軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第228話 カヤ2

ぼくはアリス、たまき、ルシアの三人にカヤのことを説明した。

説明した、といっても、ぼくだってわからないことだらけなのだけれど……。

彼女がぼくとミアの娘であるらしいということ、レベル51もあることなどを語る。

己のちからを意外と使いこなしていて、モンスターとの戦いを恐れず、しかも戦い慣れしていることも。

そのあと、全員でカヤに質問していく。

「ねえねえ、カヤちゃんはどこから来たの?」

「とおいところ!」

「あー、そうだ。どうしてぼくが地球に来ちゃったか、わかるかな。ミアになにか聞いてないか」

カヤはピンと伸ばした人差し指をあごにのせ、「うーん」と考え込んだ。

「あ、おもいだした! いまならいけるから、いそいでもぐりこめって! それでね、パパのおやくに、たちなさいって!」

「ちょ、ちょっと待って、カヤちゃん」

志木さんが慌てて口を挟む。

「潜り込む、って、つまり向こう側の世界からこちら側の世界への転移に潜り込んだということよね」

「えと、そう……かな?」

「わたしたちが楔のちからで地球への転移門を開いてしまったとき、その転移を利用することで、あなたはわたしたちに会うことができた……そういうことなの」

カヤは、きょとんとして首をかしげた。

志木さんの説明が難しかった、ということだろうか。

われらがリーダーはため息をつき、質問を変えた。

「あなたがいた場所で、あなたはこれまでなにをしていたの」

「このひのために、べんきょうと、くんれんを、してました!」

この日って……ミアはぼくたちが地球に帰還することまでわかっていたのか?

それとも、単純に戦力が必要と感じて、カヤを育成していたのだろうか。

いちおうそのあたりもカヤに聞いてみたものの、本人もはっきりとはわかっていなかった。

ただ、いつか自分の存在が、ぼくたちにとって必要となる日が来ることだけは知っていたとのこと。

ずっとずっと、ぼくたちに会えるのが楽しみであったという。

「だから、パパ!」

と抱きついてきたので抱きしめてやると、とても嬉しそうに鼻を鳴らした。

ぷにぷにの頬をぼくの顎のあたりに擦りつけてくる。

なんだか、えもいわれぬ慈愛の感情がこみあげてきた。

「ねえねえカヤちゃん、次はわたし、わたし」

「あ、ずるい、たまきちゃん。わたしもカヤちゃんをぎゅっとしたいです」

「はい! アリスママ、たまきママ! ぎゅーっ」

彼女はアリスとたまきに大人気だった。

うーん、どうやら少なくとも嫌われるってことはなさそうだ。

いちおう立場的には、ぼくが連れてきた先妻の子、みたいなものだから心配だったんだけど……。

正確には先妻どころかミアが一番最後な気もするけどね。

そもそも、ミアと結ばれたのは昨日なわけで……。

ああもう、いろいろと事態の進行が早すぎて混乱しっぱなしだよ。

「確認させてください。ここは地球、カズたちの世界ということでよろしいのですね」

ルシアがいった。

ああ、そうか……あの世界の人間だった彼女にとっては、ここはまったく未知の土地だよな。

昨日の夕方、この渋谷に似た空間に閉じ込められたから、それほど驚いてはいないようだけど……。

「うん、そうだよ。ここはたぶん、本物のぼくたちの世界だ。昨日のまがいものなんかじゃない、本物の渋谷だ」

「あまりにも人が多いので、たいへんに驚きました。鉄の馬車などもありましたが……あれが車というものなのですね」

彼女と常識をすりあわせるには、だいぶ時間がかかるだろう。

なお、いまルシアがどこにいるのか知るため周囲の光景を訊ねたところ、「飛んでいるカズたちを見つけましたので、すぐに向かいます」との返事を得られた。

幸いなことだ。

「あ、わたしとアリスはもう合流しているわ。さっきカズさんたちも見かけたから、すぐ行くね!」

たまきはカヤに頬ずりしながら、そういった。

おまえ……うちの子をおもちゃにするなよ……。

カヤはじっとされるがままで、スキンシップそのものは喜んでるけど。

「ママがいっぱいふえて、うれしいです!」

ああ、なんていい子なんざましょ。

どうしてミアなんかからこんな子が生まれたのだ……。

いやそもそも、ミアはどんな教育でもってこんないい子を育て上げたんだ……。

で、なんでこんないい子にエロゲを買いにいかせてるんですかねえ。

買わせるってことはこの子、ミアのもとに帰るつもりなわけで……。

そのとき、ぼくたちはミアに会えるのだろうか。

いや待って、それ以前に彼女、日本円とか持ってるんですかね。

「おかね? パパにねだりなさい、ってママいってた!」

やっぱあいつ、次に会ったらお仕置きだわ。

っていうかぼくたちもお金なんて持ってきてないよ!

全員で、カヤのPCの画面を覗く。

彼女のスキルは申告の通り風魔法ランク9、射撃ランク9であった。

派生スキルは風射術2で、アビリティは強化射技ランク2と自在弾ランク2である。

強化射技は武器系共通の順当進化アビリティである。

自在弾はさっきもいった、発射した矢や弾丸を自由に曲げるアビリティだ。

ランク1で四十五度まで曲がり、ランク2で九十度まで、ランク3ともなると百八十度曲げて戻ってこさせることすら可能となる。

といっても、しっかり狙いをつける必要はやはりあるわけで、乱戦のなかでスケルトンの頭部にヒットさせるために相手を拘束したのには、相応の理由があるということだ。

あの拘束魔法も、射撃と相性がいいよなあ。

武器がパチンコなのが、いまひとつ戦力的にキツそうだけど……。

「カヤ、きみのあの武器ってなんなんだ」

「これ?」

カヤは手をさっと振る。

Y字型のパチンコが、唐突に出現した。

「これはねー、ママがつくってくれた、とっておき!」

「あー、ひょっとして魔法がかかっているのか」

「もちのろん!」

なんでそんな古い口調知ってるんですかねえ……。

ミアが教えたんだろうけど。

「なんて名前の武器なんだ」

「パチンコ!」

そのまんまですねミアさん!

