軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:スライムは作戦を練る

暗殺に特化したエンライト、【影】のエンライトであるクレオからエレシアを守るのはほぼ不可能だ。

もし、シマヅとクレオが真正面からぶつかり合えばシマヅが圧勝するだろう。

だが、クレオは戦闘などさせてはくれない。そうなる前にすべてを終わらせる。それが暗殺者。

言ってしまえば、戦闘になってしまう時点で三流でしかなく、超一流たるクレオに限ってそれはない。

シマヅが戦闘に特化しているように、クレオは暗殺に特化している。どちらが上というわけではなく得意分野の違い。

だからこそ、守れないなら、いっそ殺させてしまうとレオナが言う。

「って、ダメだよ。エレシアを守らないと」

「オルフェお姉ちゃん、ちゃんと話は最後まで聞いて。……すごく古典的な手だけどエレシアを偽物とすり替える」

「でも、エレシアの影武者なんてそうそう見つけられないよ。あれだけの美少女だし、ふわふわの桜色の髪も巫女姫の特徴。染めるにしてもあの色合いを塗料じゃ出せない。仮に何とか影武者を見つけても暗殺の専門家なら見破れる」

「……そうね、一度でも下見をされていたら、気配や匂い、纏う気でわかるわ。それにあの子は巫女姫よ。外見ならともかく、あの独特の聖気はどうしようもないわ」

レオナは偽物と入れ替えることを提案したが、シマヅの言う通り生半可な影武者ではクレオを欺けないだろう。

影武者を身代わりにするというのはさして珍しい手ではなく、クレオも警戒しているだろうし、本番前にエレシアの実物を見て、その姿を、匂いを、声を、気配を、気を、魔力を覚えている。

しかし、そんなクレオですら騙せる可能性がある影武者が一人だけいる。いや、一匹か。

「パパならできるよね」

その問に答えるために変身してオルフェの姿になる。

進化を繰り返した果てに強化された変身能力を【創成】で強化すれば、こんなこともできる。

ただ、魂に刻まれ、肉体を丸ごと吸収した大賢者の姿よりも負担は数段大きい。

「可能ではある。だが、見た目と声が限界だ。それ以上のクオリティを上げようとするなら材料がいる。……逆に言えば、材料さえあればここまでオルフェに近づける」

オルフェの声で、俺は語る。

シマヅが近づいてきて、くんくんと匂いを嗅ぐ。

「オルフェの匂いがするわ。どうやって実現しているのかしら?」

「簡単だ。オルフェの匂いの素を体内に貯蔵しているからそれを使った」

「えっ、お父さん。それ、かなり恥ずかしいよ!」

「……一応言っておくが、偶然だ」

スラちゃんとして共に過ごしていた。

オルフェと一緒に温泉に浸かったりする機会もあり、そのときに温泉の水を摂取しており、当然オルフェ成分も含まれている。

それを使うことでオルフェの匂いを演出し、【隷属刻印】の繋がりから、オルフェの魔力を拝借している。

……別にやましい気持ちがあったわけじゃない。水はスライムの武器となる。あくまでたまたまだ。

ニコラまで近づいてくる。

そして、俺の胸を揉む、それも執拗に。

オルフェが真っ赤になって、俺からニコラを引きはがす。

「すごい、ここも一緒。羨ましい……これ、応用できるかも。スライム細胞に自分の細胞を吸収させてから変質させて、癒着させれば何もかも思いのまま。ニコラもオルフェねえみたいに」

ニコラがほの暗い笑みを浮かべている。

ニコラは、その薄い胸を気にしていたからな。

……何が怖いかって、それがニコラの腕であれば実現できてしまうことだ。

「ニコラはそのままが一番可愛いよ。大きいのが似合う者と似合わないものがいるんだ」

ニコラの妖精のような可憐さには巨乳は邪魔だ。

ただ、あと少しはあったほうがいいと思う。

「父さんにニコラの気持ちはわからない」

とても冷めた声だ。理解されることを諦めきった突き放す言葉。それは、クリスの父にして、俺の兄弟子の最後の言葉を思い起こさせる。

というか、どうしてこんな話題でここまでシリアスになれる。

見かねて、ごほんっとシマヅが咳払いをして本題に話を引き戻した。

「わかったわ。つまり、エレシア本人と会う必要があるわけね。エレシアに会って、体臭の成分と魔力を確保すれば完璧な影武者ができるわ」

「そうだな。今の俺であれば可能だ……そうだな、二時間。二時間なら見分けがつかない、ほぼ同一の存在となれる」

それを聞いて、レオナが思考を巡らせる。

二時間という枠はかなりきつい。

「……つまり、入れ替え作戦には三つのハードルがあるわけだね。一つは、暗殺されるタイミングの特定。パパの変身している二時間の間に殺されないといけない。もう一つはどうやってエレシアと入れ替わるか、最後にエレシアの匂いと魔力をどうやって手に入れるか。二つ目が特に問題だね。騒ぎになった時点で、暗殺者にも感づかれるだろうし。殺される直前にばれずに入れ替わるのはかなりきついよ」

