軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.86層探索② 第一部隊 VS. 地竜

距離を半分ほど詰めると、相手の姿が見えた。

「やはり、地竜か。セルマさん、どうする?」

敵の正体が確定し、今後の戦闘の方針についてセルマさんに問いかける。

地竜は四足歩行する翼の無いドラゴンのような見た目だ。

全長は平均で四メートルと大きい。

そのくせ素早い動きをする。

ただ、ウロコの強度は、他のドラゴンに比べると柔らかい。

「魔獣は……あいつ1体か。オルンはあいつを捉えられるか?」

「問題無い」

地竜は確かに素早いが、反応速度はそこまででもない。

それにアイツは、レインさんの攻撃で手負いだ。

こちらが主導権を握れば問題なく対処できる。

「よし。では、オルンとウィルで討伐してくれ。予防線として、レインには術式構築をしていてもらう。時間が掛かりそうな場合は、レインの攻撃のアシストに切り替えてくれ。発動タイミングは私が計る。……【 前衛能力上昇(ヴァンガードアップ) 】」

セルマさんが指示を出した後、ウィルにバフを掛ける。

【 前衛能力上昇(ヴァンガードアップ) 】とは、支援魔術の基本六種の内、【 魔法力上昇(マジックアップ) 】を除いた5種類を、並列構築で同時に発動することだ。

俺も自分に【 敏捷力上昇(アジリティアップ) 】の【 四重掛け(クアドラプル) 】を発動する。

俺たちにバフが掛かったタイミングで、ダメージから多少回復した地竜もこちらに気づき、魔力弾を撃ってきた。

「俺が正面から突っ込む! オルンは側面に回り込め!」

そう言いながらウィルは、魔力弾を再び双刃刀で消し去って、地竜に向かって駆ける。

俺は遠回りをしているため、当然ウィルが先に地竜と接触する。

地竜がウィルに突進を仕掛ける。

「はいはい、ジッとして、な!」

ウィルはそれを受け止めるのではなく、双刃刀の片方の刃で 往(い) なしながら、反対の刃を振り下ろして、地竜の顔を地面に叩きつける。

(上手い!)

思わず、心の中で称賛してしまった。

それほどまでに洗練された、見事な動きだった。

地竜との距離が残り数メートルの距離まで近づいたため、俺も攻撃の準備に移ろうとした。

――が、背後から殺気を感じた。

咄嗟に地面を蹴って、上空へと移動すると、俺の真下を何かが通過した。

空中で振り返ると、背景に溶け込んだ 亀型の魔獣(ハイドタートル) が居た。

ハイドタートルは全長一メートルほどの亀で、下層の全域に生息している。

名前に 潜伏する(ハイド) と付けられている通り、体が階層の景色に溶け込むように変質する。

不意打ちが得意な魔獣だ。

ただし、攻撃力自体は低いから、そこが唯一の救いかな。

攻撃力が低いとは言っても即死しないというだけで、当たり所が悪ければ、戦線に復帰できない程のケガは負うことになるけど。

他の魔獣と一緒に現れると厄介極まりない。

(気が付かなかった。相変わらず、隠れるのが上手いな)

空中でハイドタートルに向かって【 岩矢(ロックアロー) 】3つ撃ち出す。

3つ全て命中するが、硬い甲羅に当たり、貫くことなく表面で砕けてしまった。

でも、これでいい。

空中でいきなり砕けた【 岩矢(ロックアロー) 】を見れば、後衛のみんなに、ハイドタートルがそこに居ることが伝わるはず。

ハイドタートルの対処を後衛に任せて、俺は【魔力収束】で足場を作る。

それに乗って、地竜に向かって高速で突っ込む。

ウィルが、地竜のヘイトを稼いでくれているおかげで、死角にいる俺には全く気付いていない。

「【 力上昇(ストレングスアップ) 】、【 技術力上昇(テクニカルアップ) 】、【 切れ味上昇(シャープネスアップ) 】!」

自分にバフを掛けてから剣を両手で持つ。

レインさんの【 超爆発(エクスプロード) 】でウロコが溶けかけているところに、袈裟斬りを繰り出す。

刀身が当たる直前に【 瞬間的能力超上昇(インパクト) 】を発動し、地竜を両断した。

「一刀両断かよ……」

ウィルが驚きとも呆れとも取れる口調で呟く。

地竜は黒い霧と共に姿を消し、魔石のみがその場に残った。

それを確認してから、すぐに振り返って、ハイドタートルを視界に捉える。

ハイドタートルの周りに白い煙が立ち上っていた。

その次の瞬間にハイドタートルは氷漬けにされる。

その後、レインさんが発動した複数の【 火槍(ファイアジャベリン) 】に貫かれたハイドタートルは、黒い霧と共に姿を消した。

「お疲れ、オルン。この階層の魔獣を両断するなんてやるな! あれが例の【 瞬間的能力超上昇(インパクト) 】か。とんでもねぇな」

ウィルが近づきながら、褒めてくれる。

「ウィルが引き付けてくれたおかげで攻撃に集中できたからな。それにウィルだって凄かった。双刃刀は扱いが難しい武器で有名なのに、完全に使いこなせているなんて」

相手の攻撃を往なしながら、反撃も同時に行うディフェンダーか。

言うなれば、カウンター型と言ったところかな。

攻撃を受け止めるだけの一般的なディフェンダーよりも、往なした方が自身が受ける衝撃は減る。

これも俺には無かった発想だな。

「まぁ、かなり修練したからな。普通にやってたんじゃ、仲間を護ることができない。攻撃受け止めても体勢を崩してたら、意味がない。相手の攻撃を引き受けつつも、ずっと立っていられるスタイルを模索して、このスタイルに行き着いたんだ」

