軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192.予定外の連続

ケグリスの迷宮を攻略してから一週間ほどが経過した。

先日、別の町にある迷宮の攻略が完了し、現在三つ目の攻略対象の迷宮があるサボナ村に向けて、俺たちは 全速力(・・・) で馬を駆けていた。

その理由は、現在進行形で攻略対象の迷宮が氾濫しているから。

ハルトさんの【鳥瞰視覚】で、その情報を掴んだ俺たちは大急ぎで村に向かっている。

「ったく、どうして、こうも予定通りにいかないのかねぇ!」

馬に跨りサボナ村へ急いでいると、横からハルトさんが愚痴を零す。

物事は予定通りに行くことの方が珍しい。

予定はあくまでも指針だ。

実際はその時々で、臨機応変に対応していかなきゃならない。

まぁ、そんなことはハルトさんも百も承知だと思うけど。

「嘆いていても仕方ない。まずは目の前の問題を片付けるために行動しないと。それで、村の状況は?」

「村の探索者たちが踏ん張ってはいるが、如何せん探索者の数が足りてない。俺たちが村に到着するよりも先に、村の周りに設置されているバリケードが突破されるだろうな」

氾濫が起こると人間側が後手に回る。

既に村にも、探索者ギルドから氾濫の可能性があることは聞かされていたはずだ。

そのため、バリケードが事前に設置されていたり、早々に村の探索者が迎撃に行っていたりと、対処がそこまで後手に回っていない。

もし事前情報が無かったら、魔獣どもは既に村まで入り込んでいただろうな。

それでもギリギリの状況であることには変わりないが。

「……俺が先行して村の防衛をする。ハルトさんは氾濫で出てきた魔獣の中から強力なヤツをピックアップして、それをフウカに伝えてくれ。フウカはその魔獣を優先的に討伐。ハルトさんはその後、魔獣が多くいる場所へ向かって数を減らすことに注力してくれ」

「わかった」

「了解だ。フウカ、行くぞ!」

俺の作戦を了承してくれた二人が、進路を村から魔獣の群れへと変えたことを確認し、馬から降りる。

馬を安全な場所に退避させ、術式構築をしながら自身に掛かっている重力を減衰させる。

「【 反射障壁(リフレクティブ・ウォール) 】!」

地面と上空に、それぞれ半透明の灰色の障壁を出現させた。

その二つの障壁を経由しながら、俺に掛かる重力の方向を操作して、村の方角へ地面と水平に落ちるようにして移動する。

この移動方法なら、身体への負担はあるものの馬よりも早く村まで行ける。

あっという間に村の上空まで辿り着いた俺は、重力を再度操作して通常の状態に戻す。

それから上空に作り出した魔力の足場の上に立ち、複数の術式を構築していく。

(良かった、間に合った!)

上空から周囲をざっと見渡して、バリケードが突破される直前ではあるものの、村の住人への被害が出る前に到達できたことに安堵する。

それから村の周辺一帯の状況を、ハルトさんから聞いていたものから最新のものに更新する。

それにしても、常時今の俺と同じ視点で状況を確認できる、ハルトさんの異能はやっぱり凄いな。

俺も 似たような視点(・・・・・・・) を持っているけど、彼ほどの視野の広さは無いから、なおのこと戦場における彼の存在のありがたみを実感する。

「……【 封印解除(カルミネーション) 】」

状況の把握を終わらせてから俺を縛り付けているものを取っ払うと、時を同じくして、村を守っていたバリケードが破壊され、魔獣が村に入り込もうとしていた。

「魔獣が入って来るぞ!」

「もうダメだー!」

「どうにかして、女子供だけでも護るんだ!」

村の住人たち全員に恐怖心が伝播していき、村の中はパニック一歩手前の状態になっていた。

「――【 空間跳躍(スペースリープ) 】、【 天の雷槌(ミョルニル) 】!」

村に入り込もうとしている魔獣から村を守るために立ち向かっていく人たちを、村の中に転移させてから、魔獣どもに極大の雷を叩き落とす。

突然の出来事に戸惑う住人たちを見ながら、拡声魔導具を口元に持ってきてから声を上げる。

「サボナ村にある迷宮の攻略を国より一任された、探索者のオルンです! 迷宮から出てきた魔獣どもは俺たちが討伐します。住人の皆さんは村の中心に集まるようにお願いします。あまり外には近づかないようにしてください!」

