軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 VSロッツ(3)

俺が全力で4階から窓の外へと叩きつける格好をすると、やっと自分の立場を理解したのか、チャブルは途端に態度を改めた。

「ままま、待て!

こ、交渉させてくれ!お前には手を出さない!仲間にも!金も払う!

頼む!頼むから助けてくれ!」

小物感が酷い……

「お前の言葉は信用ならない」

俺が感情の籠らない声でそう宣言し、掴んだ手に力を込めると、チャブルは失禁した。

俺はチャブルを中へと引き入れてドサリと足元に捨てた。

ゴキブリのように這って逃げようとするチャブルの背中を踏みつける。

「……1つ大切な事を忘れるところだった。

お前は先程こう言おうとしたな。

俺の仲間を『惨たらしく痛めつけてから証拠が出ないように云々』と……

……楽に死ねると思うなよ?」

俺はチャブルをさらに踏みつけながら、自分の精神状態を分析した。

俺に人が殺せるのか?という事を確認しておきたかったからだ。

結論としては、この様な他者の命を何とも思わないクズや、こちらを殺そうとしている者については殺せるだろう、というものだ。

もちろん殺したい訳ではないし、実際に殺してしまったら精神的にダメージを負うだろうが、この先ギリギリの場面で『殺せない』という事が足枷になって逆に致命傷を負うことは無いと思う。

ではなぜチャブルを引き入れたかと言うと、殺す価値もないという事と、殺してしまっては幕引きが難しくなると考えたからだ。

普通に考えたらトップのこいつにここまでの狼藉を働いたら、落とし所など見い出しようが無いが、こいつはただの飾りだ。

今日チャブルの心をへし折って、レッドとトーモラと折り合いがつけば、相互不干渉という当初の目的は達成できる。

それが可能ならこいつらを泳がせている騎士団の手前、ベターな結末と言える。

「何ボーッと見てやがるテメェら!!

こいつを、今すぐ、ぶっ殺せ!!」

涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔で、チャブルは叫んだ。

騒ぎを聞きつけて、階下や周辺から続々と集まってきている若い衆が部屋へと乱入してくる。

だがこんな素人どもが慣れない武器を振り回しながら何人来ようと、俺に汗一つかかせる事はできない。

俺は流れ作業の様に左右の壁に向かって片っ端からぶっ飛ばしていった。

その内に相手が怯みはじめたところで、2人の用心棒と思しき人間が嫌らしい笑みを浮かべながら、俺を挟み込む様に立った。

右手に槍使い、左手に剣使いだ。

「くっくっく、流石だよ狂犬。

だがいつまで涼しい顔をしていられるかな?

お前がこの部屋に入ってから、かれこれ10分近く戦闘状態が継続している。

流石のお前でも魔力の限界が近いだろう?

こういった屋内で、多対一の戦闘をするのは消耗量が尋常じゃぁない。死角が多い上に魔力ガードの無い状態で一撃でも受ければ終わりだからな……

さらにそろそろ西支所から探索者どもが続々と集まってくる頃だ。

そうなると逃げ出す事も出来ない。

調子に乗りすぎたな、狂犬!」

恐らくは間諜と思われる剣使いは、勝ち誇った顔でこんな事を言った。

なぜ俺がたった10分で魔力切れなんて起こすんだ……

パーリ君じゃあるまいし。

そもそも準備運動と言える程の強度もないぞ?

