作品タイトル不明
第127話 幻狼王シャ・ラウ
学校跡地の様子、浮遊要塞の様子。
リーンさんの鷹が飛んできたこと。
漆黒のオーガ、鬼王ザガーラズィナー。
ぼくが観察した限りのことを、皆に伝える。
鷹とカラスは、ともに漆黒のオーガによって殺された。
あいつをどうにかしない限り、リーンさんの使い魔はぼくたちのもとに辿り着けない。
あの攻撃は、リーンさんの鷹とぼくのカラスが共に使い魔だと見破ってのことなのだろうか。
それとも、戯れに鳥を撃ったというだけなのだろうか。
いや、連続して二体の使い魔が撃墜されたのだ、少なくともなにかに違和感を覚えての行動だろう。
そういった前提で動くべきだ。
敵は優秀で、有能であると。
もし無能であれば、取り越し苦労で済むのだから。
「リーンは、きっとまた、使い魔を出してくれます。おそらく、ほかの地点に向かっていた鷹をこちらにまわしてくれるでしょう」
ルシアがいう。
いつもあまり表情が変わらなくて、それはいまも同じなんだけど、なんだかちょっとだけ自信があるというか、誇らしげに見えた。
普通に立っているだけなのに、えへんと胸を張っているように見える。
リーンさんとルシア、ふたりの間にはなんらかの絆があるように思えた。
ぼくはそのあたり、よく知らないわけだけど……。
いまのルシアの言葉は、信じられる気がした。
「ん。なら問題は、まだ山に偵察を飛ばす戦力がいるって悟られたこと」
「そうだな。とはいえ、やるべきことは変わらない。まずはゲリラ戦だ」
「臨機応変に動きながら、山の表側に展開するオーガを殲滅していくのですね」
ルシアの言葉に、ぼくはうなずく。
一か所にじっと留まっての拠点防御など、もってのほかだ。
戦力的に劣勢なのはもちろんだが、それ以上に浮遊要塞の要塞砲が怖い。
グレーター・ニンジャなら要塞砲をリフレクションとかできたかもしれないけど、ぼくにはそんな卓越した察知能力も、反射神経もない。
というかぼくじゃなくても、普通はビーム砲を見てから反応とか無理ゲーである。
せいぜい、動きまわって当たらないよう祈るくらいだ。
常に敵を引きずりまわし、こちらのペースに持っていく。
あるいは、こちらの存在を気づかせないようにスナイプし続ける。
「そのうえで、結城先輩のメモの情報が正しいかどうかを確認する。真偽をたしかめたら、もしそれらが使えるようなら使う。ダメなようなら、改めて白い部屋で協議かな」
「そうですね。いまの時点でそれ以上のことを考えても仕方がないでしょう」
昨日の夕方、白い部屋でいくつか作戦を出しあい、協議した。
こちらは少数だが、精鋭だ。
ザガーラズィナーさえ出てこなければ、戦いを優勢に進められるだろう。
まあ、問題はそのザガーラズィナーと浮遊要塞の要塞砲なわけで……。
だからこそ、ぼくたちは敵に居場所を察知されてはいけない。
常にこちらから動き、敵の鼻面をひっつかんで引きまわしてやらなければいけない。
つまり、いつも通りということだ。
昨日も、一昨日も、一昨昨日だってそうだった。
いつだってぼくたちは、勇気を出して一歩、敵の懐に飛び込んでいった。
紙一重の戦いで、ぼくたちはそのすべてに勝利してきた。
だから今回も、例外ではない。
ぼくたちは堂々と卑怯に戦い、敵に打ち勝つ。
あるいは堂々とこそこそ逃げ隠れし、そのまま逃走する。
皆が、うなずく。
ぼくたちは荷物をまとめて、一夜限りのアジトを出る。
まだ朝日は昇ったばかりだった。
なに、今日限りでこの大陸が滅ぶとしても、猶予の時間は充分にあるさ。
……たぶん。
なお、恐竜のようなモンスターについてルシアに訊ねたところ……。
「それは、ドワグ・アグナムでしょう。神兵級のモンスターで、大地の魔法を自在に操ると聞きます」
という恐ろしい返答がきた。
「ザガーラズィナーが、ドワグ・アグナムをペットにしているという話は初耳ですが……」
というか、神兵級モンスターをペットにするとか、どんだけインフレしてるんだよこのオーガのボスは!
