軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話 ユージ、プルミエの街の冒険者ギルドへ行く

「ああ、来たかユージ殿……」

「サロモンさん? なんか二日前よりやつれてませんか?」

ユージたちが領主夫妻と面談をした翌日。

先に用事を済ませるべく、ユージたちはプルミエの街の冒険者ギルドに来ていた。

そこでユージが見たものは、死んだ魚のような目をしたサロモンだった。

「なに、ちょっと書類が溜まっていてな……」

「ギルドマスター、開拓団長への対応が終わりましたらこちらも目を通しておいてください」

「おう……また増えた……」

プルミエの街の冒険者ギルド、2階にあるギルドマスターの執務室。

ユージ、アリス、コタロー、リーゼ、ハル、ケビン。

5人と一匹と向かい合っているサロモンの元に、不在の間を取り仕切っていたギルド職員から新たな書類が届けられる。

サロモンがエルフの少女・リーゼの護衛をするという名目で一月近く不在にしていたため仕事が溜まっていたようだ。

いかに代理が対応していたとはいえ、組織の長としてやらなければならない、知っておかなければならないことは数多い。

街に帰ってきてから三日目。

わずかな期間で、サロモンはすっかり生気を失っていた。

エルフの里の存在に少年のように目を輝かせていた姿はそこにはない。

いるのはただ、暗い目をする疲れたおっさんである。

「だ、大丈夫ですかサロモンさん?」

「ああ、心配するなユージ殿。こうなるのは自分のせいだからな。……俺、この仕事向いてねえのかもなあ」

はめ殺しの窓から外に目を向けて、サロモンが呟く。

仕事に追い詰められた人間の初期症状が出ているようだ。

「おじちゃん、大丈夫?」

『ニンゲンはずいぶん生き急ぐのね……』

サロモンに心配そうな眼差しを向けるアリス。優しい少女である。

呆れたようにサロモンを見つめ、種族ごと断ずるリーゼ。誤解である。

「おお、ありがとな嬢ちゃんたち」

「サロモンさん、その、言いにくいんですけど……これ、俺とアリス、それからハルさんの移動の報告書です」

ユージが手渡した冒険者ギルド所定の用紙。

それは冒険者が街を移動した際、冒険者ギルドに提出する書類であった。

これまではサロモンが手配していたため、ユージとアリスが自身でやるのははじめてのことだ。

「おう、確かに。それでリーゼのお嬢ちゃん。約束してたアレだ」

書類を受け取ったサロモンは、執務机の引き出しから小さなプレートを取り出した。

握った手をリーゼに伸ばすサロモン。

『うわあ! これ、もしかして!』

期待に満ちた目でリーゼがサロモンの拳を見つめている。

「ここでも王都のギルドでも欲しがってたろ? 領主様はリーゼの嬢ちゃんのことを知ってるからな。手続きは意外と簡単だったぜ」

少女のリアクションがうれしいのか、サロモンはそう言って胸を張る。

実際に動いたのはおっさんギルド職員である。仕事が増えたことを呪いながらも、無垢な少女のためだと言い聞かせてがんばったようだ。

実情は無垢な少女に知らされなかったが。

組織とは時に理不尽なものなのだ。

「サロモンさん、それは……」

「おう、ユージ殿。ギルド証よ。8級冒険者のな!」

『ユージ兄、つけて! リーゼにつけてちょうだい!』

サロモンの手に握られていたのは、首から下げる小さな金属製のドッグタグ。

冒険者ギルドに所属する冒険者に渡されるギルド証であった。

サロモンから受け取ったユージが、横に座るリーゼの首に手を伸ばす。

『違うのユージ兄! もっとこう、レディに贈り物するみたいに!』

『え? そんな、つければ一緒じゃないの?』

『もう何言ってるのユージ兄! 乙女ゴコロがわかってないんだから!』

無造作に首につけようとしたユージに吠える12才の少女。

同意するかのように、ワフワフッと力なく吠えるコタロー。ゆーじ、そんなんだからもてないのよ、と言いたいようだ。冷たい女である。体温は高いのだが。犬ゆえに。

『ははは、お嬢様はずいぶんおかんむりのようだ! ユージさん、正面からお嬢様の首に手をまわして。うん、そうそう!』

見かねたハルの指導を受け、ユージはなんとかリーゼから合格点をもらうのだった。

