軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 ジョブのレベルアップボーナス考

ジョブに就くことにはいくつものメリットがある。

その中でもとくに大きなものの一つが、レベルアップ時の能力値上昇にボーナスがつくことだ。

俺の「魔剣士」を例に取るなら、

Job──────────────────

◇レベルアップボーナス

「魔剣士」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。

MP +2, STR +1, INT +2, MND +2, DEX +1, AGI +1

────────────────────

……という具合だな。

春原のばあいも同様で、「博徒」「マスターシーフ」それぞれにレベルアップボーナスが設定されている。

ここで疑問に思うのは、「複数のジョブを同時にセットしている場合、レベルアップ時にどちらのボーナスが適用されるのか?」ってことだよな。

メインジョブのボーナスだけが適用されるのか、サブジョブのボーナスも上乗せされるのか、あるいは別の計算になるのかってことだ。

答えから言ってしまうと、正解は「複数のジョブをセットした状態でレベルが上がると、セットしているジョブのレベルアップボーナスの『平均値』がボーナスとして加算される」だ。

まあ、サブジョブのボーナスが単純に上乗せされるのではボーナスが大きくなりすぎるからな。

平均値というのはひとつの落としどころではあるんだろう。

でも、

「ったく。なんで平均値なんだよ。そんくらいなら素直にメインジョブのボーナスだけ乗ったほうがマシだっての」

と、ため息まじりにぼやく春原。

「……平均化されるとボーナスのメリハリがなくなるからな」

春原の組み合わせだとわかりにくいので、もっと単純な例を挙げてみよう。

たとえば……そうだな、「剣士/魔法使い」という基本職二つをダブルジョブにした探索者がいたとする。

剣士のレベルアップボーナスは「HP+3, STR+2, VIT+2」、魔法使いは「MP+3, INT+2, MND+2」と対称的だ。

この「剣士/魔法使い」ダブルジョブ探索者のレベルアップボーナスはどうなるか?

さっき言った通り、複数ジョブのレベルアップボーナスは各ジョブのレベルアップボーナスの平均だ。

計算すると、「剣士/魔法使い」のレベルアップボーナスは「HP+1.5, MP+1.5, STR+1, INT+1, VIT+1, MND+1」となる(小数点以下は内部値となり、内部値が整数になったときにステータスに反映される)。

さて、この結果をどう見るか?

能力値が全般的に上がっていいじゃないか、と思う向きもあるかもしれない。

だが、それでは微妙なんだ。

剣士として戦うには、INTはいらず、STRは高いほどいい。

魔法使いならその逆だ。

要するに、まんべんなくいろんな能力値を上げるよりも極振りして強みを尖らせたほうがいいってことなんだよな。

この「剣士/魔法使い」の探索者はレベルが上がるにつれて中途半端さを増していく。

その最終形は、「剣士としてはSTRが通常の剣士より少なく、魔法使いとしてはINTが通常の魔法使いより少ない、最大火力の低い火力役」にならざるをえない。

もちろん、剣と魔法が両立でき、魔法剣も使える「魔剣士」になれるわけでもない。

春原の「博徒/マスターシーフ」はシーフ系の派生上級職同士なので「剣士/魔法使い」よりは断然マシだが、それでもLCKのように平均化されると微妙な能力値も存在する(マスターシーフもLCKのボーナスは高いほうだが博徒ほどではない)。

