軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86.感謝祭開催

◇ ◇

十歳に満たない茶髪の少年と、同じくらいの年頃の黒髪の少年が、お互いに木刀を持って戦いを繰り広げている。

その戦いは、子どもの戦いとは思えないほど熾烈なものであった。

茶髪の少年が剣を振るうと、その衝撃で地面が抉れ、木刀同士がぶつかると、それだけで周囲に突風が発生する。

そして、戦況は誰が見ても茶髪の少年が優勢。

決着が付くのは時間の問題と思われるが、黒髪の少年がギリギリのところで食らいついている。

「さすがは勇者だな。神童ではもう歯が立たなくなっている」

「そうだな。かくいう神童も昔の成長速度には恐れ入ったが、今では凡人と変わらんレベルだ。やはり我々の悲願を成すのは、勇者オリヴァーだな」

「あぁ。とはいえ、神童でも勇者の盾くらいにはなれるだろう」

少し離れたところで、戦いを眺めながら数名の大人たちが会話をしていると、ついに二人の決着が付いた。

黒髪の少年が地面に仰向けに倒れ、茶髪の少年が肩で息をしながら、切っ先を黒髪の少年に向けている。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「いやー、負けた。もうオリヴァーには勝てないな。ははは……」

「――っ! なんで本気を出さないんだよ、オルン! お前の実力はこんなもんじゃないはずだ! 前のお前はもっと凄かった!!」

「……買い被りだよ。俺は 全力(・・) だった。確かに前は俺の方が強かったかもしれないけど、オリヴァーが成長して俺を追い抜いた、ただそれだけだよ。天才のお前に勝てる道理が無い」

「そんなの信じない! 俺はまだ、お前に勝ったなんて思わないからな! いつか本気のお前に勝ってやる!!」

「だから、これが今の全力なんだって……」

「うるさい! 今に見てろよ。絶対お前に本気を出させてやるからな!」

オリヴァーと呼ばれた茶髪の少年がそう告げると、オルンと呼ばれた黒髪の少年に背を向けて何処かへと歩いていく。

「………………その機会が無いことを祈るよ。俺は、――お前を 殺したくない(・・・・・・) 。 俺のせい(・・・・) でお前が死ぬなんて絶対に嫌だから……」

オルンは、オリヴァーの背を見ながら、彼に聞こえないほど小さな声でそう呟く。

「シオン様、そろそろお帰りの時間です」

数名の大人たちとは別の場所で二人の戦いを眺めていた銀髪の少女に、侍女らしき人が声を掛ける。

「うん、わかった。それじゃあ、私はオルンに挨拶してくるね」

「畏まりました。私どもは馬車を用意して参ります」

シオンと呼ばれた銀髪の少女が、いまだに寝転がっているオルンの元へと向かう。

「オルン、お疲れ様。残念だったね」

「シオン? 居たのか。これは格好悪いところ見せちゃったな」

オルンが居心地の悪そうな表情をしながら、起き上がる。

「そんなこと無い。カッコよかった、よ? それに私はオルンの本当の実力を知ってるからね」

「本当の実力も何も、これが 今の(・・) 俺の実力だよ」

「でも、それは――」

「うん。それは俺の心が弱くて、周りの俺に対する畏怖の視線に耐えかねて、泣きついたから。その結果、オリヴァーには 重荷を(・・・) 背負わせる(・・・・・) ことになった。だから俺がオリヴァーの分も――」

「私がオルンを一人にはさせないから!」

「……シオン?」

「私がオルンの隣に立てるくらい強くなるから! 一緒に■■を倒せるくらいに! 私だってオルンと同じ■■■■なんだから。私はずっとオルンと一緒にいる! オルンがはるか遠くに行ったとしても、絶対追いついてみせる! だから、一人で背負わないでよ……」

シオンの言葉にポカンとするオルンだが、その顔が徐々に赤み出し、瞳が潤み始める。

「シオンはそろそろ帰る時間だろ? 馬車のところまで送るよ」

オルンがシオンに背を向け、馬車の方へ歩きながら、早口に言葉を発する。

「あ、待ってよ! ……あれ? ねぇ、オルン? もしかして、嬉しくて泣いてるの~?」

「そんなわけないだろ。俺をからかうのは、 本気(・・) の俺に追いついてからにしろ」

「ん~? さっきの戦いがオルンの実力なんじゃないの? だったら私はもう追い越していることになるな~」

「ぐっ……。揚げ足取りやがって」

「あはは!」

二人は楽しげに話をしながら、馬車の止まっている場所に向かって歩いていく。

二人が馬車の元に到着すると、シオンが振り返ってオルンの顔をしっかりと見つめる。

「さっきは冗談みたいな感じになっちゃったけど、私は本気だから。本気でオルンに追いつくから。だから今は、私の道しるべで居てよ。いつか、その場所を二人で肩を並べて歩けるようになってみせるから!」

