軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九十六話 交易交渉

ファミリスとパルベラ姫は騎士国の見解として、ロッチャ地域から武器をハータウト国へ輸出することを認めてくれたため、会談は武器の量と種類に支払う金額の話になる。

ここで交渉相手と部屋が変わる。

老王クェルチャ三世の子であり実質的な国家運営者である、エイキン王太子。ちなみに王太子といっても老王の子供なため、五十代の苦み走った顔立ちの中年男性である。

そのエイキン王太子の執務室で交渉だ。

「今後、長期間買い替えずに使用し続けるつもりなら、鋼鉄製のものより青銅製が優秀ですよ」

俺がセールストークを行うと、エイキン王太子の表情がさらに苦いものに変わる。

「鋼鉄よりも青銅の武器が優秀とは、ついぞ知らなかったが?」

「鋼鉄と青銅では利点が違うんですよ。鋼鉄は生半な金属に打ち勝てるだけの硬さと鋭さを持っています。一方で製造に専門的な知識と技術が必要な上に、錆び易くて整備の手が多くかかります。一方で青銅は、鋼鉄には劣りますが鉄並みの強度を、合金の配合で実現することが可能です。そして錆に強くて倉庫に放置したとしても長持ちします」

前世の世界史で習ったことだけど、その錆びやすさから、鉄を『卑金属』と呼び蔑んだ時代があった。そして錆びにくい銅や銀や金を『貴金属』と現代でも呼ぶのは、その時代の名残という話だった。

事実、青銅にサビはでるけど表面的に発生するだけで、鉄のように中まで錆びてグズグズになるということにはならない。

そんな青銅の利点を説明するが、エイキン王太子は疑ったままだ。

「青銅が鉄並みの強度? 我が国でも銅や青銅の武器は運用しているが、それほどに違うものか?」

「押し並べて合金は、混ぜる金属の種類と配合によって、いかようにも強度が変わるものです」

「青銅は古い素材で、鋼鉄に負けると考えていたのだが、違うのか?」

「鋼鉄の武器が硬さの上で最善であることは、あの帝国が採用していることからも証明されています。ただ青銅は鉄に代わりえる優秀な素材であり、鋼鉄にない利点だって多くあります。だからこそ、短期で使い潰す気なら鋼鉄を、長期的に使う気なら青銅をと、僕は勧めているわけです」

俺がどちらの素材で作った武器を選んでも構わないというスタンスを見せると、エイキン王太子はさらに困り顔になった。

「短期か長期かか。それでは青銅が、やはり鋼鉄が。ううむ……」

兵士たちに渡す武器の数は千単位だ。慎重になるエイキン王太子の気持ちはわかる。

しかし長々と悩まれると、こちらは手持無沙汰で困ってしまう。

そこで、エイキン王太子の悩みを解決するため、同席しているファミリスに意見を求めることにした。

「騎士国の騎士であるファミリス『殿』。貴殿はどうお考えになるか、お聞かせくださっても?」

王子口調で聞くと、ファミリスは俺に胡散臭いものを見る目を向けてきた。

そんな目をするほど、俺の王子口調はファミリスが不似合いだと感じるものなんだろう。

俺が王子然とした態度を一瞬崩し、素の顔で『良いからさっさと言え』といった表情をすると、ファミリスはどこか安心した様子に変わった。

「ミリモス王子がこう言っていますが、エイキン王太子は構いませんか?」

「おお! もちろんですとも! その身一つで帝国の魔法に対抗するという騎士国の騎士様の評価とあらば、値千金の至言に他なりません!」

俺が説明しているときとは、随分と態度が違うな。なんて思いつつも、表情は平静を保ったままにする。

そんな俺のすまし顔を、ファミリスは見抜いて笑いを零してから、鋼鉄と青銅に対する評価を告げ始めた。

「騎士国の騎士や兵士に与えられる武器や防具は、全てが鋼鉄製です。その頑健性は他に類を見ないほどに優秀ですので」

「それでは――」

「ただしです。それは騎士や兵士が自分の武具を整備できるようなって、ようやく一人前だと習うためです。平時に武器や鎧を錆びさせるなど、騎士や兵士の風上に置けぬ者という風潮があるためです。そしてこの風潮とは関係がない、犯罪の取り締まりを行う警邏や自警団が持つ武器は、主に青銅です。ミリモス王子が言ったように、武器として十分な強度があるのに手入れ不足でも長持ちするためです」

