軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あっかんべー、です

木々の間を抜けるようにして、グレイアームがドーマへと向かってくる。

その顔に浮かぶのは歓喜。狩れると、殺せると……食えると確信した顔だ。

その顔を見て、ドーマは素直に「ムカつく」と思う。

たかが大猿の分際で、森の支配者顔。よりにもよって、森でエルフ相手にだ。

「ギイイイイイイ!」

グレイアームが、その肥大化した腕を振るう。

三人の中では一番パワーのあるイストファですら防ぎきれない打撃をドーマが受けきれるはずもない。

だからこそ、受けない。

ふっ、と短く吐き出す息。ドーマの目はグレイアームの腕の描く軌跡を見切り、ほんの僅かな動きで回避する。

「ギッ……!?」

空を切る自分の拳にグレイアームは驚いたような声をあげるが、その顔は更なる驚愕に歪む。

しゃがみ込み地面から何かを拾い上げたドーマは、なんとグレイアームの伸び切った腕に飛び乗ったのだ。

「ギイアアアア!!」

ふざけるな、と怒るグレイアームは腕を無茶苦茶に振るって、しかしその勢いを利用してドーマは跳び距離をとる。

ただ逃げるのではグレイアームは逃がすまいとしただろう。

だが、振り回される勢いを利用し跳んだドーマが自分から離れたとグレイアームが気付いたのは、すでに距離を開けられた後だった。

「……さて」

呟きながら、ドーマは自分の手の中の秘密兵器をグレイアームに気付かれぬように握り込む。

正直に言って、ドーマにはグレイアームを正面から打倒できるような手段など持ち合わせてはいない。

神官によっては攻撃魔法を授かる場合もあるらしいが、ドーマはそういう魔法を授かってなどいない。

今使えるのは武器を軽くするライトウェポン、重くするヘビーウェポン、そして回復魔法であるヒールと魔石を武器に吸収させる合成だけだ。

しかも、メイスは今持っていない。

持っていたところで倒せたかどうかは勿論不明だし、どちらかというと無理だとは思っているが……。

ならばどうするか。答えは簡単で、イストファとカイルがファントムツリーを倒すまで時間を稼ぐ事。

怒ったように手を広げて突っ込んでくるグレイアームは、今度は逃がさないようにドーマを掴むつもりだろうか?

ドーマは素早く反転して木にスルスルと登ると近くの木の枝へと飛び移って、自分を探すグレイアームへと舌を出す。

「あっかんべー、です。森でエルフを捕まえられると思ってんですか?」

「ギイイイイイイイ!!」

ドーマの言葉の意味までは分からないだろうが、馬鹿にされている事くらいは分かるのだろう。

力尽くで目の前の木をへし折ると、グレイアームはジャンプして木に登る……と同時にドーマは飛び降り、クイッと指で手招きしてみせる。

当然その挑発にグレイアームは怒り狂い、そのままドーマの方へ向けて跳び……やはりこれも当然だが、ドーマはその下を潜るようにして走り抜ける。

するとグレイアームの着地した先にはまた森の木があるだけで。怒り満面の表情でグレイアームはドーマを睨む。

「……よし」

いい具合に冷静さを失っている。そうしてグレイアームの攻撃が大雑把になっていく程、ドーマは攻撃を読みやすくなるし回避しやすくなる。

当然、回避しそこなった時のリスクは高まるが……どの道そうなれば怒っていようがいまいが末路は変わらないのだ。

「早めに助けてくださいね二人とも……!」

祈るように呟くドーマからは少し離れた場所で、カイルは荒い息をついていた。

すでにファイアボールに使えるような魔力は使い切った。

まだまだ撃とうと思えば撃てるが、それはカイルがイストファと出会った頃に使っていたような見せかけだけのスカスカの魔法だ。

そんなものでは意味がない。けれど、もはや限界だ。

マトモに撃てるのは、あと精々一発。

そう判断したカイルは、小盾を構え自分を守るイストファへと声をかける。

「……悪いイストファ、次で撃ち止めだ……」

「分かった。あとは僕がやるよ」

「頼む。ドーマから聞いたことが確かなら、アイツの体力は魔力と直結してる」

「うん……うん?」

分かってない風の反応を返すイストファに苦笑しながらも、カイルはその笑みを自信に満ちたものへと変える。

「つまり、俺の魔法でそろそろアイツも限界が近ぇはず! やっちまえ、イストファ!」

「任せて!」

勿論、そういう単純な話ではない。

ファントムツリー。ただの木に何かの呪わしい魔力が宿る事で生まれるモンスター。

木のモンスター、トレントに似て非なるものであり本質は「何かに宿ったもの」であるということ。

通常の生命ではない為、他の生き物から生命力と魔力を吸収せねば生きていけず、それを可能とするだけの魔法的能力を持ったモンスター。

その身に蓄えた濃厚な魔力は攻撃、あるいは防御にも活かされる為、まともに物理的攻撃手段で戦っても魔力を使って防御してしまうという性質を持ち……同時に、その宿ったモノの特性に弱点も左右される、そういうモンスターなのだ。

だからこそ、カイルは現時点で使える全魔力を振り絞り火の魔法で攻撃した。

ファントムツリーに宿る魔力を削ることで、見た目の焦げ以上のダメージを与え続けていた。

そして、今。

「ギヒイイイイ!」

「でやああああああああああああ!」

間近まで接近したファントムツリーから足元を覆うようにして放たれる黒い霧を避け、イストファは跳ぶ。

もう、ここまで来れば届かないなんて事は……ない。

跳んだ勢いのままにイストファは短剣を深々と、さっきの異常なほどの硬さを失ったファントムツリーに深々と突き刺して。そのまま、ガリガリとファントムツリーの顔面を削り縦に両断するかのような勢いで切り裂く。

「ギ、ヒ、アアアアア……アアアアア!」

ファントムツリーから黒い霧のようなものが抜け、霧散する。

イストファの斬った箇所からメキメキと裂け目が広がっていき、ファントムツリーは両断され地面に倒れ落ちる。