まあここで中二病感満載な名前が出てきても同じようにツッコミ入るだろうけど。

「弾丸はどうしてるんだ」

「そこらの、いし、です」

「ただの石ころがあんな風に爆発するのか……」

「ビームも、だせます」

ちょっと尋常じゃないパチンコですね……。

いや、頼もしいことこのうえないですけど。

「ところで、カヤちゃん。この特殊能力は、いったいなんなのかしら」

志木さんの言葉に、みんなが「え?」と画面を見る。

いつの間にか志木さんがマウスカーソルを握って、ほかのウィンドウの下になっていた特殊能力ウィンドウを表に出していた。

でもそこには、意味不明な文字列が記載されているのみで……なんだこれ、読めないぞ。

「わたしだけの、ちから!」

「どんなちからなのかしら」

「まおーを、たおします!」

ぼくたちは顔を見合わせた。

カヤから詳しく話を聞いた。

彼女の話はいっこうに要領を得なかったものの、まとめるとこういうことになる。

・カヤという人間は、ぼくとミアの子供であり、あの不思議な建物にいた魔王と同じ種族が離反した魔王を己の手で始末するための生体兵器でもある。

・彼女は魔王の本体に接触することで、時空を超えて魔王の存在を侵食することが可能である。

・おそらく、彼女以外のなにものにも魔王を始末することはできないだろう。

「なるほど……ミアのやつめ、ぼくの子供になんてことを」

「おやくだち、です!」

「カヤ、きみはいいのか? ……って、やけに嬉しそうだな」

愛しいわが子は、照れくさそうに笑う。

「パパとあえて、いっしょにいられるの、ずっとたのしみだった!」

「いい子すぎて、どうしてミアちゃんがこんな風に教育できたのかちっともわからないわ」

志木さん、辛辣すぎる。

でも、うん、さっきぼくもそう思ったよ……。

いやほんとなにがどうなっているんだか。

「いちおう聞かせてくれ、カヤ。きみが魔王を倒すときって、その……きみの身に危険が及んだりはしないのか」

「さされると、しにます!」

そりゃそうだ。

「パパにまもってもらえ、ってママいってた!」

「ああ、それは……うん、絶対に守るよ」

「わーい!」

さて、とはいえ魔王、ねえ。

この地球に来ているっぽいことはこれまでの情報から推測できるけども、いったいどこにいるやら。

いたとして、どう近づくか。

さらにはカヤを守りながらどう戦うか。

問題は山積みといっていい。

ついでにいえば、あそこにスケルトンたちがいたということは、四天王であるディアスネグスやひょっとしたらアルガーラフもこちらに来ているかもしれないということで……。

「そういえば、結城先輩たちはこっちに来ていないのかな」

「おじちゃんは、きてない!」

「あ、そうか、きみから見ると結城先輩はおじさんか……」

あの忍者、へこむだろうか、それともご褒美ですと喜ぶだろうか。

限りなく喜びそうである。

なぜだか全然わからないけど、カヤを彼に近づけたくない。

これが男親の気持ち……なのかなあ。

「そうなると、本気でぼくたち六人は孤立無援だな。そのつもりで作戦を立てよう。まずは全員集合すること、暴れているスケルトンたちを退治すること、それから情報を集めること……」

「それなんだけど」

志木さんが、すっと挙手した。

「ひとつ、提案があるわ。ここから近くて、簡単に情報が集まりそうな場所があるのよ」

「それって、どこ?」

「わたしの実家、駒場東大前の駅のすぐ近くにあるのよね」

わあ、渋谷から井の頭線でふた駅じゃありませんか。

いいところに住んでいらっしゃったんですねえ。

「もしかして、志木さんってセレブなレディでいらっしゃいますか」

「なによその口調」

ジロリと睨まれた。

「そうだけど」

「否定はしないのかよ!」

それからもいくつか確認した。

まずここから向こう側の世界に戻れるのか、という問題について。

「わかんない!」

カヤは無邪気にそう宣言した。

「でも、きっとなんとかなるだろーって!」

「う、うーん、ミアがそういうなら、なんとかなるのかな……」

そもそも、向こうに戻りたいのかどうかという話もある。

魔王さえ倒せば、こちらの世界は安全で、ぼくたちはもう戦わなくてもよくて……。

あ、でも。

「ぼくは戻りたいな。ぼくは向こう側の世界で生きていきたい」

アリスとたまきとルシアは揃ってうなずいた。

そう、ぼくたちには、もうあまりこちらの世界に未練がない。

ぼくの家族も……正直、あんまり強い繋がりとかなかったからなあ。

「あー、でも。志木さんは、こっちに家族がいるんだろ。このまま地球に残っても……」

「冗談!」

志木さんはフン、と鼻で笑う。

「わたしには、面倒を見なきゃいけない子たちが三十人もいるんだから! あの子たちのためにも、向こうに戻らないと!」

まあ、このひとならそういうか。

仕方ない。

最後にこまごまとした相談を行う。

レベルアップした志木さんのスキルポイントは温存だ。

彼女の場合、もはや戦力的には足手まとい以外のなにものでもないけども……。

実戦力以外の点については、彼女がいっしょにいてくれてこれほど頼もしいこともない。

いやほんと、ぼくひとりでいろいろ決めることになってたら、どうなっていたか。

志木:レベル15 偵察6/投擲3 スキルポイント3