軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 ユージ、王都に帰るハルを見送る

「おひさしぶりです」

「ああっ! ドワーフのおじちゃんだ!」

「たしかユージさんだったか。それと嬢ちゃん、ひさしぶりだな」

領主との会談を終えた翌日。

ケビンに連れられてユージが向かったのは、プルミエの街の鍛冶工房だった。

「どうだケビンさん、アイツらはうまくやってるか?」

「ええ、順調なようですよ。今日は、開拓地まで道が開通したという報告に来ました」

「おお、ついにか! ウチの弟子どもを鍛えといたからな、いつでも移住させられるぜ!」

そう言って胸を張る一人のおっさん。

この鍛冶工房の親方である。

胸板は厚く、背は低い。顎からはもっさりと髭が生えている。

ドワーフである。

「よかったわねあなた。ケビンさんから話をもらって、この人ったら張り切っちゃってねえ。開拓地で頼れるのはなんでもできるヤツだ、缶詰だけじゃなくていろいろ造れなきゃいけねえってしごいてたんだから」

親方の横にはひとまわり小さな人物がいた。

胸板は厚く、顎からは髭が生えている。

ドワーフである。

女性の。

この世界のドワーフは、女性でも髭があるのだ。

褐色少女でも合法ロリでもないのだった。

「よかった、みんな剣の手入れとかいろいろ大変みたいで」

ユージが女ドワーフに会うのは二度目である。

二度目ともなればさすがにいまさらガッカリはしない。

「親方、鍛冶ギルドを通して領主様から書類は届きましたか? 春にはワイバーンが飛来するので、バリスタの設置許可をいただいているのですが」

「おう、そっちも準備してあるぜ! 部品は造ったから、あとは開拓地で組んで設置するだけだ。向こうに木工職人もいるんだろ?」

「ええ、もう腕のいい職人が移住してますよ」

「うし。じゃあ後は持っていくだけだ。馬と荷車の手配は任せていいのか?」

「もちろんですとも! 私はしばらく街にいるつもりです。こちらの鍛冶工房の準備ができたら開拓地まで一緒に行きますので」

「おお、そいつは話がはええや。ウチのヤツらは鍛冶仕事以外はからっきしでなあ」

「なに言ってるの、あなたこそからっきしじゃないですか」

「はは、ちげえねえ!」

なにやら盛り上がるドワーフの親方夫婦とケビン。

ユージ、いまいち話に乗れていない。

「ねえねえゲガスおじちゃん! おじちゃんみたいな剣、ここで買えるかなあ」

「うん? どうだろうなあ。というかアリスの嬢ちゃんはまだ体が大きくなるんだ。それからのほうがいいだろう」

「そっかあ! アリスこれからもっと大きくなるもんね!」

ユージが固まっている一方で、アリスは同行していたゲガスと盛り上がっていた。

大きくなるもんね、と言いながら両手で自分の胸を押さえるアリス。ぺたんこである。

昨日、領主夫人の推定GかHを見てうらやましくなったのかもしれない。

何しろユージとハルが目を奪われるほどだったので。

「では最初は二台でよろしいですか?」

「おう、いくら下見組を行かせてるからって、すぐ火を入れられるわけじゃねえからな。道具一式と素材をちょっと持ってって試し打ちして……次の便は4台ぐらいいるかもしれねえが。バリスタは次の便かその次で間に合うだろ」

