軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115 「親友」と

「えっ、ダンジョン神社に行きたいって? 珍しいな。ま、いいけどよ」

とは、俺の話を聞いた春原の言葉だ。

春原 月兎(げっと) 。

高校生魔剣士のこの世界の俺にとっては、悪友にして戦友。

思春期にありがちな照れ隠しを抜きにすれば、まず親友と言って間違いない。

だが、元ひきこもりの元の世界の俺からすれば、「誰だおまえ!?」であり、「なんだこのいかにもなギャルゲの友人キャラは!?」でもある。

……ずっと違和感がつきまとってたんだが、ようやくつっこみを入れられた。

学校では最初は陰キャ、途中からはいじめられる側だった俺からすると、この世界はやはり俺に都合のいい幻覚なのではないかという疑いが再浮上してくる。

俺は放課後、春原だけを誘ってダンジョンにやってきた。

元の世界の記憶を取り戻した俺にとって、紗雪はもちろん、ほのかちゃんも会うのに勇気がいる相手になっている。

ほのかちゃんは俺との関係に前のめりだ。

実際、彼氏彼女の間柄なんだからおかしくない。

逆に言えば、付き合ってる以上、ほのかちゃんのアプローチを退ける理由がないってことでもある。

もちろん、この世界でほのかちゃんとのお付き合いを楽しんだとしても、元の世界で浮気がバレる心配はない。

でも、だからといって進んでそうする気になれるかというとな。

元の世界で芹香にあれだけ大胆な――というか完全に暴走した告白(?)をしておきながら、何食わぬ顔でほのかちゃんの彼氏を演じるなんて真似ができるわけもないし。

具合の悪いことに、ほのかちゃんのアプローチを止められないのには、さらにもうひとつ理由がある。

こっちの世界では、ほのかちゃんは俺の一個下の後輩なのだ。

元の世界ではほのかちゃんは中学生で、俺とは一回り近くも歳が離れていた。

あれだけの美少女に迫られてグラつかなかったといえば嘘になるが、それでも中学生の女の子に手を出すのはマズいだろ、という自制が働いていたのもまた事実。

まあ、ほのかちゃんはそんなこと気にしてなかったし、母親であるはるかさんに至っては「母娘一緒でもいいんですよ」というエクストリームすぎる立場だったんだけどな。

はるかさんのことはさておくとしても、俺がほのかちゃんと付き合うにはかなりのハードルがあったことは間違いない。

そのハードルが、こっちの世界には存在しないのだ。

これもまた、この世界がやはり俺に都合のいい幻想なのではないかという説を補強する材料ではある。

もっとも、高校生魔剣士の俺からすれば、これまでの積み重ねがあって ようやく(・・・・) 結ばれた関係なんだから何もおかしなところはない、ってことになるんだが。

ともあれ、そんなわけで女子二人は誘いにくかったので、暇そうにしてた春原を誘ってダンジョンに来たというわけだ。

え? 誘わずにソロで来ればよかったんじゃないかって?

