軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

173 拠点防衛用やりすぎスライム×3

俺は飛び出してきたスライムを受け止めて、

「悪い悪い……狭かったよな?」

と、宥めるように語りかける。

「PUGIIII」

「狭いのは平気だって? ああ、構ってやらなかったから怒ってんのか。悪かったよ」

と言って、俺は小ぶりなスライムを撫でてやる。

ぷるぷると小刻みに震えるのは喜んでる証拠だ。

「おまえ、クロートーだっけ?」

「PIGIII!」

強めに抗議されたことからすると外れらしい。

「ラケシスだったか。ごめんごめん、まだ見分けがつかなくてさ。って、クロートーは?」

俺は飛び出してきたスライム(ラケシス)を抱きながら、スポーツバッグの中を覗き込む。

そこには、何やらぐったりした様子のスライムがいた。

「ど、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「PUU……GII……」

「何? 乗り物酔いした?」

乗り物っていうか、バッグだけどな。

たしかに、通常のスライムより小ぶりとはいえ、ひとつのバッグに二体を入れっぱなしにしたのはまずかったか。

……っていうか、スライムに三半規管的なものがあるとは驚きだな。

「なんでラケシスは平気なんだよ?」

「PIII、PIII、PUGII」

「クロートーみたいに繊細じゃないって? 同じスキル構成のミニスライムなのに、そんな個体差があるんだな」

「PIII、PIIG」

「人間だって同じだろって? はは、こりゃ一本取られたな」

俺はそっとクロートーを抱え上げ、リビングのソファの上に置いてやる。

……さて、そろそろ説明が必要だろう。

この二体のミニスライムは、俺が雑木林ダンジョンの管理機能を使って生み出したものだ。

実はもう一体いるのだが、そいつは実家の俺の部屋に残ってもらった。

ミニスライムというモンスターと戦ったことはなかったが、雑木林ダンジョン(葛沢南ダンジョン)の履歴を見ると、一時期はミニスライムも自然発生してたらしい。

そのうちに自然発生でDPが貯まり、ミニスライムを還元してスライム中心の配置へと変えたようだ。

もっとも、ミニスライムがスライムになったところで最弱の部類であることに変わりはない。

あのダンジョンはやっぱりCランクダンジョンの中でも最底辺と言うしかないけどな。

……まあ、その「最底辺」のダンジョンでスライムから必死こいて逃げてた奴が偉そうに言えたことじゃないんだが。

ダンジョンの管理機能によるモンスター作成がおもしろいのは、DPを追加で投入することで作成するモンスターに新たなスキルを付与できることだ。

ただし、付与できるスキルは、俺が取得したスキルと俺が倒したことのあるモンスターが所持してたスキルに限られる。

とはいえ、その制限があったとしても、俺が取得したことがあるスキルだけでも相当な数になるからな。

お試しとして、俺はコストの安いミニスライムを選択し、あれこれと便利そうなスキルをくっつけまくって、三体のミニスライムを作成した。

ミニスライムの基礎能力値はおそろしく低いので、戦闘用というよりは索敵用だ。

「索敵」「気配探知」「隠密」「ステルス」で斥候としての能力を。

「看破」「窃視」「偽装」でステータスの調査能力を与えた。

「自己再生」と「サバイブ」で回復・蘇生能力も持たせておく。

「スタン攻撃」「ヒットストップ」「麻痺攻撃」「感電攻撃」をつけたのは、相手の行動を阻害するためだ。

せっかくだから、俺自身は使う機会がなかった「能力値成長率アップ」のスキルも持たせてみた。

基本能力値(レベル1の時の能力値)が低いのを補うためだ。

能力値関連では、他にも「HP強化」「敏捷強化」「幸運強化」をそれぞれスキルレベル5まで突っ込むことで、HPを嵩上げし、敏捷回避・幸運回避の確率を上げて生存性を高めておいた。

俺が探索者になりたての頃にやってたのと同じ構成だな。

攻撃手段としては、とりあえず「触手」を持たせてみた。

奥多摩湖ダンジョンにいたローパーが持ってたスキルだ。

ただ、ローパーとはちがって、ミニスライムには専用の触手は生えてない。

そのせいか少しやりにくそうではあるが、自分の身体を変形させて触手として扱うことができている。

「もう少ししっくりくるスキルを持たせてやりたいな……」

モンスタースキルの開拓はまだこれからだから、今後の成果に期待だな。

他には、種族固有の能力として「分裂」「毒噴射」も忘れずつけた。

「HP強化」を上げきったのは、「分裂」を使うと最大HPが半分になるからでもある。

「毒噴射」をつけたら、ひょっとしてポイズンスライムに進化したりしないか? なんて思ったんだが、残念ながらそれはなかった。

単に「毒噴射」を使えるミニスライムが出来ただけだ。

……まあ、探索者からすれば、どういうわけか「毒噴射」を使ってくるミニスライムなんていやらしいことこの上ない存在だけどな。

斥候能力優先で攻撃性能はさほどではないと言っても、相手が非探索者であれば危険もあるので、「ノックアウト」のスキルも持たせておく。

身体が小さいことを逆手に取って、「虚仮の一念」なんかも入れてみた。

「自分より大きい(体重が2倍以上)の相手に対し、攻撃力が(S.Lv×10)%上昇する」というスキルで、光が丘公園ダンジョンのホビット系モンスターが持ってた奴だな。

