軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話:スライムは巫女姫と遊ぶ

暗殺を防ぐため、エレシアの影武者になることになった。

そのためには事前準備がいる。

誰にも感づかれることなくエレシアと接触しないといけない。幸いなことに、エレシアの護衛についていたスラブルーからエレシアがいつ一人になるかは教えてもらっている。

そのタイミングが来れば連絡が来る手はずだ。

そして……。

「ぴゅいっぴゅ! ぴゅい!(オルフェちゃんが一番可愛いよ。おっぱい大きいし、家庭的で清純派だし!)」

「ぴゅいぴゅいぴゅい!(ニコラ様に決まっているでしょう。胸など脂肪にすぎません。貧乳こそステータス。妖精のような可憐さに、ときおり見せるその笑顔がぐっと来ます)」

「ぺっ、ぴゅひぃっぴゅ(これだから素人は……シマヅに決まってんだろ。凛とした表情と隙の無い佇まい、なのに本当は一番乙女で。キツネ尻尾と耳を見ると感情が漏れ漏れなのも最高)」

「ぴゅいぴゅいっぴゅ(溢れる母性のヘレン様なんだな、あの胸に顔を埋めていい子いい子されたら天国に行けそう)」

『ぴゅいっぴゅぴゅ(私はレオナ様が一押しです。あの完璧な外面からは想像できない腹黒さ、それすら演技でそのさらに内側には純真な内面が……)』

なぜか、スライムファイブどもがエンライトの姉妹で誰が一番可愛いかで盛り上がっている。

スラブルーに至っては、念話での参加だ。

「ぴゅい。ぴゅぴゅっぴ……ぴゅい(俺の目の前でいい度胸だな。娘たちに手を出したら……消すぞ)」

「「「「ぴゅっ、ぴゅひぃぃぃぃ!(もっ、申し訳ございません!)」」」」

こうして、釘を刺しておかないと可愛い外見を活かし、小動物のように無邪気なふりをして飛びついて娘に甘えようとするだろう。そして撫で撫でしてもらったり、あまつさえ、ぎゅーっとしてもらうつもりなのだ。

まったく、なんて奴らだ。悪知恵が働きすぎだろう。

性根を叩きなおすために説教を開始する。

教育が必要だ! いったい誰に似たのか……説教タイムが一時間を経過したころ、スラブルーの表情が反省モードから仕事モードに変わった。

『ぴゅいっ、ぴゅいっぴゅ!(ボス、ターゲットが移動しました。浴場に向かっています』

「ぴゅむ、ぴゅぴゅう(うむ、ごくろう)」

いよいよ、出発のときか。

エレシアが一人になるタイミングは風呂とトイレぐらい。紳士な俺としては、風呂を選んだ。

エレシアへの配慮であり、俺自身そういう趣味はないからだ。

「ぴゅいっ、ぴゅいぴゅ!(俺がいない間、娘たちは任せた)」

「「「「ぴゅいっさ!」」」」

スライムファイブ、とくにスラブルーとスラグリーンは侵入者を見落とすことが100%ありえない。

【気配感知】【魔力感知】のほか、常に人の耳どころか、キツネ耳ですら拾えない超音波を放って、エコーさせて監視をしている。

気配を消すことや魔力を絶つことはできる。

それでも、存在そのものを消すことはできない。超音波の反響で立体視していればどんな手練れだろうとこの二体は気付く。

たとえ、超音波を無効化できたとしても無効化されたことで侵入者がいると判断できるのだ。

……侵入者が入り込んだことさえわかっていれば、シマヅがなんとかしてくれる。

彼らとシマヅがいる限り、いかに【影】のエンライトと言えど暗殺は不可能。

娘同士の殺しあいなんて見たくないので、スライムファイブにはがんばってもらう。

クレオになんとか連絡を取れれば一番いいのだが、現状うまくいっていない。

数百体の偽スラちゃんで監視網を構築しているが、未だ発見の報告は上がってこないのだ。

「ぴゅいっ!(行ってくる)」

エレシアは長湯するほうだが、急いだほうがいいだろう。

スライムファイブに見送られながら俺は透明化と【飛翔Ⅱ】を使い、こっそりと屋敷を抜け出した。

アッシュレイ帝国の連中は俺たちを監視しているが、奴らに見つかるほど間抜けじゃない。

なにせ、オルフェは偽スラちゃんと一緒にいて、それが偽物だとすら気付いていないのだから。

城に潜入する。

厳重警戒中だが、俺から見ればザルでしかない。

仕事がやりやすくていいのだが、これで王族が守れるのかと心配になってしまう。

今は無色化したまま、堂々と天上近くをするすると進んでいる。

……こうして自分で潜入すると確信する。

クレオが本気なれば容易く潜入できるだろう。

なら、なぜあの子はまだ動かない?

