軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137 林間学校

1年の後期が始まって2ヶ月半ほどが経った晩秋。

俺たち王立学園の生徒は、林間学校へと来ていた。

この林間学校は学年毎に行き先が分けられ、そしてその場所も内容も毎年バラバラだ。

普通の学校では、これほどフレキシブルな教育課程を組む事は予算面から考えても絶対に出来ないだろうが、この王立学園に割り当てられた予算や人的サポートなどは桁が違う。

今年の1年生の研修地は、王国北西部にあるトルヴェール地方ヴァンキッシュ子爵領のダーレー山脈の中腹、即ちゴドルフェン先生の実家が治める領内だ。

もっとも、ゴドルフェン先生は『フォン』を有するヴァンキッシュ家の当主だが、王都に出ずっぱりでしかも多忙を極めており、とても領地経営などできないので子爵の爵位はその弟が継いでいるそうだ。

同級生達と泊まりでの野外研修……

寮で先輩たちに大体どんな事をやるのかをヒアリングしたところ、年によって異なるが、大体はクラス毎などのいくつかのグループに分かれてグループワークをし、その順位を競ったりするらしい。

もちろんきゃっきゃっうふふと女の子と野営のテントを組んだりして、男女の仲が急接近するチャンスも多いとの事だ。

想像しただけでワクワクが止まらない、俺が楽しみにしていた一大青春イベントが、遂に始まる。

普段は呆れるほど大人びているクラスメイト達も、移動の貸切魔導列車や車中ではどこか浮かれた雰囲気を醸し出していたが、誰よりも浮かれているのはそう、この俺だ!

……夜寝る前には、やっぱり同性同士で恋バナだな。

皆の好きな人を聞いて回って、悩んでいる奴がいれば、俺が一つ『モテる男の裏定理』から抜粋した、とっておきのアドバイスでも送ってやろう。

この時の俺は、まだこんな感じでルンルンと遠足気分に胸を高鳴らせていた。

到着した野営拠点は、紅葉最盛期と思われるダーレー山脈の麓へと続く草原で、風光明媚な場所だった。

峻険なダーレー山脈の頂上付近には、すでにチラホラと雪が来ているようだが、本日は空気の澄み切った秋晴れだ。

絶好の遠足日和と言えるだろう。

100名の王立学園1年生がクラス毎に整列したところで、ゴドルフェン先生が話を始める。

「ふぉっふぉっふぉっ。

遠路はるばるヴァンキッシュ領へとようこそ。

此度の林間学校の総指揮を務める、1年Aクラス担任のゴドルフェンじゃ」

ゴドルフェン先生もまた上機嫌にそう言った。

「さて、王立学園指導要領によると、林間学校の目的とは、自然に親しみながら生徒の体力の増進と心の育成を進め、仲間との絆を深める、とある。

それに即したカリキュラムを用意した」

ふむふむ、さすがは王立学園の指導要領。中々良い事を言うな。

「具体的には、各クラス毎に異なる課題を与え、その早さを競い合ってもらう。もちろん課題の達成度など内容も加味するがの。

諸君らの実力を吟味し、結果が接戦となるようワシなりに調整したつもりじゃ」

おー!やはりクラス対抗か!

俄然学園ものの異世界転生らしくなってきたな!

チラリと横を見ると、DクラスやEクラスの生徒は顔が明るくなっている。

難度を調整していると聞いて、自分達にもチャンスがあると考えているのだろう。

「無論、課題の評価は今期の成績に大きく響く。

それに加えて、諸君らに張り合いが出るよう、ちょっとしたご褒美を用意した。

各クラスが課題をこなした後に向かう最終目的地、それはヴァンキッシュ領屈指の温泉保養地で、山紫水明と名高いシティング湖の湖畔にあるヴァンキッシュ家の別荘じゃ。

この林間学校の期間は1週間じゃが、早く到着したクラスはこの別荘でゆっくりと過ごせる。

贅沢にあまり興味の無いわしじゃが、唯一と言っていいほどこの施設には贅の限りを尽くした。

拘り抜いて作った、天然温泉を引いた7つの風呂と4つのサウナを完備した、極上の保養施設じゃ。

陛下を迎えても恥ずかしくはないと自負しておる。

もっとも、さほどの広さはないので、遅れて到着したクラスにあてがわれるのは使用人の部屋、最後のクラスは広間で雑魚寝じゃがのう」

「絶対に勝ぁぁつ!!」

俺は思わず腹に力を込めて叫んだ。

部屋の豪華さなどどうでもいいが、誰よりも温泉を楽しむには誰よりも早く到着する必要があることは自明だ。

俺がうっかり闘志を漲らせたのを見て、ライオが釣れた。

「勝利するのは当然だ。問題はどのようにして勝つか……目指すは圧倒的勝利……だろう、アレン」

「当然だ!

かますぞ、お前ら!」

「「おうっ!」」

この俺たちAクラスの気合いを見て、他のクラスは怯むかと思いきや、皆闘志をその顔に宿らせた。

流石は国中から集められたエリート集団だけはある。

ライオの『圧倒的勝利を目指す』発言に、必ずや一矢報いると、どの顔にも書いてあった。

くっくっく。

そう来なくては面白くない!

