軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第128話 使い魔という生き方

「シャ・ラウ。きみみたいな超視覚を持つ者は、結構多いのかな」

『なにをもって多寡を判断するか次第だが、上位の生命体であれば必然的に、そのような感知を保持しているものである。さもなくば、同格の存在を相手にするとき、著しく不利となり、生存競争に勝ち抜くことが困難であるからだ』

ああ、そりゃそうか。

シャ・ラウも幻術を使う。

ある程度は幻術を見破る手段がなければ、戦いは一方的になるだろう。

というか、そうなるとぼくたち人間って、めちゃくちゃ不利だな……。

ぼくはシー・インヴィジビリティで透明化を見破れるけど、ほかのひとは透明看破の手段を持っていない。

一応、付与魔法をランク6まで上げれば、マナヴィジョンというシャ・ラウのいう超視覚と同じような魔法があるけれど。

「そういう高度な戦いの常識とか、もっといろいろ教えてください」

『よろしいのか。いまのわれでは立ち入ることのできぬ領域の話となる。あなたがたとても、まだその領域に足を踏み入れるには準備が不足していよう』

「でも、その準備をしておかなければいけないと思うんです。ぼくたちは、たぶん、この先とことんまで強くなっていかなきゃいけないから。そうじゃなきゃ、生き延びることもできない気がするから」

シャ・ラウはゆっくりと歩きながらしばし瞑目し、ただ『そうか』といった。

彼は、ぼくたちが想像もできなかった戦いの話をしてくれた。

敵のサーチ魔法に対応するカウンター魔法の常識。

致命的な効果をもたらす即死魔法と、それの対策。

麻痺、石化といった即死に匹敵する能力を持つモンスターのこと。

とてもためになる話だった。

つーか、そんな途方もない敵、会いたくない……。

けど、会いたくないで思考停止てちゃ、ダメなんだろうなあ。

『ところで、インヴィジブル・スカウトが戻ってくるようだ』

シャ・ラウはさりげなく、ぼくたちよりずっと優れた五感を持っているところを見せつける。

彼のいう通り、それから十秒ほどで優秀な偵察役からの報告が入る。

「敵だ」

足を止め、ぼくは皆に宣言する。

「オーガが三、オークが七。たいした戦力じゃないけど、必ず全滅させるぞ」

結果からいえば、戦闘の推移は目論見通りだった。

シャ・ラウが一度おおまわりしてモンスターの背後にまわり、先制攻撃を見舞う。

背中から飛びかかってきた巨大な狼に、敵はひどく慌てた。

オークたちは、狼狽してめちゃくちゃに武器を振りまわす。

オーガは果敢に迎撃するも、混乱してうまく戦えていない。

そのうち、オークから率先して逃走を開始した。

逃げたオークは、アリスとたまきが手際よく仕留めていく。

ふたりが討ち漏らしたオークを、ミアとルシアが攻撃魔法で始末する。

シャ・ラウはその間に、オーガたちを相手にする。

幻狼王はオーガより優れた体躯でもって、この巨人たちを圧倒した。

ひるんだオーガの肩を鋭い牙で食い破り、首を爪で切り裂く。

三体のオーガのうち一体が倒れたところで、アリスがレベルアップする。

白い部屋にて。

ぼくたちは、再度、作戦を確認したあと……。

「カズさん」

ルシアが真剣な顔で僕を見つめる。

「お菓子を出してください!」

真剣な顔でお願いされた。

鬼気迫るそのありさまに、ぼくは圧倒されてしまった。

サモン・フィーストをお茶会バージョンにして、使用する。

テーブルいっぱいにケーキやらクッキーやらが並んだ状態で、宴会セットが召喚される。

淹れたての紅茶が、やわらかそうな湯気を出していた。

ルシアは満足するまで食べた。

アリスとたまきとミアも、ルシアと共にお菓子を楽しんだ。

そんな光景を見ているだけで、ぼくは胸やけしそうだった。

やー、だって朝ごはんを食べたばっかりだよ?

