軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:スライムは極東を去る

目を覚ます。

【怠惰】の邪神ベルフェゴールとの戦いが終わったあと、邪神を取り込んだことで進化した。

反動で疲れ果て眠ってしまったところまでは覚えている。

空が薄暗い。

立派な庭園が眼前に広がっている。それに温かくて柔らかい感触に包まれている。

「ぴゅい?」

ここはカネサダの屋敷の庭?

なぜ、こんなところに。

「父上、やっと目を覚ましたのね」

シマヅの声が聞こえる。

俺はシマヅの膝の上で眠っていたようだ。

「ぴゅいぴゅ?」

「あれから、聖上の屋敷に戻って大宴会があったの。鬼と邪神を倒したことをお祝いをしたわ。私の活躍が認められて、取り潰しになったサイオウの家が復活した。私は継ぐつもりはないから、カネサダに押し付けちゃったけど」

なるほど、その宴会も終わって屋敷に戻ってきたわけだ。

シマヅは団子と酒を片手に一人たそがれている。

オルフェとニコラがいないところを見ると、あえて一人になったようだ。

「ぴゅいぴゅ(もったいない)」

「いいの、私はもうエンライトだから。カネサダも喜んでいるわ。あの人は本当に父上を慕っていたから」

その父上というのは、産みの親のほうのことを言っているのだろう。

今日は月がきれいだ。

いろいろと面倒ごとが片付いたこともあり、夜空を楽しむ余裕がある。

「ねえ、父上。カネサダに求婚されたの」

「ぴゅふっひぃ」

あまりの驚きに変な声が出てしまった。

「カネサダは私とサイオウの家を生涯まもっていくから、嫁に来てほしいって土下座してきたわ」

カネサダか、なんだかんだ言って極東一の刀工というのは伊達ではなく、資産家だ。

性格も一本筋が通っていて悪くない。

もともと、全力で戦うために自分に見合う刀を作るという目的で刀工になっただけあって強い。

シマヅのことを大事にしてくれるのも間違いない。

だけど……。

「ぴゅむむむむむむ」

嫌だ。

シマヅに嫁に行ってほしくない。だが、シマヅのためには。

「父上、すごい顔しているわ。私の結婚に反対なのね。嬉しい」

「ぴゅむ?」

反対されて喜ぶ? わけがわからない。

「安心して、断ったわ。私には好きな人がいるもの」

「ぴゅいっぴゅ!!(だれだ、知らないぞ!!)」

「ふふ、秘密。私だって、もう十六よ。好きな人ぐらいいるわ」

まずい、まずいぞ。

今までエンライトの姉妹たちは男っ気がまったくなくて安心していたのに、まさかシマヅに好きな男性がいたとは。

気になる。

どうにかして聞きださないと。

「あのね、父上。オルフェとニコラの前に父上が人間の姿で現れたって聞いたとき、どうしようもなく嫉妬したの」

「ぴゅいぃ」

そう言われると辛い。

シマヅのピンチになれば、【進化の輝石】を使って救うつもりだった。だが、シマヅは自分の力だけで乗り越えた。

シマヅに会うためだけに【進化の輝石】を使うわけにはいかない。

石は残り一つしかない。材料の一つであるゲンマ石を手に入れたものの、まだ必要な材料があり、作成にも時間がかかる。

「父上、私のために切り札を使う必要はないわ。ただの愚痴よ。昔から、私は甘えるのが下手だった……ずっと、ずっと、オルフェたちがうらやましかった」

遠い目でシマヅは月を見る。

「私はなんでも一人でやれた。失敗することは少なかった。失敗して、父上に泣きつくあの子たちを見て、嫉妬していたの。父上にあんなにかまってもらってずるいって。今回も、私だけ一人で出来ちゃった。そのせいで、オルフェや二コラみたいに、父上にぎゅっとしてもらえなかったわ。私がもっとダメな子だったら、父上に助けてもらえて、抱きしめてもらえたのかしら?」

