軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121 稼ぎ‘開始

天然の鍾乳洞のように見えるが、鍾乳石を伝う液体は濃い紫色のドロリとした粘体だ。

鍾乳石自体も、この謎の粘液が凝固してできたもののように見える。

この「崩壊後奥多摩湖ダンジョン」ができてからまだ数ヶ月しか経ってないことを思うと、この鍾乳石がどのように形成されたのかは謎である。

さいわい、粘液に人体に害となるような成分は含まれてないみたいだな。

俺は蟻塚のように隆起した鍾乳石の陰から、

「鑑定」

……と、言わなくてもよかったのだが。

ともあれ、俺は新ジョブ「 簒奪者(さんだつしゃ) 」のステータス鑑定能力を奥にいるモンスターの群れに使用した。

Status────────────────────

アークサハギン

サハギンソードマン A

レベル 9536

HP 123,968/123,968

MP 66,752/66,752

STR 114,432

INT 47,680

VIT 104,896

MND 47,680

DEX 104,896

AGI 85,824

LCK 95,360

撃破時獲得経験値 171,648

撃破時獲得マナコイン(円換算) 4,005,120

ドロップアイテム ストレングスポーション 水棲竜の鱗 アークサハギンの槍

──────────────────────

「……なかなかの値だな」

崩壊前の「奥多摩湖ダンジョン」に出たサハギンとは雲泥の差だ。

俺の今の能力値と比べるとそのヤバさがわかると思う。

Status──────────────────

蔵式悠人(国内レベルランキング4位)

簒奪者 C/魔剣士 S/戦士 C/格闘家 C/弓使い C

レベル 9999

HP 89,991/ 89,991

MP 169,382/169,382

STR 104,075

INT 185,821

VIT 91,752

MND 167,762

DEX 91,390

AGI 96,590

LCK 30,997

・装備

魔剣ストームコーラー(嵐を呼ぶとされる魔剣。魔剣として扱うには対応するジョブが必要。MP +9400, STR +14085, INT +7640, DEX +1400)

トネリコの短杖(取り回しの良さを優先した短めの杖。片手で扱うことができる。INT +8200)

ミスリルベスト(魔力に強いミスリル繊維が編み込まれたベスト。VIT +6620, MND +4480)

抜け忍の具足(脱走した忍びが愛用していたとされる具足。VIT +2040, AGI +2040)

幽界のマント(存在の半分を幽界に隠したマント。敵に見つかりづらくなる。VIT +3100, MND +3300, AGI +4560)

防毒のイヤリング???(状態異常「毒」を防ぐ。/error!存在しない能力値を参照しています/)

身代わり人形(一度だけ状態異常「即死」を防ぐ。効果を発動すると砕け散る。)

────────────────────

装備による補正を含めても、俺はアークサハギンにHP、STR、VIT、DEX、LCKで負けている。

正面からの殴り合いでは分が悪いということだ。

まあ、MNDが低いから魔法主体で戦えば封殺できるだろうけどな。

モンスターの持つ「〇〇ソードマン」系のジョブは基本職で、近接攻撃以外の技能がない。

知能(INTではなく)がそれほど高いモンスターでもないから1on1ならまず負けないと言っていい。

だがもちろん、敵がこいつ一体というわけじゃない。

詳細なステータスは省くが、

Status────────────────────

キングローパー

多頭蛇 A

レベル 9542

───────────────────────

Status────────────────────

ダークゲイザー

アイボール A

レベル 9540

───────────────────────

この二体がお供になってるな。

「また面倒そうなのが……」

とつぶやく俺。

ローパー系モンスターのジョブが「多頭蛇」なのはこの世界ではそれなりに知られてることだ。

触手に見える無数のうねうねは、それぞれが独立した脳を持つらしい。

クラーケンよりはヒュドラに近いというのが、モンスターの生態に詳しい研究者たちの見解だ。

もっとも、ローパーはヒュドラと比べると圧倒的に知能が低いから、頭といっても昆虫の神経節が多少発達した程度のものだ。

それでも、すべての触手を潰すまで油断はできないってことだよな。

他にも「簒奪者」の技能で覗ける限りの情報を覗いてみる。

目に留まったのは、ダークゲイザーのジョブ「アイボール」の説明文の一節だ。

Job─────────────────────

アイボール ランクA

……

(中略)

……

◇ユニークボーナス

通常の「アイボール」と比べ、

・視線を媒介した状態異常攻撃の成功率が破格に高い

・自分よりレベルの低い相手に視線を媒介した状態異常攻撃をおこなった場合、状態異常「即死」がほぼ確実に発生する

……

(後略)

