軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150.【sideシオン】精霊の瞳

オルンたちと竜群を殲滅したシオンは、別行動をしていた付き人であるテルシェと合流してから東の方角へと歩を進めていた。

その足取りは今にもスキップしそうなほど軽いもので、普段のシオンからは考えられないほどに上機嫌であることが伺える。

「シオン様、何か良いことでもありましたか?」

「え~? わかっちゃう?」

「勿論です。私はシオン様が幼少の頃から近くで見てきましたので。察するにオルン様絡みでしょうか?」

「流石だね。実はね、さっきオルンと一緒に戦うことができたんだ。それに私のことを『シオン』って名前で呼んでくれたの」

テルシェの問いに対して、シオンが満面の笑みでご機嫌な理由を口にする。

「なんと。それは大変よろしゅうございましたね」

その理由を聞いたテルシェも、まるで自分のことのように嬉しそうな表情を浮かべる。

しかしシオンが上機嫌でいられた時間は短く、次第に冷静な部分が顔を出し始める。

「うん。もうオルンの隣に立てることは無いと思っていたからさ、オルンと肩を並べながら戦えて、本当に幸せだった。できればもっと一緒に居たかったけど、状況が大きく変わったから今は一緒に戦えただけで良しとしないと。これ以上を求めるのは我が儘というものだよね……」

シオンが諦観にも似た雰囲気を纏いながら呟く。

「……。シオン様、やはりオルン様に真実を――」

「それはダメ」

主人の悲しげな表情を見たテルシェが提案を口にすると、言い終わるよりも先にシオンが却下する。

「……出過ぎたことを申しました。申し訳ありません」

「ううん。私のことを想ってのことだってことはわかってるから。ありがとう、テルシェ。でも、オルンは一人で抱え込んじゃうから、里のみんなが殺されたことを知ったら絶対に自分を責めると思う。それに、その隙を教団が見逃すとも思えない」

シオンがこれからのことについて思考を巡らせながら、自分の考えをテルシェに伝えるために言葉を紡ぐ。

「それに【認識改変】を受けていても自力でおじさまの封印を解けるなら、 本来の異能(・・・・・) に気づく可能性もかなり高いはず。だから、私たちは〝王様〟が目を覚ます前に舞台を整えておかないと、ね」

「畏まりました」

自分の考えに理解を示してくれたテルシェを見て、シオンは満足気に一つ頷いた。

再び歩を進めようとしたところで、シオンの目つきが鋭いものに変わる。

それからシオンが右目に魔法陣とも違う幾何学的な模様を浮かべて、 何もない(・・・・) 虚空を見つめながら声を発した。

「私になんの用かな、 妖精さん(・・・・) ? それにしてもすごい魔力だね……。あぁ、なるほど。貴女が 妖精の女王(ティターニア) か」

『……驚いた。氷の精霊を意図的に操っているように視えたからまさかとは思ったけど、本当に自身の右目を精霊の瞳と同化させてたのね』

シオンから声を掛けられたティターニアが、心底驚いたかのような口調で声を発する。

妖精は超常的な存在で、人間には知覚することができない。

例外として【精霊支配】の異能を有している人間は妖精を知覚できるが、シオンはその異能を有していない。

「正解。ふふっ、妖精の女王を驚かせることができたなんて、今生きている人間だと私だけじゃない?」

不敵な笑みを浮かべながら話すシオンは、しっかりとティターニアが存在している場所に焦点を合わせている。

それは、妖精が見えている事の証左に他ならない。

魔獣が死んだときに魔石が現れるように、妖精が死んだ際に透き通った半透明の結晶が現れることがある。

それを精霊の瞳と呼ぶ。要は特別な魔石のことだ。

何故精霊の瞳と呼ばれているのか、その理由はその結晶を透かし見ることで精霊や妖精を視ることができるためだ。

シオンはその精霊の瞳に内包されていた魔力を自身の右目と同化させた。

何も起こらない可能性や廃人になる可能性もあったが、シオンはその賭けに勝った。

右目を精霊の瞳と同化させた結果、精霊や妖精を視認するだけでなく、妖精であった魔力を取り込んだことで妖精と意思疎通を図ることや、氷に限定されるが精霊を支配下に置いて自在に操ることが可能になっていた。

『なんで、そんな危険なことを――』

「オルンに追いつくためだよ」

先ほどまでややふざけた雰囲気を醸し出していたシオンが、ティターニアのその呟きに真面目な雰囲気で声を被せる。

「そのためならこんなの苦痛でも何でもない。オルンを一人にさせないためには、私がオルンに追いつくしかないんだから」

そう呟くシオンには途方もない覚悟がにじみ出ていた。

『……中々に面白い娘だね。流石は【時間遡行】の異能者といったところか』

「私やオルンを その人たち(・・・・・) と重ねるのはいいけど、私たちとその人たちは違うから、そこだけははき違えないで」

『わかっている。主たちがもう死んでいるということは痛いほど理解しているから』

「ならいい。それじゃあ話を最初に戻すけど、私になんの用かな?」

『ウチに力を貸してほしい。ウチらを知覚できる人間は貴重だから』

シオンが予想外のティターニアの言葉に目を丸くする。

しかし、すぐに普段通りの飄々とした雰囲気に戻ったシオンが口を開く。

「おとぎ話の戦渦を生き抜いた妖精から助力を求められるなんて光栄だね。でも、私にはこれからやることがあるから、その誘いには乗れないかな」

『【精霊支配】の異能者探しは不要だと言っても、その答えは変わらない?』

「……どういう意味? 時間があまり残されていないことは貴女だって理解しているはずだよね? 一刻も早くオルンと【精霊支配】の異能者を…………。――まさか……」

シオンが怪訝な表情を浮かべながらティターニアに問いかける。

しかしその問いの途中でシオンは自力で答えに辿り着いた。

『頭の回転が早くて助かるよ』

「オルンと【精霊支配】の異能者は既に接触している……?」

シオンが動揺しきった表情で呟く。

『そういうこと。オルン・ドゥーラは【精霊支配】の異能者と既に接点を持っている。図らずもその立役者がウチってわけ。シオン・ナスタチウム、お前がやろうとしていたことは、過程はともかく結果的にウチが終わらせている。だからその異能者探しに充てようとしていた時間をウチに頂戴』

「そういうことなら協力も吝かじゃないけど……」

『そんなに警戒しなくていい。ウチは傍観者で居ることを辞めたから、味方だと思ってもらって構わない』

「貴女が今更教団側に付くとは思ってないからそこは信用してる。それで、私に何をさせたいの?」

『単なる間引きだよ。これから激化する戦いに備えてのね』

「やっぱりこれからが本番なんだね。わかった。その代わり私の方も貴女の力を借りるよ」

『ウチが協力できる範囲で良いなら力を貸そう』

「ん、それじゃあ交渉成立。ティターニアの力が借りられるなんて、虎に翼ってやつだね」

『虎に翼、か。自分のことを強者と言うその昂然とした態度を見ると、お前はアイツの子孫なんだと実感させられるよ』

「ふふっ、なんたって〝先祖返り〟だからね。でもさっきも言ったけど、私は私。その人とは別人だから」

『まぁ、そのくらいでないとウチの調子が狂いそうだし、良しとするか』

こうして《白魔》と妖精の女王による暗躍が始まった。