軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

凱旋だぞ、堂々と胸を張れ

「あんな酷いものだとは思わなかった……冒険者ギルドは副作用について、売った情報にしっかり記載しておくべきだと思う。もし伝え忘れだったら許されん怠慢だぞ」

「まあまあ」

隣でブツブツと呻くカイルを宥めながら、イストファは苦笑する。

復調してからずっとこうだが、冒険者ギルドへ向かうカイルの足取りはしっかりとしている。

「とりあえず戻って来られたんだからいいじゃない」

「そういう思考は良くないぞ。妥協しない心がだな」

何か説教じみた事を言いかけて、カイルは黙り込む。

「カイル?」

「……どうにも不快な視線を感じるな」

「え? ……あー……」

その視線なら、イストファもずっと感じていた。

ダンジョンを出た後からずっとだ。

そして、その視線の主「達」が何処にいるかも、イストファはずっと感じ取っている。

「……路地裏だよ」

「フン、なるほどな」

路地裏からは、幾つもの視線がイストファ達をじっと見つめている。

ただの子供であるイストファ達がカモであるかを見極めようとしているのだ。

流石にこんな大通りで襲ってはこないだろうが、その粘ついた視線はどうしようもなく不愉快だ。

恐らく、ちょっと人気のない所に移動すればすぐに襲ってくるような奴も含まれているだろう。

実際、イストファも何度も襲われた事がある。

「衛兵共は何をしているやら、だな」

「それを言っちゃうと、ちょっと前の僕もあっち側に近かったし……」

「だが、別にお前は犯罪を犯していたわけでもないだろう?」

「それは、まあ」

そこまで堕ちたつもりはない。

ひょっとすると時間の問題ではあったのかもしれないが……それでも、それだけはイストファはしなかった。

「ならお前は違う。無駄な卑下をするな」

「……うん」

「俺の友人なんだぞ、お前は」

「うん」

「俺が認めたんだ。もっと胸を張っていい」

「うん」

カイルの言葉の一つ一つが、イストファの中に染みていく。

ステラがくれた暖かさとは、また別種の暖かさ。

それを感じて、イストファは笑う。

「あ、そういえばさ」

「なんだ?」

「さっきの戦い……なんでアーチャーを直接殴りにいったの?」

「あー……あれか」

思い出すように空を見上げながら、カイルは「俺と同じだったからな」と答える。

「同じ?」

「ああ。アイツ、動き回るお前達のせいで狙いを上手く定められないみたいだった」

下手をすると自分の仲間……ゴブリンソードマンに当たってしまう。

その迷いから自分を狙うという行動にしか出られなかったのだろうとカイルは説明する。

「ま、つまりは……所詮ゴブリンってことだな」

「……そだね」

「ん? なんだイストファ」

微妙な表情をするイストファにカイルは疑問符を浮かべるが、イストファは「いや……」と言葉を濁すばかりだ。

「なんだ、言いたい事があるなら言ってみろ」

「言ってもいいけど……たぶんカイル、怒るよ」

「いいから言ってみろ」

「……今の説明で『俺と同じ』ってのは『ゴブリンとカイルが同じ』って聞こえるけどいいのかなって痛っ」

脇腹を突かれたイストファが思わず声をあげるが、カイルからは無言の打撃が連続で繰り出される。

「ちょ、カイル! 言えって言ったのはカイルじゃないか!」

「うるさい。ちょっとムカッとした」

「ええー……?」

そんな会話をしながら歩いていると、やがて二人は冒険者ギルドの前へと辿り着く。

「よし、着いたな」

「うん……なんだか感慨深いね」

「凱旋だぞ、堂々と胸を張れ」

「はは……」

言葉通りに胸を張り歩いていくカイルの後ろを歩くようにイストファも冒険者ギルドの扉を潜る。

この時間でも冒険者ギルドの中には何人かの人の姿があり、まさに冒険者というものが昼も夜も関係ない仕事である事を示していた。

「お、なんだイストファじゃねえか。美人のエルフの姉ちゃんとパーティ組んだって聞いてたんだがな」

「こんばんは。えーっと……ステラさんは師匠みたいなものなので」

薬草採りの頃からの顔馴染みの冒険者に声をかけられたイストファがそう答えると、冒険者の男はハハ、と笑う。

「ま、あんまし実力のかけ離れた奴とダンジョン潜っても勉強にゃならねえからな。正しいぜそりゃ」

「そういう事なんだと思います」

「おい、イストファ。何遊んでんだ」

「あ、すみません。それじゃ、僕はこれで」

「おう」

カイルに不機嫌そうに言われたイストファは頭を下げ、カイルの下へと戻っていく。

「カイル、もう少し愛想良くした方がいいよ……」

「フン、そういうのは俺には合わん。それに疲れたし眠い」

「それは分かるけど」

ダンジョン内では常に昼間のように光が降り注いでいたから感覚が狂っていたが、もう夜なのだ。

カイルが眠くなるのも当然だろう。

そんなカイルと共にカウンターに行くと、職員の男が愛想良く笑いかけてくる。

「いらっしゃい。今日はどうしました?」

「えっと……まずは、これを」

イストファが魔石の入った袋をカウンターに載せると、職員は「ほう」と感心したような声をあげる。

「拝見しますね」

「はい」

ザラザラとカウンターに出された魔石を職員は一つ一つ確認しながら「これは二人で?」と聞いてくる。

「はい。僕とカイルで倒しました」

「なるほど……ほとんどはゴブリンみたいですが、特殊個体やグラスウルフと思われるのも混ざっていますね」

頷きながら、手慣れた様子で仕分けをしていく職員の手付きをイストファは興味深げに見る。

イストファには「ちょっと大きい」とかその程度しか分からないのだが、職員にはしっかりと見分けがついているようだった。

「ちなみにコレは、全部買取希望ですか?」

「あ、えーと……いいよね、カイル?」

「お前に全部やると言っただろう」

少し面倒そうに言うカイルに頷くと、イストファは「全部買取で」と答える。

「はい。それでは……全部で4万8000イエンになります」