軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そこで、僕たちは

イストファがメイドを通した謁見申請をしてからそれ程時間がたたないうちに、イストファは王宮の中庭でブリギッテとテーブルを挟んで向かい合っていた。

彼女の近くに立つのは赤い鎧の騎士……紅槍騎士団だが、この前の件もありイストファは少しばかり胡散臭いものを見る目を向けてしまう。

「気持ちは分かりますけど、たかがお茶会程度に緑鎧騎士団を駆り出すわけにもいきませんわ」

「姫、その言い様では我等が役立たずかのように」

「お黙りなさい。口を挟まないように」

「……はっ」

ブリギッテに叱責された紅槍騎士は不満そうな顔をしつつも頷き、その場に立つが……その不満そうな表情を隠しきれていない。

「あの、大丈夫……なんですか?」

「大丈夫そうに見えるなら目を取り換えたほうがいいですわね」

舌打ちでもしそうなブリギッテにイストファは思わず「ごめんなさい」と謝ってしまうが、ブリギッテもため息と共に「謝ることではありませんわ」と返してくる。

「王宮内での私の力なんて、こんなものですわ」

言いながらブリギッテはイストファに視線を向け、再度のため息をつく。

「そういう意味では、カイルお兄様は豪運ですわね。信頼できる者を見つけたようですし」

「僕とカイルは友達だから、王子様とかそういうのはあまり……」

「知ってますわ。それがどれ程得難きものであるかもね」

テーブルの上で湯気をたてているカップのふちを軽くなぞるブリギッテに、イストファは何を言えばいいのか分からない。だが、何かを言う前にブリギッテが話題を変えてしまう。

「それで? 傭兵王の話というのは?」

「僕の短剣のことです」

「ああ、今王宮で預かっているというものね」

「はい」

そう、王宮内ではイストファ達の武器は王宮預かりとなっているのでこの場にはない。

しかし、興味をひかれたようでブリギッテは僅かに身体を乗り出してくる。

「迂闊に直接触れた愚か者が魔力を限界近くまで吸い取られたそうよ。マジックイーターなんですわね、アレ」

「その話、知らないんですけど……」

「あら、そうなの? 伝えるのを恥と思ったのかしらね」

クスクスと笑いながら、ブリギッテは縁を撫でていたカップから指を離す。

「魔力が物凄く少ないのかと思ったけれど……その話を聞く限り、貴方は魔力がないのね?」

「そうです。だから使える……らしいです」

「傭兵王が魔法を使わなかったというエピソードをダンジョンが再現したということかしらね? それとも魔法士に裏切られたというエピソードを元にしているのかしら」

「それは分かりません。でも、あの剣は……アルスレイカーは、ノーツが僕にくれたものだと思ってます」

「ノーツ……?」

イストファの出した「ノーツ」という名前を反芻し、やがて物凄い勢いで椅子を蹴り立ち上がる。

「ちょっと! 冗談にしても悪趣味ですわよ⁉ 貴方、自分が傭兵王の後継だとでも仰るつもり⁉」

「え⁉ ま、まさか!」

「じゃあなんだっていうんですの!」

「だから……僕、ノーツに会ったんです」

それを聞いて、立ち上がっていたブリギッテは「ノーツ……失われた魔剣……ダンジョン……」と呟き始め、再び席に座る。

「……続けなさいな」

「エルトリアのダンジョン、第6階層『追憶の幻影都市』。そこで、僕たちはノーツと会いました」

イストファはノーツとの出会い、そして別れまでの話を語りだす。

幻影人との戦い、ノーツの語った言葉……それを話す度にブリギッテの瞳は輝き、何度も頷き聞き入るように言葉が少なくなっていく。

そうしてイストファとノーツの決着の話に至り……全てを語り終えた後、ブリギッテは「ふう」と息を吐く。

「信じがたい話ではありますが……いえ、真実なのでしょうね。もし今の話が創作であれば、貴方には吟遊詩人の才能がありますわ」

「全部、本当の話です」

「そんな体験をしたなんて……ダンジョンというのは、本当に不思議な場所ですわね」

一気に上機嫌になったブリギッテは、満面の笑顔を浮かべていた。

しかし、それを聞いたイストファは逆に疑問ができてしまう。

「あの……貴族とか、裕福な人たちはダンジョンに潜るって聞いたんですけど」

「冒険者のように深い階層まで潜ったりなんかしませんわ。最低限の毒耐性がつけば、それで良し。戦うのは貴族や王族の仕事ではありませんもの」

「そういうものなんですか?」

「そういうものですわ」

頷くブリギッテにイストファも頷き返し……すっかり冷めてしまった、まだ一口も飲んでいないお茶に視線を向ける。

ブリギッテが飲まないから自分も飲まなかったのだが……少しばかりもったいなくも思える。

「飲みたいなら飲んでいいですわよ。毒ですけど」

「えっ……」

「ひ、姫様⁉ 何を……」

慌てたようなメイドにブリギッテは冷たい視線を向け、カップの中身を地面に捨ててしまう。

「こう見えても私、錬金術士ですのよ。毒如き、判別できないと思って?」

「ひっ……」

逃げ出そうとしたメイドを紅槍騎士が取り押さえ、地面に引き倒す。

「とんでもない奴だ……! 極刑は免れんぞ!」

「お、お許しください! 私は何も……!」

「連れて行きなさい」

「はっ」

メイドを連れていく紅槍騎士を冷めた視線で見送り、ブリギッテは肩をすくめてみせる。

「……かくして手柄を意気揚々と持っていく騎士は、私の護衛任務について忘れ去った、と。信用できないにも程がありますわね」

それについて、イストファは何も言えない。言えるはずもない。何を言えばいいかすらも分からないからだ。

だからこそ……ブリギッテと会う本当の目的を、イストファは告げた。

「ブリギッテ王女。僕に、貴女を守らせてくれませんか?」