軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貴方もそう思いませんか?

「うっ……!」

硬い、刺さらない。いや、刺さりきらない。

イストファが全力で突き刺した短剣は僅かに刺さってはいるものの、浅い。

硬い。あまりにも硬すぎる。

イストファは素早く短剣を引き数度斬りつけるが、やはり浅い。

それでも斬りつけるイストファだったが……その身体から突然、力が抜けていくのを感じた。

気づけば、自分に絡みつく黒い霧のようなものがモンスターの身体から出ている。

足元から這い上がってくる黒い霧はイストファから立つ力を奪い、短剣を握る力をも奪おうとする。

「こ、んな魔法……まで……!?」

「ギ、ギヒヒヒヒ……ヒギイ!?」

薄気味悪い笑い声をあげていたモンスターは、しかし突然悲鳴をあげて黒い霧を霧散させる。

それと共にイストファの身体からの力の減少も止まり……イストファはよろけそうになりながらもモンスターの向こう側を見る。

そこに居たのは、枝を束ね火をつけた即席の松明のようなものをモンスターへと押し付けていたドーマの姿。

振り返り腕を振るうモンスターの攻撃が松明を吹き散らすが、一瞬早くドーマは身を屈めるとイストファの下へと転がるように向かってくる。

「おまたせしました……!」

「ド、ドーマ……」

ドーマはフラフラしているイストファを抱えると、するりとイストファの手から地面に落ちた短剣を拾い逃げるように走り出す。

しかし、モンスターがそれを黙って見ているはずもない。

「ギヒ、ギヒヒヒヒヒ!」

根を足のように動かし、ドーマを追おうとして。けれど、その顔面で火球が炸裂し悲鳴をあげる。

「ドーマ! 本当に火の魔法でいいんだな!?」

そこに居たのは、モンスターに杖を向けたカイル。

充分な距離をとり立つカイルの身体には、すでに吹っ飛ばされたダメージはないように見えた。

そして今の隙に同じく充分な距離をとったイストファを地面へと降ろし、威嚇するように短剣をモンスターへと向ける。

「ええ、そいつはファントムツリー! 成り立ちこそ異なりますが、トレント同様火が弱点です!」

「オーライ、それなら俺が気張らなきゃいけねえな!」

言いながらカイルは再度のファイアボールをモンスター……ファントムツリーへと放つ。

イストファの短剣では浅い傷しか受けなかったはずのファントムツリーは火球を受ける度に表面が焼け焦げ、悲鳴をあげていく。

「よし、あれなら大丈夫そうですね」

カイルの優勢を確認したドーマは短剣を地面に刺し、イストファの近くに膝をつく。

「大丈夫ですか、イストファ」

「う、身体から、力が……」

「ライフドレインですね。受ければ生命力を吸われます……でも大丈夫。私がいます」

言いながらドーマはイストファの身体に手を当て「ヒール」と唱える。

柔らかな光はイストファの中に吸い込まれていき、その瞬間にイストファは僅かながら自分の中に力が戻ったのを確認する。

「1回では足りませんか……ヒール!」

更に数度のヒールの光が再度イストファの中に入り、イストファはそこでようやく自分の体の中に完全に力が戻ってきた事を悟る。

「ありがとう、ドーマ。もう大丈夫!」

イストファは身体を起こすと、そのまま立ち上がる。

その視線の先ではカイルがファントムツリーに向けてファイアボールを連発しているが……その顔には早くも疲労が見え始めている。

「はい。ではすぐにカイルのところへ。彼を守るのが今の」

「……! ドーマ!」

その台詞が終わるよりも前に、イストファはドーマに飛びつき地面へと押し倒す。

「なっ……」

何を、とドーマが言いかけた瞬間、ドーマは自分の上空を高速で通り抜けた磔刑カブト達を視認する。

イストファが自分を押し倒さなければ、ドーマは背後から磔刑カブト達に貫かれていただろう。

そして、磔刑カブトが居るということは。

「くっ!」

視線を向けた先。ドーマを押し倒したイストファの首を狙い上空から飛来する斬首クワガタを見つけ、ドーマはイストファを強く抱きしめ横へと転がる。

ゴウ、と。ドーマ達が居た場所を低空で通り過ぎた斬首クワガタは曲がり切れずに木に衝突しハサミを閉じる。

凄まじい音をたてて切り裂かれた木の幹は勢いのまま倒れ、思わぬモノに衝突した衝撃にフラついた斬首クワガタは凄まじい勢いで身体を起こし地面から短剣を引き抜いたイストファによって地面に叩き落される。

そのまま短剣で地面に縫い付けられた斬首クワガタは動かなくなり……イストファに向けて降下突撃してきた磔刑カブト達はイストファの小盾に弾かれガン、ガン、ガンという音を立てて空中へと投げ出される。

そのうちの一匹は素早くイストファの振るった短剣に切り裂かれ地面に落ちるが、残りの二匹は態勢を立て直し逃げていく。

そして地面に落ちた斬首クワガタと磔刑カブトにはイストファは目もくれず、カイルの下へと走っていく。

その様子を見て、ドーマは思わず驚きに口をポカンと開けてしまう。

「回復してすぐあの動きですか……」

たぶんイストファの資質とか以上に、仲間に対する情の深さがその動きの鋭さを生み出しているのだろうとドーマは思う。

そしてその中には……間違いなく、ドーマも含まれている。

「……ふふっ、やる気の出る話ですね」

まだ微妙に動いていた磔刑カブトを踏んでトドメを刺すと、ドーマは小さく微笑む。

「貴方もそう思いませんか?」

木々の向こう。イストファにも気づかれぬ程に完璧に気配を隠していたグレイアームが、その姿を見せる。

今のドーマには、盾もメイスもない。

イストファを助けるべく走る時に、邪魔だと捨ててしまっている。

今はカイルの足元だ。気付いたイストファが走り戻ってこようとするのを、ドーマは振り返らないまま背後に手を向け押し留める。

「私は大丈夫です! まずはカイルと共にファントムツリーを!」

「う……わ、分かった!」

カイルのファイアボールでは、恐らく完全には仕留めきれない。

弱り切った瞬間にイストファがトドメを刺す必要が必ずある。

だからこそ、今は。

「かかってきなさい、この猿。私が相手です」