作品タイトル不明
281.嫉妬
弟子たちの今後の居住であったり現状についての認識のすり合わせであったりを終わらせた俺は、休憩がてらダウニング商会本店の屋上にやってきた。
「やっぱりここに居た」
そこから首都セレストの街を眺めていると、シオンがやってきた。
「シオンか。さっきはありがとうな。お陰で弟子たちの望みを叶えられた」
「ううん。これは単なる私の自己満足だから気にしないで。あの子たちのプロフィールは数日中には用意できるって」
「了解。だったら弟子たちを見送ってからキョクトウに行けそうだな」
「ハルトさんも帰ってきたし、近いうちにキョクトウに行くんだよね?」
「あぁ。向かうのは八月十五日だ」
「そっか、もう日付まで決まってるんだ」
「キョクトウだと毎年八月十五日から三日間、霊舞祭って祭りが執り行われるらしい。祭りとなれば普段よりも人の往来が激しいし、その期に乗じてキョクトウに入り込む」
「わかった。私も準備しておく。――あ、そうだ。オルンに聞きたいことがあったんだ」
「何だ?」
「あの赤髪の子――ソフィアちゃん? のことなんだけどさ、あの子ってセルマ・クローデルの妹なんだよね?」
シオンのその質問だけで、何が聞きたいのかが理解できた。
そういえば、ソフィーが〔念動力〕を使えるようになったのは、シオンたちに襲われた時だったな。
「あぁ、そうだ」
「ソフィアちゃんとセルマ・クローデルが義理の姉妹ということは?」
「二人の母親は違うが、同じ父親の血を引いている正真正銘の 血族(・・) だ」
「そっか。それじゃあ、あれが〔念動力〕なんだね」
異能の発現にはいくつか法則がある。
その一つが遺伝によって受け継がれるというもの。
それに付随して、異能を発現した者が現れた場合、その二親等以内に他の異能者が現れることは無い。
じいちゃんは 後天的な異能者(・・・・・・・) だからこの法則から外れるが、セルマさんはおとぎ話の時代から続く純然たる異能者だ。
それはつまり――。
「シオンの推測通りだ。ソフィーのあの力は 異能じゃない(・・・・・・) 」
「……それは、すごいね。あの時のオルンは幼少期の記憶を失ってたんでしょ? ということは、あの子は何の助言も無しに自力で〔念動力〕を扱えるようになったってことだよね。とんでもない才能だ」
シオンが素直に感心している。
確かに彼女の言う通りならとんでもない天才だ。
だけど、この件に関しては天才の一言で片付けるほど単純なことでもない。
ソフィーに才能が無いということは決してないが、俺には彼女が〔念動力〕を扱えている理由に思い当たるものがあるから。
「彼女に素質があったことは間違いないだろうけど、〔念動力〕を扱えるようになったのは、おそらく俺が原因だ」
「オルンが? どういうこと?」
「実は昔、彼女の頭を撫でたことがあってさ――」
「――頭を撫でた!? えっ、オルンとソフィアちゃんってそういう関係だったのっ!?」
俺が話している途中に、話を遮るようにシオンが身を乗り出してきた。
「ち、違う。落ち着け」
「落ち着いていられないよっ!」
「……っていうか、シオン、お前なんでそんなことにこんなに食いついてくるんだよ」
俺は半ば呆れながらも、目の前で興奮気味に詰め寄るシオンを見つめた。
「そ、それは……、だって、オルンが他の女の子の頭を撫でたなんて……!」
シオンは頬をふくらませ、むすっとした顔で俺を睨みつける。
「だから言っただろ、そういう関係じゃないって。ただ、昔、ソフィーが怖い思いをしていたことがあって、それを落ち着かせようと思ったってだけだ」
あの時の俺は、勇者パーティを追い出された直後で、人との繋がりを無意識にも求めていたんだと思う。
そのタイミングで似たような境遇だったソフィーに同情しながら接触したことで、俺の異能がソフィーに作用したのだと考えている。
と言っても、あの時の感覚は覚えていないし、再現性は皆無に等しいから他の人もソフィーと同様に、〔念動力〕が扱えるようにすることができるとは思えないが。
「……ふーん?」
シオンはじっと俺の目を覗き込むようにしばらく沈黙した後、ふいに両腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。
「まあ、オルンが浮気してないってことは分かったけど……」
「分かったならいいだろ?」
「ううん、よくない!」
そう言うや否や、シオンは勢いよく俺の前に立ち、ぐっと身を乗り出してきた。
「じゃあ私も撫でて!」
「……は?」
「ソフィアちゃんには撫でて、私にはナシっていうのはおかしいと思うんだよね!」
シオンは腕を腰に当て、まるで勝ち誇ったような表情を浮かべている。
「別におかしいとは思わないけど……。そもそも頭を撫でるって子ども扱いみたいなものだろ?」
「ダメ! 私も撫でてもらうの! そうじゃないと不公平!」
「お前なぁ……」
珍しくシオンが頑固になっている。
普段の彼女からは考えられない言動だけど、俺にだけ見せてくれている一面だと思うと嬉しいな。
シオンの柔らかな髪を指先で優しく梳くように撫でると、彼女は一瞬驚いたように目を丸くした。
「……んっ」
そして、ゆっくりと目を閉じ、俺の手の感触を確かめるように小さく息をつく。
「……仕方ないから、これで許してあげる」
頬を赤らめながら、満足げに呟くシオンを見て、俺は苦笑するしかなかった。