軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

湖の水をぜんぶ抜きます!②

「悪い?」

「――いや? 誇りもなにもない。正統なる王の血を引く僕には考えつかないやり方だ」

「別に方法なんて関係ないでしょ。なにを優先するかが問題じゃない?」

「誇り以上になにを優先するっていうんだ」

「みんなの生活に決まっているでしょ」

ぎくりと身を竦めたユージーン王子に、私は小首を傾げてしまった。

「誰かの生活が脅かされること。これ以上に避ける事態なんてないじゃない。誇りは食べられないけど、お金さえあればたいていのものは揃う。なら、考えるまでもない」

こればっかりは前世も今世も同じだ。

世知辛い。ロマンもへったくれもないけれどね!

「公爵令嬢だからね。民草の生活を守ることが第一! そう思うからさ」

ま、言葉通りの高尚さは実態としてないけれど。人よりいい生活をさせてもらっているからね。還元しないと誰かに怒られる気がする。やはり小市民メンタル……!

すると、ユージーン王子が顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「民草が第一、か。だから、お前が嫌いなんだ」

「……え?」

「ただの公爵令嬢の癖に。父上の子じゃない癖に。たまに父上みたいなことを言う」

「はあっ!?」

心外である。誰があのイケオジ賢王(笑)に似てるって……!? 私はあんな空気読めない感じじゃないし、手紙に「イエイイエイ!」なんて書きませんけど!?

「失礼な――……」

思わず反論しようとした瞬間、頭上に影が差したのに気がついた。

「お嬢!」

ヴァイスの焦った声。いつの間にか、どこからか現れた巨大魚が襲いかかってきていた。サリーたちが打ち漏らした? いや、違う。水魔法で浮かべた水玉の中から、次々と巨大化したブラックバスが生まれ始めているんだ!

「キャアアアアアア!!」

一気に周囲は阿鼻叫喚と化した。孤児たちが逃げ惑っている。

――ああ! 空飛ぶ小魚を保護する方を先にすればよかった……!

どうも、ブラックバスと空飛ぶ小魚が一緒くたに水魔法に巻き込まれ、水玉の中に閉じ込められたらしい。

ご馳走が目の前に現れたら、そりゃあ食べるよね……! お腹を空かせたブラックバスは、キノコをゲットしたスーパーマ○オがごとく巨大化したようだ。

気づけば、目の前に恐ろしいほど巨大な顎が迫っていた。

「離れてッ……!」

とっさに王子を突き飛ばす。呆然と固まる王子を横目に死を覚悟していると、目の前のブラックバスが、なぜだか細切れになった。

「すまんすまん! ご主人様たちの話を盗み聞きしてたら、反応が遅くなってもた」

「グリード……!!」

気づけば、頼りがいのある背中が目の前にある。

「大丈夫か?」

「うん……!」

グリードは、リラックスした時の猫みたいな笑みを私に向けていた。陽だまりみたいなそれがあまりにも温かくて、なんだか泣きたくなってくる。

「アンタなにしてんのよ!?」

サリーも駆けつけてくれている。次々生まれてくる巨大魚を凍り付かせながら、「ルシルとかいう神官! 空飛ぶ小魚は交ぜないで! できる!?」なんてやり取りをしてくれていた。

迅速な対応のおかげで、何人かが転んだ程度の被害で済んだ。たぶん、これ以上の事故は起きないはずだ。

「……死ぬかと思った」

思わず脱力していると、グリードは「頑張ったなあ」と頭を撫でてくれた。優しい。でも子ども扱いされている気がする。

「ご主人様が無事でよかったわ。こんな王子、放って置けばええのに。普通に考えて、アンタが喪われる方が、この国にとってよっぽど損失やろ?」

「……ッ! 貴様、僕を誰だと思ってる。身の程を――」

「だって。ご主人様のやっとること。ほんまに金をばらまいとるから出来とると思とるのなら、あまりにも目が節穴すぎるやろ」

ニッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

大きな手で私を撫でながらグリードは続けた。

「みんなご主人様が好きやねんで。せやさかい協力しとうなる。お金なんてただの理由付けやろ。この人は、みんな平等に大事にしてくれる。大切に扱ぉてくれる。他人を雑に扱うアンタが同じことをしても、きっと同じ結果は得られへん」