魔力など全く減っていない。

俺はとりあえずツカツカと無造作に、剣使いの方へ間合いを詰めてみた。

すると剣使いは円を描くように下がり、槍使いが後ろから間合いを詰めてきた。

なるほど、戦闘時間の引き延ばしが目的か。一応頭を使っているんだな。

まぁ全く無駄な行為だが。

俺はさらに前に出て後ろから槍使いが間合いを詰めてくる呼吸に合わせて瞬時に反転し、槍使いへと一気に間合いを詰めた。

所詮はヤクザが金で雇える程度の人材だ。

チャブルがその器で集めたならともかく、金に釣られて集まるような人間では、せいぜいがCランク下位といったところだろう。

それより上の人間では雇われ用心棒など割に合わない。

もう少しまともなのがいると思ったが、金に物を言わせて急激に力を付けた弊害が如実に出ていると言えるだろう。

その槍の半ば辺りをダガーで半分に切り落とし、間髪容れずに回し蹴りを顔面に叩き込んだ。

槍使いが倒れると同時に、慌てて後ろから剣使いが間合いを詰めてくる。

これがまた、あくびが出るほどとろいのだが、俺は十分に引きつけてから振り向きざまに上段からの剣を躱して裏拳を顔面に叩きつけ――

ようとしたところで、剣使いはいきなり身体強化魔法の出力を上げた。

俺のカウンターぎみの裏拳は躱され、剣使いは腰を落とした姿勢から刺突を繰り出してきた。

「ちっ!」

俺は後ろに飛び下がって間合いを切った。

……力を隠していたか。

流石にこいつは間諜の1人とあって、多少は使えるようだ。

「オラオラオラオラ!

苦しいだろう狂犬!

休む暇は与えねぇぞ!」

剣使いは、下がる俺に対して愚直に突きを繰り出してくる。

ワンパターンだが、それだけに動きが洗練されており、中々反撃の隙がない。

俺はダガーと体捌きで剣使いの刺突を捌きながら、隙を待った。

すると剣使いは2分もしないうちに息があがり始めた。

ヤクザ者に紛れて暮らしているうちに、基礎鍛錬を疎かにしてきたのだろう。

「はぁはぁ、化け物かてめえ!

いい加減に、はぁ、くたばりやがれ!

『殺し』をする根性もねぇガキに!はぁはぁ、俺が!」

苦しいなら喋らなければいいのに……

こいつら人殺しからみたら、俺が人を殺すのを忌避しているのはバレバレなのだろう。

……あまり舐められるのは、今後の事を考えても宜しくないな。

俺は剣使いの動きが鈍り、大味な突きがきたところで大きく後ろへと飛び、空中で瞬時にダガーから弓へと持ち替えて木の矢を心の臓へ向かって放った。

「ぐおぉぉぉお!」

剣使いは余力を隠し持っていたらしく、反応できないだろうと思い金属製の胸当てに向かって放った矢は、体を捻って躱そうとしたため、剣使いの右の二の腕を貫いた。

俺は隙だらけの格好で剣使いに近づいて、いわゆる目が笑っていない顔で笑いかけた。

「立候補どうもありがとう。

望み通り殺してやろう」

そう言って俺がダガーを再び引き抜くと、剣使いは完全に心が折れた顔で後ずさったので、俺はその顔に拳を叩き込んだ。

剣使いは昏倒した。

俺がたまに動員されている騎士団の討伐任務などと比べたら、まだぬるいな……

師匠は俺が一歩間違えたら死ぬという、ギリギリのレベルの任務を平気で与えてくるからな……

「くっくっく。

残念だったな狂犬。

お前はプロを舐めすぎた――」

と、そのタイミングで、壁際にぶっ飛ばしておいたモブがすくっと立ち上がった。

「大型の魔物用の痺れ薬の味はどうだ?」

にやにやと癪に触る顔で近づいてきたので、俺は逆に質問してみた。

「痺れ薬?

それはもしかしてこれの事か?」

そう言って、先程飛ばしてきた非常に目では見え難い吹き矢をモブの首へブスリと刺してみた。

間諜と思われる内の最後の1人が、やられたフリをしてチラチラとこちらの様子を窺っている事には初めから風魔法で捉え気がついていた。

バレバレなくせに中々動かないので、気がつかないふりをするのが大変だったほどだ。

剣士を追い詰めて隙だらけになった俺の首付近を狙っていたようだが、風で軌道を変えて革製のベストで受けておいたのだ。

モブはあがあがと涎を垂らして昏倒した。

俺は改めてレッドとトーモラを見た。

先程まではまだ幾許かの余裕を感じさせていたレッドとトーモラは、顔色を悪くしてダラダラと汗を流していた。