──────────────────────

「視線で即死かよ……」

このダークゲイザーというモンスターは、フロートアイボール系の上位モンスターなんだろう。

血走った巨大な眼球に紫色の羽のようなものがついた、いかにもな造形をしてるからな。

フロートアイボール系のモンスターは、相手を睨むことで状態異常を起こすという厄介な視線攻撃を持っている。

ジョブのランクに応じて引き起こされる状態異常が、恐怖、麻痺、混乱、石化……と凶悪になっていくらしい。

このダークゲイザーもその例に漏れないということだ。

しかも、その性能がユニークボーナスで大きく底上げされている。

ところで、「破格に高い」とか「ほぼ確実に発生する」みたいな ジョブ(この) 世界特有のもやっとした表現には、ひっかかってるやつがいるかもな。

「破格に」とはどの程度の上昇幅なのか?

「ほぼ確実に」とは具体的に何%のことなのか?

スキル世界では(S.Lv✕10)%などと明示されてることがほとんどだったから、なおさら奇異に映るよな。

この問題については当然、ジョブ世界でもさかんに議論されてるんだが……説明しだすと長くなるのでまたの機会にさせてほしい。

「今はまだいいけど、この先ダークゲイザーのレベルが俺を上回ったら危険だな」

即死攻撃への対策としては、元の世界で「即死耐性」のスキルを取ってはいた。

だが、スキルレベルは2までしか上げていない。

スキル世界での俺は精神の能力値が桁外れに高かったからな。

耐性スキルを上げなくても精神の高さだけで大抵の状態異常はレジストできたんだ。

ジョブ世界の俺もMNDは高いほうだが、スキル世界の俺ほど隔絶してるわけじゃない。

「こんなことなら状態異常耐性スキルもコンプしておくべきだったか……」

コンプしておけば、ひょっとしたら特殊条件も達成できて、ボーナスで「全状態異常無効」的なスキルが得られたかもしれないんだが。

まあ、こんな事態になるなんて予想できたはずもないけどな。

それに、もしそんなスキルがあったとしても、こっちの世界でその効果を発揮するにはいずれかのジョブにユニークボーナスとして取り込む必要がある。

残念ながら、状態異常耐性スキルは魔剣士にも簒奪者にも取り込まれていなかった。

一応、魔剣士は魔剣での状態異常付与攻撃がある関係で自分も状態異常にやや強いし、斥候系の技能を有する簒奪者も状態異常にはかかりにくい。

ダークゲイザーに睨まれただけで「ほぼ確実に」即死する、なんてことにはならないはずだ。

「他のジョブを優先すべきだったか……?」

俺が新たに就職可能になったのは「簒奪者」だけではない。

神様に調べてもらったところ、俺はなんと四つもの新規ジョブに就職可能になっていた。

といっても、今セットしてる「戦士」「格闘家」「弓使い」のことじゃない。

この三つは元から就職可能だった基本職だ。

今セットしてるのは単に「枠を埋めるため」でしかない。

この三つ以外にも就職可能な基本職はいくつかあるが、それ以外に四つ、新たなジョブが同時に解放されたということだ。

これには神様も驚いてたな。

しかも、そのいずれもが未知の上級職だ。

俺は神様との会話を思い出す。

『惜しいのう。どの職も強力なのに全部を同時に使うことができぬとは』

前にもちょっと触れたけど、ジョブの複数セットには無視できないデメリットが存在する。

『経験値が減るのは痛いな』

ジョブを複数セットすれば、その数に応じて戦闘から得られる経験値が目減りする。

俺の発言はそれを踏まえてのことだったが……同時に、心の中にひっかかりもあった。

経験値が減るのは必ずしもデメリットばかりじゃない――

そんな埒もない発想が浮かんできたのだ。

それは、考えというより、衝動に近かった。

まるで、俺の魂がレベルを上げるなと必死で訴えているかのような……

でも、レベルを上げることのデメリットなんて、 ジョブ(この) 世界にも スキル(元の) 世界にも存在しなかったはずだ。

だが、考えてみると、

『……待てよ。今回に限ってはありなんじゃ……』

『む? どういう意味じゃ?』

『ジョブを目一杯セットすれば経験値の入手を極小化できるだろ? そうすれば、特殊条件のためにレベルアップを抑える必要がなくなるんじゃないか?』

そうなのだ。

レベルが400も上のダンジョンボスを倒すためには、まずそれと同じようなレベル帯のダンジョンを踏破しなければならない。

しかも、自分のレベルを上げずに、だ。

経験値にはレベル差によるボーナスはないが、レベルの高いモンスターほど経験値が多いのは常識だ。

その上、ソロでの攻略となれば、普通ならパーティで頭割りされるはずの経験値が俺だけに集中することになってしまう。

そうすると、ダンジョンの最奥にたどり着いたときには、俺のレベルが上がりすぎて、ボスとのレベル差が400未満になっている――なんて事態にもなりかねない。

それを避けるにはモンスターとの戦闘を極力回避して進むことだ。

でも、攻略しようとしてるのはSランクダンジョンなんだ。

そう簡単にモンスターを素通りできるはずがない。

だが、極限までジョブをセットすることで経験値の入手を回避することができるとしたら――?

