軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 スタミナの話と部活動(2)

「俺を、ゴドルフェン先生の弟子にしてください!」

クラスメイト達の遅刻問題が解決した俺は、その日の夕方に職員室へ突撃した。

クラスが確定してしまった以上、遠慮する事は何もない。

周りの先生方が生暖かい目で見てくるが、気にしない。

とりあえず当たって砕けろだ。

俺は、頭をきっかり45度下げて、ゴドルフェンに再度弟子入りを申し込んだ。

「…ふむ。

楽に話していいぞい。

わしは堅苦しいのが嫌いでの。

…しかし弟子と言われてものぅ…

わしはお主の担任じゃし、わしに答えられる事は何でも答えるつもりじゃ。

そういう意味では、1-Aクラスの生徒達は、皆わしの弟子とも言えるの。

…そもそも、わしに何を聞きたいのかのぅ?」

俺は笑われるのを覚悟して答えた。

「…俺には体外魔法の才能、とりわけ性質変化の才能がまったくない。

だが、何としてでも体外魔法を使いたいと考えている。

理由は、かっこいいからだ。

そこに、合理的な理屈は一切ない。

ゴドルフェン先生は、若い頃は体外魔法の才能がなくて苦労したと聞いた。

どうか、俺が体外魔法を使えるように鍛えてくれないか?

…明確な 答え(方策) がなくてもいい。

せめて方向性だけでも示してくれないか?」

俺は腰を45度折り曲げたままで、顔だけ上げてゴドルフェンの目を見て言った。

ゴドルフェンは笑わず、真剣な顔で俺の目をじっと見ながら、暫く白髭を撫でていた。

「なるほどのぅ…

それはデメリットは十分に把握した上での、お願い、と、捉えていいのかの?」

「身体強化を伸ばしていく事が、本来は俺にとって最適な解だ、という事は分かっている」

「ふ〜む」

ゴドルフェンは、腕を組んで目を瞑っている。

俺は回答を待った。

「…話は分かった。

だがわしは、若い頃から性質変化の才能だけはあった。

お主の期待に応える方法にも、心当たりはない。

わしに弟子入りしたとして、お主の求めるものを与える事はできんじゃろう。

ただし――」

そこでゴドルフェンは白髭を撫でた。

「方向性、という意味では、心当たりが無いこともない」

「本当か!」

俺は食いついた。

自分なりに調査を続けてきたものの、調べても調べても出てくるのは、俺が求めているものが、いかに高い壁に阻まれているかを示す、ネガティブな情報ばかりだったのだ。

俺が食いついたのも仕方がないだろう。

全ては、この食えないじじいの手のひらの上で、踊らされていたと気がついたのは、暫く経った後だった。

「ただし。

条件がある」

ゴドルフェンは俺の目を見ながら続けた。

「あの午前中の惨状を何とかせい…」

今朝は朝9時に全員が教室に到着していた。

だが魔力を使い果たしたクラスメイト達は、とても実技の鍛錬など出来る状態ではなく、ほとんどのものが仕方がなく魔力を圧縮して溜め戻す訓練を行なっていた。

「そんな事を俺に言われても困る。

何度も言うが、俺があいつらに提案したわけじゃないんだ。

俺にあいつらを止める権利はない」

「ふぉっふぉっふぉっ。

止めさせるつもりはさらさらないのぅ。

普通は嫌厭しがちな基礎鍛錬を、それだけの強度で、生徒たち自身が自主的に行っておるのじゃ。

多少授業を犠牲にしたとしても、必ずや諸君らの財産になる。

…さりとて、いつまでも魔力圧縮だけをしとる訳にもいかん。

そこで、貴様には、クラスメイト達が午前中にまともに授業を受けられるように、彼らを導いてもらおう。

期間は2ヶ月。

それが出来たなら、貴様にはわしが思う方向性を与えよう」

2ヶ月か…

俺は瞬時に頭の中で算盤を弾いた。

「2つ確認する。

1つ目は、俺が助言するのは、やる気のあるやつだけだという事だ。

今朝は全員揃っていたが、全員が続けられるとは限らない。

またその必要もない。

身体強化よりも優先すべき事があるやつもいるだろうからな」

「…よかろう。

ただし、やる気のあるものに手を抜かす事で、この課題をクリアさせる事は許さん。

…いっそ朝の鍛錬を部活動にしてはどうじゃ?

きちんと活動している部活動もほとんどないし、どうせ有名無実の部活動に名前だけ所属させるものがほとんどじゃろ。

掛け持ちも可能じゃし、お主が監督ということにすれば、同級生にも指示が出しやすかろう」

ゴドルフェンは衝撃的な事を言ってきた。

「きちんと活動している部活動がほとんどないだと?!

魔法研究部はどうなんだ!?

