軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 監督業と一般寮の住人

学園入学から2週間。

俺は早くも、暇を持て余していた。

これまでは『受験』という明確な目標があったので、空いている時間には受験勉強を詰め込む事で、一切の無駄を排除してきた。

だが合格を勝ち取った今、これまでの習慣を維持して前世のようにガリガリ勉強していたら、あっという間に3年間の学園生活など過ぎ去る。

午後の講義後、最初の2週間は、王都にある、この国随一の蔵書量を誇る王立図書館で、体外魔法に関する蔵書を読み漁った。

この世界の本は、前世に比べると貴重ではあるが、王立学園の生徒であれば、前世基準で見てもかなりでかい王立図書館を無料で利用可能で、一部の本を除いて、特別に3冊まで貸し出しを受ける事も許可される。

真っ直ぐに図書館に向かい体外魔法を使用するための糸口を研究をする日々…

これは断じて勉強ではなく趣味だ、と自分に言い聞かせながら、前世の学生時代と全く同じルーティーン、即ち学校から図書館に直行し、閉館時間まで粘って 本を読み(勉強し) 、必要な蔵書を借りて、帰りに蕎麦をパパッと食って、家で寝るまで自習をする日々に、このままでいいのかと焦燥感を募らせた。

そして、2週間で関係しそうな本を調べ尽くし、大した成果がない事を確認した俺は、いよいよ焦りを募らせていた。

このままでは勉強か素振りしかやる事が無くなる…

元々は、『楽しそうな部活動にでも入ろう』なんて気軽に考えていたのだ。

だが入学してみると、活動している部活動が碌に無かった。

ゴドルフェンの勧めで立ち上げた 坂道部(さかどうぶ) は、朝の授業開始前だ。

坂道部で夕方以降や休日の暇を慰める事はできない。

ちなみに、すでに俺は、1人ずつ走っている姿を確認した上で、それぞれの『目指す姿』をヒアリングした後、綿密な育成戦略を立てて部員達、即ち全クラスメイトに伝えている。

簡単に説明すると、裏門から出て正門まで走る2軍と、俺と同じく正門から出て一周する1軍に分けて、出発時刻、坂道ダッシュの本数、それぞれの走りの課題などを伝えて朝の鍛錬のスタートを切らせただけだ。

後は優秀なあいつらならば、自分で考えて、最適な形へ落とし込んでいくだろう。

俺が厳格に定めたルールは一つだけだ。

一周40kmの外周を、坂道ダッシュ3本以上を含めて1時間45分以内に走れないやつは2軍で、半周コースを取る、というルールのみだ(と言っても、学園の中をショートカットする半周コースでも30kmほどはある)。

エリート中のエリートであるクラスメイト達のほとんどは、2軍に配属された。

プライドの高い彼らが、俺に『お前らはこの坂道部の部員に足る実力のない2軍だ。

悔しければさっさと1軍に上がる実力をつけるか、さもなくば辞めろ』と宣告されて、悔しげに顔を歪ませていた。

中には目に涙を浮かべている奴すらいた。

気の毒だが、仕方がない。

なぜこのような仕組みにしたかというと、もちろんゴドルフェンの課題をクリアする、という自分の都合を優先しただけだ。

文句はゴドルフェンに言ってくれ。

仮に彼らが頑張って一軍に上がってきたとしたら、5時に走り出したとしても、午前の授業前にはある程度魔力は回復するだろう。

上がれなかったとしても、半周コースであれば、2か月あれば、午前の始業前には何とか回復する程度には成長をするだろう。

嫌になって辞めたら、ノーリスクで課題の対象外となる。

くっくっく。

そう。

このスキームは、何がどう転んでも勝利が約束されている。

言い訳も完璧だ。

半周コースは、決してゴドルフェンが言っていた、『やる気のあるものに手を抜かさせて課題をクリアさせる』には当たらない。

彼等のやる気に応えて、現状の実力に適した訓練手法を設定しただけだ。

そして、重要なのは、俺は設定した訓練内容が適切だと考えている事だ。

彼らを伸ばす上で、俺が考える最適解なのだから、文句を言われる筋合いは全くない。

全力をつくした、という既成事実を作るために、クラスメイト達のスタート時間を調整する事で、毎朝全員を追い抜いて走りを確認しながら、ハッパをかける事も忘れない。

「頭で考えるな!昨日も同じことを言ったぞ!帰れ!」

「身体強化に頼りすぎだ!帰れ!」

「目で見るな!心の目で見て足裏と会話するんだよ!辞めちまえ!」

自分でも、何を言っているのかよく分からない事を適当に言いながら、全員辞めさせるつもりでしごいているが、今のところ1人も辞めていない。

だが遠からず脱落者が出るだろう。

全力を尽くしている人間に対し、このような理不尽なパワハラワードを 上司(監督) が掛けることが、どれほど本人のやる気を削ぐかは、前世で苦労したこの俺が一番わかっている。