やばいだろ、こいつ絶対、めちゃくちゃやばいだろ!
※
今回、ぼくが召喚する使い魔は、二体。
偵察要員のインヴィジブル・スカウトと、昨夜、専従契約を果たしたばかりの幻狼王シャ・ラウだ。
なお幻狼王シャ・ラウの召喚は、ランク9の使い魔扱いで行われる。
MP81を消費するということだ。
呼びかけに応えて現れたのは、普通のグレイウルフよりはるかに大柄な……いや馬よりもおおきな、銀の毛並を持つ大狼だった。
蒼い穏やかな双眸が、ぼくを静かに見つめてくる。
『契約に従い参上いたした。主よ、なんなりとご命令を』
銀の大狼は、ぼくの頭のなかに直接、声を飛ばしてくる。
テレパシーのようなもので、これは彼の特殊なちからのひとつであるという。
昨日もこれで会話した。
このテレパシーは、アリスたちにも聞こえるようだ。
「わあ、もふもふ!」
昨日と同様、ミアが今日も、いの一番に幻狼王に飛びつく。
偉大なる狼はあえて避けず、彼女が銀の毛並をなでるに任せた。
彼の器(UTSUWA)は東京ドーム何杯分だろうか。
「シャ・ラウ。相談なんだが、きみの背にぼくたち五人を全員、乗せられるだろうか」
『可能だ、主。しかしながら、そのまま戦いを行う場合、鞍が必要となるだろう』
あ、そうか。
振り落とされちゃうもんな。
そもそもぼくたちのなかで、騎乗経験があるひとなんて……。
「わたくしは、鞍がなくとも騎乗し戦闘を行う訓練を受けております」
ルシアが手をあげた。
ああ、彼女はそういう特殊訓練漬けの毎日だったんだっけか。
とはいえ、ルシアひとりがシャ・ラウの上でも仕方がない。
「このオプションは保留か。わかった、じゃあみんな徒歩で。インヴィジブル・スカウトを先行させて、用心しながら学校に戻ろう」
森のなかでの戦いは、先に敵を発見した側が圧倒的に有利となる。
いまはとくに、遭遇したモンスターが逃げ帰り、ぼくたちの位置情報が敵軍に伝わる、という展開が一番困る。
見敵必殺を心掛けたいところだ。
だからこそ、インヴィジブル・スカウトにがんばってもらう。
ここはMP64を費やす価値があると判断した。
皆に基本的な付与魔法をかけ、出発する。
幻狼王シャ・ラウは、ぼくの横をのっそりのっそりと歩いていた。
ミアがしきりに、シャ・ラウの豊かな毛並を撫でている。
「乗ってみたいか」
「ん。でも、いまはいい。あんまりおちゃらけていられない」
「きみって、状況認識はしっかりしてるんだよな……」
「ウザキャラは狙ってるけど、ヘイト取るのはノーサンキュー」
ときどき、きみの言葉がよくわからなくなるよ。
同じ日本語をしゃべっているはずなのに……。
※
さて、幻狼王シャ・ラウのちからだが、純粋な戦闘力としてはランク7の武器スキル持ちとほぼ互角であるようだ。
これは昨夜行ったアリスとの模擬戦から判断して、ほぼ間違いないだろう。
もっとも、アリスは巧みな位置取りで、この模擬戦に辛勝していたが。
このとき勝ったアリスは、ぼくを振り返って、なんだかとても嬉しそうに笑った。
ほめてほめて、といっているようだった。
光の民のように尻尾があれば、全力でパタパタ振っていたんじゃないかと思う。
どっちが犬だかわからなくて、ぼくは思わず笑ってしまった。
そうしたら、シャ・ラウに『愛する女に対して、馬鹿にするような態度はいかがなものかと思う』と諭された。