「了解です親方。まあ雪が積もる前に本格稼働させられれば充分ですから。バリスタは春に間に合えばいいわけですし」

「領主様から許可が出てるのは4基だからな。設置場所を決めて、必要なら櫓を用意させて……まあ余裕で間に合うだろ。早めに設置して訓練もさせてえしな」

「ああっ! ユージ兄、ケビンおじちゃん! あのねえ、アリス、エルフのお姉ちゃんに空を飛ぶモンスター用の魔法を教わったんだよ! あとおっきい敵用の魔法も!」

アリス、両手を開いてえいっ! と魔法を使うポーズを見せる。

新しい魔法を教わった少女は、張り切っているようだ。

位階を上げて長生きして、親友のリーゼと遊びたいという思いもあるのだろう。

「そっかあ、すごいなアリス! 今度見せてもらわなきゃね!」

ユージは張り切るアリスの頭をぐりぐりと撫でている。

アリスが魔法を使う姿を想像したのか、ユージがふと呟く。

「……バリスタ、いるかな」

「……ほんとですね。いえ、ないよりあったほうがいいですよユージさん。たぶん」

「そ、そうですよね! 備えあれば憂いなしですよね!」

あはは、と乾いた声をあげて笑い合うユージとケビン。

ドワーフの親方夫婦は、同じ角度で首を傾げている。かわいくはない。髭もじゃなので。

荷車が通れる道が開通したことで、鍛冶職人の移住も目前。

予定していた缶詰の生産工場のほか、武器の手入れや生産、バリスタの設置まで行われるらしい。

ホウジョウ村開拓地の防衛能力は、さらに高まることになりそうだ。

もはやワイバーンが革を提供するボーナスに思えるほどに。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

プルミエの街の門を出て、1時間ほど離れた場所。

ふだんは誰もいない夕暮れの川べりに、何人かの姿があった。

「ちょっと、そんな暗い顔しないでよ! また開拓地に遊びに来るんだからさ!」

「ううっ、ハルさん……」

「アリス、笑って見送ってあげようよ。ほら、ハルさんにプレゼントがあるんでしょ?」

「ううー。ハルさん、これね、アリスが作ったの! あげちゃダメだよ!」

「お、小さいコサージュか! ありがとうアリスちゃん! お嬢様に自慢しようっと!」

「おまえはホントあいかわらずだな……遊びまわるのもほどほどにな」

「あはは、ゲガス、ボクが変わるわけないじゃないか! もう300才を超えてるんだよ?」

まわりから見えづらい土手の下、わずかな空間。

そこにいたのは、ユージとアリス、コタロー、ケビンのほか、ケビンの妻・ジゼルとその父のゲガスの姿も見える。

5人と一匹は、王都へと帰る1級冒険者でエルフのハルを見送りにきていたのだ。

川べりにはエルフの船と、ここまで船を動かしてきたエルフの船頭の姿もあった。

『ユージさん、これを。リーゼお嬢様からユージさんとアリスちゃん宛てのお手紙です』

「『おお、ありがとうございます!』アリス、リーゼからの手紙だって」

「やったあ! あのね、アリスも手紙を書いてきたんだよ! ハルさん、お願いしていいかなあ?」

「アリスちゃん、1級冒険者のボクへの依頼ってことでいいのかな?」

「……え? ハルさん、あの、それおいくらでしょうか」

「はあ、ったくもう。ハル、調子に乗るなって。ユージさん、ハルの冗談だから気にしないようにな」

「あ、よかった。ちょっとビビっちゃいましたよ! おどかさないでくださいハルさん!」

「あはは、ごめんごめん! えーっとアリスちゃん、これがお嬢様への手紙で……こっちは?」

「ハルさんは王都に帰るんでしょ? あのね、お爺さまとシャルル兄へお手紙を渡してほしいの!」

「ああ、あの貴族の人と少年ね! 了解!」

「ハルさん、大丈夫ですか? その、バスチアン様は開拓地の後ろ盾になってくれてるんですけど、アリスは血縁だって知られないほうがいいんです」

「大丈夫だよユージさん! ボクは1級冒険者だからね、モンスターの討伐や護衛、家庭教師とか、貴族の館に出入りすることも多いんだ!」

「え、ええっ?」

「ユージさん、特におかしなことではありませんよ。ハルさんのこの姿を見ていると意外に思えてきますけど。ハルさんは護衛や討伐、教師の依頼を問題なくこなしているので、この辺境にも王都で冒険者をしているエルフのウワサが届いているんですよ」