『うふふ、これでユージ兄とアリスちゃんとコタローとお揃いね! お揃いがいっぱい!』

『お嬢様! ボクをのけ者にしないでくださいよ! ボクだって持ってるんですから!』

首からギルド証を下げたリーゼは、ニマニマと笑みを浮かべていた。

サロモンと領主と名もなきおっさんギルド職員の働きにより、エルフであることを隠すことなくリーゼは8級冒険者としての資格を得たようだ。

ユージとアリスは5級、コタローは級なしだがサロモンの計らいでギルド証をつけている。

王都に行く前にプルミエの街で買ったミサンガ、そしてギルド証。

リーゼは、ユージとアリスとコタローとお揃いの品が増えたことがうれしかったようだ。

それだけでなく、アリスとリーゼはそれぞれが作ったハンカチとコサージュも交換している。

ユージが秋の終わりにリーゼを保護してから半年弱。

リーゼは冒険の思い出とともに、いくつもの宝物を手にしたようだった。

「……さて。サロモンさん、開拓地までの道の様子はどうですか? その様子だと、まだ把握できてませんかね?」

うれしそうに手を繋いだアリスとリーゼ、笑みを浮かべて二人の少女を見守るユージとハル。

四人をよそに、ケビンがここに来たもう一つの目的を果たすために質問する。

「ケビン殿、もう書類に目を通したぞ。たしか昨日の明け方に……ああ、これだ」

執務机の三つの紙の山の中から一枚の紙を抜き出すサロモン。

それにしてもこの男、どうやら徹夜で書類仕事をしていたようだ。まあ自業自得なのだが。

「伐採はもうすぐ完了するな。いまは切り株の処理に手間取ってるようだ。まあそれでも夏までには荷車が通れる道が完成しそうだが」

「ああ、それは素晴らしい!」

「早いですねー。やっぱり人がたくさんいると違うんだなあ」

「当たり前よユージ殿。切り株か……俺が行って引っこ抜いてく……ヒッ!」

元1級冒険者の身体能力を活かして切り株の処理をしに行こうかと呟いたサロモン。が、途中で何かに驚いて言葉を止める。

サロモンの視線をたどったユージも、それを目にしてビクッと体を震わせる。

サロモンの執務室、その入り口の木製扉。

わずかに開いた隙間から、血走った目が覗いていたのだ。

「じょ、冗談! 冗談だから! な?」

慌てて弁解するサロモン。

その言葉が聞こえたのか、隙間の目がふっと消える。

ホラーである。

違う。今回のサロモン不在で被害を受けたギルド職員の目であったようだ。

「サロモンさん、まあそんなに焦らなくても。帰りは二台分、馬を替えなかったでしょう? 馬力があるあの馬をお貸ししますよ。道が早くできてくれれば、ケビン商会はそれだけ早く商品を作り始められますからね」

「おう、了解した。まあウチの冒険者たちも切り株に苦戦してるみてえだからな、文句は出ないだろ」

「きりかぶ? ユージ兄、アリスまた魔法でえいってやる?」

「あ、それがあったか! サロモンさん、アリスの土魔法でだいぶ切り株を処理しやすくなると思いますよ。どうせ帰り道ですし、ちょっと手伝いましょうか?」

「魔法で? じいさんにも聞いたことねえ魔法だが……まあやれるようならやってみてくれ。職員が現場に出張ってるはずだから、ユージ殿が通ったら声をかけるように伝えておく」

「わかりました。アリス、じゃあ帰りは一緒にお手伝いしながら行こうか!」

「はーい!」

「ユージ殿、ユージ殿もアリスの嬢ちゃんも冒険者なんだからな? 道の開拓の依頼を受けてから作業しろよ?」

「あ、そうでした!」

開拓団団長 兼 ホウジョウ村村長 兼 エルフ護送隊長だったユージは、自分が冒険者であることを忘れていたようだ。

頬を染め、あちゃーとばかりに顔に手をやっている。

かわいくはない。34才のおっさんなので。

ともあれ。

こうしてユージは、プルミエの街でやらなければいけない用事を片付け終わるのだった。

あとはリーゼとハルを連れ、ケビンと一緒に市場や店を見てまわり、エルフが欲しがるものがないか調べるだけ。

それが終わればユージたちは開拓地への帰路に就くことになる。

およそ一ヶ月弱。

元引きニートにとってだけではなく、アリスやケビン、リーゼにとっても長い旅の終わりが見えてくるのだった。