軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34 第二の礎

「なんだい騒がしいね…

静かなことが、この寮の唯一の長所なのに、騒がしいったらありゃしない。

坊や、帰ったのかい?」

脳みそピンク連中がでかい声で騒ぐから、中からソーラが出てきた。

「ソーラさん。

今朝は連絡もなく朝食をすっぽかしてすみません。

これ、お土産です」

ソーラはちらりと俺が差し出した肉を見ていった。

「まったく、朝から美女を五人も待たせるとは、坊やも罪な男だね。

…水属性のツノウサギかい。

締めてから18時間から20時間といったところだね」

さりげなく、自分を美女カウントしたソーラをスルーして、横からステラが口を挟んできた。

「水属性だって?

肉を見ただけで、なんでそんなことがわかるんだ?

何者なんだ、このばあさん」

「誰がばあさんだよ、失礼な小娘だね。

筋繊維のはしり方を見れば、どういう場所で育ったか大体分かるし、匂いに特徴があるのさ。

坊やが狩ったのかい?」

俺が答える前にステラが再び口を挟んだ。

「いや、さすがにアレンでも属性持ちのツノウサギを、一人で狩るのは無理だろう。

こいつらは逃げ足がとてつもなく速い」

「っ痛い!」

ゴリラに握られているとしか思えないほど、身体強化でガードしている手首が軋んでいる…

「どういうことかなアレン?

さっきは一人で行ったって言ったよね?

花街で遊んだくらいなら、男の甲斐性と言えなくもないから許そうかと思っていたけど、お泊りデートとなると、話が変わってくるよ?」

フェイがニコニコと笑いながら聞いてくる。

「「きゃー!野獣ぅ!」」

このあほども!

「一人で行ったなんて一言も言ってないだろ?!

そもそも、なんでお前の許可がいるんだ?

離せゴリラ女!」

俺はあまりの痛みに、小学生男子のような言葉でフェイを罵倒した。

「きゃはは!

女の子相手にゴリラ女だなんて、アレンはまだまだお子様だね」

確かに自分でもそう思うが、問題なのは、俺の手首をつかんでいる女の握力が推定で200㎏を超えているため、どう考えても名詞のゴリラが適切な形容詞である点だ。

「…騒がしいねまったく。

リアドの坊やと一緒にいったんだろう?

解体の癖でわかる。

骨の切断面も、あの子のもっているザイムラー社の特注ナイフの切り口を想像させるしね」

ステラは『そんな事まで分かるのか?』なんて驚愕しているが、俺には、それがどのくらい凄いことなのかは分からない。

「…僕はアレンの事を信じていたよ?

アレンが鍛錬をすっぽかして人里離れた山奥の洞窟に、雨宿りと称して女の子を連れ込んで、一晩中燃え上がってなんかいないって」

出てきた リアド先輩(男) の名前を聞いて、再びフェイは俺の手首を握る手を緩めた。

妄想逞しすぎるだろ…

俺は急いでフェイの手を振りほどこうと手を力いっぱい振った。

が、外れなかった。

「…その『リアド』さん、というのは、どなたなのですか?」

ジュエがソーラに尋ねた。

「3年Bクラスに在籍しているこの学園の生徒さ。

坊や以外で唯一、Eクラスでもないのにこの寮に身を置く、変わり者さね。

まぁ、なかなかに見どころのある子だよ」

それを聞いたジュエは、とち狂っていきなりこんなことを宣言した。

「…ソーラさん。

私は貴族寮からこちらの一般寮に引っ越して参ります。

こちらは1棟しかないようですし、男女で建物が分かれていないのでしょう?

アレンさんの隣の部屋を希望いたします」

流石のソーラも呆気に取られて言葉が出ない。

「いつ貴族寮に来るのかを尋ねても、はぐらかすばかりで一向に引っ越すご様子がないので、不思議に思っていましたが…

アレンさん、その先輩と懇意にしておられることから考えても、お引越しなさるつもりがないのでしょう?

こんなことを繰り返していては、アレンさんのDの行方が気になって、おちおち夜も眠れませんわ」

いや、Dの行方はどうでもいいから…

かっこよく言うの止めてくれない?

Dのファンから苦情来るよ?

それを聞いたフェイは、ネコ科の肉食獣を思わす目をラン、と見開いて笑った。

「…即断即決即実行とはね。

それでこそ剛毅果断を家訓とするレベランス家が誇る天才、ジュエリー・レベランスだね。

ソーラ?アレンの隣をもう一つお願い」

フェイは、餃子もう一皿!みたいなノリで俺の隣室を要求した。

「ふふ。

アレンさんが角部屋だった場合、唯一の隣室は先に手を挙げた私のものですよ?」

ジュエは、くつくつと笑いながら、フェイを挑発するように見下ろした。

ちなみに、ジュエよりもフェイの方が身長が高いので、ここでいう見下ろしたは、心理的なものだ。

「…あんたたち、その 格好(私服) からしてどう見ても良家の子女だろう?