「経験値が減るんだからボーナスは合算してくれてもいいのによぉ」

「それだと今度は強すぎるだろ」

レベルアップボーナスが合算されるなら、レベルアップが遅くなってでも複数ジョブをセットするのが最適解になってしまう。

あれもこれもとジョブをつけては、パーティ内での役割分担が複雑になりすぎてしまうしな。

ジョブシステムの趣旨は、パーティメンバーの役割を明確にすると同時に、ジョブのカバーする範囲の技能を有機的に扱えるところにあるんだろう。

剣士なら剣で戦う。魔法使いなら魔法で戦う。

その部分のメリハリが不明確になることを、このシステムは推奨してないように思えるな。

ともあれ、そんなような理由から、複数ジョブのセットは総じて微妙という評価になっている。

春原みたいにパーティの斥候役がシーフ系のジョブをサブに付けることはあるけどな。

そのばあいでも、新規ダンジョンをガチで攻略するときにはどちらかに絞ることが多いと思う。

「でもよ、悠人。マジで神社に何の用なんだ?」

探索を進めながら、春原が訊いてくる。

春原が疑問に思うのには理由があった。

「おまえの魔剣士はもうランクSだろ。神様にランクアップまでに必要な戦闘回数を教えてもらう必要はないじゃんか」

それは、春原の言った通りである。

断時世於神社でジョブに就職/転職できるのは前にも述べた通りだ。

だが、神社では他にもできることがある。

ジョブのランクが上がるまでにあと何回戦えばいいかを教えてもらうことができるのだ。

ジョブのランクアップはレベルアップとは違うシステムになっている。

レベルは経験値を貯めることで上げられるが、ジョブのランクは上げるには現在のランクにふさわしい戦闘経験を積み重ねる必要がある。

レベルの低い敵をたくさん倒してもジョブのランクは上がりにくいということだ。

ジョブのランクアップに必要な戦闘経験を言い表すそのものずばりの用語はないんだが、一般的には熟練度と呼ばれることが多いみたいだな。

システムが使用する用語である経験値と違い、熟練度は探索者が勝手にそう呼んでるだけの用語なんだが。

ともあれ、神社に寄りたいというばあい、その目的は転職か、次のランクまでに必要な熟練度の確認だ。

もうひとつマイナーな目的として、新たなジョブに就職可能になってないかを確認する……というのもなくはない。

だが、滅多にないことなので、熟練度チェックのついでにダメ元で確認するのが普通だろう。

新ジョブは既存のジョブのランクアップ時に就職可能になることが多いらしいからな。

俺の現在のジョブは魔剣士で、そのランクは最高位のS。

Sになってから神社で確認したときには、「おぬしはもう十分に強かろう」と言われただけだった。

転職する、という考えもない。

魔剣士以外にもいくつかのジョブが就職可能になってはいるが、どれも基本職なんだよな。

上級職のほうが基本職より基本的には強いし、レベルアップボーナスも上級職のほうが恵まれてる。

上級職(「魔剣士」など)のレベルアップボーナスの合計が9なのに対し、基本職(「剣士」「魔法使い」など)は7しかない。

いくらランクがカンストしてるからといって、レベルアップボーナスを犠牲にしてまで今さら基本職を鍛える意味はない。

というわけで、俺は魔剣士のランクがSになって以降、他のやつに付き合う以外でダンジョン神社を訪れてはいなかった。

急に神社に行きたいと言い出した俺を春原が不審に思うのはもっともだ。

「……個人的に、神様に訊きたいことがあってな」

と、言葉を濁す俺。

「ふぅん? ま、訊かれたくないことなら訊かないけどよ」

ちょっと不満そうながら、春原が引き下がる。

おちゃらけた雰囲気を漂わせる春原だが、人との距離感には俺よりずっと敏感だ。

俺が神様への相談の内容を打ち明けるつもりがなさそうと見て、訊かないことにしてくれたんだろう。

「おっと、最初のポータルだな。一発で神社に出れるといいんだが……悠人は運がねえからな」

ポータルを指差し、からかうように春原が言ってくる。

空気を変えようとしてくれたのかもしれないな。

「気にしてるんだからほっといてくれ」

と、肩をすくめて答える俺。

この世界での俺は、LCKの値が顕著に低い。

元の世界での「幸運」の高さとは対照的だ。

……いや、元の世界でもレベル1時の「幸運」は低かったような……?

だが、今のバグったステータスを見ると、「幸運」は「敏捷」「魔力」に次ぐ高い数値になっている。

……どういうことだ?

すべて思い出したと思ったが、基本能力値に反して「幸運」が高くなった経緯が思い出せない。

まだ忘れてることがあるってことか?

思わず考え込む俺に、

「おいおい、そんなに気にするなよ。魔剣士ならLCKはクリティカル率くらいにしか影響しねえ。そのクリティカル率もユニークボーナスで相殺できてるんだ。ドロップ率も、俺と一緒なら問題ない」

俺の沈黙を誤解して、春原が言ってくる。

「あ、ああ。そうだな」

実際、LCKの低さが問題になることはあまりない。

その数少ない例外と言われてるのが、階層移動時に神社に出る確率だ。

階層移動の際に神社につながるかどうかには乱数がからむとされている。

具体的にどのくらいの確率かを突き止めようとした探索者もいるんだが、いろいろな条件がからむらしく、一概に何%とは言えないらしい。

神様によれば、その探索者が神社を必要としているときには出やすくなるという。

でも、そのばあいでも100%になるわけじゃない。

高くてもせいぜい10%くらいだろう。

10%だとしても、当たりを引くまでには階層移動を何度もくりかえす必要がある。

だからこうして、一階層が広すぎず階層数が多いこのダンジョンに来たってわけだ。

この世界の俺はLCKが低いせいもあってか神社につながりにくいんだよな。

博徒でLCKの高い春原を連れてきたのはそのためでもある。

ただし、俺のパーティでLCKがいちばん低いのは俺ではなく紗雪だ。

俺ほどではないが、ほのかちゃんも平均よりはだいぶ低い値になっている。

俺のパーティの幸運担当は春原なのだ。

春原がLCKのレベルアップボーナスにこだわってるのはそのせいもあるのかもしれないな。

飄々とした雰囲気のくせに仲間想いのやつなのだ。

「じゃ、俺から入るぜ」

と言って、春原がポータルに飛び込んだ。

探索者のあいだでまことしやかに囁かれてる噂によれば、LCKの高いやつが最初にポータルに入ったほうが神社につながりやすいと言われている。

もちろんエビデンスなんてあるわけもないが、やって損するわけでもないからな。

ちなみに、パーティを組んでる探索者は、神社につながれば全員神社に、つながらなければ全員次の階層へと飛ばされる。

もし神社への転移の判定が最初の一人がポータルを潜ったときにされてるとしたら、最初の一人のLCKが高いと神社に出やすいという説には一定の説得力があるんだよな。

「って、あんまり待たせちゃ悪いな」

時間が開きすぎると同一パーティでもバラバラに転移することもあるらしい。

今さら緊張するわけもなく、ひょいとポータルに飛び込む俺。

一瞬のめまいのあとに、俺は鮮やかな朱塗りの鳥居の前に現れていた。