きちんと活動しているんだろうな?」

俺の剣幕に驚いたのか、近くに座っていた、金髪のやり手そうな女教師が助け舟を出してきた。

「魔法研究部はありません。

確か記録によると、300年ほど前に廃部になったはずです。

今、魔法を学びたいものは、王都で著名なシンプレックス魔法塾に通うものがほとんどでしょう。

名のある魔法士を家庭教師につける子も多いですね。

…私の事はムジカ先生と呼んでください。

アレン・ロヴェーヌ君」

…塾だと?

どいつもこいつも青春をいったい何だと思っているんだ?

「…分かった。

やる気のあるその部活動の部員のみ対象、ということならいいだろう。

どうやって部を立ち上げればいいんだ?」

この質問にもムジカ先生が答えた。

「部活動の名称を決めてくれれば、こちらで手続きはやっておきますよ。

活動内容は、大体把握していますからね。

顧問はゴドルフェン翁にお願いしても?」

「ふぉっふぉっふぉっ。

よかろう。

ただし、活動内容に口を出すつもりはないがの」

いわゆる名ばかり顧問か。

…まぁいいだろう。

必要があれば相談すればいいし、自由にやらせてくれるというのはありがたい。

俺は続けて気になっている事を確認した。

「もう一つ。

その方向性とやらは、俺の師になって示してくれる、と解釈していいのか?」

『方向性に心当たりがない事もない』なんて、表現があまりにも曖昧だ。

のらりくらりとごまかされたとしても、とりあえず有名らしいゴドルフェンへの弟子入りが確約されるのであれば、自分の時間を割いたとしても収支はプラスと判断できる。

「ふむ。

先程も言ったがのぅ。

わしにはお主が求めるものを提供する事は出来んじゃろう。

なので代わりに、適切な人材を紹介しよう」

「代わりの人材だと?

…どういった人なんだ?」

俺は疑いの目をゴドルフェンに向けた。

「ふむ。

由緒ある王国騎士団の第3軍団軍団長を務める、現役バリバリの男じゃの。

当然めちゃくちゃに忙しく、わしの紹介がなければまず弟子入りは無理じゃろうな。

予め言っておくが、あくまで紹介するだけじゃ。

そして、もし首尾よく弟子入りできたとしても、手取り足取り教えてもらえるとは思わん事じゃ。

あくまで、たまに助言をくれる、程度じゃと考えておくがよい」

おおっ!

すでに具体的な人物が、ゴドルフェン先生の脳裏にはあるらしい。

つまり、俺の求めるものを把握した上で、『適切な人材』と考えている事は、口から出まかせの話ではない、ということだ。

素晴らしい!

よく見ると、隣のムジカ先生も驚愕している。

偉そうな肩書きの人だし、そんなにすごい人なのか?!

俺は、やむなく心を鬼にして、全員部活動を辞めさせる勢いで徹底的にクラスメイト達を鍛え上げることを決意した。

「…話がまとまったようで何よりです。

ところで、部活動の名前は何にしますか?」

やり手風のムジカ先生が聞いてきた。

俺は少し考えて答えた。

「『 坂道部(さかどうぶ) 』にします」

「…さかどう?

…別にどんな名前でも構わないのですが…

あまり活動内容とかけ離れた名称だと色々と不便がありませんか?」

思いつきが口から滑り出ただけで、深い意味など何も無かったが、そう説明するのも何となく恥ずかしかったので、俺は風に任せて力説した。

「かけ離れてなどいない!

坂道を全力で駆け上り、転ばないように駆け降りる事は、ある意味で人生に通じる『 道(みち) 』だ!

坂道とは即ち逆境だ。

逆境と正面から向き合い、自己を見つめ直す…

それがこの部活動の肝だ!」

「???

まぁいいですけどね」

後に、『ユニコーン世代の礎』『王立学園の裏必修科目』とまで言われることとなる名門部活動、『王立学園坂道部』は、このようにアレンの趣味と口から滑り出た思いつきにより誕生した。

アレンが職員室から退室した後。

「ゴドルフェン翁…

いくら何でもあの条件は可哀想ではないですか?

昨日の職員会議では、あの濃度の鍛錬を自発的にやっているのであれば、半年間は午前の実技授業が潰れてもお釣りが来るのぅ、なんて言っていましたよね?

それを2ヶ月だなんて…」

「ふぉっふぉっふぉっ。

出来ると分かっている事をやらせても意味がない。

小僧がどうこの課題に向き合い、人をどう育てるのか、それを見たいのじゃ」

ムジカはため息をつき、呆れたように首を振った。

「しかも、その見返りが身体強化魔法に特化したデューさんへの紹介だなんて…

デューさんが断ったらどうするおつもりですか?」

「ふぉっふぉっふぉっ!

デューのやつは、弱冠38歳で王国騎士団の軍団長に抜擢されるほどの男じゃぞ?

小僧ほどの素材が手元に来て、断るわけがなかろう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ!」

ゴドルフェンは、楽しくて仕方がない、というように、しばらくの間笑っていた。