幻狼王、やりおるわ。
こいつ絶対、リア充だぜ。
で、その幻狼王シャ・ラウの能力は、白兵戦だけではない。
彼の自己申告によれば、使い魔になる前の彼は、じつに七千種類もの魔法を使いこなすことができたという。
もっとも、ぼくに呼び出されたいまでは、もっと限定的な魔法、せいぜい百種類程度しか使えないらしいけど……。
そう、召喚魔法がランク9でも、シャ・ラウの能力には制限が加わっているのだ。
これ以上となると、やはり強化召喚までとるしかないのか。
そのあたり、次に白い部屋にいったときに調べてみたいところである。
百種類でも多すぎるので、ざっくりとどんな感じのものを使えるのか教えてもらった。
基本的には、彼がもともと得意な肉体強化系統と幻術系統が、いまも実用レベルで使用できるという。
肉体強化についてはぼくとかなりかぶっているみたいで、ぼくが使った方が強い。
重要なのは幻術で、ぼくたちではどんなスキルを伸ばしても手に入らない魔法がいくつかある。
たとえば自分のみせかけの姿を変化させる魔法。
ドッペルゲンガーの場合、肉体そのものが変化していたけれど、シャ・ラウのディスガイズ・イメージという魔法では実際の姿かたちは変化しない。
つまりシャ・ラウの姿をかわいい子犬に見せることはできるが、実際に触ってみればそこにいるのは大柄な狼に変わりないということだ。
以前の彼は、ドッペルゲンガーのような完全変身魔法も使えていたという。
ほかに便利そうなものというと、森のなか限定の魔法で、森を迷路のようにして、入る者を惑わすメイズという魔法もある。
うーん、これ、昨日あればアラクネたちとの戦いが有利になったかもなあ。
今日は攻勢がメインだから、あまり使えそうにない。
自身の幻影を生み出し、分身したように見せるシャドウミラーという魔法もある。
自己インヴィジビリティ魔法とともに使うのが効果的であるらしい。
そういった小技を駆使すれば、やりかた次第でアリス以上の戦果を上げることもできるだろう。
雷系の攻撃魔法も使えるという。
ただ、自分で肉弾戦をした方が強いとのことで……。
遠距離攻撃のオプション程度に考えた方がいいんだろうか。
アリスのもうひとつのスキルである治癒魔法も、多少は使用できるとのこと。
ただしこちらは、戦闘中にがっつり傷を癒すようなものではなく、数分かけてゆっくりと傷を塞ぐタイプであるらしい。
そんな程度でも、治療魔法はあればあるだけ嬉しいところだ。
万一、アリスが倒れたときの保険にもなるしね。
そのほか、生活系魔法ともいうべき便利系が多数存在するのだが、それらは割愛。
濡れた毛皮を乾燥させたり、まとわりつくダニを撲滅したりと便利らしいが、いまのところぼくたちの役には立たないだろう。
魔法とは別に、彼の五感は人間よりはるかに優れているという。
もともと狼は聴覚と嗅覚が優れているというが、シャ・ラウはそれに加えて超視覚も備えている。
『超視覚とは、いわばマナの流れを見る目だ。マナの揺らぎを知ることで、インヴィジビリティなどによって姿を隠している者を探知することが可能なのだ』
なるほど、レジェンド・アラクネがインヴィジブル・スカウトの接近を見破ったのは、そういう理由か。
いまさらのように、敵の能力がひとつ、確定した。
もっとはやく知りたかったなあ。