ミニスライムはそこらへんの猫より軽いくらいだから、大抵の相手に「虚仮の一念」が利くはずだ。

もちろん、もっと強力なスキルもあるんだが、取得に必要なSPが大きいからな。

詠唱を短縮するスキルや状態異常耐性スキル、「ソリッドバリア」「魔法障壁」「ショートテレポート」「リバイブ」など、欲張り出したらキリがない。

まあ、前線に投入するわけじゃから、今はこのくらいでいいだろう。

この三体の名前には悩んだが、運命の三女神から取って「クロートー」「ラケシス」「アトロポス」とした。

シークレットモンスターの命名とはちがい、これは単純に呼び名の問題だ。

最初は「アイン」「ツヴァイ」「ドライ」にしようと思ったのだが、三体からの抗議をくらい、知恵を絞らされる羽目になった。

ステータスに反映される名前じゃないから、鑑定してもどいつがどいつかわからないのが地味に困るところなんだよな。

よーく見ると、ごくわずかに形が違ったり、光沢や透明度が違ったりするのだが。

……ひよこの雌雄を見分けるより難しいぞ、こんなの。

さて、この三体のミニスライムを作ったのは、ダンジョンの管理機能の実験のため――だけじゃない。

「クロートーは乗り物酔いするタイプだったのか……。じゃあ、クロートーのほうにこのマンションの拠点防衛を任せよう」

「PUGII!」

と、肯定の声を上げるクロートー。

――そう。

俺が偵察特化のミニスライムを三体も作ったのは、俺が留守のあいだの拠点防衛要員がほしかったからだ。

早い話がお留守番だな。

俺を監視してるのが公安だけとは限らない。

中にはもっと荒っぽい手段に出る奴らもいるだろう。

海外からのスパイとかな。

実家のほうも不安だったので、あっちにはアトロポスを置いてきた。

母にミニスライムを紹介すると、「毎日水をあげればいいの?」などと訊かれたが……実際どうなんだろうな。

ダンジョン内でモンスターが食事をするという話は聞いたことがない。

フラッドで地上に溢れたモンスターが人を食べた、という話はあるらしいんだけどな。

アトロポスは俺の部屋がお気に入りらしく、不在の主に代わってベッドを占拠してるらしい。

もちろん、シークレットモンスターを置いておく手もなくはなかったんだが……あいつら、目立つからな。

堡備人海は召喚してしばらくほっとくと所構わず四股を踏み出すので、間違っても木造二階の実家の部屋なんかには置いとけない。

まあ、それは極端な例としても、戦力として期待大のシークレットモンスターは、なるべくなら探索に連れてきたいんだよな。

新居のマンションには、クロートーとラケシスを連れてきた。

この様子だとこのマンションはクロートーに留守番を任せるのがよさそうだな。

ただ、三体ともレベルを上げてやりたくもあるので、ローテーションで一体ずつ俺についてきてもらう予定でいる。

問題は、モンスターを(自宅とはいえ)放し飼いにして大丈夫なのか?ってことだが、俺には魔王のサポートアビリティ【眷属統率】がある。

Job──────────────────

魔王 ランクS

(中略)

◇サポートアビリティ

【眷属統率】

なんらかの形でおのれの支配下、指揮下に置かれたあらゆる対象の能力値をやや上昇させる。このアビリティの対象となったものの五感をそれなりの時間共有することができる。五感共有後に再び共有するにはそれなりの時間を置く必要がある。対象とのあいだでそれなりの距離を超えての念話ができる。対象を一瞬だけ命令に従わせることができる。

────────────────────

制限があるとはいえ、離れた場所にいても五感を共有することができるんだよな。

念話の方には五感共有のような制限はないが、「それなりの距離」以上に離れると通じなくなる。

このアビリティの程度表現がパッとしない感じに映るのは、これまで使う機会がなかったからだな。

非探索者の侵入者ならこの三体でも捕獲できるだろうし、探索者が相手でも時間稼ぎにはなるはずだ。

どうせ家には重要なものは置かないから、無理に戦って死なれるより侵入者の情報だけ入手して生き延びてくれるほうが嬉しいな。

「分裂」を持たせたのはそのためでもある。

「さて……じゃあ、行くか」

と、つぶやくと、俺の肩にラケシスが跳び乗ってきた。

きっと、ダンジョンに行くと思ったんだろう。

これまでよりちょっと鼻息が荒い(比喩的な意味で)感じがするな。

たしかに、俺も気合いが入ってはいる。

というか、端的に言って緊張してる。

俺は、入念に準備してきたものを、アイテムボックスから取り出した。

観光地の土産物の箱くらいのサイズのものが、合計三つ。

いずれもきれいにラッピングされている。

今回のミッションの鍵となるアイテムだ。

俺は震える手でそのひとつを持ち上げると、気持ちを落ち着けるべく深呼吸を繰り返す。

主のただならぬ様子にラケシスが戸惑うようにぶるっと震えた。

そう――ここからは戦いだ。

ひきこもりだった俺にとっては厳しい戦いになるだろう。

だが、いつまでもこうしてるわけにもいかない。

――俺は前に進むと決めたのだから。

俺は「よしっ」と気合いを入れてから、

「――行くぞ。ご近所さんへの挨拶回りに……!」