ここは貴族寮と違って、家事代行サービスも何もないんだよ?

生活できるのかい?

そもそもあんたらは、粒ぞろいと評判の今年の1年Aクラスの生徒だといっていただろう。

ここがなんて呼ばれているか知っているのかい?

負け犬の寮(犬小屋) さ」

ソーラは二人を上から覗き込むようにして、いつか俺も聞いた脅しをかけた。

頑張れソーラ!

「 家事など(そんなもの) は、やる気さえあれば、訓練次第で何とでもなります。

それに、アレンさんに加えて、私たちまで入寮するんですよ?

そのような呼び名は、すぐに聞こえなくしてみせます」

応援虚しく、ジュエは自信満々に言いはなった。

「はぁー…まぁいいだろう。

だが残念だったね…坊やは角部屋じゃないが、上下左右はすでに埋まっているよ」

…え?そうなの?

今までまったく気配を感じなかったんだけど…

俺が不思議そうな顔をしていると、ソーラは手についていた杖で後方を指した。

「来たみたいだね」

ソーラが指した方を振り返ると、荷台に荷物をぱんぱんに積んだトラック型の魔導車と並行して、アルたちがこちらに向かって走ってきていた。

「よぉアレン!

俺たちも今日からこっちで世話になるからな。

今朝の訓練で話そうと思っていたんだが、アレン休んでたから…驚かせちまったか?」

なんでそうなるんだ…

俺はこの静かな寮が気に入っているのに…

「…いったい何を考えているんだ?

メリットなんて何もないだろう?」

俺は至極当然な疑問を口にした。

「…昨日ライオがさ、朝の訓練をアレンと同じ本数坂道走れたから、次は素振りのやり方を聞きに行くっていうから…

休みだったし興味本位で俺たちもついてきたんだ」

ここにはアルの他に、ライオ、ココ、ダン、ドルの5人がいた。

「…タイムはまだまだ、だがな」

現状に満足していないのだろう。

ライオはぶっきらぼうに言った。

「そしたらアレンは出かけていないって言うからさ。

ソーラさんに普段のアレンの素振りの様子を聞いてたんだけど…

アレン、貴族寮にはそのうち来る、なんて言ってたくせに、ソーラさんには、はっきり『3年間ここで世話になる』って宣言しているそうじゃないか?」

アルは、俺のことを真っすぐな目で見て聞いてきた。

ジュエも、やっぱり、という顔で微笑んだ。

アルにこういう目で見られると、ごまかす気が失せるな…

「それは……悪かったな」

俺は素直に謝った。

「いや、怒っているわけじゃないんだ…

アレンは、この寮に初めて来たとき、寮則の『質実剛健』が気に入って、その場で3年間ここで過ごすことを宣言したってソーラさんに聞いてさ…

王立学園に合格して、田舎のエングレーバー子爵領では考えられないほど優雅な暮らしを貴族寮で味わって、満足していた自分が恥ずかしくなったよ」

アルの言葉に、他の4人が悔しそうにうつむいた。

いや、俺が考えている『質実剛健』はそんな美しい物じゃないんだけど…

もっとチャランでポランな気持ちなんだけど…

この流れで言いづらいけど、いってもいいのかな?

やばいかな?

「俺たちが、まずアレンに追い付かなくちゃならないのは、身体強化魔法の練度なんかじゃない。

極限まで甘えを削ぎ落として、高みを目指そうとする、その精神だ。

そういう結論になったってわけさ」

ライオが奥歯を噛み締めながら、付け加えた。

「近頃では、お前の、アレンの、やりたい事をやる生き方とやらも、うっすらと分かり始めた。

自分が真に望む物を見つめ、それ以外は全てを捨てる覚悟。

そういうことだろう?

俺に足りないものを、お前は、アレンは確かに持っている。

それが何なのか、近くで見させてもらうぞ。

…そして、俺も必ず手に入れてみせる」

ライオがまじめ腐った顔でこんなことを言ってきたので、俺はやりきれなくなった。

似ているようで、全然違う。

俺はアホらしくなって、思いつきでこんな事を口にした。

「ふん。

お前か、アレンか、呼び方どっちかに統一してくれない?

切り替えるタイミングって照れ臭いよね」

……

滑った…

「ところでアル?

なんでそんな重要な情報を僕は聞いていないのかな?

友達だと思っていたのは、僕だけだった、ということかな?」

フェイはようやく俺の手首を離し、瞳孔を開いてアルに詰め寄った。

「ん?いやぁ昨日今日と休みだっただろ?

