軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

280.贖罪

「貴女はっ!?」

シオンが昨年自分たちを襲ってきた人物であると気づいた弟子たちが身構える。

そんな弟子たちを見て、シオンは一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐに取り繕って弟子たちを真っすぐに見つめる。

「いきなり現れてごめんね。本当は出てくるつもりなかったんだけど、困ってたみたいだから。だけど、それよりも先に――」

一触即発とも言える空気の中、シオンがゆっくりと頭を下げた。

「――去年、私は君たちの命を奪おうとした。謝って赦されることでないことは解かってる。それでも謝らせてほしい。本当にすみませんでした」

頭を下げて謝罪しているシオンの姿を見て、つい弟子たちに彼女を赦してやってほしいと言いたくなってしまう。

でも、それが筋違いであることは理解している。そもそもそんなことをシオンは望んでいないだろうし、そんなものが解決になるとも思えない。

俺はグッと出てきそうになる言葉を殺した。

「……去年の一件については、オルンさんからも少しだけ聞いています。あの出来事が敵に嵌められたボタンの掛け違いだと。それは、本当ですか?」

「…………そう、だね。それも一因ではある。でも、最大の要因は私が 弱い人間だから(・・・・・・・) 。そもそもあの一件は私が事前調査を怠っていなければ、オルンの存在に気づいていたはずなんだ。そうしたら、私たちが交戦することもなかった」

「……どうして調査を怠ったんですか?」

「殺意が鈍るからだよ。相手がどんな人間なのか、知れば知るほど、ね。だから私は命を奪った相手の姿と名前は絶対に忘れないけど、それ以外のことを知ろうとはしていなかった。弱い私は、大迷宮を攻略しようとしている探索者を、世界を害する敵として一括りにすることで、自分の心を守ってたんだ」

「最低だね」

キャロルが珍しくバッサリと切り捨てた。

「そうだね。最低だ。私はこれまで何人もの命を奪ってきた。その罪が消えることは無いし、目を逸らすこともしない。今は、この罪を背負って、奪ってしまった命の数以上の人を救うために戦いたいと思ってる」

キャロルの発言を受けて自嘲するような表情をしていたシオンだったが、最後には覚悟の灯った瞳をまっすぐ弟子たちに向けていた。

俺は今のシオンの言葉が心の底から思っているものであることを知っているが、弟子たちはどう受け取るだろうか。

全員が状況を静観していると、ログが口を開いた。

「僕は、貴女のことを簡単には赦せそうにない。でも、貴女たちから受けた恐怖や敗北感があったからこそ、僕はさらに強くなりたいと思えた。結果論だけど、あの出来事があったからこそ、ここまで成長できたとも思ってる」

「そうだね。私もログと同じ意見。当時は本当に怖かったけど、今振り返ると、私たちに必要な試練だったような気もする」

「あたしも考え方が変わるきっかけにはなったかな。二人を怖がらせた貴女を赦す気にはなれないけど、今の言葉を聞いて割り切るくらいは出来るかなって思った」

ログに続いて、ソフィーとキャロルも自身の心情を吐露した。

三人の言葉を受けて、シオンが頷く。

「正直な気持ちを教えてくれてありがとう。私のことは赦さなくて構わないよ。それだけのことをしたわけだしね」

張り詰めていた空気が多少和らいだように感じる。

ひとまず、弟子たちとシオンの間に致命的な亀裂が入らなかったことを喜ぼう。

自分を殺そうとした相手を拒絶しないなんて、三人とも本当に強いな。

「それでシオン。さっき『何とかする』って言ってたけど、良案があるのか?」

「うん。話は聞いてたけど、そこの三人は学園に入りたい。だけど、オルンとの関係が露見することは避けたい。そういうことだよね?」

「あぁ。俺と《夜天の銀兎》に繋がりがあると思われれば、この子たちもツトライルも再び教団から矛先を向けられる可能性が高い。それだけは避けたい」

「だったら簡単だよ。三人に架空の経歴を与えればいい。私の実家なら、三人の偽の経歴を作り上げることくらい容易いから」

シオンの実家であるナスタチウム家は、中流貴族ということになっている。

だが、それはあくまで表向きの話だ。

《おとぎ話の勇者》と共に邪神と戦った《魔女》をルーツに持つナスタチウム家は、ヒティア公国の実質的な支配者と言っても過言ではない。

「簡単に偽の経歴を作り出すって、シオンさんってすごい家の人なの?」

「そんな大層なものじゃないよ。多少国内に影響力を持っているってだけ。……で、どうかな? これなら三人をヒティア公国民にすることができるから、オルンの懸念も解消されると思うけど」

「アリだな。三人の名前は結構売れてるけど、顔まで知っている人はそこまで多くない。ヒティア公国出身ということにして、名前も愛称を本名とすれば三人が《夜天の銀兎》の探索者だとバレる可能性はかなり低くなる。良い案だと思うが、三人はどうだ?」

「学園にいる間は、あたしの名前が『キャロル』になるってことでしょ? 問題な~し!」

「それで丸く収まるなら、僕も構いません」

「私も大丈夫です」

「ん、それじゃあ、手続きは私の方でやっておくね。後ほどみんなのプロフィールを渡すから目を通しておいてね」

シオンはそう言うと、踵を返して部屋を出ていこうとする。

「あの、シオンさん!」

そんな彼女にソフィーが声をかける。

「なに?」

「私たちのためにわざわざありがとうございます」

ソフィーの言葉にログとキャロルも続く。

そんな彼女たちにシオンは優しく微笑んだ。

「これくらい当然だよ」