軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今日は修理か?

「……分かるんですか?」

イストファが驚いたように聞くと、フリートは「当たり前だ」と返してくる。

「誰がそれを売ったと思ってんだ。ただのゴブリン如きにどうにか出来る鎧を売ったつもりはねえぞ」

言いながら、フリートはカウンターに腕をつく。

「で? 今日は修理か?」

「えっと」

「新しいのを買う為に来た」

イストファを遮って前に出てくるカイルを、フリートはジロリと睨む。

「何処のお坊ちゃんか知らねえが、武具ってのはポンポン買い替えるもんじゃねえぞ」

「そりゃ普通の奴の話だろう。俺達はすぐにでも二階層に到達する。グラスウルフだって倒してる……必要なのは、ゴブリンガードの攻撃を防げる防具なんだ」

「本当か?」

「はい。さっきのお話にあった特殊個体だとソードマン、ファイター、マジシャン……あとアーチャーを倒してます」

イストファの答えに、フリートは頭をガリガリと掻いて溜息をつく。

「予想より速いな。まだ潜り始めて大した日数もたってねえだろうに、もうそこまで……か」

そのままフリートはカウンターを指で叩きながら「ゴブリンガードには会ったのか」と聞いてくる。

「はい、会いました」

「どうだった」

「勝てないだろうな、って。武器もそうですけど、あの斧で鎧ごと斬られそうな気がしました」

「ああ、正しいな。その硬革鎧じゃ防げねえ」

悩むように虚空に視線を向けたまま黙り込むフリートに痺れを切らしたのか、カイルは店の中の鎧の物色を始めてしまう。

「なあ、ステラ。お前、イストファの師匠なんだろう? この金属鎧、どう思う」

「ん? そうねえ……」

「待て」

品定めを始めたステラを止めるようにフリートの声が響き、やがて長い溜息を漏らす。

「……予算は幾らだ」

「えっと。4万8000イエンあります、けど」

「ふむ」

「金属鎧でいいだろ。ハーフアーマーならそこまでしないはずだぞ」

「馬鹿言うな。鉄のハーフアーマーは20万イエンからだ。4万だとブレストプレートになるぞ」

カイルにそう返すとフリートは「ちょっと待ってろ」と言って店の奥へと入っていく。

「……あの、ステラさん。ハーフアーマーとブレストプレートの違いって」

「胸部だけを守るのがブレストプレート。上半身を守るのがハーフアーマーね」

「なるほど……」

つまりブレストプレートだと正面からの攻撃しか守れないのだろうとイストファは思う。

それはそれで軽くて動きやすそうだが、あのゴブリンガードの斧から身を守る役には立ちそうにない。

「流石に青銅製や赤鉄製だと防御力に難があるか……?」

「ゴブリンガードの斧は鉄でしょ? 下位の金属で守るのはどうかしらね?」

「だよなあ……」

自分に分からない話で盛り上がるカイルとステラにイストファがちょっとだけ寂しい気持ちになっていると、奥から包みを抱えたフリートが戻ってくる。

「これだ。見てみろ」

紙のような包みをフリートがガサリと剥がすと、中からは革鎧の一式が出てくる。

「これって……」

「硬革鎧か? いや、それにしては何か妙な魔力を感じるが……」

「へえ、これって……魔獣革?」

ステラが感心したような声をあげると、フリートがピクリと眉を動かす。

「よく分かるな」

「まあね」

「魔獣、ですか?」

「そうよ、イストファ。モンスターの中でも獣型の連中、それを魔獣とも呼ぶの」

そう、たとえばイストファが会ったグラスウルフのような一見して普通の獣に見えない事もないものから、デモンズバッファローと呼ばれる凶悪な姿をしたものまで様々だが……そういう「人型」ではなく「獣型」のモンスターを魔獣と呼ぶ事がある。

そうした魔獣の革を防具として加工する事は、一般的ではないがあることだ。

「でも、大人向けにしてはサイズが小さめね。魔獣革の鎧なんて、子供用に造るものでもないでしょ?」

「確かにな。ただでさえ俺達用のサイズなんてダンジョンから流れてくるようなものに頼る現状があるのに」

そう、冒険者は基本的に身体の出来上がった大人がやる事が多い。

子供の冒険者が居ないわけではない。

実際にイストファやカイルのような実例がいる。

しかし、そうした子供の冒険者は高価な素材を使った武具など買えないから売る側も造らないのだ。

唯一の例外があるとすれば、それは。

「ああ、なるほど。どこぞの貴族の子供用か?」

「ま、そういうことだ」

カイルの指摘にフリートが頷く。

そう、能力の強化目的でダンジョンに潜る貴族や富豪の子供の身を守る為の武具。

そうした目的で作られたものは子供用サイズで造られる。

そして使った後は「もう必要ない」と売られる事が多いのだ。

「こいつは、ちと訳アリの品でな……普通、お貴族様の子供は豪奢に飾った金属鎧を好むもんだが、その子供は特に身体が弱かったみてえでな。金属鎧の重量にゃ耐えられねえ。けど、全身を守っておかなきゃ親御さんが不安だってんでな」

そこで、とある魔獣の革を使って今イストファ達の目の前にある鎧の作成が始まった。

「ところが、製作途中でその子供が亡くなっちまったみてえでな。形が出来ていよいよ装飾をつけようって直前で制作は中止。魔獣の革なんぞ使ったから呪われたんじゃねえかって物言いまでついちまった」

貴族もそうだが、冒険者も縁起はかなり担ぐ方だ。

たとえ物言いに近いと分かっていても、呪いの鎧なんて噂のついたものを着たがる物好きは居ない。

いや、正確には一人いたのだが……その子供の冒険者も、ダンジョンの中で死んでしまったらしい。

「ゴブリンファイターに頭をガッツリ割られたみてえでな。仲間が頑張って血塗れの鎧を持ち帰って来て売ってったよ」

うげ、とカイルが嫌そうな顔をするが、それを見てフリートがカラカラと笑う。

「こうして綺麗に洗ったけどな。おかげさまでコイツは呪いの硬革鎧として有名ってわけだ」