軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人生の休暇を満喫するつもりなので!①

一仕事を終えた後は、もちろん打ち上げである。

大変だったからね。こりゃあ盛大にやらなくちゃと張り切るわけだ。

特に徒歩で帰宅組は、このままじゃ途中で力尽きてしまう。少しくらいは食べて帰ってほしい……。とはいえ、大所帯だ。打ち上げのための食材調達も簡単じゃない。

だが、今日の私たちはツイている。

目の前におあつらえ向きの食材が山盛りだったからだ。

「よし。子どもたちから買い上げたブラックバス、食べちゃおうかな!」

そう。例の巨大化してしまった外来種である。

ブラックバス以外の食材や食器なんかは、ほど近い場所にある村から提供してもらった。もちろん金に物を言わせた結果だ。ふはははは。金があればなんでもできる。こういう時にケチケチしていられないからね!

打ち上げ準備は、その村の人たちが手伝ってくれた。

秋の豊穣祭の時に使うという大きな釜やたくさんのお皿、大量のカトラリー。木のテーブルや椅子を運び込むと、一気に湖畔がパーティ会場に様変わりだ。

「忙しいのにいろいろとありがとうございます」

「いやいや! 感謝しているのはこっちの方です。うちの村でも、凶暴化した魚たちの被害に遭って困っていたんですよ。漁ができなくなったら、この冬を越えられないところでした」

「んだんだ! アイシャ様は、俺らの救世主だあ! なんでも言ってくれ!」

……ああ、やっぱり頑張ってよかったなあ。

誰かの生活を守れた。それがなによりも嬉しい。

調理担当は私やヴァイス。あとは村の奥様方だ。問題はなにを作るかである。手軽に食べられて、しかもお腹に溜まるもの……。

ブラックバスはスズキの仲間なのだという。淡水魚ということもあって、皮には多少の臭みがあった。ならば、丸焼きなんかよりも三枚に下ろして淡泊な身を味わった方がいいだろう。近隣の村には大量のジャガイモが保管してあった。

……ならば導き出される答えは!

「フィッシュアンドチップスだー!」

炭酸入りのカリッカリ生地を纏わせたブラックバスのフライに、ほっくほくのフライドポテト! 軽く塩を振って食べるのもいいけど、やっぱりフィッシュアンドチップスにはタルタルだよね~!

マヨネーズは現代人の恋人だ。

いつでも食べられるようにと、マジックバックに大量に保管してあった。

手作りマヨネーズに、村の奥様手製だという野菜のピクルスと、ゆで卵をたっぷり入れた食べ応え抜群のタルタルにどっぷりつければ……!

「ブ、ブラックバスってこんなに美味しいのー⁉」

疲れた体に染みるご馳走の完成だ!

琵琶湖では、名物化してるって聞いてたけど、これはなかなか侮れない味だ。

ヴァイスが拵えたフライの衣は、歯を入れると軽快な音を立てる。これぞASMRって感じ。食欲をそそる音はいつまでも聞いていたい。

火がほどよく入った身はどこまでもふわふわで、歯がまったくいらない柔らかさ。噛みしめる毎に、うま味が凝縮された汁がじゅわっとあふれ出てくる。洪水? 洪水かもしれないなー! 口内にノアの箱舟がいたら、動物たち大慌てだわ。いや、これ冗談じゃなしに。口の中がひったひた。美味しい汁でひったひたなのである。

それに、確かに身は淡泊なんだけども! 思いのほか脂が乗っている……! 鱈みたいな癖はないのに、なんだかガツンとくる味で、ついつい次に手が伸びてしまう……。

――そう。ビールのお代わりに!!

「ぷっっはああああ……! たまらーん!!」

「わはははは! 嬢ちゃん、こりゃあ美味いな~」

「でっしょ。ドワーフの皆さん、いっぱい飲んでいって! うちの者がどんどん追加を持ってきてくれますから~」

「「「うおおおおおおおおおおお! 飲むぞおおおおおお!!」」」

ヴィンダーじいたち、ドワーフ陣の熱気がすごい。

ちゃっかりルシルさんも交じって、次々とビールを飲み干していく様は圧巻だ。

「これは売れるね……」

「ぜったいに売れるね……」

大騒ぎする大人たちに対して、孤児たちは静かだった。

いや違う、あれは商売人の目……! 頭の中で金勘定をしているのだ。

すごい。実に将来有望である。

「…………。ふん」

一方、ユージーンたちは大人しいものだった。

三人集まって、隅っこでチビチビ食べている。まあ、この先のことを考えたら騒げないよね。沈んでいるユージーンとは裏腹に、カイトとガンダルフはどこかホッとした様子だった。少なくとも彼らが慕っている主人の命は助かったのだ。最悪の結果を避けられて気が緩んでいるのだろう。