みんな、どうしてそんなにお腹に入るのさ?

「だって、この部屋でいくら食べても太らないんですよ?」

アリスが真面目な顔でそういった。

きみまで、そんなことをいうのか……。

「ぼくは、アリスが太っても愛し続けると誓おう」

「そんな心配しなくていいです!」

あ、やっぱり。

まあいいや、もう気が済むまで食べてくれ。

どうせ、この部屋ではMPなんて実質、無限にあるようなものなんだ。

はたして彼女たちは、気が済むまで食べた。

ミアとたまきに至っては、お腹を押さえて呻いている。

「う、うーん、苦しいよう」

「ん。もう、ダメ」

おまえら絶対、ノリだけで腹に詰め込めるだけ詰め込んだだろ。

これ、絶対間違った白い部屋の使い方だ。

うう、もういいけどさ……。

「じゃあ、アリス。きみは槍術をランク8にするんだな」

「はい。その方が、お役に立てると思います」

実際のところ、治療魔法を上げて安全性を高めて欲しい気もするけど……。

彼女の決意は固いようだ。

なら、その意思に従おう。

敵には複数の神兵級がいるわけだし、攻撃力はいくらあってもいい。

それに、アリスは戦闘のセンスが図抜けている。

アリス:レベル26 槍術7→8/治療魔法5 スキルポイント9→1

白い部屋から戻る。

シャ・ラウは、生き残ったオーガが逃げようと背を向けたところに飛びかかり、引きずり倒してトドメを刺す。

これで、敵は全滅だ。

専従契約を結んだこの使い魔は、初戦でさっそく、その見事な能力を見せつけてくれた。

こりゃ、素晴らしい逸材ですわ。

ドラフト一位候補、十二球団競合ですわ。

なんてことを考えていると、ぼくたちのもとに戻ってきたシャ・ラウが怪訝な様子で鼻をひくつかせる。

『主よ、不思議なのだが……』

「うん、なんだ」

『彼女たちが、一瞬だけ、満腹したという臭いを発していたのはなぜだろうか』

アリスたちを見て、そんなことをいう。

臭いでそんなことまでわかるんかい。

しかも戦闘中に。

「白い部屋で起こった出来事は、こちらの世界では反映されないはずなんだけど……こっちに戻った瞬間は、頭のなかがまだ切り替わってない、のかな」

というか、いままでは一瞬のタイムラグもなく白い部屋とこちらの世界の行き来が行われて、脳内麻薬的なものもそれに準じているものだと思っていたけど……。

少し違うのかな。

このあたりの仕様がよくわからないや。

『奇妙なものなのだな、その白い部屋というのは』

シャ・ラウは感嘆した様子で呟く。

『やはり、尋常ではない存在が用意した場所なのだろうか。気になるところだ』

それはぼくも、思う。

白い部屋なんてものをつくって、ぼくたちにスキルなんてものを与えた存在は、いったいなにものなのだろうと。

正直、その存在がぼくたちを利用してなにをさせようとしているのかもわからないのだけれど……。

「シャ・ラウ。きみは、世界の終わりを予言されたときを待っていた、といったよね」

『そうだ、主よ』

それは、彼がぼくと専従契約を結んだときのことだ。

彼は、ぼくを見て、こうして呼び出されるときを待っていたのだと告げた。

長い長い年月を、使い魔となっても待ち続けたのは、ただこのときのためだったと。

『遠い昔、いまや誰ともわからぬ偉大な存在が、囁いたのだ。われの真の主は、世界の終末を予言されたときにこそ現れると』

「そんな曖昧なことで……」

『ずっと、渇きを覚えていた。なにかを待ち続けていた。いま、それが満たされたと気づいたのだ』

昨夜、ぼくたちはそんなやりとりを交わした。

シャ・ラウになにかを囁き、誘導した存在……。

気になる。

というか、気味が悪い。

懸念がある。

