軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

310.サクラモチ

「さて、方針が定まったところで、シオンとオリヴァーに聞きたいんだが、二人はどうやって超越者に成ったんだ?」

問いかけに、シオンとオリヴァーがちらりと視線を交わした。

先に口を開いたのはシオンだった。

「私は右目の精霊の瞳を介して、氷の精霊で無理やり術理の壁を破った感じだね。いやー、あの時は、目から血の涙が出てくるわ、頭が割れるように痛くなるわ、そのあと数か月寝込むわで大変だったよ。オリヴァーは?」

「俺も似たような感じだ。ただ、俺の場合は【魔力収束】もあったから、そこまでの苦痛はなかったな。寝込んでいたのも、一週間くらいだったはず」

「なにそれ、ズルい!」

「ズルいって何だよ。つーか、本来、術理の壁を破れないお前が、精霊の瞳一つで術理の壁を破るなんて無茶をしたのが原因だろ?」

「仕方ないじゃん! これくらいやらないとオルンに追いつけないんだから!」

いつの間にか二人は言い合いを始めていた。

幼少期に何度も見た光景に、俺は思わず笑みを漏らす。

「二人とも仲が良いですね」

ルーナもそんな二人を微笑ましく眺めていた。

「幼馴染だからな」

そんな二人にフウカが割って入った。

「話が脱線してる」

フウカの言葉に、シオンとオリヴァーは同時に肩をすくめ、少しバツの悪そうな顔をした。

「……うん、まぁ、確かに今は真面目な話だよね」

シオンが頬をかきながら視線を逸らし、オリヴァーも咳払いを一つ。

「俺たちの話はここまでだな」

誤魔化すように声を張ったオリヴァーが、ルーナに視線を向ける。

「とはいえ、ルーナは【精霊支配】の異能者だ。扱える精霊に関しては精霊の瞳より断然上なんだし、むしろ簡単なんじゃないか?」

「……私が、ですか?」

ルーナは驚いたように目を瞬かせる。

「確かに、素質だけで言えば二人よりも上だろうな」

俺もオリヴァーの言葉を肯定する。

「術理の壁を破るだけなら、ルーナの力は大きな後押しになるはずだ」

「……そう、なんですね」

ルーナは小さく息を整えると、ふと思い出したように顔を上げた。

「そういえば……フウカさんも超越者なのですよね?」

「うん」

短く、当たり前のように頷くフウカ。

「その……どうやって超越者に成られたのですか?」

真剣な眼差しで問うルーナに、フウカはほんの一瞬考え込むような素振りを見せてから、あっさりと答えた。

「妖刀と適合したら、勝手に成ってた」

「…………」

シオンとオリヴァーが同時に固まった。

「私は妖力が扱えるから、私の成り方は例外だと思う」

フウカは淡々と告げる。

だが、あまりにもさらりとした言い方に、逆に重みがあった。

俺はそこでふと気づいた。

「……そういえば、いつか聞こうと思っていたんだが、妖力って結局のところどういった力なんだ? 魔力とも氣とも違う力であることはわかっているんだが、いまいちその力の本質ってものが分からないんだ」

問いかけに、フウカは考えるようにしばらく宙を見つめ、「私もよくわかってない」と答える。

俺は思わず肩を落とした。

「まぁ、フウカは感覚派だしな。分からないものは仕方ないか」

肩をすくめた俺に対し、フウカが再び口を開く。

「だから、詳しく知ってるのに喋らせる」

そう言うと、フウカは腰の収納魔導具から、彼女の刀―― 白櫻(はくおう) を出現させた。

それを見たシオンとオリヴァーが怪訝そうに眉をひそめる。

「……その刀が、詳しいやつなのか?」

「まさか、刀が喋るわけじゃ……」

フウカは答えず、静かに鯉口を切った。

わずかに覗いた刀身は、淡い光を帯びていった。

白銀だった刃が、じわじわと薄桜色に染まっていく。

「――サクラモチ、出てきて」

彼女が呼びかけた瞬間、刀身から靄が立ちのぼる。

靄はゆらゆらと揺れ、集まり、形を成す。

やがてそこに現れたのは、丸い蕾のようなふさふさとした尻尾を抱え込むようにした薄桜色の狐だった。

狐の四肢は地に着かず、ふわりと宙に浮かんでいる。

まるで重力から解き放たれたかのように漂う姿は、ただの愛嬌のある毛玉のようでもあった。

「だから、その呼び方やめろっつってんだろっ!」

現れた狐は、開口一番に怒鳴り声をあげた。

狐がフウカをギロリと睨みつけた瞬間、愛嬌と同居するように妖しい迫力が漂う。

対するフウカはコテンと首をかしげる。

「『わたあめ』って名前が嫌だって言ったのはサクラモチでしょ? だから『サクラモチ』にしたのに」

「ざけんなっ! なんでふわふわした名前しか候補にねぇんだよ!」

「ね、ねぇ、フウカ。なに、そのモフモフした可愛い生き物は」

シオンがおそるおそる指を差す。

フウカが事も無げに答える。

「私のペット」

「はあっ!? 誰がペットだって!?」

薄桜色の狐――サクラモチが耳をぴんと立て、全力で抗議の声を上げる。

「おい小娘! あまり調子に乗ってんじゃ――」

だが次の瞬間、フウカの腕がブレた。

気づけば、サクラモチの首根っこが彼女の手の中に収まっていた。

「ご主人様にそんなこと言ったら、めっ。私は小娘じゃない。私のことは『フウカ』って呼ぶこと。分かった?」

静かな声で、けれど絶対に逆らえない圧を込めて叱る。

「~~~~っ!?」

サクラモチは目を白黒させ、情けない声をもらす。

さっきまでの迫力はどこへやら、耳と尻尾がしょんぼりと垂れ下がっていった。

そんな様子を見て、シオンの目が輝く。

「か、可愛い……! ねぇ、ちょっと触ってもいい……?」

「わ、私もいいですか?」

ルーナも横から勢いよく乗ってくる。

「うん、いいよ」

「はぁっ!? 勝手に許可出してんじゃ――」

サクラモチの抗議の声などまるで聞こえていないかのように、シオンが恐る恐る両手を伸ばす。

指先が桜色の毛並みに触れた瞬間、その表情が一変した。

「な、なにこの毛並み……っ! ふわっふわで、温かい……!」

感嘆の声を上げるシオンに、ルーナも負けじと抱きつくようにモフモフを堪能する。

「や、やめろーっ! もふるな! オレは人間に怖れられる存在なんだぞっ!」

必死に抗議する声を無視して、二人は遠慮なくサクラモチをもふもふと堪能していた。

狐はじたばたと暴れるが、蕾のように丸い尻尾は掴まれるたびにぷにぷにと形を変え、まるで本物の桜餅のように見えた。

「うん、やっぱりサクラモチって名前がぴったり」

フウカが得意げに言うと、狐は耳をぴんと立てて絶叫する。

「だーーーかーーーらっ! その名前やめろっつってんだろーっ!」