もしそんなことができるなら、俺はなんのためらいもなく道中のモンスターを倒しながら、ごく一般的な意味でのソロ攻略を進めることができる。

……まあ、Sランクダンジョンのソロ攻略のどこが「一般的」なのかと言われそうだけどな。

『成る程。妙手であるの。しかし、これらのジョブを 一時(いちどき) におぬしにセットするのは危険があるぞ』

『危険?』

『うむ。 抑々(そもそも) 、我は上級職の複数セットをあまり推奨しておらぬ。ジョブにはそれぞれ異なる設計思想があるからの。上級職ともなれば、その設計はもはや単なるバトルスタイルの域を超えて、一個の完成された人格という様相を帯びてくるのじゃ。上級職を掛け持ちするとは、二つの人格を掛け持ちするということなのじゃ』

『……春原のやつはやってるけど』

『あやつはもともと人格の切り替えが器用なのであろう。博徒とマスターシーフという職が比較的類縁性を持っておるのも一因であろうな。じゃが、おぬしの得たジョブは……』

『……方向性がバラバラだよな』

『然様。魔剣士と簒奪者ならば、ひとまずはよかろう。じゃが、残りのものの中には相矛盾する要素を孕むジョブもある。現段階でこれらをまとめてセットするのは危険なのじゃ』

『現段階で、っていうのは?』

『うむ。傾向の異なる複数のジョブを一遍にセットするのは確かに危険じゃ。しかし、それぞれのジョブに慣れた上で徐々にジョブを増やしていくのであれば、セットすることだけはできるであろう』

『ああ、なるほど……。でも、セットすることだけ、なのか?』

『逆に聞くが……おぬしはこれらのジョブを戦闘中に意識を切り替えながら扱えると思うのかの?』

『そ、それは……』

たしかに難しいだろう。

だが、

『……そうだ。ひとつ思い出した。俺はまさに、その手段を求めてたんだ。複数の異なる境地を体現するスキルを同時に大量に使いこなすのは難しい。でも、この世界のジョブくらいまとまってれば、いくつかのジョブを同時に扱うことはできるかもしれない』

何百個ものスキルを状況に応じて使い分けるのに比べれば、五つのジョブを使い分けるほうがまだしもできそうに思える。

どうしても無理なら四つ、三つで妥協することもできるしな。

『事情は聞いたが……生き急いではおらんかの? この世界――ジョブ世界とて、おぬしにとって悪い世界ではなかろう。無理をして死んでしまっては元も子もないのじゃぞ?』

『心配してくれるのは有り難いが、それくらいのことをやらないと、この先自分や大事な人を守っていけない気がしてるんだ』

『……然様か。おぬしに想われておるおなごは幸せものじゃな』

『それはどうかな。気持ちにも気づかず何年も待たせて、心配もかけて……こんな酷いやつはそうはいないと思うぞ』

……っと、関係ないところまで回想してしまったな。

ともあれ、ジョブの多重セットによる経験値抑制という妙手を思いついた俺は、一晩悩み抜いた結果、

『簒奪者 C/魔剣士 S/戦士 C/格闘家 C/弓使いC』

という五重のジョブセットを選択した。

二つのジョブをセットすることがダブルジョブなら、この五重のジョブセットはクインティプルジョブということになるだろうか。

多重ジョブの数を5に決めたのには理由がある。

ダブルジョブでの入手経験値の減少は四分の三だ。

Wikiにもこれは載ってるし、探索者にはわりと広く知られてる。

では、トリプルジョブにしたらどうなるか?

これもWikiに記述があり、二分の一になるらしい。

しかしさすがに、 四重(クアドラプル) ジョブのことまでは載ってない。

ただ、ダブル、トリプルの傾向から考えれば、四分の一の可能性が高いだろう。

で、俺が今やってる 五重(クインティプル) ジョブはどうなのか?

――ここに来るまでに、既に検証は終えている。

複数ジョブを同時セットしたばあいの入手経験値は、ジョブの数に応じて3/4、1/2、1/4と減っていき――

「5つになると0っ! つまり、レベルアップを気にせずモンスターを狩りたい放題ってことだっ……!!」

俺の、 この(ジョブ) 世界での稼ぎが始まった。