普段は拡声魔導具なんて持ち運ばないが、今回の各地の迷宮攻略に当たって、普段は使用しない魔導具を色々と持ってきている。

拡声魔導具はそのうちの一つだ。

「おい、空に人が居るぞ!」

村の住人たちに声を掛けると、村の上空に居る俺に住人の一人が気付き、全員がこちらを見上げていた。

「それじゃあ、村の人たちを安心させるためにもド派手にいくとするか。――【 六系統の多連槍(エレメント・ジャベリン) 】」

俺の周りに六つの魔法陣が現れる。

魔法陣からは、魔術における系統である土・水・火・風・氷・雷のいずれかを纏った槍が大量に撃ち出され、村に向かってきている魔獣ども殲滅し始める。

まぁ、仰々しい名称を付けたけど、要は並列構築で各系統の上級魔術である 槍(ジャベリン) 系の魔術を同時に撃ち出しているだけの、何のひねりもない攻撃だ。

だけど、見た目はド派手だ。

村が魔獣に襲われようとしているのに、俺の魔術を見た住人たちからは歓声が湧いていた。

なかなかにノリが良い村みたいだな。

フウカとハルトさんも魔獣たちのところへと辿り着いたし、何とか村を守りきれたかな。

最悪の事態を避けることができたことに安堵しつつも、油断せずに、地上に出てきた魔獣を全て狩っていく。

「お疲れ様、フウカ、ハルトさん」

魔獣を殲滅し終えたところで、村の入り口付近までやって来た二人の傍に着地してから、二人に労いの声を掛ける。

元々村に居た探索者たちは、バリケードを作り直すためにそちらに行っているらしく、この場には居ない。

「おう、オルンもお疲れ! ド派手な魔術だったな!」

「村の人たちを安心させるなら、あれが手っ取り早いかなと思ってさ」

俺とハルトさんが会話をしていると、村の方から人がこちらに集まってきた。

「貴方たちが、国から派遣された探索者ですかな?」

村の住人たちを代表して、六十歳に迫りそうなお爺ちゃんが俺たちに問いかけてくる。

このタイミングで口を開くあたり、このお爺ちゃんがこの村の村長なのだろう。

「はい、そうです。改めまして、探索者のオルンと申します」

「同じく、ハルトだ」

「……フウカ」

「おぉ! やはりそうでしたか! 儂はこの村の村長をしています、ジェイラスと言います。オルン殿、ハルト殿、フウカ殿、この度はこの村をお救い下さり誠にありがとうございます」

「いえ、礼には及びません。間に合って良かったです」

俺と村長が話をしていると、村長の後ろに居る住人たちの辺りからひそひそ声で話をしていた。

そちらに耳を澄ませてみると、「『オルン』って名前、なんか聞き覚えがあるんだよな」「うん、私も。どこで聞いたんだっけ?」と、どうやら俺のことを話題にしているらしい。