こっちの世界の常識では――いや、元の世界の常識でも、ダンジョンには単独では潜らないのが鉄則だ。

「今さらおまえがそれを言うのか!?」と怒られそうだけど、これまでずっとソロだったことのほうがおかしいのだ。

それに、魔剣士には偵察や罠の探知といった探索系の技能がないからな。

自分の実力以下のダンジョンに潜るばあいでも、斥候ができる仲間は必要なんだ。

元の世界で取得した「索敵」や「隠密」といった斥候系のスキルは使えなくなってるし。

「悪いな、付き合わせて」

「なんだよ、気持ちわりいな。今さら気を使うような関係かよ?」

そう笑って、俺の肩を叩いてくる春原。

「……そうだな、すまん」

ややぎこちなく、俺は返す。

……この距離感、苦手だな。

体育のサッカーといい、まるでカーストトップの陽キャ同士みたいなやりとりじゃないか。

まあ、慣れない感じがするだけで、不思議と嫌な気持ちにはならないのだが。

ほぼ初見の「親友」への接し方に悩む俺を尻目に、春原は慣れた足取りでダンジョンを奥へと進んでいく。

俺と春原がやってきたのは、毎度おなじみ黒鳥の森水上公園ダンジョンだ。

元の世界と同じくCランク。

今の俺と春原には物足りないにも程があるって感じだな。

魔剣士である俺が火力を出すまでもなく、STRが高いとはいえない春原でもモンスターを難なく屠れている。

こちらもすっかり顔なじみのトレジャーホビットを、春原はマスターシーフの技能できっちり仕留める。

HPとVITの高いロックゴーレムは俺の担当だが、春原でも数度殴れば倒せるはずだ。

「お、金塊ゲット」

トレジャーホビットを倒した春原が、レアなドロップに声を上げる。

月兎(げっと) がゲット。

高校生の俺は慣れてるが、元の世界の俺はそうじゃない。

「……あ? なんだよ悠人。何か言いたそうだな?」

「……なんでもない」

と、半眼で睨んでくる春原から目をそらす。

「つっても、今さら『金塊』くらいじゃ手間に見合うとはいえねえよな。ま、何もねえよりはマシだけどよ」

ドロップアイテムをマジックバッグにしまいながら春原が言う。

「だな」

「金塊」を売れば高校生には十分すぎる額になるが、高ランク探索者の稼ぎとしては誤差みたいなもんだ。

俺と春原で今さらCランクダンジョンを探索しても旨みが薄い。

稼ぎたいならもっと上のダンジョンに行くべきだ。

じゃあ、なんでこのダンジョンに来たのか?

高校から近くて、一階層がそこまで広くなく、縦にそこそこ深いダンジョンがここしかないからだ。

元の世界と同じく、断時世於神社は階層間の移動に挟まる形で出現するからな。

階層の踏破にかかる時間が短く、階層数は多いほうがいい。

水上公園ダンジョンは、モンスターの構成も含めて元の世界とほとんど同じだった。

唯一元の世界と違うことと言えば、

「……けっこう人がいるな」

「そうか? ここはいつもこんなもんだろ」

俺のつぶやきを耳ざとく拾って春原が言う。

人でいっぱいというほどではないが、ダンジョンのそこここに探索者の気配を感じるのだ。

下の階層までの最短経路を進んでるだけに、ときたますれ違うこともある。

すれ違う探索者の中には細目で俺を見て「れ、レベル9999!?」と驚いてるやつもいるな。

そこはかとなく優越感をくすぐられる状況に、元の世界の俺は「やっぱりこれは俺に都合のいい幻覚なのでは?」とお決まりの疑問に襲われる。

ひょっとしたら覚えてるかもしれないが、元の世界で他の探索者のステータスを勝手に覗き見るのは重大なマナー違反とされていた。

こちらでもあまり行儀の良い行為とは言えないのだが、なにせ目を細めるだけでいいからな。

こっそりやればバレないし、バレたとしても追求のしようがない。

ただ――元の世界では、ステータスを見るスキルを使うと、ステータスを見られたことが相手にもわかった。

その感覚があるからか、俺にはステータスを見られたことが察知できた。

ちなみに、この世界で細目で見られたことを察知するには、春原のマスターシーフのような斥候系のジョブが必要だ。

「大人気だな、悠人」

からかうように春原が言ってくる。

「やっぱレベル9999はインパクトが違うよな。羨ましいぜ。俺も早く追いつきたいもんだ。そしたら探索者のお姉さんたちにもモテるのによ」

と大げさに嘆く春原。

春原の現在のステータスは、「春原 月兎(げっと) レベル7731 博徒(ばくと) /マスターシーフ」。

春原は俺と違って、ジョブを二つ同時にセットしている。

先に出ているほうがメインジョブで、あとのほうがサブジョブだ。

サブジョブにセットされたジョブは、いくらか性能が落ちはするものの、メインジョブと併存する形で効果を発揮する。

それだけ聞くとすごそうに思えるが、ジョブの複数セットには大きなデメリットがあるんだよな。

「まあまあ。春原がダブルジョブで斥候役を兼ねてくれるおかげで俺たちは楽ができてるわけだからな。減った分の経験値を補いたいならいつでも手伝うぜ」

と、春原を慰める俺。

――そう。

複数のジョブを同時にセットすると、得られる経験値が目減りするのだ。

二つのジョブを掛け持ちしてる春原のばあい、経験値は通常の四分の三まで落ちてしまう。

これが、複数ジョブの最大のデメリットだな。

最大の、というからには、複数ジョブには他にもデメリットが存在する。

もちろん、春原がそのことを理解してないわけがない。

春原はため息をついて、

「そう言ってくれるのはありがたいんだけどよ……。複数ジョブをセットしてるときにレベルを上げるのも微妙だろ?」

「ああ。ジョブのレベルアップボーナスの問題だよな」

「そうそう」

この世界の俺と春原のあいだでは今さら説明するまでもない話なので、春原もそれ以上は説明しなかった。

「上級職同士でもやっぱ微妙か?」

「まあ、博徒とマスターシーフなら平均化されてもそう悪くはないんだけどな。博徒をメインにするならLCKのボーナスが下がるのは嫌なんだよ」

と、春原のこぼした通りなんだが、これだけじゃまだ不親切だよな。