作品タイトル不明
42.ビッグボアのピタサンド
「うりゃあぁっ!」
木から飛び降りたデルマはビッグボアの背に乗った。そして、ナイフを振り上げると、力いっぱいに頭に突き刺す。
「ブボォォッ!」
その衝撃でビックボアは倒れた。
「デルマ、やったね!」
「よっしゃー! 初撃破!」
「二人が囮をしてくれたからだよ、ありがとう」
ノノとスコットが近づくと、デルマは安心したように笑顔を浮かべた。そこに、近くで様子を見ていたサリサが近づく。
「うむ、低レベルらしい戦い方じゃった。これからレベルが上がることだし、無茶をせずに確実に倒していくんじゃよ」
「サリサの戦い方は全く役に立たなかったからね。ビックボアの前に立って、拳を突き出すだけって」
「その戦い方はレベルが100を超えたサリサにしか出来ない戦い方ですからねー」
「なんじゃと!? その内、お主たちにも出来るようになる! 今から習っておいても損はないのじゃ!」
まぁ、サリサにしか出来ない戦い方だな。すでに五体も倒しているから、私たちと比べると力の差は歴然だ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。遅くなると、食事を作るのも遅れるし」
ホーンラビットもビックボアも倒した。お肉はたくさん手に入ったし、売る分も確保した。
みんなが頷いてくれると、私たちは町へと戻っていった。
◇
「さて、今日はピタパンを作ろう」
ピタパンは薄いパン生地をしていて、具材を挟めて食べる料理だ。
「まずは、解体したビックボアの肉に香辛料を塗りつけて……よし、終わり。じゃあ、これをじっくり低温でオーブンで焼いていく」
大きな塊をいくつか乗せた鉄板をオーブンに入れて焼き始めた。
「次はピタパンに挟める野菜。煮込んだ野菜を挟もうかな。味は……カレー味とトマト味にしよう」
ネットショッピングで必要な野菜を買い込むと、調理台に現れた。その野菜たちをまな板で細かく切り、水と一緒に鍋に入れる。ぐつぐつと煮立ってきたところで、それぞれの調味料を入れる。
これで、水分が飛ぶまで煮込めば野菜の具材の完了だ。
「じゃあ、ピタパン作りをしますか」
大きなボウルを取り出す。材料は小麦粉、水、オリーブオイル、塩、イーストだ。それらをボウルで混ぜ合わせ、ひとまとめにする。
「後は発酵っと……」
そのボウルの上に塗れた布巾をかぶせて、しばらく放置する。肉の加減や煮込み野菜の様子を見ていると、あっという間に発酵が終わった。
「どれどれ……うん、ちゃんと膨らんでる」
ガスを抜き、もうひと捏ねする。生地を細長くすると、包丁で小さな塊にする。その塊を麺棒で丸く伸ばせば、生地の完成だ。
「生地を焼きまくるぞ!」
とにかくたくさんの生地を焼かなければ。二つのフライパンに火をかけて、生地を乗せてじっくりと焼いていく。その作業を繰り返していくと、焼き上がったピタパンが山のように積まれていった。
その時、オーブンの音が鳴った。扉を開けると、肉の焼けた匂いが強く香ってきた。これは上出来だ。
車体の外に出ると、外は薄暗くなっていて夕食にはピッタリの時間になっていた。
「みんなー、運ぶの手伝ってー」
声をかけると、みんなが駆け寄ってきてくれた。キッチンから持ってきた料理を持たせると、孤児院のダイニングに運ぶ。
そして、テーブルの上に並べると、お祈りをして、みんながはしゃいで料理を見た。
「これは、どうやって食べるの?」
「じゃあ、ちょっと実演するね」
わくわくした視線を向けられながら、私は半分に切られたピタパンを手に取った。
「これを開けて、この中に具材を入れるんだよ。お肉と二種類の野菜から一つ選んでね。で、お肉なんだけど……」
トングを手に持ち、お肉を軽く押す。すると、それだけで肉が崩れた。
「すげー! めちゃくちゃやわらかい!」
「こんなお肉初めて見た!」
「うわー、どんな感触何だろう!?」
「こうして崩したお肉をピタパンに入れて、野菜を入れれば……ビッグボアのピタサンドの完成。さぁ、みんなで作って食べよう」
そう言うと、みんなが一斉にピタパンを手に取った。楽しそうに肉を崩し、ピタパンに挟んでいく。
「「「いただきます!」」」
その合図とともに私はピタパンにかぶりついた。
噛んだ瞬間、まず感じたのはピタパンのやわらかさだった。表面はほんのり香ばしく焼けているのに、中はふわっとしていて、具材を優しく包み込む。
そして、その次の瞬間――じゅわっ、と。口の中に広がったのは、ビッグボアの肉汁だった。
「……っ、これ……!」
思わず声が漏れる。
ほろほろに崩した肉は、噛む必要がほとんどないくらい柔らかい。舌の上でほどけて、旨味だけがじわじわと広がっていく。香辛料の香りがしっかり効いていて、肉の濃厚な味をさらに引き立てていた。
そこに、煮込んだ野菜が重なる。
カレー味の方は、スパイスの香りと野菜の甘みが溶け合って、深みのある味わいになっている。トマト味の方は、さっぱりとした酸味とコクが加わって、肉の脂をちょうどよくまとめてくれる。
シャキッと感はないけれど、その分、すべてが一体になっている。パン、肉、野菜。
それぞれが主張しすぎず、でも確かに存在していて。一緒に食べることで、完成された一つの料理になっていた。
「美味しい!」
自然と、そんな言葉がこぼれる。その声を皮切りに――
「なにこれぇぇ!? めっちゃ美味しい!!」
「お肉やわらかっ! 溶けるみたい!」
「この野菜もすごい! 味がぎゅってしてる!」
「こっちのトマトのやつも好きー!」
「もう一個作っていい!?」
あちこちから歓声が上がった。子供たちは夢中でかぶりつき、口の周りを汚しながら笑っている。手元では次々とピタパンが作られ、あっという間に山が低くなっていく。
「そんなに急がなくても、まだあるよー」
そう言いながらも、その食べっぷりに思わず笑ってしまう。
「これ、毎日食べたい!」
「ダメだよ、また狩りに行かないとお肉ないもん!」
「じゃあ明日も行こう!」
「いいね、それ!」
わいわいと賑やかな声が広がる食卓。ほろほろの肉の旨味と、煮込んだ野菜の優しい味が、みんなの顔を自然とほころばせていた。
大勢で騒ぎながら食べる食事の時間。凄く楽しくて、何よりも好きだ。出来れば、こんな時間が続けばいいのにな。