軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話 ユージ、ケビンと別れて一足先に開拓地に帰る

「ではユージさん、準備ができたら開拓地に向かいますので」

「はい、待ってますよケビンさん」

「アリスちゃん、またね! パパ、アリスちゃんには優しく教えるのよ?」

「わかったわかった」

プルミエの街の北側、門の前の広場に別れの挨拶を交わす7人と一匹の姿があった。

ユージたちである。

「ええっと、イアニスさん。よろしくお願いします」

「おう。一緒に行くのはひさしぶりだな」

マントを羽織った旅装姿のユージは、隣にいた男に声をかける。

プルミエの街から王都まで一緒に旅したケビン商会の専属護衛の一人、イアニス。

二人いた専属護衛のうち、禿げているほうである。

「よし、じゃあ行こうかアリス」

「はーい! ケビンおじちゃん、ジゼルさん、マルクくん、またねー!」

門に向かいつつ後ろを振り返ってブンブンと元気に手を振るアリス。

足下ではコタローもワンッ! と吠えている。

ユージ、アリス、コタロー。

歩いて門に向かう二人と一匹の後ろには、ジゼルの父のゲガス、護衛のイアニスの姿があった。二人は一頭ずつ馬をひいている。

そう。

道造りでの使役が終わったため、ケビン商会が持っている4頭の馬のうち、2頭を開拓地に連れていくのだ。

ケビンとジゼルはこの後、鍛冶師を開拓地に送る準備をする予定。

ユージは馬に乗れるようになったが、まだまだ危なっかしい。

そのため、イアニスがついていくことになったようだ。

「じゃあケビンさん、ジゼルさん、開拓地で待ってます! マルクくん、いろいろ見せてもらって勉強するんだよ!」

門を守る衛兵のチェックを終えて、ユージが大声でケビンたちに挨拶を送る。

ユージはさっとマントを翻し、ひらりと……たどたどしく馬に乗って、プルミエの街を後にするのだった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ユージさん、なかなかうまいじゃねえか。アリスの嬢ちゃんも」

「そりゃそうですよおやっさん、俺が教えましたからね!」

「えっと、 常歩(なみあし) ならなんとか……」

「ユージ兄、馬はすごいねえ、速いねえ!」

森の中を行く2頭の馬。

それぞれに乗っているのはユージとアリス。

エルフの冒険者・ハルと会うために王都に行った際、ユージとアリスは『覚えておいたほうがいい』と乗馬を習っていたのだ。

まあアリスとリーゼは、ただ馬に乗ってみたかっただけのようだが。

その時の経験を活かして、ユージもアリスも常歩で進ませる分には問題ないようだった。

念のためにとユージが乗る馬は専属護衛のイアニスが、アリスが乗る馬はゲガスが手綱を引いている。

コタローは馬に乗ったアリスとユージの横を楽しそうに駆けまわっている。

チラチラと二人を見るのはなんなのか。馬に乗ってみたいのか。犬なのに。

「それにしても……ゴツい馬ですねえ」

「速度よりも馬力を重視した種だからな。馬車を引いて峠越え、整地されていない道、力仕事。辺境にはコイツらがピッタリよ」

この世界の馬はゴツい。

王都に向けて旅立った際は、ユージも『ゴツくね?』となんとなく思う程度だった。

だが、帰って掲示板に画像をアップした際に言われたのだ。その馬、黒王って名前? それとも松風? と。

いまいち自信がなかったユージも、さすがに確信を得たようだ。

「それは頼もしいですね! これからよろしくな!」

鞍に腰掛けたユージが手を伸ばし、首筋を軽く撫でる。と、ブルルルッと鼻を鳴らす馬。

お、わかってくれたのか、かしこいなーなどとご機嫌なユージ。

ちなみに馬が鼻を鳴らしたことに意味はない。

ユージ、だいぶコタローに毒されているようだ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「あっ! お帰りなさいませゲガスさん!」

「しゃーっす!」

「おう、いい挨拶じゃねえか。ほれ、差し入れ持ってきたぞ」

「おおおお! ありがとうございます!」

「あざーっす!」

プルミエの街から開拓地への帰路、その初日。

午後もまだ早いうちに、ユージたちは宿場予定地までたどり着いていた。

馬さまさまである。

宿場造りの役務に励む7人の男たちは、ちょうど遅めの昼食をとっていたところのようだ。

それにしてもむさ苦しい『お帰りなさいませ』である。せめて女性に言われたい。

「おやっさん、何してんすか……」

「はは、なんか行きに会った時からこうなんですよ。ジゼルさんは、パパの悪いクセが出たって言ってましたけど」

「ああ、そうですか……はあ、なんか旅にしてはおやっさんの荷物がおかしいと思ったんだよなあ」

まだ時間の余裕はあるが、無理をしても開拓地にはたどり着かない。

ユージたちは、行きと同じくこの場所を野営地に決めたようだ。

ひらり、とはいかずにたどたどしく馬から下りるユージ。

すぐにアリスに近づき、ひょいっとアリスを抱えて馬から下ろす。

気遣いできる男である。少女には。

「おう、イアニス。ユージさんに馬の世話を教えておくようにな。俺はちょっとコイツらに話をつけとくからよ」

「了解ですおやっさん」

「は、話をつけるって……いや、そんなわけないよな、うん」

ゲガスの言い方にブルリと震えるユージ。

肉体的なオハナシを想像してしまったようだ。

「ユージさん、基本は王都への旅で教えた通りです。ユージさん?」

「あ、はい、すみません。馬の世話でしたね」

「アリスも馬のお世話できるよ! リーゼちゃんと一緒に教わったんだ!」

ケビン商会の専属護衛・イアニスに声をかけられて、ユージはようやく我に返ったようだ。

イアニスのおさらいを聞きながら、ユージはアリスとともに2頭の馬を世話するのだった。

なんのオハナシかは聞かないようにしたようだ。賢明な判断である。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「あの、ゲガスさん、本気なんですか?」

