作品タイトル不明
第十話:スライムはご馳走を用意する
レオナと合流できた俺たちは、ようやく敵の正体を知れた。
敵の正体は、【傲慢】の封印を守る一族。
歴史の影に隠れて、封印の役目を背負い続けた彼らが七罪教団の母体だったのだ。
「でも、意外だよね。封印の一族が七罪教団だったなんて。ずっと、ずっと、封印を守り続けていたはずなのに。どうして今になって」
「別に意外ではないさ。ずっと封印を守り続けていたからこそ。そうなったんだろう」
「うん、パパの言う通りだね。オルフェお姉ちゃんは甘いよ」
「そうかな? 私の一族も封印を守っていた一族だから、気持ちはわかるつもりだよ。私たちは誇りをもって封印を守っていた。それは【傲慢】を封印していた人たちも一緒だと思うんだ」
レオナが首を振る。
たしかに、オルフェは【憤怒】の邪神を封印していた風守の一族と呼ばれるエルフの村に生まれている。
だが、【傲慢】を封印している一族とは根本的に違う。
レオナがオルフェの問いに答え始める。
「えっとね、オルフェお姉ちゃんの風守の一族は、ちゃんと報酬があったし、認められていたでしょ? 国から支援金を受け取っていた。世界中の人たちが、風守の一族のおかげで、封印が維持されてるって知っていて、感謝もされた」
「あっ、そういうことなんだね。私たちとは違うんだ」
オルフェもそこまで言われて気付いたようだ。
「【傲慢】の一族は、封印を確実に守るために、その存在ごと歴史の影に隠れた。なんの報酬もなく、誰からも感謝されず、辛い日々をすごしてきたんだよ。我慢して、我慢して、我慢し続けて、報われず、ついに限界が来たんだよ」
気持ちはわからなくはない。
歴史の影に隠れて、世界の平和のために人生を犠牲にすると高潔な決意をした初代たちはまだいいだろう。
だが、子孫たちはそんな覚悟もなく、産まれたときから理不尽な重荷を背負わされた。
どうして、自分たちだけ理不尽な目にあう?
それはやがて世界への怒りに変わる。
「俺がこれから言うのは想像だが、彼らはこう考えているんだ。今まで苦しんだ分を取り戻したい。邪神のせいで奪われた幸せを邪神の力で取り戻す。……あるいは、そうなるように邪神に付け込まれた」
想像ではあるが、的外れではないだろう。
邪神は、こういう気持ちに付け込むのが得意だ。
「お父さん、それってすごく悲しいことだよね。だって、そうなる前に誰かに相談すれば、助けてくれる人だっていたはずなのに」
「プライドが邪魔をしたんだろう。彼らにだって誇りがある。今まで、誰の助けも借りずにやってきたのに、今更支援を求めれば積み重ねたものが無駄になる。それだけはできない」
それなら、邪神の力を使って幸せを取り戻すのも誇りに反すると言えるが、人は理屈だけでは動けないものなのだ。
人に頭を下げるより、力を使って脅すほうが感情的には楽でいい。
……これが敵の正体だ。
敵の姿が視えて、その根底にあるものが視えれば、対応策が打てる。
それらを具体化していきたい。
その想いはレオナも同じようだ。
「パパの分身を見て思ったんだけど、分身をお城に忍び込ませるってできるかな? 操られている人たちを、分身に調べさせたいんだよ。分身なら捕まって洗脳されても大丈夫だからね」
「できる。俺もその手を考えていた。見ていてくれ」
【収納】していた偽スラちゃんを取り出す。
スーパースラちゃん2になるための予備の偽スラちゃんだ。
「クリアモードになれ」
「ぴゅいっさ!」
偽スラちゃんがクリアスライムモードになる。
透明になり、目の前にいるのに誰も見えない。
「すごいね、これなら簡単に忍び込めるよ。パパ、城内にいる洗脳させられている人たちの似顔絵を手配するから、その子に覚えさせて」
「わかった。似顔絵が出来次第、十体ほど城に向かわせよう」
あまり多すぎると見つかりやすくなる。十体が適切な数だろう。
そして、俺と偽スラちゃんは繋がっている。情報がリアルタイムで把握できる。
さらに、相手が偽スラちゃんたちを捕まえた後、洗脳しようとしてくれれば、それは最大のチャンスになる。
繋がっている故に、どんな力を使い、どう偽スラちゃんが変化したかがわかる。
そうなれば、敵の手は透けて見えるだろう。
オルフェが難しい顔をして手を挙げた。
「お父さん、分身を使うのはいい手だと思うけど、分身を通してお父さん自信が洗脳されるってことは考えられない? 分身と接続しているパスをたどられるかもしれないよ」
「その心配はない。今の俺は進化を繰り返して魔術も使えるようになっている。何重にも防御を施してある。たとえ防御を抜ける相手だろうが、防御を抜かれる前に接続を切るぐらいはできる」
「うん、それなら私も賛成だよ」
不安としては、城に侵入できるかどうかだ。