この世界に来てからずっと、ぼくたちは誰かの操る糸によって人形のように操られているのではないか。

どこかで誰かが、ぼくたちの苦闘を見ながら笑っているのではないか。

そんな風に考えると、たまらなく嫌な気分になる。

アリスたちの前では、そんな様子は見せられないけど……。

『あまり深くは考えぬことだ。ときが来れば、おのずと真実は明らかになるだろう』

そう願いたいものだと思う。

森のなかを進む。

山の裏側から、学校のある表側へ。

次に出会ったのは、オーガだけの集団だった。

普通のオーガが五体。

一部隊の半分ということは、分かれて偵察していたのだろうか。

こいつらを発見してきたインヴィジブル・スカウトによると、周囲にほかのオーガはいないとのことである。

遠慮なく強襲することにした。

今度はたまきとアリスが突っ込み、逃げる敵をシャ・ラウが足止めする。

ルシアとミアが、そこに追い打ちをかける。

四体を倒したところで、ぼくがレベルアップする。

白い部屋で。

そういえば、とミアがミアベンダーに駆け寄る。

「ん。やっぱり。陳列が増えてる」

あー、そうか。

あんまりチェックしてなかったもんなあ。

迂闊だったかもしれない。

ぼくたちは、ミアベンダーで売っているアイテムをひとつひとつ調べてみた。

増えていたアイテムのなかに、重要そうなものがひとつ、さらっと混じっている。

スキルだ。

その名も、使い魔覚醒。

「この特殊能力……露骨に専従契約用か」

「ん。トークン2000個。魔力解放と同じ必要数」

現在、ぼくたちが持っているトークンは1600個とちょっと。

まだ少し足りないとはいえ、オーガたちを倒していけば充分、購入は視野に入るだろう。

シャ・ラウは、いまのぼくの召喚では能力が制限される、といっていたから……。

Q&Aしてみた。

回答は以下の通り。

・使い魔覚醒は、使用することで使い魔の本来のちからを引き出せるようになる特殊能力である。

つまり、もともと本来のちからを引き出している通常の召喚生物や、専従契約でも弱い使い魔の場合、意味がないってことらしい。

能力を著しく制限されているシャ・ラウにぴったりな能力だ。

・使い魔覚醒を使用する代償として、使役者は使い魔の維持MPを任意の倍率に上昇させることが可能となり、維持MPを上昇させた分だけ、使い魔の能力は本来のものに近づく。

いまシャ・ラウはMP81で呼び出しているけど、追加で81とか162とか243を消費することで、いま以上の能力を引き出せる、と……。

うわあ、ものすごいMP消費だなあ。

本来のスキル以上のちからを引き出す以上、仕方がないことかもしれないけど。

・使い魔覚醒を用いた場合の持続時間は、使用者のレベルにつき十秒。

うわっ、キツい。

ぼくはいま、レベル31になったばっかりだから、三百十秒間、つまり約五分の間、シャ・ラウの覚醒状態を維持することができる。

・使い魔覚醒の持続時間が切れたあと、覚醒した使い魔は強制送還される。

オーバーヒートしちゃうのか。

総合して、ものすごくリスクが高いんだな、これ。

とはいえ……。

「買えるようになったら、即座に買うべき」

ミアがビシリといった。

いつになく気合がこもっている。

「いいのか。ルシアも持っている魔力解放をきみが覚えるのも手だぞ」

「風魔法も地魔法も、ルシアの火魔法ほどの火力がない。敵がインフレしていく以上、火力の底上げは急務。ならリミッター解除の方が有望な選択肢」

リミッター解除いうな。

いや、いってることは一理あるというか、たしかに彼女のいう通りなんだけども。

どれくらいの底上げがあるか次第だけど、ぼくたちの決戦戦力を上昇させるという意味では、かつてなく有望な選択肢だろう。