軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不穏

翌日の朝。

俺たちが出勤すると、衛兵たちは動揺していた。

「おい。見ろよ……! 第五分隊の連中が全員出勤してきてる……!」

「スピノザだけじゃなく、ファムもいるじゃねえか。あいつら二人、まともに上司の命令を聞いたことなんてなかったのに」

「ジークの奴、いったいどんな手を使ったんだ……!?」

ただ時間通りに出勤しただけでこの驚かれようである。

スピノザとファムがいかに問題児扱いされているか伝わってくる。

「あー。頭ん中がガンガンする……。ったく、最低の気分だぜ。おい、てめえら。あたしが飲む分の水を汲んでこいよ」

「は、はいいっ!」

スピノザが命令すると、衛兵の一人が慌てて駆け出していった。

断れば、何をされるか分からない。

彼を突き動かしている感情は恐怖のようだった。

「スピノザ。お前、もしかして二日酔いか」

「昨日はそんなに飲むつもりはなかったんだけどよ。気づいたら記憶がなくて。窓の外には朝陽が上ってたんだよ。うっぷ」

「仕事の前の日は控えろって言っただろ」

「わーってるって。明日からは気を付けるからよ」

「今日からだ」

「へーへー」

俺たちのやり取りを見ていた衛兵たちは色めき立っていた。

「ジークの奴、スピノザ相手にあんなに堂々と注意するなんて……。あいつ、自分の命が惜しくないのか……?」

「しかも、スピノザも素直に従おうとしてるだって……? 前任の分隊長が指摘した時は半殺しにされたのに……!」

「スピノザは自分より弱い奴の命令は絶対に効かないからな。ジークを自分以上の実力者だと認めてるんじゃないか」

その時だった。

ヒュンッ!

ファムが俺に向かって、懐に隠し持っていた短剣を振り抜こうとした。

それに気づいた俺は彼女の腕を掴む。

「朝から随分と激しいな」

「ウフフ。ほんのスキンシップだよ。君がスピノザにばかり構うものだから。僕のことも少しは見て欲しくてね」

「そのスキンシップは死人が出る奴だからな」

「大丈夫。君以外にはしたりしないよ。僕のちょっかいは君だけのものだ。僕は四六時中君だけを狙い続ける」

「捉えようによっては殺害予告だけどな」

まあ、この程度の攻撃で傷を負ったりはしないが。――もちろん、ファムもそのことを理解した上でやっているのだろう。

「ファムが他人に懐いてるところなんて、初めて見たな」

「というか、何だよあのやり取り! 危なすぎるだろ!? それを平気な顔でいなしてるジークもヤバい奴じゃねえか!」

「第五分隊の連中は、分隊長も含めて問題児なのか」

勝手に俺も問題児扱いされていた。何でだよ。

「ふふ。やっぱり、全員揃った方が賑やかで楽しいですね。今日から皆さんとお仕事ができると思うと嬉しいです!」

セイラはニコニコと微笑みながらそう口にしていた。

問題児だらけの分隊の中、純粋無垢な彼女は逆に異端かもしれない。

と思ったが、ビキニアーマーという服装は見るからに異端だった。

やっぱり、異端児ばかりなのかもしれない。

「おう。てめえら。出勤してきたか」

ボルトン団長が俺たちの前にやってきた。

「しかし、まさかこんなに早くこいつらを手懐けちまうとはな。ジーク。お前、分隊長として人を率いる才能もあるんじゃねえか?」

「褒めすぎですよ。大したことありません」

「――っと。それどころじゃねえ。マズいことになってな」

「何かあったんですか?」

「……実はな、近いうちにこの王都に魔物の軍勢が攻めてくるらしい。嘆きの墓に居城を構えるアンデッドの連中だ」

「「ええっ!?」」

衛兵たちは悲鳴にも似た驚愕の声を上げた。

「そ、それ本当ですか!?」

「ああ。偵察の連中から連絡があってな。奴ら、戦支度を整えてるらしい。この調子だと今日の夜には攻めてくるだろうと」

「…………」

衛兵たちの顔からは血の気が引いていた。

「マズいことになったな……」

「この街は今度こそおしまいだ……!」

皆、随分と悲観的な様相を呈している。

「そんなに強いんですか?」と俺は尋ねた。

「一年ほど前にも連中が攻めてきたことがあってな。その時は何とか防ぎきったが、甚大な被害が出ちまった」

ボルトン団長は過去を思い返すように呟いた。

「死者も多数出てな。あの戦いで随分と兵団の戦力は削られちまった。悪夢だった。一年経った今でも夢に見るくらいにな」

「騎士団の連中は! 彼らは加勢してくれるんですか!?」と衛兵が尋ねた。

「騎士団の連中は王族や貴族の連中を守ることに専念するってよ。矢面に立って街を防衛するのは俺たちの仕事だと」

ボルトン団長は自嘲の笑みを浮かべる。

「奴ら、言ってたぜ。精々、壁となって魔物たちを食い止めてくれってよ。ちゃんと骨は拾ってやるともな」

「くそっ! 俺たちは捨て石ってことかよ!」

「あいつら、俺たちより高い給料を貰ってるくせにふざけやがって! 割を食うのはいつだって庶民じゃねえか!」

衛兵たちは憤っていた。

騎士団というのは秘宝を守るため、王家や貴族に仕えている精鋭揃いらしい。最前線へは出ないということだろう。

「さて。これから防衛場所の分担を決めることになる。一番危険なのは、王都を囲む壁の正面にある門前の防衛だが……」

ボルトン団長がそう言った時だった。

衛兵たちはこぞって拒否反応を示した。

「門前の配置なんて、最前線じゃないか! 死にに行くようなものだ! 俺たちは絶対に行きたくないからな!」

「バカ言うんじゃねえ。行きたくないもクソもねえんだ。俺たちは街の奴らを守るためにやらなきゃならねえ」

「でも――!」

「なら、俺たちが引き受けましょうか」

俺が名乗り出ると、その場にいた全員がこちらを見た。

「……ジーク。お前、正気か?」

「どれだけ危険なのか、分かってるのかよ!?」

「ええ。だけど、門前を無人にしておくわけにはいかない。そうすれば、アンデッドたちは街に侵入して人々は危険に晒される。誰かがやらなければならないんですよ。なら、俺たちがその役割を引き受けます」

「……本気なんだな?」

「もちろんです。皆もそれでいいか?」

と他の者たちに尋ねる。

「望むところじゃねえか。骨も残らねえほどボコボコにしてやるよ」

「僕としても異論はないよ。矢の餌食にしてあげる」

「私も街の人たちを守るために頑張ります!」

皆、やる気のようだ。

「お前たちになら、俺も任せることが出来る。……だが無理はするな。ダメだと思ったらすぐに退くことだ」

ボルトン団長は言った。

「それは恥じることじゃない。いいな?」

「ええ。分かっています」

俺が頷くと、ボルトン団長もまた頷いた。

そして、ボルトン団長は衛兵たちに告げた。

「戦いは夜になる。奴らが力を発揮できるのはそこだけだ。つまり、朝まで防衛することができれば俺たちの勝ちだ」

衛兵たちの怯えを呑み込むような力強い声色。

「てめえら。腹を括って、気合いを入れていけ。光のオーブと街の連中を守るために全力を尽くして戦うんだ。そうすれば必ず勝てる!」

「「おおっ!」」

アンデッド軍との戦いが始まろうとしていた。