軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 VSロッツ(2)

三下(レッド) はため息をついた。

「そのバカが何をしたかは知らないけど、私はお前が気に入っているんだ、狂犬。

揉めるつもりはないと、そのバカにもはっきり言い聞かせてあったんだけどねぇ。

単刀直入に言うよ。

ロッツに勧誘するためにお前を呼んだんだ。もちろん然るべき待遇を約束するつもりだ。

具体的には私直属の若頭補佐筆頭に付ける。

働きによっては、私の次の若頭に付けてもいいと思っているよ。

つまり……ゆくゆくはこの王都裏社会を束ねるロッツ・ファミリーの会長になる、という事さ。

どうだい?」

このレッドの宣言に、周囲が途端に騒めいた。

「補佐筆頭だって?!」

「実質的にNo.3じゃねえか!

俺らにこんなガキの下に付けってのか?!」

「流石にそれは他所に舐められますよ、レッドさん!」

バカかこいつら?

俺は即座に拒絶した。

「興味がない。

全くない。

こちらの要求は1つ。2度と俺に関わるな」

俺がこう言ってレッドと睨み合っていると、レッドの正面に座っていた、背の低い温和そうな男が愉快そうに笑った。

「ひゃっひゃっひゃっ!

いやぁ〜、レッドさんの言う通り、その歳で大したタマですねぇ。

こんな所まで単身乗り込んできてその態度とは、流石の私も開いた口が塞がりませんよ。

初めまして、私はトーモラというものです。

……しかし、あまりストイックすぎても人生つまらないと思いませんか?

この広大なユグリア王国王都の、裏社会のトップですよ?

想像してご覧なさい!

金は使いたい放題!女はよりどりみどり!美味い物もいい酒も食べ放題の飲み放題!」

「興味がない。

全くない。

こちらの要求は1つ。2度と俺に関わるな」

俺は先程のセリフを繰り返した。

もちろん『女はよりどりみどり!』の所で心に 小波(さざなみ) が立った、などという事は全くない。

だが考えている事が顔にモロ出る事に定評がある俺を見て、トーモラはさらにこんな事を言ってきた。

「……何なら今日から直ぐにでも綺麗どころを2、3人 住処(やさ) へお送りしても宜しいですよ?」

?!

止めろこのバカ!

まるで俺が関心を示したみたいだろ!

俺は元日本人だぞ!

人を物のように扱うな、気分が悪い!

断固興味など無いが、そもそも学園の寮に部外者など入れられる訳がないだろうが!

「……それだけ名が売れてるんです、今の膨れ上がったロッツで探せばきっとレン君のファンって子も多いはずですよ。

仕事で行く訳じゃないからきっとサービスも凄いよ?

後はそうだな、レン君にもメンツが有るだろうから人に知られない別宅でも用意しようか?」

?!

ふぅ〜。

まるで魅力のない提案だ。

1ミリも心が動かない。

だがこいつは間違いなく間諜だ。危険な男だ……

「きき、興味がない。

全くない。

こちらの要求は1つ。2度と俺に関わるな」

俺はみたび同じセリフを、毅然とした態度で繰り返した。

俺がこう言うと、後ろからチャブル・ロッツが怒声を浴びせてきた。

「テメェら、そのガキを引き込むって事には許可を出したが、なに下手に出てへーこらやってんだ!

しかも 跡目(あとめ) 候補だと?!

今のロッツはそこまで安くねぇぞ!

おいメー!

お前ちょっと西支所にいって、腕に覚えのある探索者呼べるだけ呼んでこい!」

メーと呼ばれたヤギ髭は、慌てて走って出ていった。

「おいガキ。

西支所でロッツの息のかかった探索者に声を掛けたら、直ぐに30や50は人が集まるだろうよ。

これが何を意味するか分かるか?」

「……まるで分からんな。

何を意味するんだ?」

俺が念のため確認すると、チャブルは下卑た顔で答えた。

「お前は首を縦に振るまでここから帰れねぇってこった」

ダメだこいつ。

ただの飾りだな。

その捻りのない答えからは、小物感が拭えない。

俺はチャブルを無視してレッドとトーモラへと向き直り、『答えは?』と聞いた。

「か、会長の俺を無視するんじゃねぇ!!

テメェの所属するっつー弱小互助会がどうなってもいいのか!」

……俺は一呼吸置いてから、ゆっくりと振り返った。

「……何の事だ?