「ふぉっふぉっふぉっ!

どのクラスも気合い十分と言うところじゃのう。

さて、各々承知しておるとは思うが……

この林間学校は、自然が相手じゃ。

普段安全管理に万全の配慮がなされている学園内とは違い、ちょっとした不運、ちょっとした気の緩みが事故に繋がる。

過去には不幸にも死亡者を出す事故も起きておる。

決して油断することのないようにの。

時間も限られておる事じゃし、早速始めよう。

それではリアス先生からお願いしようかのう」

ゴドルフェン先生がこう言うと、Eクラスの担任のリアス先生は一歩前に出た。

「諸君らにはクラス毎に異なる、5つずつの『想定』をこなしてもらう。

それではまずEクラスの初めの『想定』を発表する。

想定!ここより北北西に50kmほど進んだ所にオークの群れが巣を作っているとの報告があった。

ジェネラルオークの個体も確認されており、民間では対応が遅れ、魔物災害に発展する危険がある!

近隣に被害が出る前にここを強襲し、オークの群れを殲滅し、巣を焼却せよ!

装備は右側後方の倉庫より吟味し、準備が整い次第出立せよ!」

……なるほどな。

目的を与え、どうアプローチするかは学生に任せるわけか。

右側後方には馬鹿でかいタープテントがあり、野営に必要な簡易テントや採取道具、武器防具などが山と積まれている。

これは基礎体力や武芸の実力に加え、考える力やチームワークが勝敗を分けそうだ。

というかこれは明らかに林間学校のグループワークなどではなく、軍事演習の類だろう。

ゴドルフェン(先生) の好みが如実に反映されているな……

嫌な予感がしてきたぞ。

そんな事を考えていると、リアス先生は1つ条件を加えた。

「第1想定のリーダーはソリオ・リジャックを指名する。

協議は認めるが、最終決定権の譲渡や多数決での決定は認めない。以上だ」

……敢えて指揮系統まで作るのか。

しかも『第1想定の』と敢えて断るという事は、想定ごとに リーダー(上官) を変えるという事だ。

これは実に嫌らしい仕掛けだ。

皆の安全や作戦の成果、その責任をリーダーに負わせる。これでは当然リーダーの負担が大きくなる。

……あのゴドルフェン先生が指揮をとって考えられた課題だ。

正解の無いような、51対49でどちらかを選ばざるを得ないような悩ましい局面が待っているに違いない。

そこでリーダーがどのようにリーダーシップを発揮するか。

そこを誤ると集団など簡単に瓦解する。

想定ごとにリーダーが入れ替わると、その度にクラスの行動方針にブレが生じたり、リーダーの決定が自分の好みではないなどの不満を抱きやすい。

例えばプライドの高い奴が、自分より下だと思っている人間に従わされた挙句、何かに失敗したりしたら大変だ。

まぁそのようなケースは実社会でも多々あるので、教育という意味や、人物判定にはうってつけと言える。

その後次々に各クラスの想定が発表されていく。

クラスが上がる毎に少しずつ難度が上がっている。

「1年Bクラスの第1想定を発表する!

想定!ヴァンキッシュ子爵領に隣接するフリューゲル男爵領より、 魔物暴走(スタンピード) の兆候ありとの急報が入った!至急トルヴェール地方軍の援護に向かえ!

合流地点はここより70km東へと進み、そこから北へ40kmほど転進したヤトマ村。合流の刻限は明日の午後10時。すなわち36時間以内。

右側後方の倉庫より装備を吟味し、準備が整い次第出立せよ!

第1想定のリーダーはアリス・マスキュリンを指名する」

「えぇ〜きちーよ!」

「急にレベルを上げすぎではないか?」

「俺たちだけずりぃぞ!」

想定を聞いたBクラスの生徒から不満が漏れる。

手元に配られた簡易地図によると、北へ転進した後の40kmは、ほぼ山中を歩くことになるだろう。

坂道部のように学園周りを周回するのと、魔物も出る山を40km進軍とでは、同じ距離でも意味合いが全然違う。

山を歩く事に慣れていないものもいるだろうし、この40kmというのは、相当厳しいものとなるだろう。

想定難易度、つまり同じレベルの人間が実施した場合の所要時間は、Eクラスのそれと比べて1.5倍から下手すると2倍近いに違いない。

スタートを切る前からブーブーと文句を言うクラスメイト達を、リーダーのアリスさんが引き締めている。

彼女は坂道部の部員で、中々雰囲気のある子だ。

最後にゴドルフェン先生が一歩前に出て、俺たち1年Aクラスの想定の発表を始めた。

その顔付きは好好爺のままだが、ご褒美などの話をしていた先ほどまでの『仏のゴドルフェン』とは明らかに雰囲気が違う。

普段実技授業で俺たちをしごいている時の、 鬼担任(クソジジイ) の雰囲気だ。

Aクラスの面々に緊張が走る。

全員がはっきりと、嫌な予感を胸に感じていた。