軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あえて言うなら

「そうか。ならば、君にはこれを贈ろう」

言いながら、コダールは懐から何かの封書のようなものを取り出す。

カサリと音をたてながら置かれた封書に、イストファは目を瞬かせながらコダールへ視線を向ける。

「これは……?」

「君をエルトリアの正式な市民と認め、家を一軒与える旨を書いてある」

「えっ」

正式な市民。それに認められるということがどれ程凄いことかは、イストファにも完全にではないが分かっている。

だからこそイストファは慌てた様子で「し、市民⁉ 家⁉」と聞き返してしまう。

「そうだ。その様子では、君もこれの価値を分かっているようだな」

「欲しいと思っても簡単に手に入らないってことは……分かります」

「うむ。市民権とは『都市の開拓時に貢献した者』や『必要な技能を持ち募集に応じた者』、そしてその配偶者や子孫に与えられるものだが……そこから先、外部の者に与えられる事は稀だ」

家は買える。それは単純に金と土地の問題であり、あとは少々高い税金の問題でもある。

しかし市民権を持たざる者は、持つ者に比べて税金がかなり高くなる。

つまり……市民権とは、その都市における特権の1つとも言えた。

「でも、僕はこんなものをもらうような事なんて……」

「したとも。オークテイマーを倒し、エルトリアを救った。ミノタウロスを倒し迷宮探索を活性化させた事を加えてもいい。そうだな、落ちぶれ者たちによる事件を解決した功績も加えよう」

「そ、それは……」

「君はエルトリアに充分すぎる程の貢献をしている。これを受け取る権利がある」

言われて、イストファは躊躇い……それでも、頭を下げて「ありがとうございます」と答える。

「うむ。詳しい話は帰った後、衛兵の詰め所で聞くように」

そう告げて、コダールは深く安堵の息を吐いた。

「やれやれ。受け取ってもらえてよかった。実のところ、他の迷宮伯の連中が君に接触しようとウロウロしていてね。これで大手を振って君を『庇護下』と言える」

ハッハッハ、と機嫌よく笑うコダールに、イストファは困ったように頬をかく。

「え、えーと……つまり、計算通り……ってことですか?」

「望み通りではあるが、そんな計算はせんよ。儂は正面から誠意をもって君との交渉にあたった。何度でも言うが、下手な騙しをしてステラ殿に消し炭にされたくはない」

「ステラさんはそんなに怖く……」

言いかけて、空高く舞ったヘンドリクソンを思い出し……イストファは困ったように視線を彷徨わせてしまう。

「……怖いんだよ。あの御仁はな。ちなみにどの方かはご本人の名誉の為に省くが……ステラ殿に手を出そうとして、結果として泣くまで尻を蹴られ続けた王族もいる」

「うわあ……」

「あれは悲惨だったな……城中を尻を蹴られながら逃げ続け、止めようとした者は薙ぎ倒され……」

「ちょっと、その件は別に私は悪くないでしょうが」

思い返しながら首を振るコダールだったが……突然背後から聞こえてきた声に「うおおおおああああああ⁉」と悲鳴のような声をあげ椅子から立ち上がる。

「ス、ススススス……ステラ殿ぉ⁉」

「久しぶり、エルトリア迷宮伯サマ?」

ちょっとだけ空いた扉から覗いていたステラにコダールは蛇に睨まれたカエルの如く脂汗を流し……そんなコダールに、ステラは軽く微笑んで見せる。

「あんまりイストファに変なこと教えないでよね。第2王子サマは人様をモノ扱いしたからああなっただけじゃないの」

「あ、ああ。うむ、その……儂もステラ殿が悪いと言っているわけでは……」

「そうよね、悪いじゃなくて怖いって言ってたんだものね」

「は、ははは……」

すっかり顔面蒼白となったエルトリア迷宮伯がイストファに助けを求めるような視線を送り、イストファは立ち上がってステラに封書を差し出す。

「あら、どうしたの?」

「ステラさん。迷宮伯様は、僕にこれをくれただけなんです」

「ふーん、市民権かしら?」

「えっ」

「イストファ、別にそれは貴方をエルトリアに縛り付ける効果はないから、その気になったら街を捨てていいのよ?」

「あ、それと家も……」

「へえー?」

そう言うと、ステラは笑顔でイストファを抱き寄せ……まったく笑ってない目でコダールを見つめる。

「どの程度の家か知らないけど……私なら領主館貰っても100年どころか1万年分だろうと即金で税金払えるわよ?」

「い、いやいやいや! そのような目論見は決して!」

「ふーん……? どう、嬉しい? イストファ」

「えっと……」

「うん」

「正直、話が大きすぎて……でも、凄く嬉しいです」

「そ、なら良かった」

微笑みながらステラはイストファを離し……そのままコダールの前へと歩いていく。

「私からも『ありがとう』って言っておくわね?」

「い、いえ……」

「私ね、今いる迷宮伯の中では貴方が一番マシだと思ってるの」

「そ、それは光栄ですな……」

「そう?」

ステラは楽しそうな笑顔を浮かべると、コダールの耳元に軽くささやく。

「……怪しい動きしてる貴族連中がいるわよ。私に『対処』される前になんとかしときなさい」

「……! それではイストファ。私はこれで失礼する」

真剣な表情になり、慌てて部屋を出ていくコダールを見送り……イストファは、首をかしげてしまう。

「ステラさん……一体何を言ったんですか?」

「別に何も? あえて言うなら……そうね」

怖がりのネズミが王都の中に集まってるわよ、って話かしら……と。

そんなステラの答えに、イストファは大きな疑問符を浮かべてしまうのだった。