「……!」

「ご主人様は僕なんかにも優しい。身の程を知るのはアンタの方や」

グイッと私の肩を抱く。「ご主人様選び、成功したかもしれん」と呟いて、グリードは顔を寄せてきた。

「なぁなぁ。お仕事、いっぱい頑張ったら褒めてくれる?」

「……う、うん」

「ほんまに!?」

「なんなら月給を上げても……」

「給料は上げんな。僕への報酬は、褒めだけでじゅうぶんや。いいこってして。あと、ちょっとだけ特別扱いしたって」

「え……? そんなのでいいの?」

「うん。いままでの人生、罵られてばかりやった。人を殺さへんと価値があれへんって言われ続けた。ぎょうさん殺しても、次の仕事を与えられるだけやった。せやけど、アンタはちゃうんやろ。人を殺さんくても評価してくれる。僕を必要としてくれる。……それがええんや」

それだけ言うと、グリードは再び宙に舞った。

何匹もの巨大魚を切り刻んでいく。

「グリード、頑張って……!」

思わず応援すると「そんなん言われたの、初めてや」とはにかむのが見えた。

「終わったら、ちゃんといいこいいこしてや!」

なんだろう。

ほんわかと胸の中心が温かい。芯から気を許してくれた。そんな実感がある。

「お嬢!」

グリードの姿を目で追っていると、そこにヴァイスがやってきた。なんだか悲しげな顔をしている。

「お嬢を守るべきは俺だったのに」

グリードに先を越されたのが堪えたらしい。「気にしないで」と声をかけると、ぎゅうっと眉間に皺を寄せていた。たちまち獣化すると、長い尻尾を私の腰に巻き付けて宙を睨む。毛を逆立てる様子からは、私を守り抜くという気迫が感じられた。

そこにやってきたのは、周囲に氷をまき散らしていたサリーだ。

「やだ! グリードばっかりズルいわ。アイシャ~。アタシも応援してよ!!」

ちょっと不満そうな顔が可愛かった。金髪に氷の結晶がまとわりついてキラキラしている。圧倒的に敵をなぎ倒す姿といい、氷の女王感が半端ない!

「サリー、とっても綺麗だよ~!」

「アッハハハハ! なんでそれ? もう、読めない子ね……!」

頼りがいのある仲間たちの活躍には、見惚れる他なかった。

嬉しいな。怪我をしないといいな。私は彼らになにを返せるだろう。

考えるのは、そんなことばかり。

みんな無事に戻ってきてほしい。無力な私はそう祈るしかなかった。

――それからは順調そのものだった。

「さあ! もう一踏ん張りですよ……!」

みるみるうちに湖の水が減っていく。それにつれて、巨大魚の出現数も激減していった。普通ならお目にかかれない湖底が姿を見せるようになると、じょじょにテンションが上がっていく。

古代の遺跡だ、見たことのない魚だ! ワクワクが止まらなかった。

「これが最後ですわよ! これで湖の水、ぜんぶ抜けますわ……!」

ルシルがそう言った時なんかは、思わずみんなで絶叫してしまった。

「「「いっけーーーーーー!!」」」

意味もなく宙に浮かんだ水玉に声援を送る。中にいた魚も驚いていただろうなあ。

こうして、無事に湖の水を抜き終わった。

枯れた湖。目の前に広がる異質な光景……それも私たちが作りだしたのだと思うと、思わず鳥肌が立った。やりきったんだなあ。私たち頑張ったなあ……!

「みなさん、協力ありがとうございましたーーーー!!」

満面の笑みで叫ぶと、集まってくれたみんなが喝采を上げた。

際限なく湧き出てくる達成感のおかげか、誰もが笑顔だった。