くには、ハータウト国を通らなきゃいけないんだから」

俺は真っ当な主張をしたつもりだったけど、ドゥルバ将軍は首を横に振った。

「我らの隣には帝国領があるのをお忘れなきよう」

「フェロコニー国の部隊か帝国領を通って迂回し、ハータウト国とロッチャ地域の境に現れるってこと? それこそまさかじゃない?」

帝国はあくどくいが、理知的な相手だ。

ハータウト国とフェロコニー国は同じような植生。つまり、ハータウト国が魅力的な輸出物が少ない関係でこちらに借金の申し出をしたように、フェロコニー国も大金を得られる輸出物が少ない国であることは明らか。

そんな魅力少ない国のために、白砂と工芸品の輸出で帝国で重要化しつつあるロッチャ地域の心象を悪くするような行動を、帝国がとるとは思えないのだ。

しかしドゥルバ将軍は、長年ロッチャ国の将軍として帝国と接してきた経験から、違う意見を持っていた。

「正式にフェロコニー国からの部隊を通すことは、仮に少人数であろうと被害国への不義理に繋がります。だが、その部隊が自らのことを野盗だと言い張れば、帝国は自領で悪さをしない限り見逃すのです。帝国は大国で領地も広いから、いちいち野盗がどこの国に行ったか把握することは難しいとうそぶいて」

帝国らしいあくどくて狡い言い分だった。

けど俺はここで、話の元々はドゥルバ将軍が護衛を渋った理由だと思い出した。

「フェロコニー国から少人数の襲撃部隊が来そうという話は分かった。けどそれなら、いっそうドゥルバ将軍に護衛してもらわないと困ることになるんじゃない?」

「自分が護衛をすれば、輸出は無事に行えるでしょうな」

「それなら、何も問題はないんじゃない?」

「いえ、懸念が一つ。これは慣例ですが、国境で襲撃を受けた際、輸出品の護衛たちは安全な町まで相手国の迎えと共に行かねばならないのです」

その間例の理由は察せる。次なる襲撃犯を警戒し、少しでも護衛人数が多い状態を保ちながら、安全な場所へと運び入れるためだろう。

そしてドゥルバ将軍が問題視している点もわかった。

「地域軍とはいえ、将軍である人物が他国の都市に入っていいのかって問題だね」

「はい。見ようによっては、ハータウト国とロッチャ地域が結託し、フェロコニー国と戦うと思われるかと」

「それはそれで、フェロコニー国への牽制に使えるんじゃ?」

「とんでもない。相手側が二国結託したなれば、フェロコニー国側も援軍を呼びかけられます。その呼べる相手の候補には、隣国という観点から、帝国も視野に入るのです」

うおっと、ここで帝国が出てきた。

なるほどね。こうした搦め手での利益を期待できるから、帝国はフェロコニー国の襲撃部隊を見逃す選択ができるという話にもつながるわけか。

「帝国が出てくるのは、とても困る。そしてその建前での援軍だと、騎士国が助けに入ることは期待できないね」

二国対一国の戦いはアンフェアだから二国対二国の形にすると考えると、戦争の均衡を保つという観点では正しいことだからだ。

しかし少し前でも考えたことだけど、魅力が少ない土地のために帝国が出張ってくるとは、ちょっと考え辛くもある。

そうして、懸念と予想を色々と加味して思考し、俺は決断する。

「やはりドゥルバ将軍とその麾下に、輸送隊の護衛を任せることにするよ」

「帝国との戦争になるかもしれない可能性があるとしても?」

「そうならない可能性の方が高いからね。もっとも本当に帝国が出てきたら、その瞬間に負けを宣言するつもりだよ」

「戦いもせずに、負けを認めると?」

「言い方は悪いけど、帝国が出張ってきたら勝ちようがないんだよ。それなら戦う前に負けを宣言した方が、兵士が死なない分だけ被害が少なくて済むじゃないか。それに戦って負けたという形にはならないから、帝国がこちらに配慮してくれる可能性は残せるしね」

「……ミリモス王子は、奇特な考え方をなさいますな」

「勝てない相手に対して、良い負け方を考察することって、そんなに奇妙かな?」

亡国と共に果てるとか、意地のために最後の一兵まで決死で戦うなんてことの方が、俺にはピンとこないんだけどな。

人間、生きていればこそ浮かぶ瀬もあるんだって、一度死んだ記憶がある俺だからこそ真に信じている。

「ともあれ、せっかく作った武器と防具なんだから、欲している人の手に渡って欲しいと思うのは当然でしょ。だからこそ、ドゥルバ将軍とその麾下に護衛を任せるってことだよ」

「その言い分であれば、納得がいきます。ミリモス王子。そう考えていたのなら、先に言ってください」

「ええー。ややこしい話を持ち出してきたのは、ドゥルバ将軍の方だったでしょう」

「いやはや、ここまで会話内容が捻じれるとは、思っておりませんでしたので」

会話が横道にそれることはよくあることだよねと、お互いに納得してから、俺たちはそれぞれが残している今日の仕事に戻ることにしたのだった。