今は、エレシアは厳重態勢で守られている。侵入者が現れれば、気付かれるだろうし、その守りについてる者たちの何割かは暗殺者の手引きをしており、どちらかと言うとエレシアの監視と言うべきだ。

クレオに依頼したものへ、侵入者がいたという情報が行く。

クレオなら、その情報だけでこちらの意図を読みかねない。

その監視に気付かれないように近づくにはどうすればいいか。

「エレシアの護衛についている分身に話を聞いてみよう。あの厳重な警備でも一人になる時間はあるだろう」

ずっとエレシアを守っていたスラブルーにテレパシーで連絡する。そのために目を閉じ、意識を内側に集中した。

『ぴゅい、ぴゅいぴゅ(スラブルー、応答しろ)』

『ぴゅい~、ぴゅっぺっ(なんすか、ボス)』

……おかしい。

いつものスラブルーは丁寧な物腰でやる気に溢れているのに、言葉遣いが適当だし、トーンがすごく低い。

『ぴゅいっ?(何かあったのか?)』

『ぴゅい、ぴゅいっぴゅいぴゅ(何も、何もないんですよっ)』

さきほどとはうって変わってスラブルーが激昂し始める。

『ぴゅいー、ぴゅいぴゅいぴゅー! ぴゅいぴゅ、ぴーぴーぴゅっぴゅいっ!!(新参者がやってきたと思ったらリーダーになって、スライムファイブの名乗り口上やポーズの練習で、わいわい盛り上がって。あげくに果てに合体技のスラフィニッシュまで生み出したんです! 全部、俺抜きで!! やってらんないっすよ)」

「ぴゅっ、ぴゅい(そっ。そうか)」

スラブルーがひたすらテレパシーで愚痴を言っている。

相当不満が溜まっているようだ。それでも仕事である監視をしっかりしている辺りは、スラブルーらしい。根はすごく真面目なのだ。

そういえば、この前スライムファイブのスラブルーを除いた連中がやってきたと思えば、いきなりポーズを取り出したな。

『ぴゅうぴゅうぴゅ、ぴゅいっぺ!(燃え盛る情熱の炎、スラレッド!)』

『ぴゅるぴゅいぴゅい、ぴゅいっぷ!(冷酷なる漆黒の闇、スラブラック!)』

『ぴゅぴぃぴゅっぴゅうぴゅ、ぴゅいっぴ!(千の顔を見せる雄大なる森、スラグリーン!)』

『ぴゅうぴゅぴゅおぴゅるぴゅるぴ、ぴゅいっぴゅ(太陽の光を受け天に伸びるひまわり、スライエロー!)』

『『ぴゅいっぴゅっぴゅぴゅう!(五人そろってスライムファイブ!)』』

名乗りと共に、それぞれがまったく別のポージングを決め、最後は組体操のように絡まり合い、背後に赤、黒、緑、黄、四色の大爆発を引き起こす。

まったくもって意味がわからないが、スライムファイブの連中が心底楽しそうだったのを覚えている。

……あいつらがお茶目なのは俺に似たのだろうが、行き過ぎて俺でもついて行けないことがある。

そもそも、スライム仲間以外にはぴゅいぴゅいとした聞こえないので、一緒に見ていたオルフェは首をかしげていた。

本人たちがかっこいいと思っているポーズも、ぶっちゃけスライムボディがくねくねしたりスラ触手を伸ばしているだけで気持ち悪く、最後の四色爆発に至っては何をしたいのかわからない。

その後見せてくれた、組体操からのスラフィニッシュも変にポージングを決めたり、四匹でリレー式に区切って必殺名を読み上げ、最後に全員で声を合わせて叫び放つ必然性は理解できなかった。……威力のほうはすさまじかったが。

