軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ:スライムはアッシュポートに帰還する

一月ほどの極東への旅を終えて新たに購入した屋敷のあるアッシュポートに向かっていた。

帰路は順調だった。たまに出てくる魔物も俺が馬車から飛び出して食べてしまっている。

もはや、俺はか弱いスライムではない。上位の魔物に匹敵する力がある。

この辺りに出てくる弱い魔物など、ものの数ではない。

順調な旅だが、シマヅがいないせいで寂しくはある。

それはオルフェもニコラも同じようだ。どことなく元気がない。

こういうときこそ、可愛いスラちゃんの力の見せ所だ。

落ち込んでいるご主人様を慰めてあげないと。

「ぴゅいっ、ぴゅいっ」

精一杯媚びた鳴き声をあげつつ、オルフェの膝の上にのって体をすりすりする。

スライムのぷるぷるボディには癒し効果がある。

出来るスライムは甘え上手なのだ。

「スラちゃん、もしかして元気づけてくれるの?」

「ぴゅいっ!」

「ふふっ、ありがとう。落ち込んでばかりもいられないもんね。戻ったらすることがたくさんあるし」

オルフェもニコラもたくさんの研究を手掛けていた。

それらがずっと手付かずになっている。

「オルフェねえばっかりずるい、スラ。ニコラも慰めて」

ニコラが腕を広げて、俺をじっと見ている。

……もてるスライムは辛い。

ニコラも慰めてやろう。

「ぴゅいぴゅっ♪」

ニコラの胸に飛び込むと、ニコラが俺を抱きしめてくれた。

いつも通り硬いニコラの胸。

ぴゅい?

少しだけ成長している。ニコラはまだ十四。成長する余地はあるとは思っていたが、もしかしたらニコラもいつかオルフェのように……いや、無理だろう。そこまでは成長しない。

ぴゅふう、とにかく娘の成長が感じられてうれしい。

オルフェがにこにこと笑いながら俺の体を見ている。

「スラちゃんの体の色がまた変わったね」

「ん。赤っぽい紫っていうか、ちょっと怖い色」

【邪神】を取り込むたびに進化して、俺の体の色は変わっている。

そして、今回は体の色の変化とステータスの強化だけでは済まなかった。

邪神や、その眷属にのみ許された瘴気の生成を自在にできるようになっている。

ある意味、俺はすでに邪神になっているのかもしれない。

……本来なら悲しむべきだろうが、そこは大賢者である俺だ。

今まで謎だった瘴気について調べるチャンスだと思ってしまう。

この力を調べることで、オルフェの心臓に封じた最強の邪神、【憤怒】のサタンをどうにかできるかもしれない。

そんな希望もある。

「ぴゅふふふふふ」

幸いなことに、さらに魔術回路の数と質も向上していた。

今まではかろうじて、風と水の魔術が使えるぐらいだったが、ある程度の汎用魔術も使えるようになったし、いろいろな分析も捗る。

それだけでも嬉しいが、汎用魔術を使うことで変身の精度を上げられる。

人間になるという夢が大きく近づいている。

「オルフェねえ、スラが気持ち悪い笑い方してる」

「あははは、私もちょっとだけ、そう思うかな」

「ぴゅいぃ……」

娘たちに邪心を見抜かれてしまったようだ。

気をつけよう、彼女たちに隠れつつ、よりよいスライムライフと人間に戻るための研究を続けるとしよう。

数日の旅を経て、アッシュポートについた。

「スラちゃん、やっと戻ってこれたね」

「ぷゅいっ!」

懐かしい第二の故郷だ。

滞在期間は短かったが愛着はある。

ゴーレム馬車で街に入り、屋敷を目指す。

「オルフェねえ、スラ。屋敷についたら、なじみのポーション屋にポーションを売りに行く予定。一緒にいかない? この前、美味しい菓子店を見つけた」

「ぴゅいぴゅい!」

俺も覚えている。

あそこのシュークリームは絶品だった。カスタードクリームが素晴らしい。

ぜひとも、行きたい。昔から甘い物には目がない。

「素敵だね! うん、いくよ。私は服も買いたいかな。そろそろ寒くなって来るころだしね。極東の着物はこの街じゃ浮いちゃうし」

「そういえば、そうだった。ニコラも着替えを買わないと。軍資金は任せて」

「今回は甘えるね。……私も、定期的な収入が必要かも。ニコラに甘えてばかりじゃいられないし」

ニコラはアッシュポートの商店とポーションを納入する契約をしていた。

ニコラのような超一流の錬金術士は引っ張りだこだ。なにせ、一級品のポーションを安定生産できる錬金術士は非常にまれだ。魔物が多く存在するこの世界でポーションの需要は常にある。