見張りがいるだけなら、クリアスライムモードの偽スラちゃんならたやすく忍び込める。
結界、たとえばセイメイが使うようなレベルのものがあれがまずいが、おそらくそれはない。
念のため、城の防衛の穴はレオナに確認しよう。
さて、次にやるべきことは決まった。
なら、先のことも話そう。戦力把握をしておきたい。
「レオナ、ヘレンとシマヅもこちらに向かっているんだろ?」
「うん、ヘレンお姉ちゃんはたぶん五日後、シマヅお姉ちゃんは三日後にはここにたどり着くと思う」
たぶんと言っているが、レオナの読みであれば外れない
それまでに準備を整えたいところだ。
「大筋はわかった。まずは情報収集として俺の分身を送り込む。細かいところを詰めていこう」
そうして、レオナと細部の打ち合わせを始めた。
状況は不利だ。
少しでも、優勢になるように策を練らないといけない。
◇
話すべき内容がすべて終わるころにはあたりは暗くなっていた。ちなみに【創成】の限界がきて、スラちゃんに戻っている。そのため、筆談をしていた。
「これで、打ち合わせは終わり。パパたちが来てくれて助かったよ。一気に道が開けた気がする」
「ぴゅいっ!」
「レオナが元気そうで安心したよ」
「ん。同感。それより、お腹空いた。そろそろご飯が食べたい」
ニコラが空腹を訴えるのも無理はない。
かなり遅い時間だ。
「じゃあ、私がご馳走を作っちゃうよ。さっきから、レオナの顔色が悪いのを気にしてたんだ。ろくなもの食べてないでしょ? 美味しくて精が出るものを作るよ」
オルフェの言葉にレオナが首を横に振る。
「気持ちはうれしいけど。私だけが美味しいものを食べるわけにはいかないんだよ。……緊急避難したせいで、持ち出せた食料も少ないし、この拠点には備蓄が少なかったの。見つかるわけにはいかないから、補給も最低限のものしかできてない、私について来てくれた人たちがひもじい思いしているのに、ノウノウとご馳走は食べられない」
レオナは効率第一で、冷徹な判断をするが、それは人を思いやる心がないからじゃない。
結果的に一番被害を少なくするから、そうしているだけだ。本当は姉妹の中でも一、二を争うほど心優しい子だ。
だから、こういう言葉がでる。
それもまた、【王】としての素質だ。
「ぴゅいっ、ぴゅ!」
俺は鳴き声を上げて触手を駆使して、文字を書く。
『一人でご馳走を食べられないなら、みんなでご馳走食べよう』
「パパ、無理だよ。そんなことをするだけの食料はないし、パパたちが持ち込んだ食料だってそんな多くはないはずだよ」
「ぴゅっふっふっ」
舐めてもらっては困る。
食料なら山ほどある。
「ぴゅいっ、ぺっ」
【収納】していた食料を大量に吐き出して山積みにした。
「お父さん、いつのまにこんなに!?」
「あっ、これ、オルフェねえが狩りをした獲物の余った肉」
ニコラの言ったとおりの代物だ。
手持ちの食料を節約するため、狩りができる場合はオルフェが自慢の弓で食料を調達する。
だけど、それを毎回食べきれるわけではない。
シカやイノシシを仕留めた場合、三人で食べきるのは不可能だ。
オルフェはいつも一番美味しい部分だけを切り分けて調理するが、余った肉を俺は【収納】していた。
何かしらの理由でスライム細胞のほとんどが死滅したときの備えであり、非常食だ。
「パパ、素敵! これだけのお肉があればみんなに美味しいものをたくさん食べさせてあげられるよ。オルフェお姉ちゃん、料理してもらっていい?」
「もちろんだよ。さっそく料理に取り掛かるよ。レオナ、何人ぐらいいるか教えて? 人数によって作れるものが変わるし」
オルフェの問いにレオナは即答した。
この子のことだ。数だけでなく全員の顔と名前を憶えているのだろう。
……その日は、俺が【収納】していた肉をオルフェが調理して、ささやかな宴会が開かれた。
みんな、ろくに食事をできていなかったようで、中には泣きながら肉を頬ばるものさえいた。
調味料にも限りがあるので、けっして豪華な食事とは言えないが、持てる材料でオルフェが工夫を凝らして作った料理は美味しくて、温かかった。
戦いに置いて士気は大事だ。
今回の件は、レオナにとって大きな支援となるだろう。
食事が終わると、城の防衛網の穴を教えてもらい、レオナの部下が用意した似顔絵を偽スラちゃんたちに覚えさせて十匹ほど城に放った。
想定以上に守りは厳重だったが、レオナの息がかかったものに中に入るまでは手引きしてもらえるとのことだ。
城内に入ればこっちのものだ。
偽スラちゃんたちはすみやかに情報を集めてくれるだろう。
【傲慢】の能力、一刻も早く特定したい。
そうすればさらなる手が打てる。
今のところ順調だ。確実に俺たちは勝利に向かって進んでいた。