あの子が依頼を受けたのなら、エレシアがまだ生きていること自体が異常だ。

必ず、今は動いてはいけない理由があるはず。

そのあたりが、彼女がいつ暗殺を行うかのヒントになるだろう。

「ぴゅいっ」

どんどん城の上階へと昇っていく。

この城の四階以上は王族専用であり、さらに警備が厳重……だというのに。

「ぴゅい……(お粗末すぎるだろう)」

結界も、警備兵も。何もかもがザル。

頭が痛くなってきた。

楽々突破して、王族専用の浴場を目指す。

浴場の位置まで、スラブルーに教えてもらっているので迷わない。

スラブルーが浴場の位置を知っているのは、エレシアを守り続けているからだ。

それを責めるつもりはない。これだけザルな城で暗殺者に狙われているのだから、一時でも離れることはエレシアの身を危険にさらすことになる。

……ただ、俺は知っている。監視をしているスラブルーからたまーにいやらしい思念が流れてくることに。

嘆かわしい。スライムの恥だ。

今日は説教が中途半端に終わったが、こんど徹底的にやろう。スライムは紳士でないといけない。

ついに浴場の前まで来た。

女性の護衛が扉の前に立っている。

さすがに扉を開ければ気付かれるだろうが、隙間からにゅるっと液状化して入り込む。

更衣室には、エレシアの脱いだ服が置かれいた。

相変わらず、エレシアはピンクが好きだなと思う。

さらに、音もなく浴室に入る。

浴室に入るなり、【気配遮断】加えて、嗅覚と聴覚で俺の他に客がいないかを確認する。

よし、大丈夫だ。

エレシア一人しかいない。

彼女に近づいていく。

「~~~~~♪」

足を延ばして鼻歌を奏でている。

浴場は泡立っており、いわゆる泡ぶろだ。良く泡立って真っ白で、浴槽の中身が見えない。

「ぴゅいぃ……」

別に残念だなんて思っていない。

いきなり声をかけて悲鳴でもあげられたら、騒ぎになる。

どうしたものか?

