軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

305 学園祭(4)

新星杯は各国で騎士を目指す若者たちによって競われる、武の祭典だ。

ユグリア王国の場合、これまでは慣例的に王立学園の騎士コースに所属する生徒の中から各学年一名が推薦され、国の威信を背負って戦ってきた。

例えば昨年の一年生代表はライオだった。

だが今年は少々事情が異なる。

王立学園以外にも面白い奴はいるはずだ、そんな奴らを眠らせておくのは勿体無いとアレンが主張した事をきっかけに、初の試みとしてこの学園祭で新星杯の代表を決める予選を開催する事になっている。

確かに、お勉強はできないが腕っぷしには自信がある奴だとか、素材としては王立学園に入学するだけのポテンシャルを持ちながら、家庭環境などに恵まれず受験に間に合わない奴、はたまた、受験当日に体調を崩す奴などもいるだろう。

だが、王立学園入試は十二歳になった年の翌春に一発勝負と決められている。

この受験システムでは、そうした人間を救済できないという問題がある事は誰もが認識していたが、個々人ごとに数多ある『事情』に配慮するには、この国は広すぎる。

ただでさえ、受験資格が与えられた者……つまり『惜しかった奴』が合格者の百倍、およそ一万人もいるのだ。

そんな訳で、一度そのルートからこぼれ落ちた者が、後からこの特急列車に乗り込むのはほぼ不可能と言える。

それを是正すべきとアレンが主張したのが、今回の新星杯予選の発端だ。

こうした一種の特権を、特権を有する側から是正するのは普通困難なのだが、アレンは『合格したら一生安泰』な人生など、ただの罰ゲームだと心から思っている。

そんな訳で、この学園祭にかこつけて他校との交流イベントを楽しむついでに、新星杯の予選を開催しているのだが――

「きぇぇええええいっ!!!」

「うぉぉおおおっ!」

「ぜぁああああっ!」

学園の中央付近にあるグラウンドのそこかしこで、気合いの籠った声が響いている。

一年半ほど前、俺が王立学園入試の際に実技試験を受けた、だだっ広いグラウンドでは、現在新星杯の予選が行われている。

もっとも、厳密に言うと今行われているのは予選の予選だ。

出場条件は、新星杯本戦と同じく王国籍を持つ当該年齢の人間である事だけなので、結構な数の人間が参加している。

もちろんエントリー者がそれなりに出る事は見越していた。

だからこそ、王立学園生がこのグラウンドで何か所かに分かれてこの予選の予選を行う事で、本選に出場できる選手を選抜する手筈にしていたのだが――

「ぐはっ! あ、ありがとうございました!」

「次の方どうぞ」

「はぁぁあああ! あうっ! あ、ありがとうございました! あ、あの、わたくしルーンレリア総合上級学校の――」

「次の方どうぞ」

「あの、アリス様のファンです! 握手してください!」

「……次の方どうぞ」

ここで人生を変えるつもりで挑む本気の腕っぷし自慢もいるにはいる。

だがそれ以外にも怖いもの見たさやら、思い出作りやら、果ては握手希望のファンまでもが多数集まって、収拾がつかなくなっているようだ。

「よ~人気だな、アリス。一番列が長いんじゃないか? ほとんど女子だけど」

様子を見に来た俺は、ファンらしき女の子と握手をしているアリスに声を掛けた。

彼女は二年生からAクラスに入った女子で、大変な美人だ。すらりと手足が長く、某歌劇団の男役トップスターのような華やかさがあって、羨ましい事に女子にモテる。

アリスは困ったように眉間に皺を寄せた。

「笑い事じゃないですよ、アレン君。何人かヘルプに入ってくれていますが、このペースだと十四時までに列をさばき切れません。新星杯の出場権が掛かってるんです。きっと大変な苦情が出ますよ?」