「僕、兄ちゃんの胸にあるマーク知ってるよ! 《夜天の銀兎》っていう、すっごいクランのマークでしょ!」

最前列に居た少年が突然声を上げる。

「《夜天の銀兎》の、オルン……?」

「そうだ! この前村に来た吟遊詩人が歌ってた、『王国の英雄オルン』だよ!」

「え!? 暴走した勇者や迷宮の氾濫からツトライルを救った探索者という、あの!?」

少年の声を皮切りに、住人たちも興奮したような声を上げ始める。

村の住人が話題に挙げているように、俺は昨年の感謝祭でオリヴァーの暴走を止め、同時に起こった迷宮の氾濫を鎮めた者として、新聞で俺が『王国の英雄』だと書かれていた。

しかし、俺は英雄ではない。

そもそも俺は迷宮の氾濫の対処には関わっていないし、その記事はかなり誇張的に書かれているだけだ。

しかし、そんなことは読者にはわかるはずもなく、あれ以降、俺は『王国の英雄』と呼ばれることが少なからずあった。

まさか、吟遊詩人の歌の題材にされて、こんな田舎の村にまで俺のことが伝わっているとは、夢にも思っていなかったけど。

「ほ、本当に貴方様が、『王国の英雄』なのでしょうか」

村長が期待に満ちた目で問いかけてくる。

「え、えぇ。俺のことをそう呼ぶ人がいるのは事実です」

俺が村長の問いを肯定すると、更に村の住人たちの歓声が湧いた。

「まさか、英雄様に村を救っていただけるなんて。天の導きに感謝しなくてはなりませんな! 皆の者! 宴の準備じゃ! このお三方を精一杯もてなすのじゃ!」

先ほどまで冷静でいた村長すらも、俺が『王国の英雄』と呼ばれていることを知るとハイテンションになり、村の住人たちに宴を開くよう指示をしていた。

その指示を聞いた俺は、思わず冷や汗が流れる。

いや、俺たちを歓迎してくれるのは有難いんだけどな……。

俺と同じ考えなのか、ハルトさんもこわばった表情をしている。

俺たちが何を懸念しているかというと、それはフウカがこの村の備蓄を圧迫してしまうかもしれないということ。

今は一月下旬。

まだしばらく寒い時期が続くんだ。

フウカや俺たちに食事を振舞ってくれたことで、後々ここの住人たちが困る可能性があるなら、それはやはり避けたい。

当の本人は「宴の料理楽しみ」と目を輝かせている。

この一週間で、俺もフウカの僅かな表情の変化を感じ取れるようになった。

「あの、有難い申し出ですが、俺たちも予定が詰まっていまして……」

「そ、そうなのですか……。それは残念ですね……」

断りの文句を入れると、村長は明らかに肩を落としていた。

その姿に心が痛むが、フウカの魔の手から村を救うためと心を鬼にする。

――しかし、敵は俺の隣に居た。

「今日はこの村に泊めてもらうって話じゃなかった? それに、せっかくの好意を無碍にするのはダメだと思う」

普段は会話に口を挟むことをほとんどしないフウカが、会話に割って入ってくる。

(ホント、食には貪欲だな!)

「そういうことでしたら、是非この村で一泊していって下され! すぐに部屋を用意しましょう」

村長もフウカの言葉に、まるで水を得た魚のように、再び俺たちを村に留まらせようと提案してくる

(おい、オルン、どうするんだよ。俺はフウカが村の食べ物食いまくって、後々村人たちから恨まれるなんて御免だぞ……!)

近づいてきたハルトさんが耳元で囁いてくる。

(俺だって、そんな展開は御免だ! ……確認だけど、ハルトさんの見立てだと、このまま強引に断った場合、フウカはどれくらい不機嫌になると思う?)

今後の展開を目算するためにハルトさんに小声で問いかける。

(……そ、それは……、あはは……)

俺の問いに、ハルトさんは目を逸らして笑いながら明言を避けた。

(笑ってごまかそうとしてんじゃねぇ!)

「あの、如何なさいましたか?」

俺とハルトさんのやり取りに不審がっている村長が声を掛けてくる。

「い、いえ! なんでもありません。……そうですね。フウカの言う通り、せっかくのご厚意ですから、今回は甘えさせていただきます。本日は、よろしくお願いします」

村長にそう返答すると、彼は安堵の声を漏らしてから、住人たちに再び指示を出していた。

(おい、良いのか?)

ハルトさんが複雑そうな表情で問いかけてくる。

(仕方ないだろ。この状況でもう一度断ること自体難しいし、断ったらフウカがどうなるかも読めないんだから)

ハルトさんと再び小声で話をしていると、住人への指示を終えた村長が戻ってきた。

「では、先ほども言った通り、本日は宴を開かせていただきますので、お三方も是非参加してください」

「あ、あの……、大変ありがたいのですが、本当にささやかなもので結構ですから」

俺は通じないだろうなと思いつつも、村長に宴はささやかなものにしてくれとお願いをする。

それから、念のためハルトさんには村に残ってもらって、俺とフウカで迷宮の攻略に乗り出した。

氾濫直後ということもあって、迷宮内の魔獣の数は少なかったため、大した苦労も無く早々に攻略が完了する。

迷宮内には誰も居なかったことから、今回の氾濫が自然的なものなのか、人為的なものなのかはわからない。

タイミング的には人為的の方が可能性は高そうだが。

そして、その帰り道でフウカに必死に頼み込んだ。

次の目的地の途中にある比較的大きな町で好きなだけ料理を食べて良いから、ここでは食事量を自重してくれ、と。

その甲斐あってか、フウカが村の備蓄を圧迫するほど食べることは無かった。

と言っても、俺やハルトさんよりは食べてたけど……。