軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まさか本当に?

その日の夜。

王都アスタロトから北に位置する丘の上にある嘆きの墓。

氷のような満月の下。

アンデッド軍を統べるリッチが墓標のそびえ立つ丘の上に立ち、遠く眼下に見える王都を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべていた。

「……ついにこの日がやってきた。光のオーブを我が手中に収める時が」

リッチとは不老不死のためにアンデッドとなった強大な魔法使い。

元は人間であり、生前の知識や経験を全て引き継いでいる。

彼はかつて民衆に賢者と称されるほどの凄腕の魔法使いだった。

もう数百年も前の話である。

魔法を極めることを欲した彼は魔王の力に魅了され、アンデッドとなった。

魔王は勇者によって封印されてしまった。

だが――。

リッチはいつの日か再び、魔王がこの世に復活すると確信していた。

そして、その妨げとなるのが光のオーブだった。

王都アスタロトに安置されている光のオーブは、魔王を倒す武器であると共に、魔王を封印するための楔でもあった。

光のオーブを奪い、破壊することにより魔王の復活は近づく。

「前回の襲撃では、攻めきることが出来なかった。だが、今回は違う。我々は地下に潜伏して更なる戦力を蓄えたからな……」

前回の襲撃では五十の軍勢を伴って臨んだ。

しかし、今回はその倍――百の軍勢を揃えることが出来た。王都の連中の死体から生み出したアンデッドが加わったのもある。

「対する奴らは、失った戦力を埋めることが出来ていない。人間はアンデッドと違い取り合えが効かない。長い年月を掛けて、じっくり育てないと使い物にならない。アンデッドは魔力さえ注ぎ込めば優秀な兵になるのに」

やはり人間というのは不便だ。

アンデッドになった方が、よほど生きやすい。

「お頭。出撃の準備ができました」

アンデッドの兵がリッチのことを呼びに来た。

「うむ。向こうの状況は? どうなっている?」

「ええ。それがですね……。正面の門に配置されているのは三人だけです。他に衛兵の姿は見当たりません」

「ん? 三人? 今、三人と言ったか?」

「はい。間違いありません。大柄の男、金髪の柄と育ちの悪そうな女。それに露出の多い鎧に身を包んだ女の三人だけです」

「…………」

リッチはしばらく沈黙した後、

「……くくっ! ふははははっ!」

高らかに笑い声を上げた。

「これは傑作だ。我ら百の軍勢を前に、たった三人で迎え撃とうとは! 奴らはすでに匙を投げてしまったのか?」

「もしかすると、罠という可能性も……」

「いくら罠が仕掛けられていようと、それだけの人数ではどうにもならん。我ら百の軍勢なら立ち所に押し切れる」

リッチは言った。

「わざわざ手薄にしてくれているのなら、そこから堂々と襲撃するとしよう。正面突破で王都アスタロトに攻め入るぞ!」

騎士団長――グレゴールは王城の警備に当たっていた。

この王城の宝物庫には光のオーブが安置されている。

言わば、ここは戦闘における最終防衛ラインであった。

光のオーブを奪われることは、この戦いの負けを意味する。

故に絶対に守り抜かなければならない。

「騎士団長! アンデッドの軍勢が王都へ攻めてきました! 約百匹ほどの軍勢が、一斉に正面の門に押し寄せてきます!」

「奴らめ。正面突破で来たか。それだけ自信があるということだな。それで? 正面の門に配置された衛兵の数は?」

だいたい五十くらいだろうか、とグレゴールは検討をつけた。

王都の周囲には石の壁があり、そこには結界や迎撃用の兵器も揃っている。アンデッド軍もおいそれとは侵入できないはずだ。

となれば、正面の門を狙ってくる。

衛兵団もそれを見越しているだろうから、門の防衛にもっとも人数を割くはずだ。全身全霊を以て死守しようとするだろう。

しかし……。

「それが――四人だそうです」

「――ん?」

グレゴールは訝しげな表情を浮かべた。

「今、私は聞き間違えてしまったのだろうか……。四人と聞こえた気がしたが。さすがにそれはないよな……?」

「四人です! 衛兵団の第五分隊の四人だけが配置されているそうです。それ以外の面々は城壁や街中に配置されていると」

「!?」

グレゴールはそこで目を見開いた。

「な、何を考えているんだ! みすみす敵の侵入を許すつもりか? 四人だけで二百もの軍勢の足止めが出来るわけないだろう!?」

「しかし、ボルトン団長は『あいつらに任せておけば大丈夫だ』の一点張りで。我々の声に耳を貸そうとしません」

「くそっ! これだから役立たずの衛兵共はッ! 騎士たちに伝えろ! すぐにでも迎撃する準備に掛かれと!」

グレゴールはそう吐き捨てると、怒りに任せて城の壁を殴った。

たった四人の衛兵でいったい何が出来る? このままではすぐにでもアンデッド軍たちは突破して王都に侵入してくることだろう。

配下の騎士から報告が来るに違いない。

そうなった時、王家の者たちと秘宝だけは守り切らなければ。

グレゴールはすぐにでも配下からの『アンデッド軍が門を突破して、王都に侵入したようです』という報告が来ると思っていた。

しかし、いつまで経ってもその報告は来なかった。

その間も刻々と時間が過ぎ去っていく。

「おかしい。いったい何が起こっている……?」

もしかして、騎士たちも全滅してしまったというのか?

しかし、自分はここを動くことができない。

傍に控えていた配下の騎士を一人、使いにやった。

しばらく経ってから、彼は血相を変えて戻ってきた。

「どうした? 何があった?」

「そ、それが」

配下の騎士は狼狽えた様子で言った。

「未だアンデッド軍は王都に侵入しておりません。正面の門前にて、衛兵団の第五分隊の者たちと交戦中のようです」

「なっ――!?」

グレゴールは頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

騎士の報告は、それほどまでに信じられないものだった。

もう戦いが始まってから一時間は優に経っている。

なのに、未だ、連中を足止めすることが出来ているだと?

百もいるアンデッド軍を、たった四人ぽっちで!?

バカな。あり得ない!

ボルトンの奴は嘘の報告をしたのか?

敵を欺くためには、まず味方からということか? ――いや、しかし! そんなことをする理由がどこにある!?

もしかすると、自分は幻覚魔法に掛けられているのではないかと思い、グレゴールは壁に頭を打ち付けてみたが、しっかり痛かった。

だとすれば――。

「まさか、本当に四人だけで戦っているというのか……!?」