軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85.【sideリーオン】駆け引き

感謝祭の開催を数日後に控えている現在、探索者ギルドの少人数用の会議室に二人の人間が向かい合っていた。

片方は南の大迷宮を含めた、大陸南部を管理しているギルド長――リーオン・コンティ。

もう片方は、現在勇者パーティに所属している付与術士――フィリー・カーペンター。

二者の間に漂っている雰囲気は決して和やかなものではなく、ギリギリまで張り詰めているかのような緊張感が漂っている。

「まずは、お疲れ様。二カ月と経たずにノルマを達成するとは、流石は勇者パーティだね。あれだけの量の魔石を集めるのは、さぞ大変だっただろう」

リーオンが普段と同様に笑みを絶やさない朗らかな表情で、労いの声を掛ける。

「……嫌味かしら?」

そんなリーオンの労いに対して、フィリーは苦虫を嚙み潰したような険しい表情で声を発する。

「いやいや、そんな意図は無いよ――」

リーオンの発言は本心からだ。

今回のペナルティとしてギルドが要求した魔石の数は、《夜天の銀兎》や《赤銅の晩霞》を除けば、例えAランクパーティだったとしても最低でも三カ月は掛かっただろう。

それを二カ月以内に達成したのだ。これは充分称賛に値する。

「――まぁ、勇者パーティに入った最初の迷宮探索は、無様なものだとは思ったけどね。警戒するあまり、自ら墓穴を掘るとは」

「くっ……。……そんなことはどうでも良いのよ。わたくしが今日ここに来た理由は一つ。何故、《アムンツァース》――それも《 白魔(はくま) 》が南の大迷宮に居たことを、 わたくしに報告(・・・・・・・) しなかったのかしら?」

口調こそ柔らかいものの、フィリーの眼光はそれだけで並の人では震えあがってしまうのではないか、というほどに鋭い。

「何故、と言われてもね。箝口令を敷いていたのだから、 一介の探索者(・・・・・・) である君に、連絡が行くわけ無いじゃないか」

フィリーの鋭い眼光にたじろぐことなく、淡々と理由を告げる。

「一介の探索者ですって? それは建前上でしょう。わたくしは グランドマスター(あのお方) の側近よ? 立場はわたくしの方が上なの。分を弁えなさい」

「仮にフィリー君に《アムンツァース》が活動していたことを伝えたとしよう。そうしたらどういう事態になるのか、そんなことは容易に想像がつく。――君と《白魔》が激しい戦いを始め、この街に住む人々にも甚大な被害が出ただろう。そんなことがわかっていて、言うわけがないでしょ」

「……貴方の想像は正しいと思うわ。それを聞いていれば、わたくしは間違いなくあの女を殺すために動いたでしょう。――でもそれの何がいけないのかしら? あの女は明確な敵よ。それに探索者を殺しまわっている殺人鬼を仕留めるという大義名分もある。あの女を殺すことは優先事項なの。殺せるなら、この街の住人が全員死んだとしても全く問題は無いわ」

「……人の命を何だと思っているんだ」

朗らかな表情が崩れ、怒りを必死に抑え込みながら、絞り出したような声でリーオンが声を発する。

「人のことなんて何とも思っていないわね。強いて言うのなら、わたくしの手足となって働いてくれる都合の良い人形、かしら?」

対してフィリーは、さも当然と言わんばかりに軽い口調でそう発言する。

「外道が……」

「わたくしには、貴方がそこまでしてあの 劣等種ども(・・・・・) を守ろうとしている理由の方がわからないわ。――あぁ、貴方も劣等種だったわね」

心底バカにしたような卑下した表情で 嘲罵(ちょうば) する。

「……あまり私たちを見下していない方が良い。そんなだといずれ痛い目に遭うことになるぞ」

「ふふふ、痛い目に遭う、ねぇ。一体どうやってかしら? わたくしが異能を使えば、貴方は次の瞬間にはこのやり取りを 忘れる(・・・) のよ? そんな脆弱な存在が、わたくしに対して何ができるというの?」

「……私が君とこうして面と向かって話すとわかっていて、何も手を打っていないと思うのか?」

「…………」

「君の異能は強力だ。使い方次第では、 世界を好きに(・・・・・・) 創り変える(・・・・・) ことすら可能なのだから。でも、完璧ではない。私にその力を使ってみろ。その瞬間に、ギルド総本部の場所やこれまでの悪行が、全世界にばら撒かれる手筈になっている。それを知った《アムンツァース》はどう動くだろうな。十中八九、総本部を強襲するはずだ。組織の総力を挙げて、ね」

「――っ。でも、そんなことすら貴方には……」

「私は 忘れる(・・・) だろうな。だが、私の張っている罠が、そんな単純なものであるわけないだろう」

フィリーがリーオンの真意を確認するような眼差しを向ける。

「…………これは明確な反逆ではないかしら? 貴方はあのお方に忠誠を誓っているのではなくて?」

「ふん、私はグランドマスターに忠誠なんか誓ってはいない」

「何ですって――」

「無論、このことはグランドマスターも知っていることだ。私にとって ギルドの本懐(・・・・・・) はどうでも良い。いや、むしろ嫌悪している。しかし、今のこの社会にギルドは必要不可欠なものになっている。だから私はこの組織で働いているんだ。――この世界に生きる無垢な人たちのために……!」

そう発言するリーオンは鬼気迫るものがあった。

その声音は、並大抵のものではないと、雄弁に語っている。

「…………はぁ。ブラフの可能性が高そうだけど、万が一ということもあるわね。わかったわ、今日はわたくしの負けで良いでしょう」

「この話に勝ち負けはないと思うがね」

「ひとまず、貴方には不干渉とするから、貴方もわたくしの邪魔はしないようにお願いするわ」

フィリーの発言で張り詰めていた雰囲気が多少和らいだ。

「あぁ、それで構わない。――君たちの計画が破綻することを祈っているよ」

互いに不可侵を認める際に、リーオンが意趣返しも兼ねて嫌味を言うが、フィリーは少し顔をしかめるだけで何も発言せずに部屋から出て行った。

「………………ふぅ。危ない橋を渡ることになったが、多少の牽制にはなったかな。――さて、感謝祭の準備をしないとね」

フィリーの足音が遠ざかり、一人となった空間でリーオンが呟く。

一度大きく深呼吸してから席を立ち上がると、リーオンは普段の温厚な姿に戻っていた。