軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120 崩壊後奥多摩湖ダンジョン

――断時世於神社で神様から有益な情報を得た、その週の日曜日。

俺は、一人だけで東京都の西のはずれ、山間部にある人造湖にやってきた。

Sランクダンジョン、「崩壊後奥多摩湖ダンジョン」だ。

この世界の俺たちの活躍によってダンジョンの崩壊は食い止められたが、その後Aランクの「奥多摩湖ダンジョン」はSランクの「崩壊後奥多摩湖ダンジョン」へと変貌を遂げていた。

国内にも両手の指で数えられるほどしか存在しないSランクダンジョン。

湖面に浮かぶポータルからして、とてつもなく危険な気配がする。

この危険な気配は、斥候系のジョブがなくても――あるいは、そもそも探索者ですらなくても感じられる。

超危険なダンジョンにそれと知らずに迷い込む者がいないように、という配慮によるものだと言われるが、例によって「誰が」「どうして」「どうやって」そんな配慮をしてるのかはわかってない。

神社で神様から情報を得た後、俺は新たに就職可能になっていたジョブへの就職をいったん見送り、魔剣士のままで春原とともにダンジョンを出た。

土曜日には俺のパーティ「セイバー・セイバー」の定例探索があるからな。

もしそこで俺がジョブを変えていたら、一体何があったのかと質問攻めにされていただろう。

土曜のパーティ探索はこれまで通り無難にこなし、その後、俺はひとりで再び神社へ。

そこで新たに解放されたジョブをセットし、翌日――つまり今日、奥多摩湖までやってきた。

その狙いはもちろん、特殊条件「自分よりレベルが400以上高いダンジョンボスをソロで倒す」の達成だ。

だが――言うほど簡単なことじゃない。

「……元の俺はいったいどうやってこんな条件を満たしたんだ?」

俺は危険な気配を発するポータルに冷や汗をかきながらつぶやいた。

現在の俺のレベルは9999だ。

だから、この特殊条件を満たすためには、ボスのレベルが10399以上である必要がある。

ダンジョンのランクと出現モンスターのレベルには、おおまかながら法則があると言われている。

Cランクダンジョンならば、モンスターのレベルは1から40まで。

Bランクなら、41から100まで。

Aランクは、101から1000までだ。

モンスターのレベルが1000を超えるのはSランクダンジョンに限られる。

だが、今俺が必要としているボスのレベルは10399。

Sランクの下位のダンジョンではレベルが足りない。

というか、国内で発見されてるほとんどのSランクダンジョンは、出現モンスターのレベルが10000に届かない。

今のところいちばん規模が大きいと言われている新宿駅地下ダンジョンでも、第一層の出現モンスターのレベルは6700台だ。

各階層にいるボスを倒して奥へと進むと、第七層でようやくレベル8000台のモンスターが出現するようになるらしい。

新宿駅地下ダンジョンは、その立地の便もあって、国内外を問わず有力探索者がひっきりなしに潜ってる。

その攻略の最前線が第七層なのだ。

その第七層ですら、モンスターのレベルは8000台でしかない。

しかも、新宿駅地下ダンジョンは――他のSランクダンジョンと同じく――未だに完全踏破の報告がない。

もし新宿駅地下ダンジョンの最奥が十六層以上だったらボスはおそらくレベル10500を超えるだろう。

だが、最奥がもっと浅い可能性もあるし、逆に底知れないほど深い可能性もある。

浅ければ特殊条件を満たせず、深すぎればそもそもソロでの踏破が難しい。

じゃあ他のSランクダンジョンはどうか?

そっちはエキチカ以上に条件が悪かった。

まず、モンスターのレベルが駅地下より低い。

次に、最奥が浅い。

踏破こそされていないものの、各ダンジョンとも構造上の傾向から最奥が何層くらいかの推測はされている。

深いもので二十層、浅いものでは六層だ。

ついでながら、アクセスも悪い。

摩周湖ダンジョンも富士山頂ダンジョンも富士樹海ダンジョンも安土天空城ダンジョンも硫黄島ダンジョンも僻地にある。

首里城ダンジョンは元観光地だけあって僻地とはいえないが、俺の地元からでは遠すぎる。

他のいくつかのダンジョンも、レベルや階層を考えるとボスのレベルが10399を超える確証がない。

それ以外のダンジョンは、そもそもソロでの探索が難しい。

……まあ、Sランクダンジョンをソロで攻略すること自体が正気の沙汰ではないんだが。

パーティでのSランク踏破ですら前人未到の領域なんだからな。

その点、「崩壊後奥多摩湖ダンジョン」は、入口の時点でモンスターのレベルが既に9500を超えている。

元の(崩壊前の)「奥多摩湖ダンジョン」は全四層しかないが、それでもボスのレベル条件をギリギリで満たせる計算だ。

それに、元の世界の俺もこっちの世界の俺も、崩壊前の奥多摩湖ダンジョンには潜った経験があるからな。

見ず知らずのダンジョンにいきなり潜るよりはいいだろう。

ちなみに、神様からわかりにくいとつっこまれ、元の世界のことは「スキル世界」、こっちの世界のことは「ジョブ世界」と呼ぶことになっている。

俺と神様のあいだでしか通じない用語だが、わかりやすくはあると思う。

さて、ソロで探索するばあいの最大の問題は補給や休息だ。

崩壊後の奥多摩湖ダンジョンは崩壊前より階層が深くなってる可能性もあるが、有名ギルドの調査隊によれば、すくなくとも第一層の構造は旧奥多摩湖ダンジョンと同じ傾向にあったという。

ただし、出現するモンスターにはこれまで知られてなかった強力な 種(しゅ) が揃ってるらしい。

調査隊はほうほうの体で逃げ帰ったという話だ。

そんなダンジョンに、これから一人で潜ろうというのだ。

いくら崩壊前のダンジョンを知ってるとはいえ、Sランクダンジョンでは何が起こるかわからない。

だが、ここ以外のダンジョンで「自分よりレベルが400以上高いダンジョンボスをソロで倒す」という条件を満たすのは不可能だ。

俺のレベルがもっと低ければ他にも候補があったんだけどな……。

「レベル9999でドヤってた自分がうらめしいな」

もうひとつ、問題がある。

モンスターのレベルが自分より高いダンジョンを攻略していけば、レベルが上がることは避けられない。

熟練度とちがって経験値は固定値だが、レベルの高いモンスターほど獲得経験値が多いのは当然だ。

しかも、経験値はパーティの人数での頭割り。

俺が魔剣士のままソロで高レベルモンスターと戦い続けたら、俺のレベルが上がってしまう。

俺のレベルが上がってしまえば、特殊条件を満たすのに必要なダンジョンボスのレベルもそれだけ上がる。

今ですら候補が限られるのに、これ以上要求レベルが上ったら、それだけ元の世界への帰還が遠くなる。

つまり、高レベルモンスターの跋扈するダンジョンを攻略しながら、自分のレベルは可能な限り低く抑えることが要求されるのだ。

この(スキル) 世界の常識では――いや、 元の(ジョブ) 世界の常識で言っても無理ゲーだ。

「……ま、それについては妙手が見つかったんだけどな」

さて、現状のおさらいはここまでにして、さっそくダンジョンに入ろうか。