――やっと、ぜんぶ終わったって感じ。

みんなの満足そうな顔がまぶしかった。

これだけやったのだ。公爵令嬢として、ある程度の合格点はもらえるはず――

貴族としての義務は果たした。怒られは発生しないはずだ。ふはははは。

そんな風に思っていると、大勢の騎士たちがやってくるのが見えた。先頭にはおじ様の姿が見える。

「ヨハン王だ……!」

「すっご。どうしてここに!?」

王みずから足を運んでくれるなんてと、集まった人たちが動揺していた。

「アイシャちゃん!」

「おじ様」

「あああああ……! 無事でよかった。君らが向かったと聞いて肝を冷やしたんだよ!?」

馬を下りたおじ様は、どこか疲れた様子だった。

「城の命令系統が混乱していてね。駆けつけるのが遅くなってしまった。魔物の大量発生だけならまだしも、第二騎士団が勝手に出陣するわ、途中で氷漬けになった騎士が見つかるわで、ただの魔物の大量発生じゃない、未曾有の危機だのなんだのと騒ぐ連中が現れてね。僕のところまで報告が上がるのがずいぶん遅くなってしまった」

「は、ははは。それはそれは……」

……うっ。混乱の原因の一端、私にもあるな。

ごめん。マジでごめん、おじ様。

そっと目を逸らすと、おじ様は私の肩に手を置いてこう続けた。

「でも、よくやってくれた」

おじ様の目元が優しく緩む。

目尻に皺を寄せて、誰からも尊敬される伝説的な王はこう言った。

「この国の王として、君の勇気と知謀に賞賛の意を表するよ。……ありがとう」

このイケオジはッ……!

絶対に絆されないんだからね……!!

「あ、ありがとう、ございますう……」

「だから、なんで僕が褒めると苦しそうにするの? 訳わかんないんだけど」

「別に。ただの反抗期です」

「そういう時期はもう過ぎたんじゃないの? あ、でもでもでも! 勝手にアレコレするのはどうかなって思うんだ~! おじ様も手伝いたかったし! 相談くらいしてよ」

「次からは考慮します……」

「そうして。あ、今回の件でかかった費用の試算を出してね。国庫から補填するから。あ、それとそれと。その料理、僕のぶんも取り置きしておいて。美味しそう!」

「はあい」

――やっぱり、賢王は苦手だ。

優しい責め苦に耐えていると、ふいにおじ様の表情が曇った。

「ユージーン……」

碧色の瞳には、どこか草臥れきった王子の姿が映り込んでいる。息子の姿を見つけたおじ様は、珍しく緊張している様子だった。おじ様がユージーン王子の前に立つと、なんだか不思議な感覚に見舞われた。姿形が似ている。やはり親子だ。

「……今回の件、僕でもさすがに庇いきれない」

「はい」

「君には謹慎処分が下ると思う。王位継承権剥奪もあり得る。少なくとも、しばらくは中央から離れることになるだろうね」

「……はい」

ユージーン王子は俯いたままだ。そんな彼におじ様は静かに語りかけた。

「なにが悪かったのか、今回の件で学べたかい?」

「あ……」

王子が勢いよく顔を上げる。その瞳には厳しくとも優しい父の顔が映っていた。

みるみるうちに涙がこみ上げてくる。鼻の頭を真っ赤に染めたユージーン王子は、それでも必死に泣くのを堪えている様子だった。

「……だ、誰も信じていなかったんです。僕は自分すらも信じていなかった」

「うん」

「だから、誰の言葉にも耳を傾けなかった。聞こうとすらしなかった。僕のそばにはガンダルフとカイトがいたのに。王子という身分しか見ずに、ちやほやしてくれる人間ばかり尊重して……。自分にはないものを持っているアイシャに嫉妬してばかりいて」

「……うん」

「だから、なにをしても裏目に出る。心ない言葉を投げかけられても反論すら出来なかった。事実だったから。挙げ句の果てにアイシャに命まで救われて。肝心の時に部下を信じ切れない僕は、お、王の器ではない、と。痛いほど実感しました……」

「そっか。じゃあ――」

おじ様がユージーン王子の肩に手を乗せる。どこまでも柔らかな声で言った。

「まずは誰かを信じられる人間になろう。これからだよ。ユージーン」

「……っ。はい。はいっ……!」

ユージーン王子の瞳から、止めどなく涙が溢れてくる。

それを見守るおじ様の表情はとても穏やかで。湖畔を渡る風は暖かだった。