ウィルが遠い目をしながら話す。

前エース(アルバートさん) が亡くなった経緯は噂で聞いている。

もしその噂が本当であれば、ウィルはこの一年間、必死に努力を続けてきたんだろう。

そうでなければ、今この場に立っていることは無いと思うから。

俺たちは軽く雑談をしていたが、俺とウィルが同じタイミングで、バックステップした。

その結果、お互いの距離がかなり開く。

その直後、俺たちの間を魔力弾が通過する。

そう、地竜はもう一体居たのだ。

俺から見て左側、距離にして約五十メートルと言ったところかな。

もう一体の地竜は、地面に潜っていた。

俺が地竜を両断したタイミングで、いきなり地面から顔を出して、こちらを見てきていた。

魔獣は基本的に人の多いところを狙う。

だから俺たちは敢えて隙を晒すことで、後衛の三人では無く、こちらに攻撃を誘導した。

まぁ、 ディフェンダー(ウィル) が居たから、そんなことしなくてもこっちを攻撃したかもしれないが、念のために、な。

『オルン、ウィル、助かった』

脳内にセルマさんの声が響く。

これがセルマさんの異能、【精神感応】だ。

さっきの打ち合わせ時に初めて受けたけど、距離がかなり離れていても声がクリアに聞こえる。

思っていた通り、かなりとんでもない異能だな。

『なんてことねぇよ。にしてもオルン、俺たち息ピッタリじゃないか?』

『まさか地中から 這(は) い出てくるとはね。ウィルも同じことを考えていたみたいでよかったよ。一応、ウィルをサポートするために術式構築してたのに無駄になった』

『はっはっは。残念だったな!』

『雑談は後だ。オルン 跳(と) べるか?』

セルマさんから予想通りの質問が来た。

『当然。俺は元勇者パーティの付与術士だぞ? 8割方、術式構築も済んでる』

『流石だな。では、ウィルが正面、オルンが背後だ。魔術で仕留める。二人は数秒間の足止めをしてくれ』

『あいよ!』

『わかった!』

セルマさんが術式構築をしているうちに、他の後衛2人が地竜に対して攻撃魔術を発動して、ダメージを与えながら牽制する。

『よし、できた! ウィル行くぞ!』

『いつでもどうぞ!』

ウィルがセルマさんの掛け声に反応して、双刃刀を構えると、俺の視界の中心から消える。

そして、視界の端に映る地竜の目の前に移動していた。

それを確認した俺も、構築していた術式に魔力を流す。

「【 空間跳躍(スペースリープ) 】!」

魔術が発動されると、視界の景色が変わり、地竜の後ろ姿が目の前にあった。

【 空間跳躍(スペースリープ) 】は支援魔術の1つだ。

効果は対象を任意の場所に移動させること。

ただし、移動先に既に何かがあると発動しない。

だから、相手の体内に直接物体を移動させて攻撃するとかはできない。

【 空間跳躍(スペースリープ) 】は支援魔術の中で――いや、魔術全体の中で一番、術式構築の難易度が高いといわれている。

支援魔術に階級は無いけど、もしあったら間違いなく特級の部類に入る。

術式構築速度に自信のある俺でも数秒掛かるくらい術式が複雑だ。

不意打ちができる強力な魔術だけど、かなり緻密な設定が必要となる。

そのため、戦闘中のような、一瞬一瞬で状況が変わる場面での発動は、まずできない。

【 空間跳躍(スペースリープ) 】が使えるってのに、なんで俺は上級魔術が使えないんだ……。

俺とウィルで地竜を 挟撃(きょうげき) するかたちになる。

二人で地竜を切り刻みながら、その場に釘付けにする。

【 空間跳躍(スペースリープ) 】を発動した直後は、他の術式を構築している余裕がない。

それに、今回の目的は地竜の足止めのため、【 瞬間的能力超上昇(インパクト) 】は使わない。

『攻撃魔術を発動する。カウント! 五、四、三――』

脳内にセルマさんの声が響く。

最後に後ろ足の関節部分を深く斬りつけてから、地竜と距離を取る。

カウントダウンがゼロになると、地竜の周辺の地面が、沼へと変わる。

地竜は沼に足を取られ、更には盛り上がった 泥(どろ) が地竜を包み込んで、動けないようにする。

直後、上空から巨大な雷が、轟音と共に地竜に降り注ぐ。

雷系統の特級魔術【 天の雷槌(ミョルニル) 】だ。

さっきの簡易的に発動した【 超爆発(エクスプロード) 】ではない、レインさんの本気の特級魔術。

沼は一瞬で蒸発して、周辺はガラス化している。

それでも満身創痍になりながらも、地竜は倒れていない。

そこにルクレの追撃である【 氷槍(アイスジャベリン) 】が飛んできて、その体を貫き、黒い霧に変える。

「……もう魔獣は居ないな、お疲れ!」

ウィルが周囲を観察して魔獣が居ないことを確認すると、手を上げながら俺に近づいてくる。

「あぁ、ウィルもお疲れ」

その手をたたいてハイタッチをしながら、ウィルに労いの言葉をかける。

このパーティでの最初の戦闘にしては、かなり良い内容だったと思う。