不敵な王様系ではなく、生真面目な王子様系トップスターのアリスにそう指摘されて、俺は肩を竦めた。

「一人ずつバカ真面目に相手にしているから時間が掛かるんだ。パーリ君を見ろ、パーリ君を」

俺が指さしたグラウンドの反対側では、パーリ君が額に汗を浮かべながら木製の槍を振りかざしている。

そして、そんなパーリ君を四人の挑戦者が取り囲んでいる。

どうやらパーリ君は、囲まれた時の訓練のつもりで四人同時に相手をしているようだ。

流石に次々に敵が増える状況で対多数の戦闘を継続するのは、パーリ君といえども楽ではないはずだ。

疲労が蓄積したところを腕に覚えがあるやつに狙われたら、十分間違いも起こりうる。

もちろんどれほど不利な条件でも負けたら、王立学園生に、あのパーリ・アベニールに勝ったと一生自慢される事になるだろう。

あのプライドの高いパーリ君には辛いだろうが――

などと考えていると、パーリ君はこんな事を言った。

「何人同時でも構わない! どんどんかかってこい!」

……どうやら 自身(アベニール) の名に傷が付くかも、なんて事は一ミリも気にしていないようだ。

そんなパーリくんの下に、ここで大物を喰らって名を上げようと様子見していた腕自慢達が、砂糖を見つけたアリのように一気に群がっていく。

だが、パーリ君は怯むどころか子供のような笑みを浮かべて前に出て、片っ端から群がる相手を薙ぎ倒していく。

まるで一騎駆けをする趙子龍だ。

どういう心境の変化か、近ごろパーリ君は一心に自分の槍を磨く事に向き合っている。

この夏休みも、前半はドラグレイドでディオに引っ付いて、質・量共に尋常ではない任務をこなしていたとフェイから聞いた。

その甲斐もあってか、伸び悩んでいたパーリ君は少しずつ自分の殻を破り、それが自信となってさらに心身が充実するという好循環に入っているようだ。

「……伸び盛りだなぁ、パーリ君」

小物感あふれるパーリ君が大好きだった俺が、寂しい気持ちでいっぱいになりながらぽつりとそう言うと、アリスは悔しそうに唇を噛んだ。

「……私も……何人同時でも構いません! どんどん来てください!」

アリスが高らかに自分の列にそう宣言すると、先頭に並んでいた女子二人は顔を見合わせて、覚悟を決めたようにずいと前に出た。

「「サインください!」」

「…………次の方どうぞ」

「パーリ・アベニールかぁ……。正直フェイルーンの子飼いとしか認識してなかったけど……中々可愛い顔をしてるわね。で、どうなのイソク? 相手が弱すぎるだけ?」

グラウンドで行われていた予選の様子をたまたま見学していた、クコーラ都市連邦から招待された一団の一人、いかにも魔道具士風の女が問う。

イソクと呼ばれて話を振られたのはクコーラ都市連邦の二年生代表として、新星杯への出場が決まっている背の高い男だ。

だが聞こえているのかいないのか、険しい顔でパーリの方を真っ直ぐに見つめたまま返事をしない。

代わりにリーダー格である筋骨隆々の男……クコーラ都市連邦の三年生代表として新星杯への出場が決まっている男が、淡々とした口調で答えた。

「――強い。いや、化け物だ」

魔道具士風の女はひゅうと口笛を吹いた。

パーリの足元にはすでに夥しい数の負傷者が転がり、次々に担架で運び出されている。

「…………プロファイルによると、弱点はスタミナ、そして実戦経験……だったかな? ……正反対じゃん。さすがうちの情報部は頼りになるなぁ」

同じく新星杯の一年生代表でこの国を訪れている男が、引き攣った笑顔で皮肉を漏らす。

「どうした?! 遠慮はいらん、がんがん来い! ……さぁ!!」

「ひ、ひぃ!」

いわゆるゾーンに入り、極限まで集中しているパーリが、闘気を立ち昇らせながらそう急かすと、パーリを取り囲んでいた挑戦者の輪は怯えたように広がった。

その様子を見学しているのは、クコーラ都市連邦の代表団だけではない。

その異様な雰囲気に、通りかかる者達が次々に足を止め、膨れ上がった見学者たちによってグラウンドはすでに騒然としている。

「……例年であれば、ユグリア王国代表として新星杯に出場していても全く不思議ではないわね。いえ、イソクには悪いけど、出れば確実に優勝候補に名を連ねたでしょう。この学園の序列で言えば十五~六番手だという話だったけど……あの器でそれは流石に有り得ないわ」

クコーラ都市連邦の代表団を引率してきた女が、呆れたようにそう断言した。ちなみに他国の招待客に限り、引率として大人の帯同が若干名許されている。

パーリは一向に向かってくる気配のない大勢の及び腰達のただ中で、どこか憂いを帯びた目で泰然と汗を拭っている。

「……ふ、ふんっ。ゆくゆくはあの神童ライオ・ザイツィンガーと二枚看板の騎士になる、王国の隠し球という訳ね。な、なかなかいけてるじゃない。フェイルーンの子飼いに留めておくには勿体無いわ」

いかにも魔道具士風の女が、顔をやや赤らめながらそんな事を言う。

「よっ! さすがドリル・パーリ! かっこいいね!」

と、それをまるで聞いていたかのように、絶妙なタイミングで妙な合いの手が入った。

「ど、ドリル・パーリ……? 王国二枚看板の二つ名にしてはダサすぎないかしら……?」

グラウンドは違う意味で騒然とした。

パーリは声のした方へ無表情のまま振り返り――

ニヒルな感じでふっと唇を上げた。

「「…………。」」