「ああ、本気だ。ケビンにもジゼルにも了解はとってるしな」

まだ建物もできていない宿場予定地で一泊して、次の日の朝。

出発の準備を終えたユージは、ゲガスと話をしていた。

「おじちゃん、アリスに剣を教えてくれないの?」

「そうですよ、ほら、俺にも稽古をつけてくれるって」

「おう、ユージさんもアリスの嬢ちゃんも安心しな。そうだなあ、三日に一回ぐらいは開拓地に行くからよ。教えるって約束は守らねえとな」

「ユージさん、おやっさんはこうなったら無理ですよ」

「は、はあ。その、みなさんはいいんですか?」

「もちろんですユージさん! 俺たちなんかに申し訳ないぐらいですよ」

「ほれ、そこだ。次はそういうところを矯正してやらねえとな」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

「あざっす! しゃーっす!」

矯正と聞いてユージは一歩後ずさる。

だが、7人の男たちは嬉しそうに笑って礼をしている。マゾか。いや違う。これまで男たちは、誰からもこんな言葉をかけてもらったことがなかったのだ。

だからこそユージたちに絡むような人間となり、だからこそ罪を犯して犯罪奴隷となった。

木こりと猿の二人は道造りの役務を評価され、感謝されてはじめてやりがいを知った。

5人の犯罪奴隷は命をかけて二人に守られ、はじめて仲間を知った。

そしていま。

「おう、任しとけ! 俺の家はここだ! ここに宿場を造って、ついでにおまえらを真っ当な人間にしてやる!」

更生した7人の男たちは、理解者にして庇護者を見つけたようだ。

まあ海賊風の見た目から考えれば、お頭かボスと言ったほうがしっくりくるが。

「ユージさん、ってことよ。なあに、俺なら開拓地も街もひとっ走りだ。ユージさんにもアリスの嬢ちゃんにも稽古をつけるし、それによ……」

「それに?」

「一緒に暮らしちゃケビンもジゼルもやりづれえだろ? でもアイツらが困ることがあったら、ここにいりゃ開拓地でも街でも駆けつけられるからな」

そう言って照れくさそうに笑うゲガス。どうやら親バカであるようだ。

「なるほど……」

「ああユージさん、いまのはアイツらには黙っておいてくれよ?」

「あ、はい、わかりました!」

「黙っといてくれたら、その礼に……ヒマな時はこの辺のモンスターを間引いといてやるよ」

カットラスの柄に手をかけて、ニヤリと唇の端を持ち上げるゲガス。

ユージ、『血塗れゲガス』の迫力にまたちょっと引き気味である。

「えー? ゲガスおじちゃん、アリスは位階を上げたいの! だからたくさんモンスターを 殺(や) りたいんだよ!」

腰に手を当てて、ぷんすかとばかりにお怒りなアリス。物騒な少女である。

「そうか、アリスの嬢ちゃんは長生きしねえとだもんな。よし、そこら辺はうまくやっとくわ。だから安心しな」

「……うまく? ゲガスさん?」

「おう。それにほれ、開拓地はいろいろ秘密があるだろ? ケビンとジゼルが造る缶詰やら新しい服やら……ユージさんのこともエルフのこともあるわけだ」

「あ、はい」

「ここにいりゃあ不届き者も見つけやすいしな。なあ猿?」

「はい! この辺の地形は頭に入ってます! この道以外で人が通りやすい場所もバッチリです! 索敵は俺の担当だったんで!」

「ってことだ。ほれ、いいことづくめじゃねえか」

「ふ、不届きもの……」

ユージ、どん引きである。

だがゲガスが言うことも確かなのだ。

ホウジョウ村開拓地は秘密が多い。

ユージが稀人であること、アリスが貴族の血を引いていること、ユージの家、缶詰の造り方、新しい服飾のアイデア、エルフとの繫がりと里への道。

多いというか秘密だらけである。

どれも、人を襲って入手したいと考える不届き者が出てもおかしくないほどの。

「ゲガスおじちゃんすごーい! お猿さんも!」

アリス、ご機嫌である。

ユージはどん引きだが、この世界の人間にとってゲガスの考えは褒めるべきことらしい。

ついでにコタローもブンブンと尻尾を振ってご機嫌な様子であった。たよりになるおとこね、とでも言いたいようだ。

物騒な少女と犬である。

「おう、ありがとな。じゃあユージさん、あとはよろしくな!」

「ま、まあケビンさんたちもいいならいいのかなあ……わかりました。こちらこそよろしくお願いします!」

ユージ、ようやく納得したようだ。

考えることをやめたとも言う。

「ほらな、おやっさんは言い出したら聞かねえんだ」

最初からわかっていたのだろう。元ゲガス商会の従業員、現在はケビン商会の専属護衛を務めるイアニスは、一人で2頭の馬の手綱を取っていた。

そもそもケビンがイアニスを付けたのは、こうなることを知っていたからなのだろう。

ユージ、アリスがそれぞれ馬に乗る。

「ゲガスさん、みなさん、じゃあまた!」

「またねー」

「おう、気をつけてな! イアニス、道中きっちり守ってやれよ!」

宿場予定地にゲガスを置いて。

ユージとアリス、コタロー、イアニス。

3人と一匹は、ホウジョウ村開拓地への道を進む。

馬に乗っているため、いつもより進む速度は速い。

プルミエの街を出てから二日目。

午後、まだ太陽がさんさんと輝く時間に、ユージたちはホウジョウ村開拓地に帰り着くのだった。