よし、いい案が浮んだ。

とりあえず、近づこう。

「ふう、疲れちゃいました。もう、うんざりです。全部、投げ出したい」

ジト目になったエレシアが顔の半分を沈めてぶくぶくと息を吐き出した。

子供っぽい仕草だが、一人のときはこうやって息抜きしているのだろう。

「でも、がんばらないと。オルフェ様たちが帰ってこられるように!」

……うるっと来てしまった。

そうか、俺たちが帰れるようにエレシアは頑張ってくれていたのか。

このタイミングで本音が聞けた幸運を噛みしめよう。

じりじりとエレシアに近づく。

透明化と気配遮断のおかげでまだ気付かれてない。

さてと、そろそろいいか。

「ぴゅいっ!」

透明化と気配遮断を解いて元気に挨拶。

エレシアが驚きに目を見開いた。

そして……。

「きゃっ、んん、んん」

叫ぼうとして、それはできなかった。

なぜなら、その口がスライム触手でいっぱいだから。

危なかった。こうなることを予測していたからこそ素早く対応ができた。

「んんんんんんんんんん」

さらにパニックになった。

おかしい、想定外だ。エレシアがバランスを崩して頭を壁にぶつけそうになったので、別のスライム触手で抱き留めた。

それでも暴れるので、さらに触手を増やして拘束する。

目の前には、口にスライム触手を突っ込まれ、全身をスライム触手で縛られたエレシアがいた。

……凄まじい絵面だ。ちょっとエロい。

それにしてもよく育っているな。オルフェといい勝負だ。ただ、よほど疲れているのか肌が荒れている。あとでポーションをプレゼントしよう。

しばらくするとエレシアがぐったりしてきた。

とりあえず、俺だと気付いてもらえるようにうるうる可愛い顔で見つめながら、触手の拘束をちょっとずつ緩める。

エレシアがようやく俺に気付いたようで、パニックが収まった。そろそろ触手を引き抜いてもいいだろう。

「ぷはっ、オルフェ様のスラちゃんですか?」

「ぴゅいっ!(そうだよ!)」

「ということはオルフェ様が来てくれたんですね。とってもうれしいです」

「ぴゅふ~」

ぎゅっと抱きしめられる。

この感触、やっぱり、オルフェ並に成長しているのは正しかった。

それにいい匂いがする。女の子は不思議だ。可愛い子はみんないい匂いがするがそれぞれ特徴が違う。

ああ、それにやっぱり生はいい。

正体がばれてからと言うもの、シマヅ以外は一緒にお風呂に入ってくれなくなった。

この感触は懐かしい。満足だ。

「ぴゅいっ!」

しっかりと堪能してから、【収納】していた手紙を渡す。

レオナが用意したものだ。

その手紙には、暗殺者、それもエンライトの六人目に狙われていることや、俺がレオナと入れ替わるためにやってきたことが書かれている。

「そういうわけなんですね。なら、スラちゃん。思う存分、私の匂いと魔力を吸収してください」

「ぴゅいっ!」

「きゃっ、くすぐったいです」

脇や首筋を舐める。

やましい気持ちは一切ない。匂い成分を摂取するにはこれが一番効率がいい。

お風呂とくすぐったさのせいでエレシアの肌は真っ赤になる。

これぐらいでいいだろう。

「ぴゅいっ!」

手紙の続きを読むように告げる。

続きには俺の体に全力で魔力を注ぐように書いてあった。

「わかりました。いきますね」

柔らかな手が俺の体に触れ、強力な巫女姫の魔力が流れ込んでくる。

ぴゅぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃ。

思わず悲鳴を出しそうになるのを全力で堪える。

……普段は瘴気を漏らさないように細心の注意を払っているが、俺は体内で瘴気を生成する邪神でもある。

そんな俺にとって、エレシアの聖なる魔力は毒になるようだ。

【創成】で専用回路を増設、巫女姫の魔力だけを循環させるようにする。

対応が遅れていれば修復不能なダメージを負っていたかもしれない。

改めて、俺は邪神に進化してしまったのだと気付かされる。

「これぐらいでいいですか?」

「ぴゅいっ!」

これだけ有れば、巫女姫を二~三時間演じるには十分だ。後ほど魔力バッテリー用の偽スラちゃんに保管しておこう。

さて、これで仕事は完了だ。

手紙を回収したし、あとは誰にも見つからずに帰るだけでいい。

ただ、エレシアが名残惜しそうにしているので、一緒に湯船につかる。エレシアが微笑み、話しかけてくる。

「オルフェ様たちが、私を守ろうとしてくれてるなんて嬉しいです。スラちゃん、オルフェ様とニコラは元気ですか?」

「ぴゅいっ!」

「それは良かったです。なら、伝言をお願いしますね。もうすぐ、オルフェ様たちが戻ってこれるようにできます。そしたら、あの家に遊びに行って、ちゃんとマリン様とお別れをさせてください……って言っても、スラちゃんに伝言なんて無理ですね」

「ぴゅんぴゅん」

首を振る。

「そうでした。スラちゃんはかしこいんでしたね。今日は来てくれてありがとう。久しぶりに、信じていい人に会えました」

ぎゅっと抱きしめられる。

たぶん、この子はずっと心細かったのだろう。

そんな中、俺たちが帰ってこられるように頑張ってくれた。

それなら、お礼にサービスするのが 紳士(おとこ) というものだ。

「ぴゅいっ!」

「きゃっ、くすぐったい」

そうして、俺はたっぷりエレシアを慰めた。

彼女が元気になったのを確認して、浴場を出て透明化する。

いいことをした後は気持ちがいい。

さあ、これでいつでも入れ替われる。

作戦は順調だ。

あとはクレオが暗殺を行うタイミングを突き止めればいい。

レオナのことだ。もう、だいたい目星は付いているだろう。