朝の鍛錬でも会わなかったし…

明日クラスで会ったら勿論言うつもりだったさ。

あぁ心配するな!

部屋はたくさん空いてるみたいだぞ!」

アルは無敵の笑顔で言った。

さすがはアルだ!

お前とは仲良くできると最初から分かっていた!

「…それで、どなたがアレンさんの隣室に入居予定なんですか?」

絶句したフェイを横目に、ジュエは嫌な予感のする質問を投げかけた。

「ん?あぁ、俺とココが隣、ダンが上でドルが下に入る予定だよ!

やっぱり男同士で――」

ジュエは遮った。

「100万リアル…

アルさん、ココさん、どちらかお部屋を代わってくださいませんか?」

いつもと変わらぬ平然とした表情で、ジュエがこんなとんでもない事を言い出した。

「100万リアル?!

ジュエ!流石に侯爵令嬢のあなたでも気軽に出せる金額じゃないでしょう?」

耳年増で妄想癖はあるが、一見真面目な委員長風で、その実真面目な委員長タイプのケイトが止めに入った。

「ご心配なく。

お父様を説得する自信はあります。

寧ろ推奨されるでしょう」

どんな親だよ!

だめだ、俺の勘は正しかった。

こいつも姉上と同じ、あちら側の人間だ…

「僕は300万リアル出すよ?

ココ?僕たち友達だよね?代わってくれるよね?」

フェイは、狡猾にも断るのが苦手そうなココに詰め寄った。

「あ、あぁ、そんなに代わりたいなら金なんていらないから、代わって――」

このままでは詰むと思った俺は、アルが言い切る前に強権を発動した。

「如何なる理由があろうとも、部屋の交換は認めない。

もしこれを破った場合は監督権限で坂道部はクビだ。

勿論3年間、俺はそいつとは一言も口を利かない」

こうして俺の平穏な寮生活は終止符を打ったが、やばい隣人が引っ越してくる事だけは辛うじて阻止した。

ちなみにライオは、『上り下りする時間が無駄』と言って、一階の入り口に近い部屋を確保したらしい。

「…で、あんたら、寮に付いてるあたし特製の朝食は食うのかい?

私は魔物食材の研究家でねぇ…

味よりも、その効果を見極める事に主眼をおいているから、大してうまいもんじゃないが…

ちなみに、坊やは自分のなしたい事に必要だといって、毎日食べてるよ?

ひゃっひゃっひゃっ」

ソーラは、寮母の顔をかき捨てて、いきなりマッドサイエンティストに変貌した。

大して美味いものじゃないだと?

だが、その事に気がついているのは俺だけだ。

「なるほどそういう事か…

だからそれほど、ツノウサギについても詳しかったんだな。

私は勿論食べるぞ!

どうやらこの寮にはアレンの強さの秘密が色々とありそうだ。

私もこっちへ来るよ」

「…仕方ありませんね。

私もこちらへ移ります」

秘密なんて何も無いが、ソーラに騙されて、 被害者(ステラとケイト) が拡大した。

くっくっく。

『性欲の権化』の噂の出どころは、間違いなくこいつらだ。

人を噂でオモチャにするやつらには、いい気味だ。

どうせ引っ越してくるなら、こいつら全員巻き添えだ。

俺はダメ押しに、こんなふうな事を言った。

「お前らに、この修行はまだ無理だ。

特に、口が肥えているだろう、ライオやフェイ、ジュエなんかにはな…

必ず後悔するから、止めておく事を強く推奨する」

ジロリ、と、ソーラが危ない目でこちらを睨む。

邪魔をするなと言いたいのだろう。

心配するな。

こいつらの行動パターンは既に知悉している。

こうして煽れば――

「無論、俺も毎日食べる。

寧ろお願いしたいくらいだ」

「心外だな。

僕は魔道具士だよ?

食事なんか、むしろいかに簡単に済ますかばかりを考えていたくらいだよ。

僕も喜んで食べるよ」

「アレンさんの顔を見ながら食べる朝食なら、なんだって美味しいに決まっていますっ」

次々に食いついてくるに決まっている。

「ひゃっひゃっひゃっ

全員だね?

これは明日から忙しくなりそうだね。

ひゃっひゃっひゃっ、ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

俺は『やれやれ、俺は止めたぞ』という感じで頭を下げて首を振った。

しかし、心の中では笑っていた。

ひゃっひゃっひゃっひゃっ!

…人を騙してする、この笑い方は気持ちいいな…

癖にならないように気をつけよう…

こうして、王立学園 坂道(さかどう) 部と並び、後にユニコーン世代第二の礎と呼ばれる一般寮での生活はスタートを切った。