俺は先程『りんご』を脱会してきたが」

俺がそう言うと、チャブルは反応を示されたのが嬉しかったのか、再び下卑た顔でニヤリと笑い、こう言った。

「おうおう律儀だねぇ。

巻き込まねぇためにわざわざ辞めてきたのか。

だが残念だったな、それは子供の論理だ。

大人は弱点があればそこを突く。徹底的にな。

お仲間を殺されたくなかったら――」

「殺す?今殺すと言ったのか?」

俺を迎え入れ、家族のように慕ってくれたあの子達を。

自分の頭が再び冷たく冴え渡っていくのを感じる。

「あぁ言ったさ。

やっと自分の立場を理解したか?

これ以上お前が舐めた態度を取るようなら、惨たらしく痛めつけてから証拠が出ないように――」

俺はチャブルに向かって走り出した。

「止まれクソガキ!」

慌てて用心棒の1人が俺とチャブルの間に体を入れて、制止の声をかけてきた。

俺が止まらないと見るや、抜き身の槍を突いてきたが、狭い室内に人が沢山いるからか、全力で槍を扱えていない。

……こいつは敵じゃないな。

俺はその槍を掻い潜って用心棒をすり抜けると、チャブルが座っている前に置いてあるデスクへ足をかけ、チャブルの首根っこをひっ掴んでデスクを踏み越えた。

そして、着地と同時に一面に貼られたガラス窓の1枚に首根っこを掴んだまま、チャブルを顔面から叩きつけた。

「ぐぁぁああ!」

鮮血が飛び散り、ガラスは粉々になって砕け散った。

砕け方からして一応強化ガラスではあったようだが、騎士団の駐屯所で使われているような、特殊ガラスではなかったようだ。

あれはべらぼうに高価で、しかも簡単には手に入らないという話だしな。

もしあのガラスを使われていたら、チャブルの柔らかい顔を何度叩きつけても破れないだろう。

4階か……

実技の授業で3階くらいの高さから飛び降りる訓練をさせられているが、俺ならこの階からでも怪我なく飛び降りる事は可能だ。

緊急脱出路は確保できた。

同時に索敵防止フィルムが邪魔で利きにくかった聴力強化が少しはまともに使えるようになったのはでかい。

入室と同時に応接セットのテーブルの下に設置してあった、索敵防止魔道具をダガーでさり気なく潰してあるので、かなり有利になったな……

そんな事を考えながら、振り返らずにチャブルを窓の外でブラブラと揺らす。

「か、会長!」

「クソガキが〜! その手を離したら生きて帰れると思うなよ!」

……チャブルを除く12人中4人は本気で心配していないな。

見えていないと思い油断しているのだろう。

レッドはやれやれと頭を振ってるし、トーモラに至っては笑いを堪えている。

この4人は他国の間諜とみて、まず間違いは無いだろう。

「おいおい、誰も助けに来ないぞ?

お前人望なさすぎるだろう。

それともまさか、俺が攻撃を受けてうっかり手を離したらお前やばいのか?

この程度の高さから落ちたくらいで」

いくら何でも死ぬ事は無いだろうと思って俺は問いかけた。

「てめぇぇ!

下手に出てたら調子に乗りやがって! 命が惜しければ今すぐ俺を部屋に戻せ!

おうおめぇら、やっちまえ! どうせ離せやしねぇ!」

チャブルは下をちらりと見てこう言った。

いったいいつこいつが下手に出たと言うのだろう?

ガキに首根っこを掴まれて宙吊りにされた状態で、よくこれほど偉そうにできるな。

俺はチャブルを一度部屋の中へと引き入れて、一歩右にずれ、隣の窓へと叩きつけた。

再びガラスは粉々になって、鮮血が飛び散り、聴力強化がさらに使いやすくなった。

「ぐぅぅう!」

「自分の立場を理解していないのはどちらだ。

俺がこのまま優しく手を離すとでも思っているのか?

すまんがそれほど人間は出来ていない。

全力で投げる。斜め下に向かってな。

あの下で受け止めようと待ち構えている雑魚4人では到底間に合わないだろう」

「そそ、そんな事をしたらホントに残りの人間がお前を殺すぞ !必ずだ! い、生きて帰りたければ――」

俺は再びチャブルを引き入れてそのまた隣の窓へと叩きつけ窓ガラスを割った。

「ぐぁぁあああ!!」

「ふんっ。

笑わすなよ。

俺がお前を助けたとして、お前は俺を生かして帰すとでも言うのか?

どうせこの場で殺そうとするだろう。

なぜ俺を殺そうとする奴を助けなくてはならないんだ?

理由がない。

つまりお前は今から死ぬ。

これは確定だ。

その後のことは、生きている者が考えるから心配無用だ。

じゃあな」

俺はそう言って身体強化を全開にし、チャブルを両手で抱え、下へ叩きつける態勢を取った。