軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 ユージ、リーゼとハルを連れて市場を見てまわる

「お嬢さん、こんにちは。美味しそうな果物ですね!」

「なーに言ってんだいアンタ! こんなおばちゃん捕まえてお嬢さんだなんて!」

プルミエの街の青空市場。

春も半ばを過ぎたいま、野菜や果物の露店は活気に満ちていた。

雪に降りこめられた長い冬を越えて、春の作物が並びはじめていたのだ。

夏みかんのような大振りの柑橘類が入ったカゴを置いた露店には、売り子のおばちゃんが初めて見る来客があった。

人族、様々な種族の獣人、ドワーフ。多種族が共存する辺境の街・プルミエでも見かけない種族である。

エルフの男。

売り子のおばちゃんがその美しさに年甲斐もなく見とれていると、エルフの男はニッコリ笑って話しかけてきた。

気軽に。

というか、ものすごい軽さで。

売り子のおばちゃんは、エルフの珍しさを忘れていつものように切り返したようだ。

「ハルさんすげえな……」

「露店ではよくある手段ですけど……ハルさんがやると効果抜群ですねえ」

『もう! 聞かなくてもわかるわ! またハルが軽い感じなのね!』

「ねえねえユージ兄、ハルさんとおばちゃんは仲良しさんなの?」

ユージたちは、プルミエの街の青空市場を訪れていた。

エルフの少女・リーゼとその護衛でエルフのハルを連れて、エルフが欲しがるようなものがないか探すために。

案内役はケビン。もちろんアリスとコタローも同行している。

現役の1級冒険者・ハルがいるとはいえ、ケビンは専属護衛の二人も連れていた。

厳つい二人が並ぶことで、『見た目の抑止力』に期待してのことだ。

合計7人と一匹は、まずは野菜や果物、食料品が並ぶ一画を見てまわっているようだ。

「そういえばケビンさんとゲガスさんも開拓地に来て、そのままエルフの里に向かうんですよね? 食料は大丈夫ですか?」

「ええ、ウチの店員に手配させましたから。ユージさんやハルさんたちの分もありますので、安心してください」

「もうすぐおうちかあ……リーゼちゃん」

左手をリーゼと、右手をユージと繋いでいたアリスが、地面を見つめて複雑な表情を浮かべる。

交易の如何に関わらず、ゲガスのお役目を継ぐケビンはエルフとの取引がある。

何度も連絡を取るため、便乗してアリスもリーゼに会う機会ができる予定になっていた。

それでも。

秋に保護してから、アリスはずっとリーゼと一緒に過ごしていたのだ。

お別れが近づいて、寂しさを感じているようだった。

「酸っぱいけど甘い! んん、春って感じだ!」

「ハルさん、いいんですかそんなに買い込んで?」

「おまけしてもらっちゃったから、ついね! 大丈夫ユージさん、ボクは1級冒険者だよ? これでもけっこう稼いでるんだから!」

「いや、お金じゃなくて食べきれるのかと……あ、ほんとだ酸っぱい!」

「うわあ、おいしい! ハルさんありがとー!」

『もう、買い食いなんてはしたないんだから……リーゼはレディなのに……あ、おいしい!』

布袋一杯に柑橘類を購入したハルは、さっそくみんなに振る舞っていた。

皮を剥いて食べながら歩いていく7人。

ちなみにコタローはひとかけら食べただけ。いまいちね、と言わんばかりに顔を背け、フンフンと市場に流れる匂いを嗅いでいた。どうやら柑橘類は嫌いなようだ。しょせん犬である。まあ好きな犬もいるようだが。

ワンッ! と大きな声で吠えるコタロー。

それほど柑橘類がイヤだったのか、とユージがコタローに目を向ける。

コタローは耳をピクピクと動かし、道の先を見つめていた。あら、きぐうね、と言いたげに。

「ん? どうしたコタロー? あ! ケビンさん、あそこを見てくださいよ」

コタローの視線をたどったユージが何かを見つけたようだ。ケビンに道の先を示している。

「ジゼルじゃないですか! この広いプルミエの街で偶然会うなんて……やっぱり運命ですね!」

コタローが見つけたのは、露店で布を物色するケビンの新妻・ジゼルと針子のユルシェル、護衛役のゲガスの三人だった。

まあケビンの目にはジゼルしか入っていなかったようだが。

そもそもジゼルは「市場調査でプルミエの街を見てまわる」とケビンに告げて外出していた。ここがプルミエの街で唯一の青空市場である以上、ユージたちと遭遇してもおかしくはない。