「……わかった。迷子になるなよ?」

「迷子になんてなんないよ。私方向音痴じゃないもん。――それじゃあ、またね、オルン」

「うん、またな。シオン」

シオンは挨拶を終えると、オルンに背を向けて馬車へと乗り込んだ。

「それではオルン様、私どもはこれにて失礼いたします」

「はい。道中お気をつけて」

最後に侍女がオルンにお辞儀をしてから、馬車の中に乗り込み、馬車が動き始める。

「オルン~、バイバーイ!」

「シオン様! はしたないですよ!」

シオンが侍女の指摘を無視して、馬車から顔を出すと、オルンに向かって手を大きく振る。

オルンもそれに倣って、シオンに大きく手を振って見送る。

この数時間後、その場所は激しい戦いの跡のみが残る更地となっていた。

そして、この場に居た者は全員――。

◇ ◇

窓から差し込む日の光を顔に受けて、目を覚ます。

上半身を起こしてから、大きく伸びをする。

「――良く寝たなぁ。もうそろそろ昼か? 久しぶりにこんなに寝たな……」

今日は感謝祭の初日だ。

昨日でこれまでやっていた作業がひとまず終わりを迎えたことと、本日は一日フリーであったことから、惰眠を貪ってしまった。

特にやることは無いけど、せっかくだから外で食事を摂ろうと考えて、身だしなみを整えてから部屋を出た。

「あ、オルンさん、こんにちは」

建物の出入り口で声を掛けられる。

声の掛かった方を見ると、ソフィーが居た。

「ソフィー、こんにちは。これからどこか行くのか?」

「はい。弄月亭の応援が本日の仕事なので、これから弄月亭に向かうところです」

弄月亭とは《夜天の銀兎》が経営している料理店のことだ。

感謝祭の時期は普段以上に客入りが激しいから、比較的余裕のある探索者が応援に向かうことになっている。

ちなみに、ソフィーと初めて出会った時に食事した場所が弄月亭だ。

「そっか。俺は特に予定無いし、せっかくだから送っていくよ」

「そ、そんな! 送っていただくなんて――」

「今は人の数も多いらしいし、無用なトラブルを避けるためにも、ね?」

ここ数日でこの街では子どもの誘拐が何件も発生しているらしい。

被害者は全員十歳未満と聞いているから、ソフィーは大丈夫だと思うけど、それが無くともソフィーは可愛いから、変な男に絡まれることも考えられる。

常に守ることはできないけど、余裕がある時くらいは虫除けになるくらいはしてあげたい。

「……そ、それじゃあ、お願いしても、いいですか……?」

「よし、それじゃあ、早速行こうか」

「やはり、この時期は人の数が段違いですね……」

「だな。ここまで人でごった返しているところは、初めて見た」

話には聞いていたけど、まさかここまでとは……。

大量の人をずっと見ていると、気分が悪くなりそうだ……。

街を見て回るのには、ちょくちょく休憩を取る必要がありそうだなぁ。

「初めて、ですか?」

ソフィアがきょとんとした表情をこちらに向けて来ながら質問してきた。

「あぁ、勇者パーティに居た頃は、日中に街中を歩くこと無かったから。話に聞いていたけど、実際に見るのは初めてなんだ。正直ここまでとは思ってなかった……」

「そうだったんですね。毎年の光景ですし、てっきり見慣れているものだと思っていました」

この街に十年近く居るんだから、そう思われて当然だよな。

俺でもソフィーの立場ならそう考える。

「昼間から酒盛りしている人たちもいるし、実に平和だなぁ……」

平和とは言え、これだけ人が集まれば相応にトラブルが起こるだろう。

ただ、こっちは軍が増員されるなどの対策が取られているため、よっぽどのことが起こらない限り大丈夫だろう。

それに大手クランの探索者の一部も治安維持に寄与している。

うちからは、ウィルやアンセムさんが今もパトロールしているはずだ。

「……お酒って美味しいんですか?」

「うーん、俺は誰かと会話しながら飲むのは好きだけど、酒自体は美味しくも不味くも無いから、一人で飲むことはほとんど無いかな。酒に興味があるのか?」

「はい。人並みにはあると思います。やはりどんな味がするんだろう、とかは気になりますね」

この国では十五歳から成人として扱われ、酒が飲めるようになるのも十五歳からだ。