「は、はあ……でも家庭教師って……」

「失礼だなあユージさん。剣も魔法も使いこなして話も面白いって、ボクの家庭教師は人気あるんだよ?」

「あ、いや、心配したのはそっちじゃなくて」

いまいち歯切れが悪いユージ。

ワンワンッ! とコタローが吠える。そうよ、きぞくのおじょうさまがすきになっちゃったらどうするの、とでも言わんばかりに。

たしかに、もし貴族令嬢が幼い頃にこの美形エルフに教わって初恋でもしようものなら、その後は大惨事である。

ユージの心配ももっともだ。

「あはは、大丈夫! 家庭教師は男の子しか担当しないからね! ボクもそんなにバカじゃないって!」

「あ、そうですか」

どうやらハルは自覚があるイケメンであるようだ。タチが悪い。まあ悪どいことはしていないようだが。

「アリスちゃん、手紙は確かに預かったよ。お嬢様、バスチアンさま、シャルルくん。ちゃんと届けてくるからね!」

「ありがとうハルさん!」

「ハルさん、本当にありがとうございます」

「じゃあユージさん、ボクはそろそろ行くから! 王都に帰ったら研究者に話を聞いて、とりあえずユージさんに手紙を出すね!」

「あ、はい、よろしくお願いします!」

「それじゃあみんな、またね!」

そう言ってヒラリと船に乗り込むハル。

ニコニコと笑みを浮かべ、バイバーイと手を振っている。

最後まで軽い。

「行っちゃったね、ユージ兄」

「そうだねえ。でもほら、ハルさんの強さなら心配ないよ」

「ああ。ユージさんもアリスの嬢ちゃんも心配するだけムダだな。ほれ」

ゲガスがくいっと顎で船を指し示す。

ハルとエルフの船頭を乗せた船は、静かに潜水していくところだった。

「あ、そっか、潜れるんだった。だから水路でも危なくないのか」

「そういうことよ。しかもどんな魔法なんだか、上から見づらくなってるらしくてなあ。だから『ニンゲンには見つからないんだ!』だってよ。おまけに湿地の水棲モンスターのうちの主力とは『あの船は襲わない』って約定があるんだってよ」

「え? はい? 約定?」

「俺もよくわからねえんだけどな。まあ気になるようなら直接聞いてくれや。どうせハルはまたすぐ開拓地に来るつもりだろ」

「え? お義父さん、どういうことですか?」

「別宅を建設中だってのもあるが……ユージさん、ケビン。アイツにとっちゃひさしぶりの稀人で、憧れの一部が開拓地にあるんだ。なんだかんだ理由をつけてちょくちょく遊びに来るつもりだろ」

「そうですか……それであんなに軽い挨拶だったんですね!」

「まあありゃアイツの地だけどな」

「お義父さん、ずいぶん理解してますねえ。やっぱり考えることは同じだからですか? ちょくちょく開拓地に遊びに行こうって」

「ああ、そうかもな。おい! なに言わすんだケビン!」

「やっぱりですか……ほどほどにしてくださいね?」

「いや、遊びに行くわけじゃねえんだよ。俺はほら、お前らの商会も生産拠点も気になるし、ユージさんから違う世界の話も聞きてえし、アリスちゃんに剣の稽古をつける約束があるからな」

「ありがとうゲガスおじちゃん!」

「ゲガスさん、遠慮しないでいつでも来てください! 強い人に教われば強くなると思いますし……」

「あ、ユージさん!」

「ほう? ユージさんも強くなりてえのか? 本気で?」

傷だらけの顔を歪め、うれしそうにニヤリと笑うゲガス。

口は笑っているが、目は全く笑っていない。

というか獲物を見つけた肉食獣のソレになっている。

「え? い、いや、その、ほどほどに……」

ユージ、『血塗れゲガス』に目をつけられてしまったようだ。

とはいえここはモンスターが闊歩する異世界。

いかに開拓地の戦力が過剰気味といえ、強いに越したことはない。

「あちゃー。ユージさん、その、がんばってください。強くなるのは確かですから。ええ。強くはなりますからね」

「えっと……が、がんばります……」

ユージ、『血塗れゲガス』に稽古をつけてもらうことが決まったようだ。

強いに越したことはないのだ。

いいことである。たぶん。

ユージがこの世界に来てから4年目の秋、ゴブリンとオークの集落を潰した際に保護したエルフの少女。

護衛役のハルとも別れたことで、一連の問題が片付くのだった。

まあハルは放っておいても問題なかったのだが。

ユージがこの世界に来てから5年目。

陽が落ちた時間はまだ少し冷え込むが、昼間は汗ばむほどの陽気になっている。

間もなく本格的に夏がはじまる。

エルフの少女・リーゼとハルとは別れたものの、ホウジョウ村開拓地には新しい人員が移住してくる予定。

激動の5年目は、まだ半年が過ぎたところである。