ケビン商会の今後が不安になる愛妻家っぷりである。

「あ、ケビンさん! ……アリス、俺たちはゆっくり行こうか」

「はーい!」

ジゼルを見つけるやいなや、歩く速度を一気に上げたケビン。

置いていかれたユージたちは、焦ることなく歩き出す。

ここには守るべき少女二人がいて、護衛のハルがいる。ユージは無理にケビンを追いかけるのではなく、ゆっくり歩いていく。

ユージは的確な状況判断もできるようになってきたらしい。

ちなみにケビンの専属護衛の二人は、小走りでジゼルのもとへ向かうケビンを見送ってユージたちの横についたままである。専属なのに。

おそらくケビンの戦闘力を信じてのことだろう。新婚のイチャラブを見せつけられた嫉妬ではないはずだ。たぶん。

「ユルシェル、こっちの布はどうかしら?」

「うーん、こっちはちょっと粗いね。ほらジゼル、ここ見てよ」

「あの……それで、買っていただけるのでしょうか……」

「すまんな店主。ここまで邪魔してんだ、何かしらは買わせるから安心してくれ」

青空市場の露店。

布と中古の服が並ぶ店の前で、ジゼルとユルシェルが真剣な目で品物を物色していた。

明らかに素人ではない手つきに困り顔の店主。

取りなすようにゲガスが購入を約束し、フォローを入れる。

どうやらゲガスは情も大事にするタイプの商人であったようだ。

「ジゼル! やはり私たちは出会う運命だったんですね!」

「まあケビン! それより見てよこのお店! 農村の冬の手仕事で織った布らしいんだけど、掘り出し物かも!」

物色する三人に、いや、ジゼルに駆け寄ったケビンは、あっさりといなされていた。

ジゼルは商売モードであったようだ。

「そうですか……どれ。ふむ、プルミエの街で初めて見ますね。店主も見ない顔ですが、これはどちらから?」

ケビンが寂しそうな顔を見せたのは一瞬。

すぐに気持ちを切り替えて、こちらも商売モードに入ったようだ。

近隣の農村への行商、そしてプルミエの街での市場調査。いずれにも引っかかっていなかった店の存在に、ケビンは目を光らせる。

「服と布のお店かな? アリス、気に入ったのがあったら教えてね。『リーゼ、ハルさんもどうですか? 欲しいものはあります?』」

追いついてきたユージは、アリスとリーゼ、ハルに商品チェックを促す。

もともと市場に来たのは、エルフが欲しがるものがないか探すためなのだ。

果物や野菜、食料品への反応はイマイチであった。

ハルは果物を大量買いしていたが、ムリを押してでも欲しいものではなかったらしい。

いまのところは芳しくないが、ユージはいまも忘れずにエルフの二人に話を振っていた。

ユージ、成長である。

いや、掲示板にエルフとの交易を相談したら、どんな手を使ってでも関係を結べと言われることをわかっていたのかもしれない。

なにしろエルフである。

かのコテハンではなくても、可能な限り大量の画像を求められるだろう。日本のみならず世界中から。

なにしろ本物のエルフなのだ。

「はーい! うーんと、うーんとねえ……」

中古の服を眺めはじめるアリス。次第に顔が曇っていく。

リーゼとハルは、チラリと目を走らせただけだった。

どうやらイマイチ、よく言ってもせいぜい普通の中古の服と布だったようだ。

「あんまり、なのかな?」

三人の反応を見て口にするユージ。

聞こえた店主が肩を落とす。

ワンワンッとユージに吠えるコタロー。ちょっと、おもってもいっちゃだめよ、と言いたいようだ。建前と本音を使い分けられる女であるようだ。まあ建前も本音も誰にも通じないのだが。犬なので。

「いえユージさん、そんなことはありませんよ。たしかに普通の布かもしれませんが……この品質と値段で、プルミエの街で手に入るということが重要なのです」

「そうよユージさん、ケビンの言う通り! ちょっと粗い部分はあるんだけど……ねえおじさん、いま並んでるのも次の春のも買うから、そのへん努力するように伝えてくれる?」

「え? 買っていただけるんですか? アレだけケチつけてたのに?」

「やあね、言いたいことを言ったんだもの、当然よ! 大丈夫よねユルシェル? いいよねケビン?」

「うん、大丈夫! 仕上がりがイマイチな部分も、売り物じゃなくて開拓民で使うなら充分。服でもなんでも、開拓地にはあればあるだけうれしいから」

「よかった……こらえてよかった……」

「ふむ、二人が言うならいいでしょう。ジゼル、ユルシェルさん、欲しい分を見繕っておくように。それとジゼル、布ごとに改善点をまとめておいてください。さて店主。ちょっと話があります」

「あ、はい」

懐から紙束とペンを出してジゼルに渡すケビン。

ジゼルはユルシェルと話しながら、慣れた手つきで改善点を記載していく。

農村の冬の手仕事で織られたということは、おそらく複数の織り手がいるということ。

ユルシェルがクセを見て取り、ジゼルがメモを取る。ケビンは店主と話をはじめる。

どうやら定期的に仕入れる契約を結ぶつもりのようだ。

もちろん、品質の向上も目指させたうえで。

ジゼルとユルシェル、姑なみの厳しいチェックを耐えた店主は、報われたようだった。

「えっと、ケビンさん?」

「ああ、すまんなユージさん。ケビンもジゼルもああなったらしばらく動かん。代わりに俺がついていくから、近くを見てまわろうか」

「あ、ありがとうございますゲガスさん」

「ふふ、偉そうに。ゲガスだって似たようなものだったじゃないか! 父娘は似るもんだねえ」

「ユージ兄、アリスあっちのお店見たい!」

「はいはい、アリス。じゃあゲガスさん、お願いします」

「ああ、任せとけ。ジゼルには……もうケビンがいるからな。よーし行くぞ嬢ちゃんたち!」

ニッコリと笑って大声をあげるゲガス。空元気である。

そしてこの男、禿頭に長い髭、ムキムキで傷だらけの悪人顔である。とてもカタギには見えない。

周囲にいた一般客は、ヒッ! と悲鳴をあげて後ずさり、ゲガスのまわりに空間ができていた。

強面の切なさよ。

だが、アリスとリーゼ、二人の少女は怯むことなく、はーい! と元気な返事を返していた。

タフな少女たちである。

そしてユージもニコニコとその横を歩いていた。

ユージ、ずいぶん強面のおっさんに慣れたようだ。

開拓地を離れて以降、常に強面のおっさんたちがそばにいただけのことはある。

もしうら若き女性たちと旅をしていれば、ユージももう少し女性に慣れていたのかもしれない。

哀しい現実である。