「騎士国においても鉄と青銅の二種類を使い分けていると?」

「戦う相手によって使う戦法を変えるように、必要に応じて武器の素材は変えるものです」

ファミリスの言葉は、俺の説明の焼き増しのような内容だったからか、エイキン王太子は苦悩に沈む。

ここで同席しているパルベラ姫から、助け舟が出された。

「ファミリス。意地悪しないで、どちらの素材で作った武器が、ハータウト国に相応しいか言ってあげたらどう?」

「パルベラ姫様。お言葉ですが、自国を守るための武器を選んでいるのです。他国の者が一方に決断を迫るような真似は、正しくはないと考えます」

「そうかしら。このままではエイキン王太子は選べずに終わってしまいそうだけど?」

「選択できないのはエイキン王太子の問題。こちらが口出しできるものではありません」

「ああして困っているのだから、助けてあげることは正しいんじゃないのかしら?」

「いいえ、姫様。迫る国難に際し、武器の購入一つ決断できない王太子がいないはずがありません」

当事者を目の前に、怖いもの知らずのファミリスの言いっぷりは、流石は大国の騎士国の騎士だと感心してしまう。

そんな発破が突き動かしたわけじゃないだろうけど、エイキン王太子が決断した。

「フェロコニー国との開戦が決まっているわけではないため、長期的な運用を視野に入れ、青銅製にします」

「分かりました。それで武器と防具の種類はどんなものを考えてますか?」

「我が国の兵が使い慣れている大きさの剣と弓、そして上半身だけを覆う鎧と盾を購入したいと」

「鎧についてはお任せを。ただ弓は短弓と知ってますが、剣は馬上剣ですか? それとも片手剣? 盾はどれほどの大きさが必要でしょう?」

「騎馬兵には馬上剣と片手剣の両方、歩兵は片手剣のみ。盾は、こう大きくもなく小さくもなくで」

「その身振りの大きさを見ると、顔を覆い隠せるほどの円形盾が良さそうですね。確認ですが、槍は必要ないんですね?」

「フェロコニー国と戦争になれば、どこが主戦場になろうと森がある土地で戦うことになる。そして森の中で槍など、無用の長物にしかならない」

槍の基本運用法は槍衾だけど、森の木々が邪魔で密集部隊を作れないから意味が薄くなる。そして槍は長さがあるため、移動の最中に伸び出た枝に引っ掛けたりして行動が遅れがちになる。

となるとだ、ハータウト国が考える森の中での戦い方は、こう予想できる。

まず軽装騎馬が短弓の機動射撃で敵の牽制を担い、歩兵は盾と森の木々を遮蔽物に敵に接近する。やがて歩兵同士が剣の乱戦で切り結ぶようになったところで、騎馬が馬上剣を抜いて突っ込んで戦線を混乱させる。混乱した戦線を歩兵が押し上げ、相手の混乱が整い始めたら、騎馬が再び突っ込む。その繰り返し。

この俺の予想が正しいのなら、森での戦いとは、部隊運用による戦いというよりかは集団戦、そして集団戦でも一対一の場面が多数ある戦いのように思える。

なるほど。個人の力量に左右される戦いとあれば、ロッチャ地域から質の良い武器を輸入しようとしている考えを、ここで真に理解できた。

そしてそんな戦いを行うために、どんな武器が良いかも察することもできた。

「では、それぞれの武器と防具の数、そして値段についてですが――」

多く売りたい俺と、少しでも戦費を抑えようというエイキン王太子の交渉は、お互いに勝ち負けがないぐらいの妥協点で落ち着いた。

これでお互いに話は終わったと思いきや、エイキン王太子が申し訳なさそうな表情で言ってくる。

「支払いの半分は、借金という形でお願いしたく」

「ロッチャ地域――いえ、ノネッテ国が貴国に金を貸すのですか?」

「お恥ずかしい話ですが、我が国の主産業は樹木から得る木の実と果物、そして木材。そのため裕福であるとは言い難く」

言われて考えると、ハータウト国は豊富な木の実と果物があるため民は暮らしやすいが、他国との交易によって財を成せるだけの輸出品は乏しかった。

他国では穀物の栽培が主流で、木の実に大した需要はない。果物はドライフルーツとして売れるが、甘味は嗜好品の類なので買い手と購入量が乏しいため、多く売ろうとして供給過多になれば値崩れを起こす。木材やその加工品である木炭は生活必需物資だけど、フェロコニー国や他の森林地帯の国には需要がない。

それら輸出品はロッチャ地域で好評で良く輸入はしているんだけど、青銅や鋼鉄製の道具をフェロコニー国へ輸出する利益の方が額が上だしね。

そこまで考えが至り、そして以前のフンセロイア一等執政官との会談で帝国が借金の取り立てに手間を割いているという事実を思い出す。

このまま借金を認めた場合、ハータウト国が踏み倒そうとしてきたり、支払を引き延ばそうとしてくることも考えられるんだよな。

俺は少し考え、借金ではない方法で、武器の支払いを行ってもらう方法を思いついた。

「お金がないといっても、ハータウト国にはロッチャ地域が欲する物資が、文字通り山のようにあります。鍛冶用の木炭、建築用の材木、みずみずしい果物、甘い干し果物や果物の甘煮――」

「森で採れる香草類や木工製品も買ってくださっておりますな」

エイキン王太子が継いでくれた言葉に頷き、俺は続きを話す。

「――それらの物と、こちらの武器防具を、物々交換しませんか?」

俺の提案に、エイキン王太子は驚いた様子だった。

「嬉しい話だが、これほどの量の武器防具の支払いを、物で行うとなると膨大になりすぎて、民の使う分が消え失せてしまう」

「いやいや。一括で払えとは言いません。数年にわたって、毎年こちらに、どれほどの量を渡してくれるかを決める。それだけでいいのです」

「なるほど。金銭での借金ではなく、物品での借財といういう形にするわけですな」

エイキン王太子は腕組みして考え、鋼鉄製か青銅製かで悩んだときとは考えられないほど、あっさりと提案を飲んだ。

「武器防具の支払いを、物品の借財という形にするよう、よろしくお願いする」

「では、毎年こちらに渡してくれる量を決め、そこから完済までの年月を割り出すとしましょう」

こちらが売り出す大体の値段と、ハータウト国が毎年輸出可能な物資分を突き合わせ、大筋で合意が得られたところでお互いに握手を交わし、交渉は終わりになったのだった。