「別にオルフェねえが無理することはない。適材適所。錬金術士は儲かる職業だから軍資金はニコラががんばる」

「ううう、魔術士だって、やってやれないことはないんだよ」

「……オルフェねえ、頼むから非合法なことは止めて」

「わかってるよ。でも、なにか考えとくね」

ニコラの言う通り、錬金術士は金には困らない。ポーション、武器や防具、マジックアイテム。どれも非常に有用で高値がつく。

一方、魔術士はなかなか稼げない。むしろ研究にがんがん金を使う。

俺はかつては魔術士一本だったが、研究費用に困り果てていた。

そこで錬金術士なら稼げると、ちょこっとかじるつもりで……どはまりしてしまった。

一度そっちに手を広げるとあとは泥沼だ。自分で作った武器を使ってみたくなったり、ポーションの薬効を深く理解し改良するために医術を学んだり、そうやって手を広げていくと何度か国を救うことになって、爵位を押し付けられてしまった。いろいろと利権やら、政治がらみで嵌められることが多くなり、同じ土俵にあがる必要が出て、そちらの分野でも頑張ってと……。

すべての分野を極めようとして極めたわけじゃない。ただ、必要なことや興味を持ったことを片っ端からやっていった結果、大賢者マリン・エンライトが完成した。

そんなことを考えている間に街を抜けて、俺たちの屋敷にたどり着く。

「オルフェねえ、ついた」

「懐かしの我が家ですね」

「スラ、ニコラはポーションの準備をしてくるから擬装用の四足ゴーレムを片付けて。オルフェねえは馬車の荷物をお願い」

「うん、いいよ」

「ぴゅいっ!」

馬のいない場所が不審に思われないように馬車を引かせていた四足歩行ゴーレムを【収納】し始める。

ここで新必殺技だ。

今までの俺は、口に入るサイズのものしか【収納】できず、大きなものは分解しないといけないという制限があった。

その制限を超えるために技を編み出したのだ。

一瞬で【収納】してあったスラちゃんたちと合体し、さらに密度を低くして大きく膨らみ口をあける。

ジャイアントスライムモード。これなら、四足歩行ゴーレムもぺろりといける。

「ぴゅふぅぅぅ」

げっぷり。

一口で【収納】したあとはしぼんでいく。

口に入るサイズのものしか入らないなら、巨大化すればいいじゃない。

単純な発想だが、なかなか気づかないものだ。

「スラちゃん、一瞬だけすっごく大きくなった」

「びっくりした。スラ、そんなこともできたんだ」

「ぴゅいぴゅい♪」

そう言えば、この子たちにはまだ見せていなかったか。

シマヅを聖上たちから助けるときにも使った。

大きくならないとシマヅを体の中に入れて守るなんて真似は出来なかった。

馬車の荷物をみんなで屋敷の中に運び、しばらく使わないものは俺が【収納】する。

一通り片付き、ニコラがポーションを工房から持ってきて、さあ街に出ようとしたときだった。

「あっ、ゴーレム鳩」

エンライトの姉妹たちが通信に使うゴーレム鳥。

それらは、姉妹ごとに微妙にデザインが違うので誰が送って来たかは一目でわかる。

「ヘレン姉さんだね」

「ヘレンねえ、無理してないといいけど」

オルフェがゴーレム鳥から手紙を受け取る。

ぴゅいっとオルフェの肩に乗って手紙を覗き込む。

【医術】のエンライト、ヘレン・エンライト。

天使の翼をもつ聖女にして、長女。

早く手紙が見たい。

ヘレンとはずいぶん連絡を取っていない。元気にしているか、ずっと気になっていたのだ。