スラブルーは、とにかくそんなスライムファイブの連中が羨ましくて、のけ者にされたことが悔しくて仕方ないらしい。

これは俺にはどうにもできない。

そう思って、途中からスライムファイブ連中に聞かせていた。 さっそくスライムファイブたちがテレパシーに参加し始めた。

『ぴゅいっぴゅっぴ!(水臭いぞ、スラブルー)」

『ぴゅるっぴ、ぴゅぴゅ(私たちは君がいつ戻って来てもいいように準備しているのだ)』

『ぴゅいぴゅるっぴ(僕の計算では、スラブルーが参加することでスラフィニッシュは従来よりも三割ほど強くなります』

『ぴゅいっぴゅいぴゅ!(俺たちは五人でスライムファイブなんだ!)』

『ぴゅっ、ぴゅい~(みっ、みんな~)』

脳内に五匹分のスライムの声が鳴り響きうっとうしい。

というか、脳内会議でスラブルーの名乗りを決めるのはやめてくれ。せめて、俺が抜けてからにしてほしい。

……そうして待つこと五分、スラブルーが仲間と共に考えた口上をどや顔で叫んでいた。きっと向こうでポージングも決めてるだろう。

さきほどまでの不機嫌は嘘のようだ。

『ぴゅいぴゅぅ?(気は済んだか)』

『ぴゅい。ぴゅいっぴゅっ!(はい。ボス、要件とは?)』

『ぴゅいぴぃぴゅ(エレシアが一人になる時間を教えてほしい)』

『ぴゅるっぴ、ぴゅいぴゅぴい。ぴゅいぴゅっぺ(一人になるのは、トイレで個室に入るときと入浴中だけです。以前はそこにも人がついていましたがエレシア様に我慢の限界が来まして、癇癪を起した結果、そうなりました』

気持ちはわからなくもない。

用を足すときまで人に見られながらなど、年頃の少女にとっては悪夢だろう。

風呂だってそうだ。

スラブルーの話ではトイレの個室や浴場の外には常に人がいるらしいが、一応エレシアは一人になってくれる。

……どんなわずかな隙間でも入り込めるスライムボディであれば、誰にも気付かれずにエレシアの元まで行ける。

問題は、トイレか浴場、どちらに向かうかだ。

浴場にしよう。いくら、エレシアは俺をただのスライムと思っているからと言って、トイレで会いたくないだろうし、俺もそういうのを見る趣味はない。

『ぴゅいっ、ぴゅるぴ(スラブルー、エレシアが入浴に向かえば連絡をくれ』

『ぴゅいっさ!(いえっさ!)』

これで、エレシアに接触できる。

そうすれば、エレシアの匂い成分と魔力を得られるだろう。

加えて入れ替わり作戦の説明もできる。

意識を呼び戻す。

「待たせたな。エレシアを監視しているスライムから話は聞けた。風呂に入っているときは一人でいるそうだ。俺が単独で潜入して、エレシアの匂いと魔力を手に入れてくる。レオナ、そのときに入れ替わりについても話しておきたい。手紙を書いてもらえるか」

「うん、任せて。パパならわかっていると思うけど、ちゃんと手紙は持って帰ってきてね。エレシアの持ち物は全部チェックされていると思うから」

「わかっているさ」

これで、入れ替わりの事前準備は進められる。

妙に視線を感じる。

オルフェとシマヅがジト目で見ていた。

「エレシアちゃんのお風呂覗くんだ」

「父上は、やっぱりスライムになってからエッチになってしまったのね……」

「いや、俺だって好きで風呂場に入り込むわけじゃない。そこでしか一人にならないからであってな」

変な言いがかりはやめてほしい。

まるで俺がエレシアの風呂を覗くために潜入するようじゃないか。

そもそも俺は子供には興味がない。エレシアはまだまだ少女だ。

「……お父さん、信じているからね」

「もちろん、信じてくれ」

そう言いつつ、ぴゅいっと変身を解いてスラちゃんに戻る。

わざとらしく疲れた様子を見せておく。ぴゅい~、変身はもう限界ぴゅい~。

会話ができる状態でいると、もっと責められそうだから逃げたわけじゃない。

「父さん、ちょっとずるくなった。ニコラは忘れてない。さっき、変身は二時間は持つって言ったこと」

「ぴゅ~ぴゅぴゅぴゅ~♪」

困ったときのスラ口笛。そして上目遣いになって可愛さアピール。

オルフェが小さく笑って抱きあげてくれる。

「スラちゃんになったら、もう怒れないね」

「ぴゅいっ!」

「……でもね、エレシアに変なことしちゃだめだよ。もし、そんなことしたら、ばらすから」

「ぴゅひっ!?」

どうして、こんなに信用がないのか。

俺はどんなときでもカッコいい父親として振舞ってきたのに……大賢者だったころは。

そうして、エレシアの元へ向かうことが決まった。

クレオに気付かれることなく、入れ替わりの準備を整えるのは少々骨が折れそうだが、なんとかしてみせよう。