「ぴゅい……」

シマヅは強すぎる。

俺の力を必要としないぐらいに。

姉妹たち全員を平等に愛しているつもりだが、シマヅを甘やかしてやれていないことは事実だ。

スラとなった俺には過剰にスキンシップを取ってきたのは、その反動かもしれない。

「でも、やっと吹っ切れたわ。これでいいの。今のままで、できることを全力でやっていくわ。父上に甘え上手な娘じゃなくて、父上の自慢できる娘を目指すの」

その声には力があった。

ただ、俺はそれだけだと寂しいと思う。

だから、父親としての言葉をかけよう。

「イツカ、カナラズ、ニンゲンニモドル、マッサキニ、シマヅノトコロイク。ソシテ、ダキシメテヤル」

声帯の作成もだいぶうまくなってきた。

シマヅはにっこりと笑った。

「ええ、楽しみにしているわ。そのときは思いっきりぎゅっと抱きしめてね。これぐらい」

「ぴゅげっ」

つぶれる。

スライムボディがちぎれる。

強く抱き着きすぎだ。

……いいだろう、無事人間の姿になれるようになったら、しっかり仕返ししてやる。

ふふふ、力任せの抱擁がどれだけ苦しいか教えてやる。

朝が来た。

昨日は、シマヅと一緒に眠った。

カネサダとオルフェ、ニコラ、シマヅを交えての朝食の最中だが、どこか空気が重い。

きっと、シマヅがカネサダのプロポーズを断ったからだろう。

朝食は相変わらずうまい。シマヅお手製の極東料理だ。

無言で、食事が進んでいく。

窓から鳥が入ってくる。あれはゴーレム鳥、ニコラの発明品で、姉妹たちの情報伝達に使われる。

あれは確か、アッシュポートでクリスに渡したゴーレム鳥。

足に括り付けてあった手紙をオルフェが広げる。

俺はオルフェの背後から手紙を覗き込んだ。

「ニコラ、シマヅ姉さん。クリスからの手紙だよ。一通り片付いたから、戻って来ても大丈夫だって。【嫉妬】の邪神の封印を解いちゃったのは大問題だったけど、エンライトの姉妹たちと協力して、滅ぼした功績で帳消しになったみたいだよ」

なかなか、うまく立ち回ったようだ。

クリスは手柄を横取りするためではなく、エンライトの姉妹と協力という形なら、アッシュレイ帝国の体面を保てるから、あえてそういう言い方をしたのだろう。

そして、丸く収めた。

さすがは公爵家の娘。いろいろとあいつに叩き込まれているようだ。

「良かった。ならさっそく、アッシュポートに戻ろう。ちゃんとした研究設備がないと、研究がはかどらない」

「だね、極東の技術は面白かったけど、そろそろ自分たちの研究を進めたいかも」

オルフェとニコラが頷き合う。

二人とも研究の虫だ。あの屋敷が恋しいのだろう。

「オルフェ、ニコラ、そういうことなら、少しお別れね。私は極東でやることがあるわ」

シマヅがお茶碗を置いて、口を開いた。

「今回の神降ろしを見たセイメイが、淀みを生まない方法を見つけたと言ってるのよ。それにはサイオウの血が必要で、私も協力するつもり。数か月はかかるわ。アッシュポートには二人で戻りなさい」

「なら、私たちもやっぱり」

「バカなことを言わないで、二人は【魔術】のエンライトと【錬金】のエンライトでしょう。あなたたちの歩みを止めてはダメよ。戻りなさい」

オルフェとニコラは何も言い返せない。

シマヅの言っていることが正しいとわかるのだ。

「わかったよ。シマヅ姉さん、お仕事が終わったら帰って来てね」

「もちろん、そのつもりよ。そんなに長くかからないわ」

寂しくなるな。

シマヅが帰ってきてから、ずっとにぎやかだった。

それで話は終わりだ。

さっそく、今日の午後には出発が決まった。

ゴーレム馬車の準備ができた。

荷台には、かなりの荷物が積まれている。

聖上からの褒美が与えられたおかげだ。

俺の【収納】はなるべく見せないようにしているので、人目がなくなるまでは重い馬車で旅をする。

見送りに来ている人たちがいる。

カネサダ、シマヅ、セイメイとその弟子たち。

短い間だが、かなり知り合いが増えた。

「みんな、そろそろ行くね、本当にありがとう」

「カネサダ、東の刀工を教えてくれてありがとう。西に戻ったら、お礼の品を送る。きっとカネサダの力になるはず」

オルフェとニコラがそれぞれに別れの言葉を告げる。

シマヅがほうを見る。

「スラさん!!」

「ぴゅい!」

シマヅが叫ぶ。

泣きそうな、顔を見ると体が自然に反応した。

俺は馬車から飛び降りる。

すると、シマヅがぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい。お別れだと思うと、急に悲しくなって、最後にもう一度だけ抱きしめさせて」

「ぴゅいぴゅ」

それぐらいのわがままを聞こう。

三十秒ぐらいそうしていたのだろうか、シマヅが腕の力をほどく。そして、柔らかい感触。

シマヅがスライムボディにキスをした。

それから、俺を馬車の中へと運ぶ。

「さよなら元気で。オルフェとニコラ、元気にやるのよ」

「シマヅ姉さんこそ」

「シマヅねえ、刀に何かあったらゴーレム鳥で手紙を送って。なんとかする」

話は終わりだ。

馬車は走り出す。

最後に俺は馬車から顔を出す。

「ぴゅいぴゅーーーーーー!」

感謝の言葉を伝える。

極東での旅は終わりだ。

アッシュポートに戻れば、またいつもの日常が始まる。

この旅で得たたくさんの物はきっと、オルフェとニコラ……俺をも成長させるだろう。

ここに来てよかった。

そうして、馬車は走っていく。

寂しいのは俺だけではないようだ。

無言で、オルフェが俺をぎゅっとする。ちょっとだけいつもより力が強い。

しょうがない子だ。可愛いペットとして慰めてあげよう。

きっと明日には元気を取り戻すはずだ。

今日も、スライムはエルフ養女に抱きしめられてます。