ちなみに、2軍から1軍に上がったら、あれだけ『決まったコースを走れ』と力説したのに、いきなりコースを変更できる事になるが、そんな事は知ったこっちゃない。

俺自身のルーティーンは変えず、無事課題をクリアする。

それが大切だ。

話が逸れたが、そんなわけで、坂道部の活動はすでに俺の手を離れている。

俺は入学後、2回目の週末でいきなり何もやる事がなくなった。

勉強と素振りをしたくてしょうがないが、明確な目的もなくやるそれを『趣味』と言ってしまえば、俺はもうアウトロー路線に行く事は不可能になる気がする…

前世で、目的もなく資格取得の勉強をしていたのとなんら変わらないだろう。

しかたがないので朝食後、暇にかまけて庭で、一向に出来る気配の無い『ファイアーボール』の練習をしていた。

と、そこへ、滅多に出くわすことのない、この 王立学園一般寮(犬小屋) の住人と思しき男が、背中に植物で編まれた籠を背負って現れた。

いかにもこれから山へ柴刈りに行きます、と言わんばかりの、格好だ。

俺は興味本位で声をかけてみる事にした。

「初めまして。

私はアレン・ロヴェーヌといいます。

先輩はこれからどちらへ?」

学年は分からないが、この出立ちでまさか同級生はないだろう。

男は俺の名前を聞いて驚いた風をして答えた。

「君があの1-Aクラスのアレン・ロヴェーヌかい?

僕は3-Bクラスのリアド・グフーシュというものだよ。

途轍もない変人とか、精神分裂者とか、性欲の権化とか、様々な噂が飛び交っていたけれど、意外と普通なんだね」

リアド先輩は、様々な噂を思い出したのか、可笑しそうに笑った。

「あっはっはっ。

そんなものは根も葉もない噂ですよ」

俺も笑って誤魔化した。

しかしグフーシュ…俺の脳内データベースに該当する名前がない。

取り立てて特徴のない男爵家出身か、さもなくば庶民出身なのだろう。

「 こんな所(一般寮) で何をしているんだい?」

リアド先輩は不思議そうに聞いてきた。

「何って、ここに住んでいますからね。

先程寮の朝食を食べて、暇つぶしに鍛錬をしていたところです」

そう答えた俺を、リアド先輩は途轍もない変人を見るような目で見てきた。

「へぇ…朝食をねぇ…

…君はAクラスでの合格が決まったんだろう。

貴族寮へ移動しないのかい?」

「特に必要性を感じませんので。

先輩こそ、Bクラスなのになぜこの寮に?」

「僕の場合は、実家が薬屋を営んでいてね。

将来のための勉強を兼ねて、時間を見つけては近くの山林に薬草やキノコなどの採集に行って、実家に卸しているんだけど、立地的に裏門に近い 一般寮(こちら) の方が何かと都合良くてね」

『貴族ではないから、生活の事は自分である程度できるしね』と、リアド先輩は屈託なく笑った。

俺の先輩への好感度は急上昇した。

今更説明するまでもないが、この王立学園をBクラスで卒業するという事は、将来が約束されたも同然の、途轍もないエリートだ。

にもかかわらず、先輩には驕ったような様子が全く感じられない。

自分のやりたい事の為に、貴族寮になど目もくれないところも素晴らしい。

「これから採集ですよね?

よければ俺も、同行させてもらえませんか?」

俺はごく自然にそう頼んだが、先輩はかなり驚いた様子で答えた。

「別に構わないけど、はっきり言って地味な作業で、面白い物じゃないよ?

君の将来に役立つとも思えない。

王国騎士団員が、自ら薬草採集するなんて聞いたこともないからね」

「俺は別に、将来王国騎士団に入団すると決めている訳ではありません。

もしかしたら探索者になるかもしれない。

探索者に成り立ての新米の仕事といえば、薬草などの素材採集でしょう?

何が役に立つかは分からない。

なのでお願いします」

そう。

探索者のデビュー依頼といえば薬草採集。

そこで、新人とは思えないほどの大量の薬草を集めて帰ってきて、俺の事を世間知らずの生意気な新人だと思ってた受付の女の子が、目を白黒させる…

これぞ異世界転生の王道中の王道の展開。

チートではなくコソ練、というのが淋しいところだが、このテンプレを踏むために、薬草採集をここで練習しておくのは悪いことではない。

どうせ暇だし。

心の中でそんな事を考えていたら、先輩はその夢をあっさり否定した。

「あっはっはっ。

君がすごく変わっている事はわかったよ。

でも君が薬草採集の依頼をこなす事は無いと思うよ?

王立学園生が探索者登録をした場合、Dランクに格付けされる。卒業生は無条件でCランクだ。

王都周辺でDランククラスが受注するほど割のいい薬草採集なんてないからね」

…そんな特権求めてないのに…

俺はすでに庭師のオリバーが苦労して獲得したDランク探索者の権利を取得していた。

でもまぁいいか。

この世界の素材に興味があるのは確かだ。

本である程度知識を齧っているとはいえ、専門家の手解きを受けながら実践できるのは貴重な機会だろう。

俺はぜひ同行したい旨を重ねて頼み、頭を45°下げた。

先輩は、快く了承してくれた。