ちなみに、他の国では生まれた日を迎えないと歳は上がらないが、この国では生まれた月になった瞬間、歳が上がることになる。

例えば、四月十五日が誕生日の人がいたとしたら、この国では四月一日に歳が上がるといった感じだ。

ソフィーは現在十四歳。

つまり、次の誕生月を迎えれば酒が飲めるようになる。

ソフィーの誕生月は確か十二月だったから、あと半年だな。

「十二月になったらセルマさんに連れて行ってもらいな。セルマさんは、一人でもふらっとバーなんかに行くこともあるらしいから、詳しいと思うぞ」

「…………私の誕生月覚えてくれているんですか?」

ソフィーが目を見開いて、すごく驚いた表情をしている。

「クランの方針も絡んでいるとはいえ、俺の弟子になったんだからな。ある程度のプロフィールは把握しているぞ」

「そうだったんですね……。すみません。私はオルンさんの誕生月を把握していなくて……」

そう言いながら申し訳なさそうに顔を伏せる。

別にそんなこと気にしなくていいと思うのになぁ……。

「俺が勝手に覚えていただけだ。師弟関係になったら相手のプロフィールを把握していないといけない、なんてルールはないんだから、気にしなくて大丈夫」

「はい……。あの! オルンさんの誕生月を教えてもらってもいいですか!?」

真剣な表情で迫ってくる。

ちょっと、密着しすぎな気が……。真剣なソフィーはそれに気づいていない。

「俺の誕生月は六月だよ」

「――え、六月、ですか?」

俺が自分の誕生月を告げると、ソフィーが焦ったような雰囲気を醸し出す。

「そうだけど、どうかした?」

「い、いえ! 何でもありません!」

何か隠している感じだけど、切羽詰まってる感じはしないし、わざわざ聞き出すほどのことでも無さそうかな。

そんなこんなで弄月亭の裏口へと到着した。

「オルンさん、送ってくださり、ありがとうございます!」

誕生月を教えたときは焦ったようだったけど、今ではすっかり元に戻っている。

ホント、何だったんだ?

「どういたしまして。それじゃあ、店の手伝い頑張って」

「はい! 行ってきます!」

ソフィーは元気よく声を発してから、店の中へと入っていった。

――さて、当初の予定通り、街を散策しながら昼食を摂ろうかな。

街中を気の向くままに歩いていると、出店が立ち並ぶ通りへとやってきた。

そして美味しそうな匂いが至る所からしてくる。

ここで適当に食べようと決めて周囲の出店を見渡すと、鳥肉の串焼きを売っている店を見つけた。

(そういえば、この前じいちゃんが『感謝祭は串焼きとビールを持ちながら、街を練り歩くのが乙じゃよ』とか言ってたな。酒を飲む気は無いけど、串焼きは食べたいかも)

串焼きを買うことに決めた俺は、すぐさま人の波を縫って進み、串焼きの出店へと向かった。

近づくにつれて串焼きのタレの焦げた匂いが強まってきて、余計にお腹が空いてくる。

店主が見える場所までやってくると、カウンターを挟んだ場所に異国の服を着た黒髪の女の子が居た。

何やら会話をしているみたいだ。

「すぐにお金を持ってくる。だから一本だけ先に頂戴」

「嬢ちゃんを信用してないわけではないが、うちは代引きしかしてないんだ。悪いが、先に金を持ってきてくれねぇか?」

断られた女の子は、ションボリした雰囲気で俯きながらお腹をぐぅと鳴らしている。

……表情は相変わらずの無表情だけど。

(表情にほとんど変化がないのに、ここまで哀愁を漂わせるとか凄いな……。というか、なにやってんの?)

店主もそんな女の子を目の前にバツの悪い表情を浮かべている。

俺以外にも串焼きを買いたそうな人たちがいるけど、あんなのが居たら買いづらいよなぁ……。

店主に近づくと、俺の存在を確認した女の子が「……オルン?」と声を発する。

「おじさん、串焼き二本ください」

「お、おう。大銅貨三枚だ」

女の子の声を一旦無視して店主から串焼きを二本注文すると、店主は戸惑いながらも値段を提示してくる。

店主に言われた通り大銅貨三枚を渡してから、串焼きを受け取る。

「ありがとうございます。――ほら、とりあえず、ここを離れるぞ」

店主に礼を言ってから、その内の一本を隣にいる黒髪の女の子――フウカ・シノノメに渡しながら、ここを離れようと彼女に言う。